番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その79
この信仰深い国で、邪教徒ということからか、街のはずれの更に裏通りに邪教新聞社はあった。
探すのに苦労したが、こんな場所にあったら、そりゃ簡単には見つからない。
俺が見つけることができたのも、『シャ・ノワール』で配達をした経験が活きただけで、普通に聞き込みをしただけじゃ見つけることができなかったからな。
探しただけでもう既に疲れているんだが、これからバンダムからもイカれているという総評を受けていた邪教徒と話さなければならない。
もうこの辺りで切り上げ、ヨークウィッチに帰ることも考えたんだが、邪教新聞社を探した労力を考えると、何も話を聞かずに帰るということはできなかった。
少しだけでも話を聞こう。そう思った俺は重い腰を上げ、見るからに怪しい建物の中に入った。
建物に入った瞬間から、異様すぎる光景に息を飲んだ。
教会側が掲げている大きなマークに赤いバツがつけられており、更にズタズタに裂かれている。
その奥へと進んでいくと、薄暗い部屋の中で、十人ほどがデスクに座って何かを書いているのが見えた。
そんな部屋の壁には、びっしりと男のイラストが飾られており、服装から神父であることが分かる。
「すまない。ちょっと話を聞きたくてやってきたんだが、対応してもらえるか?」
まだ気づかれていなかったし、引き返すことも頭を過ったのだが……俺はそう声をかけた。
「んー? お客さんですか。珍しい。マルニさん、応対してあげてください」
「……チッ。……こっちに来て」
マルニと呼ばれた、入口に一番近いデスクに座っていた四十代ほどの女性は、俺に聞こえるような舌打ちをしてから、イライラしながらも応対してくれた。
通されたのは、デスクのあった部屋の隣にある小さな資料室のような場所。
書類が山のように積まれており、その書類の中には過去の邪教新聞も混ざっている。
『存在しない神を崇める愚か者たちの悪行』、『存在しない神のために捧げられた生贄』など、目を引く見出しがつけられていた。
「お茶はいらないよね? で、なに?」
ボロボロの木の椅子に対面するように座り、激しく貧乏ゆすりをしながら雑に用件を尋ねてきたマルニ。
いい気はしないものの、俺が仕事の時間を奪っている立場だ。
手短に本題へと入らせてもらうことにした。
「いきなり本題から入らせてもらうが、冒険者ギルドでアンデッドの軍勢の討伐依頼についての聞き込みをした。その結果、邪教新聞社なら色々と知っていると聞いて、訪ねさせてもらった」
「……あんた、冒険者なの?」
「ああ。アンデッドの軍勢の討伐依頼を受けるためにやってきた」
「ふーん。……その依頼はやめといたほうがいいわ。教会がアンデッドの実験を、他国の冒険者を呼んで行っているから」
早速、バンダムから聞いた情報と同じ内容が飛び出てきた。
アンデッドを使っての人体実験ってことだよな?
正直、この目で見た限りはそんな様子はなかったため、そう思う根拠を聞きたい。
「そのことも冒険者ギルドで聞いたんだが、何か根拠はあるのか?」
「根拠? ――そんなものいらないわよッ! アイツらは善人の面を被った悪魔なのッ! 私の息子もアイツらに攫われて……か、神への供物として、こ、殺されたの……」
急にキレだしたと思ったら、泣き出したマルニ。
……なるほど。バンダムの言っていた通り、邪教新聞社側もかなりの思想を持っている。
「ご愁傷様と言わせてくれ。ただ、今回の件についての根拠はないってことだな」
「……まだ見つけられていないだけ。生還者はゼロで、夜な夜なアンデッドが教会に連れ込まれているという目撃情報はある。今は私たちの仲間が冒険者に紛れて潜入して、決定的な証拠を掴もうとしているの」
「教会にアンデッドが連れ込まれている? 教会というと、入口付近の教会か?」
「違う。目撃情報は過去三件のみだけど、街の一番奥の教会から出てきたところを見られているのよ」
街の一番奥の教会というと、俺たちが一番最初に間違えて入ったところか。
三件とも、あの教会から出てくるところを目撃されている。
情緒不安定ではあるが、マルニが嘘を言っているようには見えないし、まあ何かしらありそうではある。
本当にアンデッドで実験をしていて連れ込んでいる可能性もあるし、全く関係ない魔物や魔人の可能性もある。
ただ、根拠はその目撃情報だけのようだし、決定的な情報はなし。
今ちょうど、エイルがあの教会にお呼ばれしているし、話を聞けば何か分かるかもしれないな。
「なるほど、貴重な情報をありがとう。アンデッドの討伐依頼を受けるのはやめることにする」
「ええ、それが賢明な判断だわ」
これ以上長居するのは怖いため、俺はマルニに情報料を手渡してから、足早に邪教新聞社を後にした。
本当はもっと色々と聞きたいことがあったんだが……触らぬ神に祟りなし。
この辺りで引き上げるのが正解だろう。
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