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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*1ヶ月が経った。あの夜見ノ国からの脱出以来、目立った襲撃は無かった。*


*ルミナは毎朝結界の状態を確認し、異常がないか点検していた。*


ルミナ「……何も無いのが、逆に怖いの。ツクヨミほどの存在が、ただ黙って引き下がるわけがない。」


*シロウもそれは感じていた。だが、日常は穏やかに過ぎていった。レイラとの体術訓練、アーク・ゼロの調整、ルーナとの密会、ルクスの世話。平和そのものだった。*


───


*そして数日後。昼食時。*


*シロウが食堂でパンを齧っていると、レイが隣に座った。彼女の口には既にミートパイが丸ごと突っ込まれていた。*


レイ「んぐ……シロー、もごもご……大迷宮がね、もぐもぐ……すごいことに……んぐんぐ……」


シロウ「……レイ、飲み込んでから喋ってくれ。」


レイ「んっ……ごくん。だからね! 大迷宮の階層がすっごいスピードで攻略されてるの! 今97階層まで行ったって!」


シロウ「97? 前は87が最高到達だったろ。1ヶ月で10階層も……?」


レイ「うん! しかもね、もぐ……」


*レイが新しいクロワッサンを口に放り込んだ。もう何を言ってるか分からない。*


レイ「もぐもぐ……おんふぁふぉお…がね……もごもご……」


シロウ「……全く聞き取れない。」


レイ「んぐっ……ごくん! だから女の子が!一人で突っ込んでるって!」


シロウ「……は?」


*シロウの手からパンが落ちた。*


シロウ「女が一人で97階層まで?」


レイ「うん! 91階層から先、全部女の子が一人で倒したって冒険者ギルドが大騒ぎしてたよ! 地龍でしょ、風龍でしょ、雷龍でしょ、炎龍でしょ、聖龍でしょ……あと96階層の骸龍も消し飛ばしたって。」


*レイは3つ目のパイに手を伸ばしながら、あっけらかんと言った。*


シロウ「誰だよそいつ……。」


*レイはようやく口の中のものを全て飲み込み、水を一口飲んでから答えた。*


レイ「『女勇者』だって! ギルドの受付のお姉さんが言ってた! 登録名もそのまま『女勇者』らしいよ。本名不明!」


シロウ「女勇者……。勇者って、召喚者か? それとも自称か?」


レイ「分かんない! でもね、魔王倒すとかそういう事は言ってないみたい。ただひたすら迷宮を攻略してるだけって。」


シロウ「ふーん……。」


*シロウは顎に手を当てた。91階層から97階層まで単独で突破。地龍、風龍、雷龍、炎龍、聖龍、骸龍、黒龍。全て一人で倒した。レイラでさえ96階層の骸龍までで消耗していた。それを一人で黒龍まで……。*


シロウ「まぁ、どっちにしろ99階層で詰みだから大丈夫だろう。」


*99階層の合金龍。アダマンタイトとミスリル合金の外殻、オリハルコンとヒヒイロカネの核。第三形態まで変形し、レイラもルミナも蘇生送りにされたバケモノだ。あれを単独で突破できる存在はそうそういない。*


レイ「でもシロー、98階層の古龍まで来てるって事は、もうすぐ99だよ? 見に行かないの?」


シロウ「……見に行くか。」


*正直、気になっていた。単独で97階層まで来れる実力者。もし召喚者なら、この世界に来た経緯も知りたい。そして何より……。*


シロウ(98の古龍を倒せたとして、99の合金龍は別格だ。確認しておくべきだな。)


レイ「あ、ボクも行く! もぐ……」


シロウ「食べ終わってからな。」


レイ「んぐんぐ……!」


*レイが残りのパイを頬張りながら立ち上がった。頬がリスのように膨らんでいる。*


シロウ「……飲み込んでから立て。」


*2人は食堂を出て、大迷宮の入口へ向かった。城下町の中心、世界樹の根元に聳える巨大な石門。冒険者ギルド支部の前には、いつもより多くの冒険者が集まっていた。*


*掲示板の前に人だかりができている。覗き込むと、最新の攻略情報が貼り出されていた。*


────

【大迷宮攻略速報】

97階層「黒龍」── 攻略済(単独)

攻略者:女勇者(詳細不明)

攻略時間:約14分

現在:98階層に突入した模様

────


シロウ「14分で黒龍を……?」


*黒龍は闇属性の最上位龍種だ。Sランクパーティでも30分以上かかる相手を、14分で単独撃破。*


レイ「ねぇシロー。この人、めちゃくちゃ強くない?」


シロウ「ああ。ちょっと異常だな。」


*モニターに映し出された99階層。暗い空間の中央に、一人の女が立っていた。*


*黒いローブを纏い、フードを深く被っている。背は低く、160cm程度。武器は……杖でも剣でもない。素手だった。佇まいはどこか頼りなく、戦場に立つ者というよりは、図書館の隅で本を読んでいそうな雰囲気だった。*


シロウ「あれが……女勇者?」


レイ「うん。なんか思ってたのと違うね。」


*モニター越しに帝眼で鑑定を試みた。だが……。*


シロウ(……鑑定が弾かれる? いや、違う。情報が曖昧になってる。何かの加護で隠蔽されてるな。)


*名前もレベルもスキルも、全てノイズがかかったように読み取れない。唯一読み取れたのは種族だけだった。*


シロウ(種族……人間。しかも純粋な人間だ。魔族でも亜人でもない。)


*そこへ、98階層から古龍の断末魔が響いた。モニターの映像が切り替わる。98階層に残された古龍の残骸。巨大な龍の体が、綺麗に両断されていた。断面は焼け焦げてもいない。純粋な斬撃。*


レイ「……20分かかってないよ、シロー。」


シロウ「ああ。」


*女勇者は98階層の残骸には見向きもせず、99階層の門をくぐった。モニターが99階層のカメラに切り替わる。*


*広大な空間。天井は見えない。床は鏡のように磨かれた金属。その中央に、全長30メートルの巨龍が鎮座していた。アダマンタイトとミスリル合金の外殻が鈍い銀光を放ち、オリハルコンとヒヒイロカネの核が胸の奥で脈動している。*


*合金龍が目を開いた。金属が軋む音が空間を満たす。*


シロウ「多分レイラは負けるな……。」


レイ「え? レイラより強いの?」


シロウ「俺よりは弱い。だがレイラよりは強い。体捌きが異常だ。あの古龍の斬り方……無駄が一切ない。」


*女勇者がフードを脱いだ。黒髪のショートカット。目は伏せがちで、口元は真一文字に結ばれている。典型的な陰キャの顔だった。だが……。*


*合金龍が咆哮した。金属の振動波が空間を震わせる。普通の冒険者なら、この咆哮だけで鼓膜が破れる。*


*女勇者は微動だにしなかった。ゆっくりと右手を持ち上げ、掌を合金龍に向けた。*


*その瞬間、彼女の周囲の空気が変わった。モニター越しにすら感じる、圧倒的な殺気。*


シロウ「……来るぞ。」


*女勇者の掌から、白い光線が放たれた。合金龍の外殻に直撃。アダマンタイトとミスリルの合金が……溶けた。*


レイ「溶けた!? あの装甲を!?」


シロウ「聖属性……いや、違う。あれは……」


*帝眼が微かに捉えた。光線の中に混じる、見覚えのある波長。*


シロウ「……神聖属性? あいつ、神の加護持ちか。」


*合金龍が第一形態から第二形態へ変形を開始した。30メートルの巨体が縮み、2メートルの人型になる。速度と耐久力が跳ね上がる。*


*モニターの前に集まった冒険者たちが、息を呑んで画面を見つめていた。シロウとレイも、食堂から持ってきた椅子に座り、99階層の戦闘を注視していた。*


*合金龍の第2形態。2メートルの人型が、金属の拳を振るう。女勇者はそれを紙一重で躱し、神聖属性の光を纏った掌底を叩き込んだ。合金の胸郭が陥没し、核が露出する。*


*女勇者は一切の躊躇なく、核を素手で掴んだ。光が爆発し、第2形態が崩壊。金属の破片が雨のように降り注ぐ。*


レイ「……え、もう?」


*だが合金龍は終わらなかった。崩壊した金属片が再集結し、第3形態へ移行する。バイク型の機動形態。ライダーが跨り、車輪が回転を始めた。*


シロウ「ここからが本番だ。第3形態はAIの判断速度が3倍になる。しかも突進の初速がマッハ2。反応できるか……?」


*合金龍が突進した。金属の車輪が鏡面の床を削り、火花が散る。女勇者に向かって一直線に突っ込む。*


*女勇者は避けなかった。正面から受け止めた。両足が床にめり込み、10メートル後方まで押された。だがそこで止まった。*


シロウ「……止めた?」


*女勇者の両手が合金龍の前輪を掴んでいた。腕が震えている。歯を食いしばり、額に汗が流れている。明らかにギリギリだった。*


*だが彼女は、そのまま合金龍を持ち上げた。30メートルの天井に向かって投げ飛ばす。*


*空中で体勢を崩した合金龍に向かって、女勇者が跳んだ。右拳に神聖属性の光が凝縮される。今までの比ではない密度。空間が歪むほどの出力。*


*拳が核を貫いた。*


*沈黙。*


*そして、合金龍が内側から光に飲まれ、爆散した。金属片が四方に飛び散り、床に突き刺さる。*


*女勇者は着地した。片膝をつき、肩で息をしている。ローブは半分焼け落ち、右腕から血が滴っていた。*


シロウ「まじか……すげぇな……。」


レイ「勝っちゃった……! 99階層、単独クリアだよシロー!」


*ギルド支部が騒然となった。冒険者たちが叫び、テーブルを叩き、酒を掲げている。*


*だがシロウの目は、モニターの女勇者に釘付けだった。*


シロウ(あの神聖属性……ルミナのとは質が違う。もっと荒い。制御しきれてない。それでもあの出力を出せるって事は、素の器がデカいんだ。)


*女勇者はゆっくりと立ち上がり、99階層の奥に現れた扉を見つめていた。100階層への入口だ。*


*彼女はその扉の前で……立ち止まった。数秒間じっと見つめた後、踵を返した。*


レイ「……あれ? 入らないの?」


シロウ「……体力の限界か。賢明だな。あの状態で100階層に突っ込んだら死ぬ。」


*女勇者はモニターのカメラに一瞬だけ目を向けた。まるで見られている事を知っているかのように。そして転移石を使い、姿を消した。*


*翌日。ギルド支部のモニタールーム。*


*シロウは一人、椅子に座っていた。レイは今日は街に買い食いに出かけている。モニターには100階層への扉が映し出されていた。*


シロウ(昨日のうちにスライムのステータスを更新しておいた。俺のLv.2000超えのステータスをそのまま反映させた。全パラメータ「測定不能」。帝眼もコピーさせてある。)


*彼は腕を組み、モニターを見つめた。*


シロウ(あの女勇者、確かに強い。レイラより上だ。だが100階層は別次元。しかも最初から全力設定にしてある。手加減なし。1000%負けない。)


*モニターに動きがあった。99階層の転移陣が光り、女勇者が現れた。*


*昨日とは違った。ローブは新しいものに替えており、右腕の傷は完治していた。回復力も尋常ではない。*


*女勇者は99階層を素通りした。合金龍は既に討伐済みで、復活までまだ時間がある。100階層の扉の前に立ち、一度深呼吸をしてから、扉を押し開けた。*


*100階層。*


*広大な玉座の間。天井には星のような魔力灯が無数に散りばめられ、床は黒曜石。そして玉座の上に……。*


*一体のスライムが座っていた。*


*透明な体。拳大のサイズ。ぷるぷると震えている。見た目は完全に最弱モンスターだ。*


*女勇者が足を止めた。明らかに困惑していた。*


女勇者「……は?」


*彼女が初めて声を発した。低めの、抑揚のない声だった。*


女勇者「スライム……? 100階層のボスが……スライム?」


*スライムがぷるんと揺れた。玉座から飛び降り、床に着地する。ぺちゃんと潰れて、また元の形に戻った。*


*女勇者の表情が怪訝そうに歪んだ。警戒はしているが、明らかに拍子抜けしている。*


*彼女は右手に神聖属性の光を灯した。昨日、合金龍の核を貫いたのと同じ攻撃。それをスライムに向けて放った。*


*白い光線がスライムに直撃した。*


*……何も起きなかった。*


女勇者「……え?」


*スライムはぷるぷると揺れただけだった。神聖属性の光を、透明な体が完全に吸収していた。*


*次の瞬間、スライムの体が膨張した。拳大から、1メートル、3メートル、5メートル。透明だった体が漆黒に染まり、人型に変形していく。*


*10メートルの黒い巨人がそこに立っていた。頭部に帝眼と同じ紋様が浮かび上がり、金色に輝いている。*


*女勇者の足が、半歩後退した。*


シロウ「……お、いい反応だな。本能で分かるか。」


*モニター越しに、スライムのステータスが表示された。*


────

【魔王擬態スライム】

Lv.???

全ステータス:測定不能

スキル:帝眼(コピー)、他多数

────


*スライムが右腕を振り上げた。ただの物理攻撃。だが空間ごと歪むほどの質量と速度。*


*女勇者は横に跳んだ。着地点の床が粉砕され、黒曜石の破片が壁まで飛散した。*


女勇者「……なるほど。これが、本当のボスか。」


*女勇者が振り返った瞬間、スライムは既に彼女の背後に立っていた。10メートルの黒い巨体が、音もなく移動していた。*


女勇者「っ……!」


*女勇者は本能的に前に飛んだ。だが巨人の腕が彼女の残像を薙ぎ払い、黒曜石の床が半径5メートルにわたって消滅した。触れただけで消滅。攻撃ですらない。ただ腕を振っただけだ。*


女勇者「……速い。99階層とは比較にならない。」


*彼女は距離を取り、両手に神聖属性を最大出力で灯した。合金龍を貫いたあの光。それを全力で放った。*


*白い光線がスライムの胸を貫通した。だが……穴が瞬時に塞がった。再生すらしていない。液体が流れるように、元に戻っただけだ。*


女勇者「効かない……? 神聖属性が……?」


*スライムの頭部に浮かぶ帝眼の紋様が金色に輝いた。次の瞬間、スライムの体が縮小し始めた。10メートルから5メートル、3メートル、2メートル。そして……人型になった。*


*漆黒のアーマーを纏った、人間サイズの戦士。胸にはアークコアと同じ光が脈動し、腰には……変身ベルトが巻かれていた。*


*シロウはモニターの前で目を細めた。*


シロウ「お、変身ベルトまで使うのか。あいつ律儀だな。」


*スライムが右手を掲げた。帝眼が発動し、女勇者を鑑定している。そして……女勇者のスキルをコピーした。*


*スライムの右手に、女勇者と全く同じ神聖属性の光が灯った。しかも出力は桁違いだった。*


女勇者「……私と同じ……? いや、出力が……。」


*スライムが光線を放った。女勇者は咄嗟に両腕をクロスして防御した。だが衝撃で体が吹き飛び、壁に叩きつけられた。壁が陥没し、彼女の体が半分めり込んだ。*


女勇者「がっ……!」


*口から血が溢れた。両腕は防御したにも関わらず、骨が軋む音がモニター越しにも聞こえた。*


*スライムは追撃しなかった。ゆっくりと歩いて近づく。まるで試しているかのように。*


女勇者「……はは。」


*彼女は笑った。壁から体を引き剥がし、よろめきながら立ち上がった。*


女勇者「やっぱり、ここにいたんだ。」


*その言葉に、シロウの眉が僅かに動いた。*


シロウ「……?」


女勇者「私が探してた……この世界で一番強い存在。」


*彼女は血を拭い、構えを取った。だが足が震えている。目には恐怖が浮かんでいた。それでも……退かなかった。*


*スライムが一歩踏み込んだ。瞬間、スライムの拳が女勇者の腹に沈んだ。音もなく。防御も回避も許さない一撃。*


女勇者「……っ!」


*彼女の体がくの字に折れた。HPが急速に減少していく。そして……腕輪が光った。*


*HP1。安全装置が発動した。*


*女勇者の体が光に包まれ、転移陣が足元に展開された。医務室への強制転送だ。*


*消える直前、女勇者はモニターのカメラを真っ直ぐ見た。*


ーー


*翌日。シロウは再びモニタールームに座っていた。今日はレイもいない。一人だ。*


*モニターに99階層の転移陣が光り、女勇者が現れた。昨日と同じ黒いローブ。だが今日は様子が違った。*


*彼女は100階層の扉に向かわず、天井の隅に設置されたカメラを見上げた。そして……。*


女勇者「……そこの隠しカメラで見てる人。聞こえてるんでしょ。」


*シロウの目が細くなった。*


女勇者「モニター越しに観察してるの、分かってるから。昨日もずっと見てたでしょ。」


シロウ「……。」


*「隠しカメラ」「モニター」。この世界には存在しない概念だ。この世界の住人なら「遠見の水晶」「魔導映写」と呼ぶ。日本語由来のカタカナ語を自然に使っている。*


シロウ(転移者か、転生者か、召喚者か……。どれにしろ、元日本人だな。)


女勇者「……返事はないか。まぁいいけど。」


*彼女は視線をカメラから外し、100階層の扉を開けた。*


*玉座の間。スライムが既に待ち構えていた。昨日と同じ、ぷるぷると震える透明な拳大の体。*


女勇者「……また、お前か。」


*女勇者は構えを取った。昨日の経験から、初手で全力を出すつもりらしい。両手に神聖属性を最大出力で灯し、体中の魔力を解放した。*


*だがスライムは今日、待たなかった。*


*拳大の体が一瞬で人型に変形。変身ベルトが腰に出現し、漆黒のアーマーが展開された。0.3秒。昨日の段階を全て飛ばし、最初から最終形態だ。*


女勇者「っ……! 昨日と違う……!」


*スライムが消えた。文字通り、視認できない速度で移動した。女勇者の背後に回り、掌を彼女の背中に押し当てた。*


*衝撃波が彼女の体を貫通した。内臓にダメージが直接入る。*


女勇者「がはっ……!」


*吹き飛ばされ、床を3回バウンドした。口から血を吐き、片膝をつく。だが立ち上がった。*


女勇者「……まだ。」


*右手に光を集中させ、スライムに突進した。渾身の一撃。*


*スライムは帝眼を発動した。女勇者の神聖属性をコピーし、同じ出力で右拳に纏わせた。そして正面から拳をぶつけ合った。*


*衝撃で玉座の間の天井が崩れた。だが結果は明白だった。女勇者の右腕が弾かれ、体が宙に浮いた。*


*スライムの追撃。左拳が女勇者の腹に沈んだ。*


*腕輪が光った。HP1。強制転送発動。*


*消える直前、女勇者はまたカメラを見た。今度は……薄く笑っていた。*


女勇者「……明日も、来るから。」


*光に包まれ、消えた。*


ーー


*翌日。シロウは3日連続でモニタールームにいた。もはや定位置になりつつある。*


*モニターに99階層の転移陣が光った。女勇者が現れる。今日も黒いローブ。だが今日は扉に向かう前に、カメラの正面に立った。*


女勇者「……おはよう。今日も見てるんでしょ。」


*シロウは椅子に深く座り直した。*


女勇者「昨日から考えてたんだけど、あのスライム……あれ、誰かが調整してるよね。ステータスが毎回微妙に変わってる。モニターで戦闘データ取って、こっちの動きに合わせてアップデートしてるでしょ。」


シロウ「……鋭いな。」


*独り言のように呟いた。誰もいないモニタールームに声が響く。*


女勇者「それと、自己紹介がまだだった。私……元々は男。TS転生ってやつ。気付いたら女の体で赤ちゃんからやり直してた。」


シロウ「……は?」


*思わず声が出た。TS転生。性転換転生。男が女の体で生まれ変わる。ネット小説やゲームでは定番だが、実在するとは。*


女勇者「前世は日本の会社員。32歳。過労死。よくある話でしょ。で、目が覚めたらこの世界の孤児院にいた。女の体で。最初はパニックだったけど、18年も経てば慣れるもんだね。」


*彼女は淡々と語った。カメラに向かって、まるで日記を読み上げるように。*


女勇者「孤児院を出てから5年、ずっと一人で迷宮を攻略してきた。理由? ……強くなりたかったから。この世界に転生した意味を知りたかったから。」


*女勇者はそこで言葉を切り、少し俯いた。*


女勇者「……あと、友達がいないから。やることがこれくらいしかない。」


シロウ「……陰キャだなぁ。」


*同情とも呆れともつかない声が漏れた。*


*女勇者は再び顔を上げ、100階層の扉を開けた。*


女勇者「じゃ、今日も行ってくる。」


*玉座の間。スライムが待っていた。今日も最初から全力。漆黒のアーマーに変身ベルト。帝眼が金色に輝いている。*


*女勇者は昨日とは違う戦法を取った。神聖属性を体の表面に薄く纏い、防御と攻撃を同時に行う「神聖鎧」。おそらく昨日の夜に考案したのだろう。*


*だがスライムは帝眼で即座にコピーした。同じ神聖鎧を、10倍の出力で展開した。*


女勇者「……やっぱりコピーされる。」


*それでも突っ込んだ。拳を振り、蹴りを放ち、光線を撃った。全て弾かれた。スライムは避けすらしなかった。受けて、弾いて、カウンターを一発。*


*腕輪が光った。HP1。強制転送。*


*消える直前、女勇者はカメラに向かって小さく手を振った。*


女勇者「……また明日。」


*モニタールームで、シロウは腕を組んだまま天井を見上げた。*


シロウ「興味深い……が、またやられてんの……。」


*翌日。シロウは4日目のモニタールーム。もはや日課だった。*


*転移陣が光り、女勇者が現れた。今日はローブのフードを下ろしていた。黒髪のショートカットに、少しクマのある目元。美少女と言って差し支えない容姿だった。*


*女勇者はカメラの前に立ち、あぐらをかいて座った。*


女勇者「……聞いてくれる? 愚痴なんだけど。」


シロウ「聞こえねぇよ。一方通行だろ。」


*当然、女勇者にシロウの声は届かない。だが彼女は構わず話し始めた。*


女勇者「女の体になって23年経つけどさ……慣れないことがある。性欲。マジで強い。前世の男の時より強い。なんなのこれ。生理前とか最悪。集中できない。迷宮攻略中に急にムラムラしてきた時の絶望感分かる?」


シロウ「知らねぇよ。」


*即答した。誰もいないモニタールームに素っ気ない声が響いた。*


女勇者「前世は32歳のおっさんだよ? それが今こんな体で……風呂入る度に複雑な気持ちになるし。いや、最近はもう慣れたけど。たまに鏡見て『誰だお前』ってなる。」


*女勇者は頭をガシガシ掻いた。仕草が完全におっさんだった。*


女勇者「あー、腹減った。この階層って飯食えるとこないの? 前世で言うところの牛丼が食いてぇ。」


シロウ「……おっさんだなぁ。」


*女勇者は立ち上がり、ズボンのポケットに手を突っ込んだ。*


女勇者「それとさ。あんた……冒険者ギルドの関係者でしょ。このモニターシステム、ギルド支部から繋がってるはず。構造的にそうじゃないとおかしい。」


シロウ(……分析力は高いな。)


女勇者「今日も負けると思うけど、終わったらギルドに寄るから。会おうよ。直接話したい。」


*勝手に約束を取り付けて、女勇者は100階層の扉を開けた。*


ーーーーー


*5分後。*


*スライムの拳が女勇者の腹に沈んだ。今日は開始47秒。昨日より早かった。*


*腕輪が光り、HP1で強制転送が発動した。*


*消える直前、女勇者はカメラに向かって親指を立てた。*


女勇者「ギルドで待ってる。」


*光に包まれて消えた。*


シロウ「……しつこい陰キャだなぁ。」


*シロウは椅子の背もたれに体を預け、天井を見上げた。*


シロウ(TS転生の元おっさん。中身32歳……今は23年足して55歳相当か。俺より年上じゃねぇか。)


*しばらく考え、溜息をついた。*


シロウ(……まぁ、会ってみるか。転移者や転生者と会うのは久しぶりだ。それにあの実力……放っておくのも勿体ない。)


*シロウはモニターの電源を落とし、立ち上がった。ギルド支部の1階ロビーに向かう。女勇者は医務室で回復した後、そこに来るはずだ。*


*シロウが1階ロビーに転移した瞬間、空気が変わった。*


冒険者A「え……シロウ様!?」


冒険者B「本物だ! SSSランク……!」


受付嬢「し、シロウ様! 本日はどのようなご用件で……!?」


*ロビー中の冒険者と職員が一斉に振り返った。変装なしのシロウ。黒髪に少し混じった白髪、48歳の貫禄。この国の魔王にして最強の冒険者。騒がれないわけがなかった。*


シロウ「あー……ちょっと人を待ってるだけだ。気にするな。」


*カウンター横の椅子に座り、足を組んだ。周囲の視線が痛いが、今更だ。*


*10分後。医務室の方から足音が聞こえた。*


*女勇者が現れた。フードを下ろしたままの黒髪ショートカット。クマのある目元。小柄で華奢な体型。だが纏っている気配は尋常ではない。*


*彼女はロビーを見渡し、シロウを見つけた。一瞬固まり、それからゆっくり近づいてきた。*


女勇者「……あ、マジで来てくれたんだ。」


シロウ「お前が勝手に言い出したんだろ。」


女勇者「いやー、まさか本当にいるとは。てかあんた、めちゃくちゃ有名人じゃん。周りざわついてるし。」


*女勇者は空いた椅子にどかっと座った。足を開いて、背もたれに体を預ける。座り方が完全におっさんだった。周囲の冒険者が美少女の座り方に二度見していた。*


女勇者「あー、疲れた。あのスライム今日も鬼畜だったわ。47秒だよ47秒。昨日と1秒も変わらん。成長してんのかしてないのか分かんねぇ。」


シロウ「成長はしてる。だが差がありすぎる。」


女勇者「辛辣ぅ。……ところでさ、自己紹介。私は霧嶋アオイ。この世界での名前はエスト。23歳。前世は日本の会社員、享年32歳。」


*彼女は手を差し出した。シロウはそれを見て、軽く握り返した。*


シロウ「シロウ・ニシキ・アストライア。転移者。48歳。」


エスト「48……先輩じゃん。転移歴は?」


シロウ「30年くらいだ。」


エスト「大先輩だ。……あのさ、ちょっと聞いてよ。女の体になってからの話なんだけど。」


シロウ「また性欲の話か?」


エスト「違う違う。……いや、ちょっとだけ関係あるけど。ハニートラップの話。冒険者の男にかけると面白いくらい引っかかるんだよね。情報収集に最適。」


シロウ「……。」


エスト「でもたまにしっぺ返しされてさ。力づくで押し倒されたこともある。……まぁ、それはそれで悪くなかったけど。」


*彼女はにやっと笑った。中身おっさんの美少女の笑みだった。*


シロウ「だから知らねぇって。」


エスト「冷たいなぁ。同じ日本人でしょ? もうちょっと親身になってよ。」


*ロビーの冒険者たちが遠巻きにこちらを見ている。SSSランクの魔王と謎の美少女が親しげに会話している光景はなんとも不可思議だった。*


シロウ「目立つからこっち来い。」


*シロウは立ち上がり、ギルド2階への階段に向かった。2階はVIP用の個室が並んでいる。一般冒険者は立ち入り禁止だ。*


*エストが慌てて後を追いかけてきた。*


エスト「え、いいの? ここ一般人立入禁止って書いてあるけど。」


シロウ「ここは俺の国だ、誰にも文句は言えん。」


エスト「……かっこいい。」


シロウ「勘弁してくれ。」


*個室に入り、ドアを閉めた。防音の魔法が自動で展開される。シロウはソファに座り、エストは向かいの椅子にどかっと腰を下ろした。また足を開いている。スカートじゃないからいいものの、仕草が完全に居酒屋のおっさんだった。*


エスト「あー、落ち着く。……で、あんたがあのスライムの管理者でしょ。」


シロウ「まぁな。」


エスト「やっぱり。あのコピー能力、あれ普通のスキルじゃない。所有者が直接設定しないと無理だ。」


*シロウは黙って頷いた。隠す意味もない。*


エスト「それにしてもさぁ……。」


*エストはテーブルに肘をつき、頬杖をついた。美少女の顔にだらしない笑みが浮かぶ。*


エスト「この世界、男が優しいよね。冒険者の宿で酔った勢いでハニトラかけたら8割引っかかる。情報抜き放題。たまに逆にやられるけど。」


シロウ「お前それ、元おっさんの自覚あんのか。」


エスト「23年女やってりゃ感覚変わるって。最初は抵抗あったけど、今はもう……ね? 体が女なんだから仕方ないじゃん。」


*にやりと笑う。その笑顔は確かに美少女のそれだが、目の奥に宿る光はどう見ても中年男性のそれだった。*


シロウ「だから知らねぇって。」


エスト「つれないなぁ。……じゃ、本題。あんたに聞きたいことがある。」


*エストの表情が変わった。だらしない笑みが消え、真剣な目になった。*


エスト「この世界に、『神格因子』って概念があるよね。私……それを持ってるみたい。前世で死んだ時、誰かに埋め込まれた。」


*シロウの目が細くなった。*


エスト「転生してから23年、レベルを上げ続けて……気付いたら神聖属性が使えるようになってた。でもこれ、自分の力じゃない気がする。誰かに与えられたものだ。」


*エストはシロウを真っ直ぐ見た。*


エスト「あんたなら、何か知ってるんじゃない?」


シロウ「まだ信用できん。」


*エストの表情が一瞬真剣になった後、ふっと崩れた。彼女は椅子から身を乗り出し、上目遣いでシロウを見上げた。*


エスト「……ねぇ、信用してもらうにはどうすればいい?」


*声のトーンが変わっていた。低めの抑揚のない声から、甘い猫撫で声に。ローブの襟元を少し緩め、鎖骨を見せるように首を傾けた。*


エスト「私、こう見えても結構モテるんだよ? 情報、体で払ってもいいけど……?」


*ハニートラップ。冒険者の男を8割落としてきたという自慢の技。確かに外見だけ見れば、黒髪ショートの美少女が潤んだ目で見つめてくる光景は破壊力がある。*


*シロウは微動だにしなかった。*


シロウ「中身おっさんって思うとな……。」


エスト「……。」


*一瞬沈黙した後、エストは作戦を変えた。両手を頬に当て、体をくねらせた。*


エスト「えー、そんなこと言わないでぇ♡ エストね、シロウさんのこと気になっちゃってるんだけどなぁ……?」


*ぶりっ子だった。23年女をやってきた元32歳おっさんの、全力のぶりっ子だった。声は甘く、仕草は完璧。だが目の奥のおっさんオーラが完全に透けていた。*


シロウ「逆に萎える。」


エスト「……くっ。」


*エストはがくりと肩を落とし、元の座り方に戻った。足を開いて、背もたれに体を投げ出す。居酒屋のおっさんだった。*


エスト「ダメかぁ。大体の男はあれで落ちるんだけど。」


シロウ「俺の嫁を見てから出直せ。」


エスト「嫁? あー、噂は聞いてる。魔族と天使の二人だっけ。どっちも絶世の美女だとか。」


エスト「……ハーレムじゃん。」


*エストはテーブルに突っ伏した。*


エスト「はぁ……。私もそっち側になりたかったなぁ。前世は彼女いない歴イコール年齢だったし。転生して女になったらなったで、相手が男ってのがまた複雑でさ。」


シロウ「知らん。」


エスト「冷たっ。……で、本題に戻っていい? 神格因子の話。信用できないって言ったけど、何をすれば信用してもらえる?」


*エストが顔を上げた。ぶりっ子の演技は完全に消え、真っ直ぐな目でシロウを見ていた。*


シロウ「……。」


*シロウは帝眼を発動した。エストのステータスは測定不能のまま。だが、体内の魔力構造は見える。確かに……神聖属性の根源が彼女の核に埋め込まれていた。後天的なもの。誰かが意図的に植え付けた痕跡。*


シロウ(ツクヨミか……? いや、属性が違う。ツクヨミは闇属性だ。こいつの因子は純粋な光。となると……別の存在か。)


シロウ「一つ聞く。お前を転生させた奴に心当たりはあるか。」


エスト「……死ぬ直前、声だけ聞こえた。『お前に力を与える。好きに使え』って。男の声だった。」


シロウ「そうか……やっぱりな。」


*シロウは腕を組み、考え込んだ。*


シロウ(堕天する前のツクヨミ……。力の波動が微かに似ている。純粋な光属性の神格因子。堕天前の熾天使なら、それを与えることは可能だ。今は堕天して闇属性に反転しているから、エストとの繋がりは消えているはず……。)


シロウ(だとすると、ツクヨミは堕天する前から何かを企んでいたのか? それとも純粋な善意で与えたのか……?)


*シロウが黙って思考を巡らせていると、エストが急に身を乗り出してきた。*


エスト「あのさ、話変わるんだけど。」


シロウ「ん?」


エスト「私さ、前世から思ってたんだけど……寝取られって良くない?」


シロウ「……は?」


エスト「いやだってさ、自分が女になったわけじゃん。で、強い男に力づくで……みたいなシチュエーション、実際体験するとさ、脳がバグるんだよ。前世の男の自分が嫌がってるのに、体が反応して……あの背徳感がたまんないっていうか。」


*エストは頬を赤くしながらも、目がどこか遠くを見ていた。完全に自分の世界に入っている。*


エスト「理想はね、信頼してた仲間に裏切られて……みたいな。あ、でも合意の上でね。プレイとして。」


シロウ「いや、聞いてねぇよ……。むっつりかよ……。」


エスト「むっつりじゃないし! オープンスケベだし! 前世から薄い本で鍛えてきた筋金入りだし!」


シロウ「それを堂々と言うな。」


*シロウは額に手を当てた。この女……いや元おっさんは、戦闘力は測定不能なのに、中身が完全にダメ人間だった。*


エスト「……で、シロウさんは? 性癖は?」


シロウ「答える義理がない。」


エスト「えー。同じ日本人同士、腹割って話そうよ。」


シロウ「腹割る方向が間違ってんだよ。」


*エストはけらけら笑った。おっさんの笑い方だった。だが顔は美少女なので、周囲が見たら脳がバグる光景だ。*


シロウ(……こいつ、実力は本物だ。神格因子も持っている。ツクヨミとの繋がりがあるなら、味方にしておいた方がいい。だが……この性格をどうにかしてくれ。)


エスト「ねぇ、さっきの『やっぱり』って何? 私に因子を与えた奴に心当たりあるの?」


*急に鋭い目になった。この切り替えの速さが、こいつの厄介なところだ。*


シロウ「……ある。だが今は言えん。」


エスト「信用の問題?」


シロウ「それもある。だがお前の安全の問題でもある。知れば、確実に狙われる。」


*エストは数秒黙った後、小さく頷いた。*


エスト「……分かった。待つよ。その代わり、また明日もスライムに挑戦していい?」


シロウ「好きにしろ。何回やっても結果は同じだが。」


エスト「それはどうかな。」


*エストはにやりと笑い、立ち上がった。*


エスト「じゃ、また明日ね。あ、今度は寝取られプレイの話も……」


ーー


*医務室の扉を開けると、丁度転送陣が光った。エストが仰向けに転送台に叩きつけられるように出現した。全身ボロボロ。ローブは半壊し、右腕が変な方向に曲がっていた。*


エスト「……いってぇ……。今日は38秒……短くなってんじゃん……。」


*シロウは無言で回復薬の瓶を手に取り、エストの頭からドバドバとかけた。*


エスト「うわ冷たっ! ……あ、ありがと。」


*骨が元に戻る音がゴキゴキと響き、傷が塞がっていく。エストは起き上がり、髪から滴る回復薬を手で払った。*


エスト「あのさ、今日迷宮の42階層で超かっこいい男見つけた。」


シロウ「……。」


エスト「黒髪で、めちゃくちゃ強くて、精霊がわらわら寄ってきてて。白い犬と赤い鳥連れてた。あれ何? 聖獣? しかも横に超美人の女がいてさ。」


シロウ「それ、多分俺の息子。残念ながら既に嫁がいる。」


エスト「……息子。」


*エストの顔が固まった。*


エスト「え、48歳で息子がいるのは分かるけど……あの見た目で息子? イケメンすぎない? 遺伝子どうなってんの?」


シロウ「母親似だ。」


エスト「嫁さんどんだけ美人なの……。あ、横にいた女の人が嫁? 黒髪の、ちょっとボーイッシュな……。」


シロウ「……ノアとライか。」


シロウ(ノアとライ……最近全然見てなかったが、迷宮に来てたのか。カイも修行してるんだな。)


エスト「あのさ、息子さん紹介してよ。」


シロウ「するわけないだろ。お前中身おっさんだぞ。」


エスト「体は23歳の美少女だよ!?」


シロウ「中身55歳のおっさんが29歳の息子を狙うな。犯罪だろ。」


エスト「精神年齢の話持ち出すのずるくない!?」


*エストは回復台の上であぐらをかき、頬を膨らませた。仕草は拗ねた美少女。だが中身はおっさんだ。*


エスト「……はぁ。この世界のイケメン、大体既婚なんだよなぁ。」


シロウ「知らん。」


エスト「冷たっ。……ねぇ、明日も来ていい?」


シロウ「好きにしろ。」


エスト「やった。あ、それとさ……神格因子の話、もう少し待てばいい?」


*急に真面目な顔になった。この切り替えの速さには、もう慣れてきた。*


シロウ「……もう少しだけ待て。調べることがある。」


エスト「了解。じゃ、今日は帰る。風呂入りたい。」


*エストは回復台から飛び降り、出口に向かった。途中で振り返る。*


エスト「あ、息子さんの名前は?」


シロウ「カイだ。」


エスト「カイくんね。覚えた。」


シロウ「変なことすんなよ。」


エスト「しないしない。……多分。」


*にやりと笑って、医務室を出て行った。*


シロウ「……あいつ絶対何かやらかすだろ。」

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