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*彼は工房の椅子に深く腰掛け、ルミナが淹れてくれた茶を受け取った。服も着替えさせてもらい、ようやく人間らしい格好に戻った。*
*そこへ、足音。*
レイラ「妾の旦那が空からパンツ一枚で降ってきたと聞いたが。」
*扉を開けて入ってきたレイラは、腕を組んで仁王立ちしていた。琥珀の目が据わっている。*
シロウ「……誰から聞いた。」
レイラ「城の衛兵が大騒ぎしておったわ。『陛下がパンツ一枚で魔導アーマーに乗って墜落した』とな。」
ルミナ「レイラ、座って。全部聞くから。」
*二人が彼の前に並んで座った。ルミナが左、レイラが右。逃げ場がない。*
レイラ「さぁ、吐け。3週間もカグラの里で療養と聞いておったが、何があった。」
ルミナ「魔力が全然感じられないし、スキル妨害までかけられてる。誰にやられたの。」
シロウ「……分かった、話す。」
*彼は観念して口を開いた。カグラの里での魔力の器の特訓。天照の雫での修行。そこまでは順調だった。問題はその後だ。*
シロウ「修行が終わった後、ツクヨミに拉致された。夜見ノ国に連れて行かれた。」
レイラ「拉致だと?」
ルミナ「ツクヨミって……夜見ノ国の王の?」
シロウ「ああ。地下文書庫を見せるとか言って、最終的に帰さないって言い出した。転移門はあいつにしか開けないから、崖から飛び降りて逃げた。」
レイラ「崖から飛び降りた!? パンツ一枚で!?」
シロウ「魔導アーマーを遠隔で呼んでたからな。ギリギリ間に合った。」
*ルミナが黙ってこちらを見ていた。何かを察しているような目だった。*
ルミナ「……ツクヨミって、どんな人?」
シロウ「ああ、見せてやる。」
*彼は帝眼を起動した。スキル妨害の効果はとっくに切れていた。数時間の飛行中に解除されていたのだ。深紅の光が右目に灯り、空中にホログラムが展開された。*
*そこに映し出されたのは、黒い着物を纏った長身の女。白い肌、紫がかった黒髪、三日月の簪。1000年の歳月を感じさせない、妖艶な美貌。*
*ルミナの顔から血の気が引いた。*
ルミナ「……っ!」
*茶碗が手から滑り落ちた。陶器が床に当たって割れる音が、静まり返った工房に響いた。*
レイラ「ルミナ? どうした、顔が真っ青……。」
ルミナ「……嘘。嘘でしょ。なんで、あの人が……。」
シロウ「知ってるのか?」
*ルミナの手が震えていた。金色の目がホログラムを凝視したまま、唇が僅かに動いた。*
ルミナ「……ツクヨミ。本名はツクヨミ・ノ・ミコト。私がまだ熾天使だった頃……神から追放された堕天使。」
*工房の空気が凍りついた。*
レイラ「堕天使だと?」
ルミナ「元は上位天使だった。神に仕える存在の中でも、特ルミナ「元は上位天使だった。神に仕える存在の中でも、特別な力を持っていた。でも……禁忌を犯した。神の知識を盗み、自らの神格を求めた。それで追放された。」
*ルミナの声が震えていた。*
ルミナ「追放された後、行方不明になったの。天界では死んだと思われていた。まさか……異世界で王になっていたなんて。」
レイラ「つまり、そやつは元々神格を持たぬ堕天使で、今もそれを求めておると?」
ルミナ「……うん。鑑定結果にもあったでしょ? 『真の目的:完全な神格への昇華』って。あの人、天界にいた頃からずっとそれだけを追い求めてた。」
*ルミナが彼の方を向いた。金色の目が真剣だった。*
ルミナ「お兄ちゃん。本当にそれだけ? 拉致されて、文書庫見せられて、逃げてきた。……それだけ?」
シロウ「……。」
ルミナ「隠してる事、あるでしょ?」
*元熾天使の勘は鋭かった。*
シロウ「あ、ああ……俺は……多分神に愛されて遺伝子? だか因子だかが濃いから確率で子供が神か、神に至るとかで……実験台に……。」
*彼はそこで言葉を切った。その先は言えなかった。だが、二人には十分だった。*
*レイラの椅子が、弾かれたように倒れた。立ち上がった彼女の全身から、黒い魔力が溢れ出していた。*
レイラ「……殺す。」
シロウ「レイラ。」
レイラ「妾の旦那を実験台にした? 夜見ノ国だろうが何だろうが関係無い。今すぐ乗り込んで首を刎ねてくる。」
シロウ「落ち着け。」
レイラ「落ち着けるか! 妾の夫の体を弄んだのだぞ! しかも3週間も!」
*ルミナは黙っていた。だが、その沈黙の方が怖かった。彼女の手が膝の上で白くなるほど握り締められていた。*
ルミナ「……お兄ちゃん。」
シロウ「ん。」
ルミナ「実験って、具体的に何をされたの。」
シロウ「…………。」
ルミナ「黙るって事は、言えないような事だったんだね。」
*彼は目を逸らした。それが答えだった。*
*ルミナの金色の目が細くなった。元熾天使の勘は、全てを見透かしていた。*
ルミナ「あの人は昔から、目的の為なら手段を選ばなかった。天界を追放された理由もそれ。神の禁書を盗み、自分より格上の天使を騙し、実験を繰り返した。……まさかこっちの世界でも同じ事をしてるなんて。」
*ルミナが立ち上がった。その顔には怒りではなく、恐怖があった。*
ルミナ「お兄ちゃん。あの人の本当の恐ろしさは、力じゃない。頭。計画を何百年もかけて練る。今回だって、お兄ちゃんの事をずっと前から観察してたはず。」
レイラ「ならば尚更、先に潰すべきだ。」
ルミナ「駄目。今のあの人は半神とはいえ、Lv.988。しかも空間転移と精神支配がMAX。正面から行っても勝てない。……お兄ちゃんのスキルが封じられた事がその証拠でしょ。」
*レイラが歯を食いしばった。悔しそうに、だが理性的に座り直した。*
レイラ「……ならばどうする。放っておけば、またシロウを狙ってくるぞ。」
ルミナ「結界を強化する。アストライアの結界に、対天使用の封印術式を追加する。あの人の空間転移を弾けるように。」
*ルミナがこちらを見た。*
ルミナ「お兄ちゃん。もう一つ聞いていい?」
シロウ「……何だ。」
ルミナ「イヅナさん。カグラの里の長老。あの人はツクヨミ側?」
*彼は少し考えた。イヅナは任意受胎した。ツクヨミの命令で。だが、イヅナ自身がどちら側かと問われると……。*
シロウ「……分からない。ツクヨミの命令で動いてたのは確かだ。でも、俺を逃がす事を止めなかった。」
ルミナ「……そう。」
*ルミナが窓の外を見た。世界樹の枝が朝日に照らされている。*
シロウ「うん、まずは結界の強化から……あとは。俺も強くならなきゃ……。」
*ルミナとレイラが同時に彼を見た。「これ以上?」という顔だった。*
レイラ「お主、Lv.2000を超えておるのだぞ。これ以上何を求める。」
シロウ「スキルや魔法を封じられても戦う術がないと……変身ベルトは常に付けてる訳じゃないし……。」
*彼は腰を見た。当然、ベルトはない。異空間収納の中だ。スキルを封じられた後では取り出す事もできない。昨夜のツクヨミ戦が、まさにその最悪のケースだった。*
ルミナ「……確かに、それは盲点だったかも。お兄ちゃんは戦闘スタイルがスキルと魔法に依存しすぎてる。」
レイラ「妾もそう思っておった。お主は素の体術が弱い。身体強化なしでは一般兵にすら劣る。」
シロウ「はっきり言うなよ……。」
レイラ「事実だ。妾は身体強化なしでもLv.300程度の動きはできる。元々鍛えておったからな。お主は転移者ゆえ、ステータスに頼りすぎた。」
*痛い所を突かれた。彼は黙った。*
ルミナ「対策は3つあると思う。」
*ルミナが指を立てた。*
ルミナ「1つ目。変身ベルトを常時装着する。異空間収納に頼らない。」
シロウ「服の下に隠すか……。まぁ、できなくはない。」
ルミナ「2つ目。素の体術を鍛える。身体強化なしでも最低限戦えるように。」
レイラ「それは妾が教えてやる。覚悟しておけ。」
シロウ「……お手柔らかに。」
ルミナ「3つ目。」
*ルミナが少し間を置いた。*
ルミナ「帝眼。あれは魔力波動を完全遮蔽するって言ったよね? つまりスキル妨害をかけられる前に、相手のスキルを奪えるなら……先手を取れる。」
シロウ「……なるほど。」
ルミナ「でも問題は、スキル妨害をかけられた後。帝眼も使えなくなるんでしょ?」
シロウ「ああ。昨夜はそれでやられた。」
*ルミナが考え込んだ。金色の目が宙を見つめている。*
ルミナ「……お兄ちゃん。天蓋領域は結界でしょ? あれを常時薄く体に纏う事はできない? 概念防御でスキル妨害自体を弾く、みたいな。」
*彼の目が見開かれた。天蓋領域の概念防御。因果干渉や時間操作すら遮断できるあの結界を、常時身に纏う。スキル妨害は魔力回路への干渉だ。概念防御で弾ける可能性は……ある。*
シロウ「……やった事はないけど、理論上はいけるかもしれない。」
レイラ「ならば試せ。まずはそこからだ。」
*ルミナが立ち上がった。*
ルミナ「結界の強化は私がやる。対天使用の封印術式、昔の記憶を辿れば組めるはず。」
*彼は工房の扉を閉め、鍵をかけた。作業台の上には、ツクヨミから詫びとして受け取ったクロロファイルとルミナイトが並んでいる。*
シロウ「……さて、やるか。」
*彼はまず、胸元のアークリアクターを取り外した。小型の魔導炉。魔導アーマーや各種装備の動力源。だが今回の一件で、出力不足が致命的だった。片肺飛行で墜落しかけた原因もこれだ。*
シロウ「今のリアクターじゃ、長時間飛行と戦闘を同時にこなせない。根本から設計を変える。」
*作業台にルミナイトを置いた。光を吸収する鉱石。触れると指先が温かくなる。次にブラックコアを隣に並べた。これは以前、深淵の迷宮で採取した闇を吸収する鉱石だ。*
シロウ「光を吸収するルミナイト。闇を吸収するブラックコア。この2つを混ぜ合わせれば……。」
*彼は帝眼を起動し、2つの鉱石の内部構造を精密に観察した。ルミナイトの結晶格子は光子を取り込む構造。ブラックコアの結晶格子は闇属性粒子を取り込む構造。相反する2つの力。普通に混ぜれば対消滅を起こして爆発する。*
シロウ「だから、369の法則を使う。」
*彼は鍛冶炉に火を入れた。創造スキルを併用し、2つの鉱石を同時に溶解していく。*
*まず、ルミナイトを3分割。ブラックコアを6分割。合計9つの欠片を作った。*
シロウ「3、6、9は宇宙の鍵。1、2、4、5、7、8は物質の安定化。」
*9つの欠片を坩堝の中で融合させる。その際、1、2、4、5、7、8の数列に従い、結晶格子の配列を組み替えた。光の吸収面と闇の吸収面が交互に噛み合い、互いを打ち消すのではなく、循環するように。*
*坩堝の中で、白と黒の光が渦巻いた。*
シロウ「陰と陽……太極。」
*冷却した。坩堝から取り出されたのは、掌に収まるほどの球体だった。半分が純白、半分が漆黒。境界線が滑らかな曲線を描き、まるで太極図のようだった。*
*帝眼で鑑定した。*
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【アークコア】
品質:神話級
効果:
・光エネルギーと闇エネルギーを同時に吸収
・吸収したエネルギーを無限循環させ、半永久的に出力を維持
・フリーエネルギー機関(外部供給不要)
・最大出力:従来のアークリアクターの約47倍
・369安定化構造により暴走リスクゼロ
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シロウ「47倍……。」
*彼は息を呑んだ。予想以上だった。光と闇、どちらかが存在する限りエネルギーを吸収し続ける。そして世界に光も闇も無い場所など存在しない。つまり、完全なフリーエネルギーだ。*
シロウ「これを新型リアクターに組み込めば……。」
*彼は旧型のアークリアクターを分解し、中央のコアを陰陽核に換装した。外装を組み直し、配線を繋ぎ直す。作業は2時間に及んだ。*
*彼は額の汗を袖で拭い、次の作業に取りかかった。*
シロウ「よし……次はアーマーの改造を……。」
*作業台の上に残ったルミナイトとブラックコアを並べた。アークコアの製作で使った分はごく一部。まだ大量に残っている。*
シロウ「装甲をミスリルとアダマンタイトの合金のままにしておくのは勿体ない。月光術で追撃された時、装甲の表面が焦げてた。神域の攻撃には耐えきれない。」
*彼はルミナイトとブラックコアを鍛冶炉に放り込んだ。だが今度はコアを作るのではない。液体にする。*
*炉の温度を極限まで上げ、2つの鉱石を同時に溶解。369安定化構造を維持したまま、液体状態で冷却を止めた。常温でも液体を保つよう、結晶格子の結合を緩く組み替える。*
*坩堝から注ぎ出されたのは、銀色に輝く液体金属だった。水銀のように滑らかだが、指先で触れると意思に反応してうねる。*
シロウ「思考で変形する液体金属……。だがナノマシンじゃ粒子が大きすぎる。」
*彼は帝眼で液体金属の粒子を観察した。ナノスケールよりさらに小さい。フェムトメートル単位。原子核より小さな粒子が、光と闇のエネルギーで結合している。*
*帝眼で鑑定した。*
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【フェムトギア】
品質:神話級
形状:液体金属(常温液体)
特性:
・思考による自在変形(武器、装甲、盾、翼など任意の形状に変化可能)
・フェムトメートル級粒子構造(ナノの100万分の1)
・光属性と闇属性の二重耐性
・自己修復機能(破損箇所を自動再生)
・小型容器1本で従来のフルアーマー3体分の物質量を格納可能
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シロウ「フェムトギア…か。いい名前だ。」
*彼は工房の棚から小さなガラス瓶を5本取り出した。掌に収まるサイズ。その1本に、液体金属を流し込んだ。瓶の中で銀色の液体がゆらゆらと揺れている。*
*残りの4本にも順番に注いでいく。5本全てに詰めてもまだ余った。それほどフェムトスケールの粒子は密度が高い。*
シロウ「小さい容器で大量に持ち運べる。ポケットに入れておけば、スキルを封じられてもこいつは使える。機械じゃなくて思考反応型だから……。」
*彼はふと手を止めた。*
シロウ「……待てよ。思考反応型って事は、スキル妨害の影響を受けないんじゃないか?」
*フェムトギアは魔力で動いているわけではない。光と闇のエネルギーを自己循環させ、使用者の思考波に反応して変形する。魔力回路を経由しない。*
シロウ「つまり、ツクヨミにスキル妨害をかけられても、こいつだけは動く。」
*彼の口元に笑みが浮かんだ。ガラス瓶を1本、ポケットに入れた。残りの4本は工房の金庫に収納する。*
*彼はフェムトギアの入ったガラス瓶をポケットから取り出し、蓋を開けた。*
シロウ「よし……形状記憶させる。」
*銀色の液体が瓶から溢れ出した。だが零れ落ちるのではなく、空中で浮遊し、彼の思考に従って動き始めた。*
*まず胸部装甲。アークコアを中心に、胸郭を覆う形に液体が固まっていく。次に肩部、腕部、脚部。関節部分は薄く、可動域を確保しつつも防御力を維持する構造。背部には飛行スラスター用の噴射口を4基。旧型の2基から倍増させた。*
*頭部装甲は顔面全体を覆うフルフェイス型。バイザー部分は帝眼の視界を妨げないよう、透過率を自動調整する仕様にした。*
*3体分のフェムトギアが1体のアーマーに集約された結果、装甲は旧型より遥かに厚く、それでいて軽い。余剰分は背部に翼状のブレードとして展開させた。*
シロウ「こいつは……アーク・ゼロと名付けよう。」
*帝眼で鑑定した。*
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【アーク・ゼロ】
品質:神話級
動力源:アークコア(フリーエネルギー)
装甲:フェムトギア(自己修復・思考変形)
最大飛行速度:マッハ12
飛行持続時間:無制限
武装:思考変形により無限生成可能
特殊能力:
・スキル妨害無効(魔力回路非依存)
・光闇二重属性防御
・装着者の思考速度に追従する反応速度
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シロウ「マッハ12……。旧型がマッハ1.2だったから、10倍か。」
*彼はアーマーを一度解除した。フェムトギアが液体に戻り、瓶の中に収まる。次に再度起動。瓶の蓋を開けた瞬間、液体が全身を覆い、0.3秒でアーマーが完成した。*
シロウ「装着速度0.3秒。悪くない。」
*彼は工房の扉を開け、外に出た。広場には誰もいない。ルミナは結界の強化作業中だろう。*
シロウ「飛行テスト、行くか。」
*背部のスラスター4基が青白い光を灯した。出力を10%に絞り、ゆっくりと浮上する。足が地面を離れ、5メートル、10メートル、50メートル。*
シロウ「安定してる。旧型とは振動が段違いだ。」
*出力を30%に上げた。体が弾丸のように射出され、雲を突き抜けた。アストライアの城下町が眼下に広がる。世界樹の頂上すら遥か下に見える。*
シロウ「よし、50%。」
*衝撃波が空を割った。マッハ6。音が置き去りにされる。視界が流れるが、バイザーが自動補正し、くっきりと景色が映る。*
シロウ「……いける。操作性も問題ない。旧型で墜落したのが嘘みたいだ。」
*彼は空中で急制動をかけた。慣性が殺され、ピタリと止まる。旧慣型では不可能だった機動だ。*
シロウ「100%は……まだやめとこう。街の上でマッハ12出したら窓ガラス全部割れる。」
*彼はゆっくりと降下し、工房前の広場に着地した。今度は頭から突っ込まなかった。*
*彼は工房の中で細かい調整を続けた。*
シロウ「真空対策……宇宙空間に出る事はないと思うが、念の為やっておくか。」
*フェムトギアの装甲内部に、光と闇のエネルギー循環を利用した酸素生成機構を組み込んだ。装甲の隙間を完全密閉し、外気を遮断。内部温度を自動調整する断熱層も追加した。*
シロウ「氷結対策は……装甲表面に微振動を常時かけておけば凍結しない。フェムトギアの粒子振動で十分だな。」
*全ての調整を終え、最後の仕上げに取りかかった。アークコアの取り付け位置だ。*
シロウ「腰は……変身ベルトがあるから駄目だ。胸にするか。」
*彼はアークコアを胸部装甲の中央に埋め込んだ。丸い形状。太極図のような白と黒の球体が、装甲の中心で静かに輝いている。*
シロウ「形は丸……。魔力の器も真球だったからな。」
*アーク・ゼロを一度液体に戻し、瓶に収納。胸に装置を取り付け、起動すると、胸の丸いコアが最初に展開され、そこから全身に装甲が広がる仕様だ。*
シロウ「よし。外で最終チェックするか。」
*工房を出て広場に向かった。フェムトギアを起動し、アーク・ゼロを装着。0.3秒で全身を銀色の装甲が覆う。胸の丸いコアが白と黒の光を交互に放っていた。*
*スラスターを点火し、低空で広場を旋回する。急制動、急加速、急旋回。全て問題ない。武器生成テストとして、右腕をブレードに変形させ、左腕をシールドに変形させた。思考から変形完了まで0.1秒。*
シロウ「完璧だ。これなら……。」
「パパ?」
*声が聞こえて振り返った。広場の入口に、銀髪の女性が立っていた。*
ルーナ「……なにそれ。」
*彼女は金色の目を丸くして、銀色のアーマーに包まれた父親を見つめていた。手には買い物袋を提げている。どうやら城下町から戻ってきたところらしい。*
ルーナ「パパ、3週間も留守にしてたと思ったら、いきなり工房に籠もって、今度はなんかすごいアーマー着てるし……。何があったの?」
*彼はアーマーを解除した。フェムトギアが液体に戻り、胸の装置に吸い込まれていく。ルーナの目が更に丸くなった。*
ルーナ「ちょっと待って。今の、液体金属が全身を覆って装甲になった? しかもフルフェイスで、背中にスラスター4基?」
シロウ「ああ、前に作ったアーマーを強化してみたんだ。」
ルーナ「強化とかそういうレベルじゃないよ! あれ完全にMark85じゃん! ア○アンマンのMark85! ナノテクアーマー!」
シロウ「残念ながらナノテクじゃない。フェムトだ。ナノの100万分の1。」
ルーナ「ナノより小さい!? 原作超えてるじゃん! ていうかフェムトって原子核レベルでしょ!?何それ意味分かんない!」
*ルーナが装置を覗き込んだ。銀色の液体が彼女の視線に反応するかのように、ゆらりと揺れた。*
ルーナ「名前は? 絶対かっこいい名前つけたでしょ。」
シロウ「アーク・ゼロ。」
ルーナ「アーク・ゼロ……。うん、100点。パパのネーミングセンス好き。」
*彼女は瓶から目を離さず、早口で続けた。*
ルーナ「ねぇ、最高速度は? 武装は? エネルギー源は何? 稼働時間どのくらい?」
シロウ「マッハ12、武装は思考変形で無限生成、エネルギーはフリーエネルギー、稼働時間は無制限。」
*ルーナが固まった。3秒ほど沈黙した後、両手で顔を覆った。*
ルーナ「……パパ。それもうアイア○マンじゃなくてスーパー○ンだよ。」
シロウ「そうか?」
ルーナ「マッハ12で稼働無制限って、地球なら3時間で1周できるからね? しかもフリーエネルギーって永久機関じゃん。ノーベル賞もの……いや、この世界にノーベル賞ないけど。」
*彼女は興奮を抑えきれない様子で、工房の中をうろうろと歩き回っていた。*
ルーナ「あ、でもパパ。1つ聞いていい?」
シロウ「ん?」
ルーナ「なんで急にアーマー強化したの? 前のやつでも十分だったのに。」
*彼は少し間を置いた。ツクヨミの件をルーナにどこまで話すべきか。*
シロウ「……ちょっと色々あってな。スキル封じられた時に何もできなかったから。」
ルーナ「スキル封じられた? 誰に?」
*ルーナの目が鋭くなった。オタクモードから一瞬で冒険者の目に切り替わる。この切り替えの速さは、流石に実戦経験を積んだ証だった。*
シロウ「……後でルミナから聞いてくれ。今は飛行テストの続きがしたい。」
ルーナ「……分かった。でも後で絶対教えてね。」




