トップアイドル
大型モニターに端正な顔立ちが映し出され、大量のライトを浴びて露わになるスタイル。
黒を基調にした衣装を身に纏い、ステージ上で舞い踊る姿は客席の熱狂を呼ぶ。
ペンライトは絶え間なく、怒号に近いコールは鳴り止まない。
一人の少女は光の海を見つめて歌う。時折、涙を浮かべて。
「明埜さん。明埜さん。到着しましたよ」
「ふぁあ……もうついたのか」
「寝不足ですか?」
「あぁ、長いこと付き合わされたからな、ライブ鑑賞」
「でも、RINKAちゃんのこと知れたし、楽しかったでしょ?」
「後半眠すぎてなんも憶えてない」
「そんな! じゃあまたやりましょう!」
「勘弁してくれ」
護衛対象のことを知る資料になればと思って付き合ったけど、流石に夜通しはやり過ぎだ。どれだけいいものでも、過剰に摂取すれば胸焼けがするし毒にもなる。
久慈とは好きの耐性値が違い過ぎて、同じ摂取量にすると体調が悪くなる。
「じゃあ行ってくる。今のうちに飯でも食っとけ」
「へーい。いいなー、RINKAちゃんと直接会えて護衛まで出来るなんて。俺も付いていって――」
「ダメ」
「ですよねぇ」
「しようがないだろ。向こうが出来るだけ人数を減らしてくれってんだから」
「わかってますよ。でも、あのホテルにRINKAちゃんがいるのに、俺は車から出られないなんて……はぁ……」
「元気出せ。頼むだけ頼んでやるから、サイン」
「頼みますよ! ホントに!」
念押しする久慈から逃げるように車を降りる。
目指すのはホテルの最上階にあるスイートルーム。
そこへは専用のエレベーターで向かうしか移動手段がないし、ルームキーがないと目的地で止まることすらできない徹底したセキュリティーが布かれている。
まぁ、それも一般人に対しての話だけど。
専用エレベーターが最上階につく。
スイートルームとエレベーターは直結していて、扉が開けばすぐに室内だ。
内部は豪華でありながら決して下品じゃない、お上品な雰囲気に包まれている。
「選ばれし者のお住まいって感じ」
俺なんかは庶民の出だから、こんな所じゃ息苦しくて堪らないけどな。
「どちら様? あぁ、貴方が護衛の魔術師ですね」
「どうも魔術協会から派遣されました明埜蒼鍵です。貴女は?」
「申し遅れました。私、RINKAのマネージャーをしています楠木です」
「そうでしたか。園咲さんはどちらに?」
「リビングルームにいます。こちらへ」
案内されて玄関口からリビングルームへ顔を出す。
その瞬間のこと。
何かしらの飛来物が顔面に向かって飛んできたのを視認する。
野球ボールだってことを認識してから、それを手の平で掴み取った。
「へぇ、やるじゃん。流石は魔術師様ってとこ?」
「RINKA!」
「いいじゃん、怒んないでよ。受け止めたんだし」
「手が滑って当たったりでもしたら!」
「そんな無能は護衛に必要ない。でしょ?」
マネージャーから、こっちに視線が向く。
丸い大きな目だ。
「大丈夫ですよ、このくらい。それに、子供のやったことですから」
「へぇ……あんた幾つ?」
「二十四」
「なんだ、私と四つしか違わないじゃん」
「二十歳にもなって我が儘放題か。今後が楽しみだな」
数秒、いやそれより短い間、互いに目を逸らさずにいると、園咲のほうがなにか含みのありそうな笑みを浮かべて視線を切る。
どっかりとソファーに腰を下ろして流れっぱなしのテレビに注意を向けた。
「申し訳ありません」
「いえ。それじゃ仕事の話をしましょう」
俺は園咲の前、マネージャーは隣りに腰掛ける。
「一度、説明を受けていると思いますが、園咲さんには――」
「燐花。燐花って呼んでよ。苗字じゃなく」
「そうして欲しいのか?」
「うん。私、苗字公開してないし。まぁ、もうファンの子たちにはバレバレだけど、一応ね」
護衛をする関係上、ファンの前で本人を呼ぶこともありえる。
その状況下で苗字のほうを呼ぶのは、たしかにそぐわないか。
「わかった」
仕切り直し。
「燐花さんは稀血という特異体質です。魔術師としての適正が高く、訓練すれば人に見えないものが見えるようになる。ですが、そんなことはどうでもいい。厄介なのが稀血が儀式の材料になること」
「ざ、材料ですか……」
「力を得る儀式には相応の代償が必要です。十の力が得たいなら十の代償を払う。それで言うと燐花さんは千に万にも億にもなる素質がある。人の命なんてなんとも思わない連中が力ほしさに燐花さんを狙うのは必然でしょう。だから俺が来ました」
「それってさ。先に私を生け贄にしちゃえば全部解決じゃない?」
「RINKA!」
「正直、それが一番手っ取り早い」
テレビを見ていた視線がこっちに来る。
「敵に力を与えず、こちら側を大幅に強化できる。一の犠牲で多くの被害を未然に防げるならやるべきだ。なに魔術を使えば幾らでも隠蔽工作はできる。でも、そうはしない」
「どうして?」
「俺たちが正義の味方だから」
よほど、俺の言葉が以外だったんだろう。
吹き出したかと思うと、大声で笑い始める。
それはもう腹がよじれて息が苦しくなるくらいに。
「――はーあ……そんなセリフ真面目に言う人いるんだ」
「日曜の朝にしか存在しないセリフだと思ってるな」
「違うの?」
「違うね。誰も彼もが正義の味方だ。常日頃からそうじゃないってだけで」
「はぁ……ばっかみたい」
そう言うとまた視線がテレビに戻った。
「とにかく、俺が側にいるうちは安全です。絶対に、百パーセント」
「すっごい自信」
「俺が一人でここにいるのがその証拠だ」
テレビから、また視線がこちらに戻る。
「さっきも言った通り、稀血を儀式に使われると被害が甚大だ。本来なら本人の意向なんて無視して大勢護衛を付けるか、事態が解決するまで本部のほうで缶詰になってもらうかの二択しか用意されない」
「なにが言いたいわけ?」
「必要最低限の人数。つまり一人で確実に護衛対象を守り切れる実力のある魔術師だってことだよ」
「ふーん。そんなに言うなら私に見せてよ、その実力って奴」
「っていうと?」
「ストーカー。最近しつこいのがいるんだ。捕まえてよ。簡単でしょ? 魔術師なら」
試すような視線と物言い。
秘匿が破られて八年。
魔術師は未だに怪しい宗教団体の構成員扱い。
そんな連中から、訳のわからない理由で、身辺警護をするという。
信用されなくて当然。口調にも棘があって当然――にしても態度が悪いが、とにかくこれからの護衛任務を滞りなく、恙なく進めるに当たって、護衛対象からの信頼を勝ち取るのは急務だ。
「ストーカー退治も護衛の一環だ。やるよ」
それで信用を得られるなら簡単なもんだ。
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