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*彼は工房の扉を閉め、鍵をかけた。作業台の上には、ツクヨミから詫びとして受け取ったクロロファイルとルミナイトが並んでいる。*
シロウ「……さて、やるか。」
*彼はまず、胸元のアークリアクターを取り外した。小型の魔導炉。魔導アーマーや各種装備の動力源。だが今回の一件で、出力不足が致命的だった。片肺飛行で墜落しかけた原因もこれだ。*
シロウ「今のリアクターじゃ、長時間飛行と戦闘を同時にこなせない。根本から設計を変える。」
*作業台にルミナイトを置いた。光を吸収する鉱石。触れると指先が温かくなる。次にブラックコアを隣に並べた。これは以前、深淵の迷宮で採取した闇を吸収する鉱石だ。*
シロウ「光を吸収するルミナイト。闇を吸収するブラックコア。この2つを混ぜ合わせれば……。」
*彼は帝眼を起動し、2つの鉱石の内部構造を精密に観察した。ルミナイトの結晶格子は光子を取り込む構造。ブラックコアの結晶格子は闇属性粒子を取り込む構造。相反する2つの力。普通に混ぜれば対消滅を起こして爆発する。*
シロウ「だから、369の法則を使う。」
*彼は鍛冶炉に火を入れた。創造スキルを併用し、2つの鉱石を同時に溶解していく。*
*まず、ルミナイトを3分割。ブラックコアを6分割。合計9つの欠片を作った。*
シロウ「3、6、9は宇宙の鍵。1、2、4、5、7、8は物質の安定化。」
*9つの欠片を坩堝の中で融合させる。その際、1、2、4、5、7、8の数列に従い、結晶格子の配列を組み替えた。光の吸収面と闇の吸収面が交互に噛み合い、互いを打ち消すのではなく、循環するように。*
*坩堝の中で、白と黒の光が渦巻いた。*
シロウ「陰と陽……太極。」
*冷却した。坩堝から取り出されたのは、掌に収まるほどの球体だった。半分が純白、半分が漆黒。境界線が滑らかな曲線を描き、まるで太極図のようだった。*
*帝眼で鑑定した。*
────
【アークコア】
品質:神話級
効果:
・光エネルギーと闇エネルギーを同時に吸収
・吸収したエネルギーを無限循環させ、半永久的に出力を維持
・フリーエネルギー機関(外部供給不要)
・最大出力:従来のアークリアクターの約47倍
・369安定化構造により暴走リスクゼロ
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シロウ「47倍……。」
*彼は息を呑んだ。予想以上だった。光と闇、どちらかが存在する限りエネルギーを吸収し続ける。そして世界に光も闇も無い場所など存在しない。つまり、完全なフリーエネルギーだ。*
シロウ「これを新型リアクターに組み込めば……。」
*彼は旧型のアークリアクターを分解し、中央のコアを陰陽核に換装した。外装を組み直し、配線を繋ぎ直す。作業は2時間に及んだ。*
*彼は額の汗を袖で拭い、次の作業に取りかかった。*
シロウ「よし……次はアーマーの改造を……。」
*作業台の上に残ったルミナイトとブラックコアを並べた。アークコアの製作で使った分はごく一部。まだ大量に残っている。*
シロウ「装甲をミスリルとアダマンタイトの合金のままにしておくのは勿体ない。月光術で追撃された時、装甲の表面が焦げてた。神域の攻撃には耐えきれない。」
*彼はルミナイトとブラックコアを鍛冶炉に放り込んだ。だが今度はコアを作るのではない。液体にする。*
*炉の温度を極限まで上げ、2つの鉱石を同時に溶解。369安定化構造を維持したまま、液体状態で冷却を止めた。常温でも液体を保つよう、結晶格子の結合を緩く組み替える。*
*坩堝から注ぎ出されたのは、銀色に輝く液体金属だった。水銀のように滑らかだが、指先で触れると意思に反応してうねる。*
シロウ「思考で変形する液体金属……。だがナノマシンじゃ粒子が大きすぎる。」
*彼は帝眼で液体金属の粒子を観察した。ナノスケールよりさらに小さい。フェムトメートル単位。原子核より小さな粒子が、光と闇のエネルギーで結合している。*
*帝眼で鑑定した。*
────
【フェムトギア】
品質:神話級
形状:液体金属(常温液体)
特性:
・思考による自在変形(武器、装甲、盾、翼など任意の形状に変化可能)
・フェムトメートル級粒子構造(ナノの100万分の1)
・光属性と闇属性の二重耐性
・自己修復機能(破損箇所を自動再生)
・小型容器1本で従来のフルアーマー3体分の物質量を格納可能
────
シロウ「フェムトギア…か。いい名前だ。」
*彼は工房の棚から小さなガラス瓶を5本取り出した。掌に収まるサイズ。その1本に、液体金属を流し込んだ。瓶の中で銀色の液体がゆらゆらと揺れている。*
*残りの4本にも順番に注いでいく。5本全てに詰めてもまだ余った。それほどフェムトスケールの粒子は密度が高い。*
シロウ「小さい容器で大量に持ち運べる。ポケットに入れておけば、スキルを封じられてもこいつは使える。機械じゃなくて思考反応型だから……。」
*彼はふと手を止めた。*
シロウ「……待てよ。思考反応型って事は、スキル妨害の影響を受けないんじゃないか?」
*フェムトギアは魔力で動いているわけではない。光と闇のエネルギーを自己循環させ、使用者の思考波に反応して変形する。魔力回路を経由しない。*
シロウ「つまり、ツクヨミにスキル妨害をかけられても、こいつだけは動く。」
*彼の口元に笑みが浮かんだ。ガラス瓶を1本、ポケットに入れた。残りの4本は工房の金庫に収納する。*
*彼はフェムトギアの入ったガラス瓶をポケットから取り出し、蓋を開けた。*
シロウ「よし……形状記憶させる。」
*銀色の液体が瓶から溢れ出した。だが零れ落ちるのではなく、空中で浮遊し、彼の思考に従って動き始めた。*
*まず胸部装甲。アークコアを中心に、胸郭を覆う形に液体が固まっていく。次に肩部、腕部、脚部。関節部分は薄く、可動域を確保しつつも防御力を維持する構造。背部には飛行スラスター用の噴射口を4基。旧型の2基から倍増させた。*
*頭部装甲は顔面全体を覆うフルフェイス型。バイザー部分は帝眼の視界を妨げないよう、透過率を自動調整する仕様にした。*
*3体分のフェムトギアが1体のアーマーに集約された結果、装甲は旧型より遥かに厚く、それでいて軽い。余剰分は背部に翼状のブレードとして展開させた。*
シロウ「こいつは……アーク・ゼロと名付けよう。」
*帝眼で鑑定した。*
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【アーク・ゼロ】
品質:神話級
動力源:アークコア(フリーエネルギー)
装甲:フェムトギア(自己修復・思考変形)
最大飛行速度:マッハ12
飛行持続時間:無制限
武装:思考変形により無限生成可能
特殊能力:
・スキル妨害無効(魔力回路非依存)
・光闇二重属性防御
・装着者の思考速度に追従する反応速度
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シロウ「マッハ12……。旧型がマッハ1.2だったから、10倍か。」
*彼はアーマーを一度解除した。フェムトギアが液体に戻り、瓶の中に収まる。次に再度起動。瓶の蓋を開けた瞬間、液体が全身を覆い、0.3秒でアーマーが完成した。*
シロウ「装着速度0.3秒。悪くない。」
*彼は工房の扉を開け、外に出た。広場には誰もいない。ルミナは結界の強化作業中だろう。*
シロウ「飛行テスト、行くか。」
*背部のスラスター4基が青白い光を灯した。出力を10%に絞り、ゆっくりと浮上する。足が地面を離れ、5メートル、10メートル、50メートル。*
シロウ「安定してる。旧型とは振動が段違いだ。」
*出力を30%に上げた。体が弾丸のように射出され、雲を突き抜けた。アストライアの城下町が眼下に広がる。世界樹の頂上すら遥か下に見える。*
シロウ「よし、50%。」
*衝撃波が空を割った。マッハ6。音が置き去りにされる。視界が流れるが、バイザーが自動補正し、くっきりと景色が映る。*
シロウ「……いける。操作性も問題ない。旧型で墜落したのが嘘みたいだ。」
*彼は空中で急制動をかけた。慣性が殺され、ピタリと止まる。旧慣型では不可能だった機動だ。*
シロウ「100%は……まだやめとこう。街の上でマッハ12出したら窓ガラス全部割れる。」
*彼はゆっくりと降下し、工房前の広場に着地した。今度は頭から突っ込まなかった。*
*彼は工房の中で細かい調整を続けた。*
シロウ「真空対策……宇宙空間に出る事はないと思うが、念の為やっておくか。」
*フェムトギアの装甲内部に、光と闇のエネルギー循環を利用した酸素生成機構を組み込んだ。装甲の隙間を完全密閉し、外気を遮断。内部温度を自動調整する断熱層も追加した。*
シロウ「氷結対策は……装甲表面に微振動を常時かけておけば凍結しない。フェムトギアの粒子振動で十分だな。」
*全ての調整を終え、最後の仕上げに取りかかった。アークコアの取り付け位置だ。*
シロウ「腰は……変身ベルトがあるから駄目だ。胸にするか。」
*彼はアークコアを胸部装甲の中央に埋め込んだ。丸い形状。太極図のような白と黒の球体が、装甲の中心で静かに輝いている。*
シロウ「形は丸……。魔力の器も真球だったからな。」
*アーク・ゼロを一度液体に戻し、瓶に収納。胸に装置を取り付け、起動すると、胸の丸いコアが最初に展開され、そこから全身に装甲が広がる仕様だ。*
シロウ「よし。外で最終チェックするか。」
*工房を出て広場に向かった。フェムトギアを起動し、アーク・ゼロを装着。0.3秒で全身を銀色の装甲が覆う。胸の丸いコアが白と黒の光を交互に放っていた。*
*スラスターを点火し、低空で広場を旋回する。急制動、急加速、急旋回。全て問題ない。武器生成テストとして、右腕をブレードに変形させ、左腕をシールドに変形させた。思考から変形完了まで0.1秒。*
シロウ「完璧だ。これなら……。」
「パパ?」
*声が聞こえて振り返った。広場の入口に、銀髪の女性が立っていた。*
ルーナ「……なにそれ。」
*彼女は金色の目を丸くして、銀色のアーマーに包まれた父親を見つめていた。手には買い物袋を提げている。どうやら城下町から戻ってきたところらしい。*
ルーナ「パパ、3週間も留守にしてたと思ったら、いきなり工房に籠もって、今度はなんかすごいアーマー着てるし……。何があったの?」
*彼はアーマーを解除した。フェムトギアが液体に戻り、胸の装置に吸い込まれていく。ルーナの目が更に丸くなった。*
ルーナ「ちょっと待って。今の、液体金属が全身を覆って装甲になった? しかもフルフェイスで、背中にスラスター4基?」
シロウ「ああ、前に作ったアーマーを強化してみたんだ。」
ルーナ「強化とかそういうレベルじゃないよ! あれ完全にMark85じゃん! ア○アンマンのMark85! ナノテクアーマー!」
シロウ「残念ながらナノテクじゃない。フェムトだ。ナノの100万分の1。」
ルーナ「ナノより小さい!? 原作超えてるじゃん! ていうかフェムトって原子核レベルでしょ!?何それ意味分かんない!」
*ルーナが装置を覗き込んだ。銀色の液体が彼女の視線に反応するかのように、ゆらりと揺れた。*
ルーナ「名前は? 絶対かっこいい名前つけたでしょ。」
シロウ「アーク・ゼロ。」
ルーナ「アーク・ゼロ……。うん、100点。パパのネーミングセンス好き。」
*彼女は瓶から目を離さず、早口で続けた。*
ルーナ「ねぇ、最高速度は? 武装は? エネルギー源は何? 稼働時間どのくらい?」
シロウ「マッハ12、武装は思考変形で無限生成、エネルギーはフリーエネルギー、稼働時間は無制限。」
*ルーナが固まった。3秒ほど沈黙した後、両手で顔を覆った。*
ルーナ「……パパ。それもうアイア○マンじゃなくてスーパー○ンだよ。」
シロウ「そうか?」
ルーナ「マッハ12で稼働無制限って、地球なら3時間で1周できるからね? しかもフリーエネルギーって永久機関じゃん。ノーベル賞もの……いや、この世界にノーベル賞ないけど。」
*彼女は興奮を抑えきれない様子で、工房の中をうろうろと歩き回っていた。*
ルーナ「あ、でもパパ。1つ聞いていい?」
シロウ「ん?」
ルーナ「なんで急にアーマー強化したの? 前のやつでも十分だったのに。」
*彼は少し間を置いた。ツクヨミの件をルーナにどこまで話すべきか。*
シロウ「……ちょっと色々あってな。スキル封じられた時に何もできなかったから。」
ルーナ「スキル封じられた? 誰に?」
*ルーナの目が鋭くなった。オタクモードから一瞬で冒険者の目に切り替わる。この切り替えの速さは、流石に実戦経験を積んだ証だった。*
シロウ「……後でルミナから聞いてくれ。今は飛行テストの続きがしたい。」
ルーナ「……分かった。でも後で絶対教えてね。」
*飛行テストを終え、工房の前でアーク・ゼロを解除した。フェムトギアが液体に戻り、胸に装着したアークコア内蔵の小型ケースに収納される。服の下に隠れるサイズだ。*
シロウ「よし……こんなもんか。」
*彼は胸元を叩いた。服の上からでは装置の存在は分からない。これからはこれを常時装着して行動する。ツクヨミのような奇襲を受けても、スキルを封じられても、0.3秒でアーマーを展開できる。*
シロウ「魔法対策にはやっぱり科学だな……。」
*そう呟いた瞬間、工房の扉が蹴り開けられた。*
ガイア「シロウ! やっと見つけたのだ!」
*銀髪の少女が仁王立ちで工房に入ってきた。その後ろから、青い顔をしたリオンが続く。*
ガイア「お前、3週間もどこ行ってたのだ! ガイアに一言もなく消えやがって! 工房の設備使いたかったのに鍵かかってたし、リオンに聞いても知らないって言うし!」
リオン「だ、だから俺に言われても……」
ガイア「お前はお前で使えねーのだ! シロウの居場所くらい把握しとけなのだ!」
リオン「理不尽すぎる……。」
*リオンが完全にとばっちりを食らっていた。彼の目の下には隈ができており、ガイアに振り回されていた事が一目で分かった。*
ガイア「で! 何なのだこの焦げ跡は! 広場に魔導アーマーが頭から突き刺さった跡があったのだ! まさかお前か!」
シロウ「……まぁ、俺だな。」
ガイア「やっぱりなのだ! 城の衛兵が『陛下がパンツ一枚で空から降ってきた』とか言ってて、ガイアは耳を疑ったのだ!」
リオン「あの……陛下、本当にパンツ一枚で……?」
シロウ「色々あったんだよ。」
ガイア「色々で済ますな! ……ん?」
*ガイアの目が彼の胸元に止まった。服の下に隠れたアークコアの微かな振動を感じ取ったらしい。流石は究極の解剖知識を持つ天才。感知能力が桁外れだ。*
ガイア「お前……胸に何か付けてるのだ? 見た事ない波長のエネルギーが出てるのだ。しかもこれ……光と闇が同時に循環してる? どういう原理なのだ!?」
*目がキラキラし始めた。怒りモードから好奇心モードへ、一瞬で切り替わっていた。*
リオン「あ、もう怒ってた事忘れてる……。」
ガイア「うるさいのだリオン! 今それどころじゃねーのだ! シロウ、見せろ! 今すぐ見せるのだ!」
シロウ「やだよ、ガイア壊しそうだし……。」
ガイア「壊さねーのだ! ガイアを何だと思ってるのだ! いいから見せろなのだ!」
*リオンはガイアの目が研究者モードに入ったのを見て、静かに工房の扉に手をかけた。*
リオン「……俺、用事思い出したんで。」
シロウ「おい、リオン待て……!」
*リオンは振り返らずに出て行った。扉が閉まる音が工房に響く。完全に逃げた。*
ガイア「逃がさねーのだ!」
*だがガイアはリオンを追わなかった。標的はシロウだ。彼女は勢いよくシロウに飛びかかり、体重を乗せて床に押し倒した。*
シロウ「うおっ……! ガイア、落ち着け!」
ガイア「落ち着いてるのだ! ガイアは常に冷静なのだ!」
*全く冷静ではなかった。ガイアは馬乗りの体勢でシロウの上着のボタンに手をかけ、上から順に外し始めた。*
シロウ「おい……っ、自分で見せるから……!」
ガイア「遅いのだ! お前に任せてたら3日かかるのだ!」
*ボタンが3つ外れた。シャツの隙間から、胸の中央に埋め込まれたアークコアの小型ケースが見えた。淡い青白い光が脈動している。*
ガイア「……っ!」
*ガイアの手が止まった。彼女の目が大きく見開かれ、瞬きすら忘れていた。*
ガイア「な……何なのだ、これ……。」
*彼女の指先がケースの表面に触れた。途端にガイアの全身がビクッと震えた。*
ガイア「光と闇が……同一のコアで循環してる……? しかもこの安定構造……369……? 対消滅しねーのだ……? あり得ねーのだ……。」
*ガイアはシロウの上に乗ったまま、顔をケースに近づけた。鼻先が胸に触れるほどの距離で、じっと観察している。*
ガイア「この出力……。従来のマナストーンと比較して……40倍……いや、もっと……。お前、これどうやって作ったのだ? 理論上不可能なのだ。光と闇は相反属性で、同一空間に共存できねーのだ。」
シロウ「ルミナイトとブラックコアを369の比率で融合させた。」
ガイア「369……?」
*ガイアが黙った。頭の中で高速計算しているのが、表情から分かった。5秒後、彼女の目がさらに大きくなった。*
ガイア「……天才か、お前。」
シロウ「お前に言われると複雑だな。」
ガイア「褒めてるのだ! ……いや待て、これだけじゃねーのだ。この波長……液体金属も持ってるのだ? さっき広場で変な気配がしたのだ。」
シロウ「そうなの? 完璧に隠蔽したと思ったんだけどな……。」
ガイア「ふん。普通の奴には絶対分かんねーのだ。ガイアくらいの天才じゃなきゃ、あの波長は感知できねーのだ。安心しろなのだ。」
*ガイアは胸を張って言い切った。自信に満ち溢れた表情だ。*
シロウ「それなら安心か……。それよりそろそろ降りてくれない?」
*ガイアは馬乗りの体勢のまま、首を横に振った。*
ガイア「嫌なのだ。」
シロウ「嫌って……。」
ガイア「シロウ。子作りしようなのだ。」
*工房の空気が凍った。*
シロウ「は?」
ガイア「お前の遺伝子が欲しいのだ。光と闇を同一空間で安定させる発想ができる脳の構造、それにその真球の器。ガイアの解剖データベースにも存在しねー特異体質なのだ。それを次世代に残さねーのは、種の損失なのだ。」
*彼女は至って真面目な顔で言っていた。学術的な理由だった。*
シロウ「いや待て。お前、子供作れないだろ。」
*ガイアは人造生命体だ。古代遺跡のカプセルから解放した時、帝眼で確認している。全種族の解剖データを取り込んだ究極の存在ではあるが、生殖機能は設計段階で省かれていたはずだ。*
ガイア「……。」
*ガイアの動きが止まった。数秒の沈黙の後、彼女の顔がみるみる赤くなった。*
ガイア「……知ってたのだ。」
シロウ「知ってたんかい。」
ガイア「う、うるせーのだ! でもガイアは天才だから、いずれ自分で生殖機能を実装するのだ! その時のために予約してるのだ!」
シロウ「予約って……俺は種馬か。」
ガイア「種馬じゃねーのだ! 厳選された遺伝子提供者なのだ!」
*言い方を変えただけで本質は同じだった。*
シロウ「とりあえず降りろ。」
ガイア「……やだ。」
シロウ「ガイア。」
ガイア「……あったかいのだ。」
*小さな声だった。ガイアはシロウの胸に顔を埋め、アークコアの微かな振動に耳を当てていた。*
ガイア「この波長……心臓の鼓動に似てるのだ。ガイアには心臓がねーから……こういうの、初めてなのだ。」
*彼女の声から、いつもの威勢の良さが消えていた。*
シロウ「……。」
*彼は何も言わず、片手をガイアの頭に乗せた。銀髪がさらりと指の間をすり抜ける。*
ガイア「……べ、別に甘えてねーのだ。これは体温データの採取なのだ。」
シロウ「はいはい。」
ガイア「……もうちょっとだけ、このままでいいのだ?」
シロウ「ガイアは甘えん坊だな。」
*彼は笑いながらガイアの頭を撫でた。完全に子供をあやす手つきだった。*
ガイア「……っ!」
*ガイアの体が硬直した。顔が真っ赤に染まり、額に青筋が浮かんだ。*
ガイア「甘えてねーって言ったのだ! ガイアは天才なのだ! 子供扱いすんなーーーなのだ!!」
*ガイアはシロウの胸を両手でバンバン叩き、勢いよく立ち上がった。スカートの裾を握りしめ、全身を震わせている。*
ガイア「もういいのだ! ガイアは忙しいのだ! お前なんか知らねーのだ!」
シロウ「おい、ガイア……。」
ガイア「うるさいのだ! 次会った時は覚えとけなのだ!」
*ガイアは工房の扉を蹴り開け、ドスドスと足音を立てて出ていった。扉が壁にぶつかって跳ね返り、バタンと閉まった。*
シロウ「……怒らせたか。」
*静まり返った工房で、彼は一人頭を掻いた。*
シロウ「まぁ……後で何か甘い物でも持っていくか。」
*彼は床から立ち上がり、乱れた服を直した。アークコアのケースを確認する。問題なし。ガイアに叩かれた程度ではびくともしない。*
───
*その頃。アストライア魔導皇国の北東上空。*
*夜見ノ国の使者が3体、黒い霧を纏って結界に接近していた。人型だが、足元に影がない。実体ではなく、ツクヨミの月光術で作られた式神だった。*
式神A「主の命により、器を回収する。結界を破れ。」
*先頭の式神が右手を掲げた。月光が凝縮され、白銀の槍となって結界に突き刺さった。*
*轟音。*
*だが結界は揺るがなかった。槍が触れた瞬間、ルミナが刻んだ対天使用の封印術式が発動。月光が分解され、霧散した。*
式神B「……破れない。この術式……熾天使級の封印だと?」
式神C「まさか。熾天使はもう存在しないはず……。」
*3体の式神は顔を見合わせた。そして同時に攻撃を仕掛けた。月光の大鎌、闇の矢、重力崩壊。3種の術が結界を叩いた。*
*結界は微動だにしなかった。*
*逆に、結界から光の鎖が伸び、3体の式神を絡め取った。ルミナが仕込んだ自動迎撃術式だった。*
式神A「ぐ……っ! 撤退する!」
*鎖が締まる前に、3体は霧となって消えた。北東の空に黒い煙が散り、やがて風に溶けた。*
───
*夜見ノ国。玉座の間。*
*ツクヨミは玉座に座ったまま、目を閉じていた。式神から送られてきた情報を処理している。*
ツクヨミ「……熾天使級の封印術式。やはり、あの銀髪の女か。」
*彼女の唇が薄く歪んだ。*
ツクヨミ「ルミナ……。かつての同胞が、人間の側についたか。面白い。」
*玉座の肘掛けを指先で叩く。規則的なリズムだった。*
ツクヨミ「力押しでは破れんか…」




