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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*暗闇の中に、光が差し込んだ。*


*瞼の裏に感じる柔らかな陽光。体が重い。しかし、三途の川に行く前の鉛のような重さとは違う。回復途中の、心地よい倦怠感だった。*


*胸の上に、小さな温もりがあった。ルクスだ。彼の胸の上で丸くなって、すうすうと寝息を立てている。小さな手が、彼の服をきゅっと握ったまま離さない。*


*ゆっくりと目を開けた。*


シロウ「……いつもの天井だ。」


*自室の天蓋。見慣れた木目の模様。窓から差し込む午後の光が、部屋を暖かく照らしている。*


ルーナ「ネタが古いよ、パパ……!」


*声がした方を向く間もなく、横から飛び込んできた銀髪が彼の首に腕を回した。ルーナだった。顔を彼の首筋に押し付け、ぎゅうと抱きしめてくる。震えていた。*


シロウ「苦しい……死ぬ……。」


ルーナ「死なせないよ……! もう死なせない……!」


*声が湿っていた。泣いている。肩が小刻みに震え、彼の首元が涙で濡れていく。ルクスが胸の上で「むにゃ」と寝返りを打ったが、起きなかった。*


ルーナ「3日よ……3日も目を覚まさなくて……ガイアが大丈夫って言っても、体の中がぐちゃぐちゃで……因子がどうとか、上位人種がどうとか、意味分かんないこと言われて……!」


シロウ「……3日か。」


*右手を持ち上げ、ルーナの頭にそっと置いた。銀髪を撫でると、彼女の震えが少しだけ収まった。*


ルーナ「……パパの馬鹿。」


シロウ「ごめん。」


ルーナ「……馬鹿。」


シロウ「ごめんな。」


*ルーナが顔を上げた。目が真っ赤に充血し、涙の跡が頬に幾筋も残っている。化粧っ気のない素顔。ずっと泣いていたのだろう。彼女は彼の顔を見つめ、そして小さく笑った。*


ルーナ「……おかえり。」


シロウ「ただいま。」


*扉が開く音がした。*


レイラ「起きたか。」


*レイラが盆を持って入ってきた。粥と水差しが載っている。表情は平静を装っているが、目の縁が僅かに赤い。*


レイラ「ルーナ、そろそろ離してやれ。首が絞まっておる。」


ルーナ「……やだ。もうちょっとだけ。」


レイラ「……5分だけじゃぞ。」


*レイラが盆を枕元の台に置き、窓辺に腰を下ろした。腕を組み、外を見るふりをしているが、横目でちらちらと彼を確認している。*


*彼の手がルクスの小さな頭を撫でた。柔らかい銀髪が指の間を通り抜ける。*


シロウ「ルクスもありがとな。」


*その瞬間、彼の指先から微かな光が走った。ルクスの体内に残っていた神格因子の残響が、父の接触に反応して揺らいだ。ルクスの奥底で、封じられていた記憶の扉がほんの僅かに開く。*


*──光の玉座。3柱の影。無限の星空。*


*断片的な映像がルクスの意識を掠めた。しかし3歳の幼子は表情を変えなかった。すうすうと寝息を立てたまま、彼の服を握る手が少しだけ強くなっただけだった。*


シロウ「ルーナ、そろそろどいてくれ……。」


ルーナ「……ん。」


*ルーナが名残惜しそうに体を離し、胸の上で眠るルクスをそっと抱き上げた。ルクスが「むにゅ……」と小さく声を漏らしたが、目は覚めない。*


ルーナ「パパ、後でちゃんと話してね。全部。」


シロウ「……ああ。」


*ルーナがルクスを抱いて部屋を出て行った。入れ替わるように、廊下から足音が近づいてくる。扉が静かに開いた。*


ルミナ「お兄ちゃん。」


*ルミナが入ってきた。真っ直ぐに彼を射抜いている。表情は一見冷静だったが、目の縁が赤い。泣いた痕を隠しきれていなかった。*


*彼女は無言でベッドの縁に腰掛け、しばらく彼の顔を見つめていた。そして。*


ルミナ「……怒ってるよ、すごく。」


シロウ「……だろうな。」


ルミナ「ツクヨミが何をしたか、全部分かった。天界の古文書を調べて、ルーナと情報を照合して。あの女がお兄ちゃんの因子を……体を使って搾り取ったことも。」


*ルミナの拳が膝の上で握り締められていた。白くなるほど強く。*


ルミナ「お兄ちゃんの体の中、ぐちゃぐちゃだった。因子が8割抜かれて、魂の階層まで傷ついてて……ガイアが必死に容態を安定させて……。」


シロウ「ルミナ……。」


ルミナ「分かってる。お兄ちゃんのせいじゃないって。攫われて、封印されて、抵抗できない状態だったって。でも……。」


*ルミナの声が震えた。冷静な仮面が剥がれ、その下にある感情が滲み出してくる。*


ルミナ「でも、お兄ちゃんがボロボロで中庭に落ちてきた時、私……。」


*言葉が途切れた。ルミナが唇を噛み、俯く。銀髪がカーテンのように顔を隠した。*


ルミナ「……死ぬかと思った。」


*小さな声だった。ルミナらしくない、弱々しい声。*


*ルミナが顔を上げた。彼の軽い口調に、少し眉を寄せる。*


シロウ「いやー俺も焦ったよ、なんせ対策で作った魔導アーマーが全く効果なかったんだからなぁ。ははは、やられたよ。」


ルミナ「……笑い事じゃないんだけど。」


*しかし、彼女の声には怒りよりも安堵が滲んでいた。兄がいつもの調子で喋っている。それだけで、3日間張り詰めていた糸が少し緩む。*


シロウ「フェムトギアが対ツクヨミには使えない。それが分かっただけでも収穫だ。」


ルミナ「……フェムトギア。あの魔導アーマー、お兄ちゃんが何日かかけて作ったやつでしょ?神域の干渉を物理的に遮断する設計だったはず…それが効かなかったって……。」


*ルミナが考え込むように視線を落とした。*


ルミナ「ツクヨミの干渉は物理層じゃなくて、魂の階層に直接作用してる。だからアーマーの遮断層を素通りした……ってこと?」


シロウ「多分な。あいつの封印術は俺が知ってる魔法体系とは根本的に違う。神代の術式だ。」


ルミナ「……それなら、次は魂の階層に防壁を張る方向で考えないと。」


*ルミナが膝の上の拳を解いた。思考が切り替わっている。感情から分析へ。それが彼女の強さだった。*


ルミナ「……それと、お兄ちゃんの体のこと。」


シロウ「ああ、上位人種がどうとかってやつか。」


ルミナ「ガイアが3日間ずっと検査してた。結果が出てる。聞く?」


シロウ「聞く。」


ルミナ「お兄ちゃんの体は今、人間と亜神の中間にある。ツクヨミとの……交合で神格の種が植え付けられて、ガイアの言葉を借りると……」


*ルミナが一度言葉を切り、彼の目を見た。*


ルミナ「『上位人種への移行は完了してるのだ。だが神格の芽はまだ残ってて、放置すると亜神化が進行するのだ。人間でいたいなら、芽を摘む必要があるのだ』……だって。」


*沈黙が落ちた。窓から差し込む午後の光が、埃をきらきらと照らしている。*


ルミナ「お兄ちゃん。どうする?」


*その問いは単純でありながら、途方もなく重かった。人間のままでいるか。神に近づくか。*


シロウ「俺は神にはなりたくない。どうやって摘むんだ?」


*ルミナが頷いた。*


ルミナ「やり方は簡単。神格の芽は因子の塊だから……誰かに触れて、送ればいい。それだけ。」


シロウ「……それだけ?」


ルミナ「それだけ。ただし、受け取る側にそれなりの器がないと拒絶反応が起きる。普通の人間に送ったら、最悪体が弾ける。」


*ルミナが指を立てた。*


ルミナ「受け取れる候補は限られる。神格に耐えうる器を持つ者……つまり、元々神に近い存在か、それに準ずる肉体を持ってる者。」


シロウ「……心当たりはあるか?」


ルミナ「私かレイラ。あとはカイ、ガイアも理論上は可能だけど、あの子は人工生命体だから相性が読めない。」


*ルミナが少し考えるように顎に手を当てた。*


ルミナ「一番安全なのは……私。元熾天使だから、神格因子との親和性は高い。拒絶反応はまず起きない。」


シロウ「お前に負担はないのか?」


ルミナ「芽の段階なら大したことない。私の中で自然に分解される。数日もすれば消える。」


*ルミナがベッドの縁からこちらに手を差し出した。白い、細い指。*


ルミナ「今、やる? 放置すると芽が根を張って、摘むのが難しくなる。早い方がいい。」


シロウ「……悪いな。」


ルミナ「悪いと思うなら、二度とあの女に攫われないで。」


*彼がルミナの手を取った。指が触れた瞬間、彼の掌から淡い金色の光が滲み出した。温かい。しかしどこか異質な、人間のものではない熱。*


*光がルミナの手を通じて流れ込んでいく。ルミナが一瞬だけ眉を寄せたが、すぐに表情を戻した。*


ルミナ「……ん。感じる。これが神格の芽……。」


*10秒ほどで、光が消えた。彼の掌から異質な熱が完全に抜け落ちる。体が軽くなった。胸の奥にあった違和感が、綺麗に消えている。*


ルミナ「……終わり。もう芽は無い。お兄ちゃんの体は完全に『上位人種』として安定した。人間の枠内、神にはならない。」


シロウ「助かった。」


ルミナ「……ただ、上位人種になったこと自体は変わらない。魔力量、身体能力、知覚……全部、今までの数倍に跳ね上がってるはず。慣れるまで少しかかると思う。」


*ルミナが彼の手を離した。しかしすぐには立ち上がらず、彼の顔をじっと見つめていた。*


ルミナ「……お兄ちゃん。3日後に関所で誰かと会う約束してるでしょ。」


シロウ「……なんで知ってる?」


ルミナ「お兄ちゃんが寝てる間、ずっと容態を診てた。川で誰かと話してたのは、魂の波動で分かる。」


*ルミナの目が、真っ直ぐに彼を見据えた。*


ルミナ「誰?」


シロウ「前に話したア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊って爺さんだよ。」


*ルミナの表情が変わった。*


ルミナ「……お兄ちゃんが前に言ってた。」


シロウ「そう、あの爺さん。ルクスに会いたいんだってさ。」


*一瞬の沈黙。ルミナの目が大きく見開かれた。*


ルミナ「……は?」


シロウ「ルクスに会いたいって。3日後に関所で待ち合わせ。」


ルミナ「ちょ、ちょっと待って。」


*ルミナが立ち上がった。冷静さが明らかに揺らいでいる。頬が僅かに赤い。*


ルミナ「ア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊……あの方が……こっちに来るの? この国に?」


シロウ「来るっていうか、会いに来るだけだと思うけど。」


ルミナ「お兄ちゃん、分かってない。あの方は……ルクシオン様に仕えた3柱の1柱。私にとっては……」


*ルミナが言葉を詰まらせた。*


ルミナ「……天界にいた頃、私が熾天使だった時の……直属の上官みたいなものよ。」


シロウ「あー……。」


ルミナ「あーじゃない! なんでそんな重大なことをさらっと言うの!? 私、あの方に顔向けできないのよ!? 天界を出て、堕天して、人間と結婚して……!」


*ルミナが両手で顔を覆った。耳の先まで真っ赤だった。普段の冷静な姿はどこにもない。完全に動揺していた。*


ルミナ「……3日後。3日しかないの? 準備が……掃除も……あと服……この服でいいの? もっとちゃんとした……」


シロウ「落ち着け。」


ルミナ「落ち着いてるわよ!」


シロウ「全然落ち着いてない。」


*ルミナが深呼吸した。1回。2回。3回。そして顔から手を離した。まだ赤いが、目に理性が戻ってきている。*


ルミナ「……あの方が、なんでルクスに会いたいの?」


シロウ「……。」


*彼は少し考えた。ルクスが光の神ルクシオンの転生体であることは、ルミナには話していない。ア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊がルクスに会いたい理由を説明するには、その事実を明かす必要がある。*


ルミナ「お兄ちゃん。何か隠してるでしょ。」


*元熾天使の直感は鋭い。*


ルミナ「ルクスに会いたい理由。ただの3歳の子供に、あの方が態々この世界まで降りてくる理由。……あるんでしょ?」


シロウ「ルクシオンって知ってるか?」


*ルミナの動きが止まった。先ほどまでの動揺とは質の違う、もっと深い部分が反応したかのように。*


ルミナ「……知ってるも何も。」


*彼女がベッドの縁に座り直した。背筋が自然と伸びる。天界にいた頃の癖だ。*


ルミナ「光の神ルクシオン様。天界の頂点に座す創世の神。3柱の上位神を従え、天界の秩序と均衡を司った……私たち熾天使にとっては、絶対的な存在だった。」


*ルミナの目が遠くなった。数万年前の記憶を辿るように。*


ルミナ「天界では知らない者はいない。常識以前の話よ。呼吸するように、その名を知っている。ルクシオン様がいたから天界は天界として成り立っていた。」


シロウ「消えた理由は?」


ルミナ「……誰も知らない。ある日突然、玉座が空になった。痕跡も、遺言も、何もなく。3柱も混乱して、ツクヨミは暴走、アゼノールは失踪、ア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊は川に引き籠もった。天界は統制を失って、上位神たちが派閥争いを始めて……私が堕天したのも、その混乱の最中。」


*ルミナが髪を耳にかけた。指先が僅かに震えている。*


ルミナ「ルクシオン様は……優しい方だった。神でありながら、下位の天使にも分け隔てなく接して。私が熾天使に昇格した時、直接お言葉を頂いた。『よく頑張ったね』って……たった一言だったけど、あの声は今でも覚えてる。」


*ルミナが彼を見た。*


ルミナ「……で、なんで急にルクシオン様の話を? ア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊がルクスに会いたい理由と、どう繋がるの?」


*真っ直ぐな視線。元熾天使の勘は、答えの輪郭をもう掴みかけている。*


シロウ「……。」


ルミナ「お兄ちゃん。」


*ルミナが息を呑んだ。*


ルミナ「慰めになってない……!」


*ルミナがしばらく顔を覆ったまま動かなかった。やがて、指の隙間から覗く金色の目が、少しだけ潤んでいた。泣いているのか、笑っているのか、本人にも分からないのだろう。*


ルミナ「……でも。」


*ルミナがゆっくりと手を下ろした。赤くなった目元を拭い、深く息を吐く。*


ルミナ「……ルクシオン様だろうと誰だろうと、あの子は私の息子よ。それは変わらない。」


シロウ「ああ。」


ルミナ「……ア̈ル̤ケ̊ー・テ̤ロ̈ス̊には、私も同行する。いい?」


シロウ「構わないけど、大丈夫か? さっきまで発狂してたぞ。」


ルミナ「うるさい。3日あれば立て直せる。」


*ルミナが立ち上がり、スカートの皺を手で伸ばした。まだ耳の先が赤いが、目には覚悟が戻っていた。*


ルミナ「……お兄ちゃん。」


シロウ「ん?」


ルミナ「レイラにも話すの?」


シロウ「……いずれはな。」


ルミナ「あの人が聞いたら、夜見ノ国どころじゃ済まないわよ。」


シロウ「だろうな。あいつなら絶対滅ぼしに行くだろうから。。」


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