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ストーカー

「ストーカーについてわかっていることは?」


「あぁ、はい。えーっと」


「私から話す」


 試すような視線はそのまま。


 どう出るのか窺ってる様子で、燐花が口を開く。


「もう三ヶ月くらい前かな。家の前で誰かがうろつくようになったの。出かけても後を付けられてる感じがして、仕事の現場でまで見掛けるようになった。当然、引っ越したんだけど、その日のうちにまた現れた。ここ最近はそれの繰り返し


「引っ越しは何度?」


「二回」


「三ヶ月で二回も」


「違う。一ヶ月で二回。この三ヶ月で六回」


「わーお。そりゃ凄い。だからホテルのスイートか」


 ここならセキュリティーがしっかりしてて、尚且つ燐花みたいな人種には過ごしやすい。


 宿泊費だけでどのくらいするんだ? 金額を聞いたら目玉が飛び出そうだ。


「そういうこと。最近になって警察がようやく動いてくれたけど、その間だけ大人しくなっただけで結局なにも変わらなかった。ストーカーが誰かってこともわからず終い。ホント、嫌になる」


 うんざりしたようなため息が聞こえる。


「ふん……引っ越したその日のうちにまた、か。もう三ヶ月になるんだ、発信器やら盗聴器の類いは調べただろうし、SNSに迂闊な投稿もしてない」


「当然」


「ならストーカーが燐花の居場所を知る手段はほとんどないはず。なのに、ピンポイントで追ってくる。こう言う場合、考えられる可能性は二つだ。一つ、燐花の居場所を把握できる立場の人間がやってる」


「RINKAの居場所は事務所の中でも限られた人しか知りません。このホテルだって偽名を使っていますし、状況を把握しているのは支配人だけです。みんな信用できる人で、可能性は低いと思います」


「二つ。ストーカーが魔術を囓ってる」


「魔術を?」


「秘匿が破られ、魔術師が公になって八年だ。それ以前にもアマチュアはいたが、存在が知れ渡った以上、爆発的に増えるだろうって予想は前々からあったんだ。可能性はかなり高い」


「だから、捕まらない?」


「普通の警察には難しいだろうな。有能無能の話じゃなく専門分野の違いだ」


「……あんたなら、捕まえられるの?」


「俺を誰だと思ってるんだ? プロがアマチュアに負けるかよ」


 天地がひっくり返って海が涸れ果ててもあり得ない。


「まぁ、見てろ。今日中に片を付けて、今夜は自分の家で眠らせてやる」


「……うん」


「そうと決まれば始めるか」


 指を鳴らして魔術を起動。


 虚空に燃え盛る蝶を十匹ほど創る。


 火の粉の鱗粉を散らしてひらひらと飛ぶ蝶が、それぞれ部屋の中を旋回する。


「蝶々……これはなにをしてるの?」


「魔術の痕跡を探してる。俺の予想が正しいなら」


 部屋に放った蝶たちが旋回を止めて方向を同じにして一箇所に集まっていく。


「それだ」


「私のダサバック」


「ダサバック?」


「身バレ防止のためにあえてダサいバック持って出歩いてるの。アイドルがあんなの持ってるとは思わないでしょ?」


「まぁ、たしかにこの世の物とは思えない奇抜な色してるけど」


 千円くらいで買えてしまいそうな安物のバック。


 美人は何を身につけても様になるというが、さしものトップアイドルでもあれを身につければ常人に落ちるだろう。


 それに蝶たちが群がっている。


「これに魔術の痕跡が残ってる。ストーカーが近づくか直接触れなきゃこうはならない。心当たりは?」


「……あ、ぶつかりおじさん」


「ぶつかりおじさん?」


「駅のホームでおじさんにぶつかられた。その時、持ってたバックがそれ。三ヶ月前」


「時期もぴったり会うな」


「あいつか……」


「ぶつかった拍子に魔術を仕掛けたんだ。痕跡を見るに……ふん、監視魔術だな」


「監視って、どこまで見えたり聞こえたりしているんですか!?」


「あー……安心してください。魔術の完成度はお粗末なもんです。見たり聞いたりは出来ませんし、わかるのはこのバックの大まかな位置くらいでしょう」


「はぁ……そうですか、それはよかった」


 長めのため息が聞こえる。


 二人から。


「この痕跡から術者を辿れる。ちょっくら行ってくる」


「待って。私も行く」


「RINKA! 危ないことはしないほうが」


「大丈夫。守ってくれるんでしょ?」


 目と目が合う。


「まぁ、心配いりませんよ、俺が守りますから。指先一つ触れさせません」


 マネージャを安心させてから二人でエレベーターへ。


 エントランスに到着すると蝶が向かった先は地下駐車場だった。


「なるほど、ここで待ち構えてるのか」


 外出時にはここを経由するし、エントランスにずっと居座るより身を隠しやすい。


 しんと静まり帰った薄暗い空間を、蝶に導かれながら歩く。


 後ろを歩いている燐花はずっと、俺の服の背中を軽く摘まんでいた。


「この辺でいいか」


 足を止めたのは、広く空けた場所。


 空きスペースも多くて、荒事になった時に都合がいい。


「いるのはわかってる、大人しく出て来い」


 地下はよく声が響く。


 聞こえていないはずがない。


 だが、すこし待っても現れる気配がない。


「あぁそう。じゃあ今すぐ出て来ないなら燐花にキスするぞ」


「え?」


「わぁあああああああああああああああああ!」


 ぶっとくて四角い柱の陰から、人が勢いよく跳びだしてくる。


「へぇ、あんたがそうか」


 中肉中背の二十代後半ばくらいの男。


 ぶつかりおじさんって聞いてたから四十五十くらいを想定してたが、案外若い。


 まぁ、ぶつかってくる男は誰でもそう呼んで差し支えないか。

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