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*彼はベルト中心の赤い宝石に手を置いた。*
シロウ「起動。」
*赤い宝石が脈動した。転送魔法陣が中庭の地面に展開される。白い光が夜明け前の闇を切り裂いた。*
*海賊たちが光に目を細めた、その瞬間。*
*轟音と共に、99階層の合金龍が出現した。*
*アダマンタイトとミスリル合金の外殻が松明の灯りを反射し、鈍い銀色に輝く。全長30メートルの巨躯が中庭を埋め尽くす。核のオリハルコンとヒヒイロカネが胸元で赤く脈動していた。*
*合金龍が首をもたげ、咆哮した。*
*ゴオオオオォォォォッ!!!*
*衝撃波が中庭を薙ぎ払った。海賊たちが吹き飛ばされ、砦の壁にひびが走る。窓ガラスが一斉に砕け散った。*
海賊「な、何だあれ!!」
海賊「龍!? 龍が出たぞ!!」
*恐慌が広がった。*
*合金龍の外殻がガシャガシャと音を立てて変形を始めた。第二形態。巨大な龍の身体が折り畳まれ、圧縮され、約2メートルの人型へと再構築される。アダマンタイトの装甲が筋肉のように各部位を覆い、ミスリル合金の関節が滑らかに接続された。*
*人型の合金龍が彼の隣に立ち、その重い手を彼の肩に置いた。*
*ズシリ、と重量が伝わる。だが彼は微動だにしなかった。*
イヴ「……何よ、それ……。」
*砦の屋上でイヴが後ずさった。琥珀の目が見開かれている。元宮廷魔導士としての知識を総動員しても、目の前の存在を理解できなかった。*
イヴ「古代兵器でも、召喚獣でもない……あれは……何……!?」
*イヴの直属の部下7人が屋上に集結し、魔法陣を展開した。だが、その手が震えている。本能が告げているのだ。勝てないと。*
部下「い、イヴ様! 魔力封殺砲を……!」
イヴ「……使え! 全門斉射!」
*砦の屋上と入り江の砲台から、3門の魔力封殺砲が彼に向けられた。青白い光がチャージされる。*
*彼は合金龍の肩に手を置いたまま、屋上を見上げた。*
シロウ「変身。」
*合金龍が第三形態へと移行を開始した。人型の装甲が分解し、彼の身体に纏わりつく。胸部にオリハルコンとヒヒイロカネのコアが嵌まり、四肢をアダマンタイト装甲が覆い、頭部にミスリル合金のヘルメットが形成された。*
*変身中は無敵。魔力封殺砲の青白い光が3発同時に着弾した。だが、装甲の表面で弾かれ、霧散した。*
*変身完了。*
*仮面ライダーの姿をした彼が、夜明けの光の中に立っていた。ベルトの赤い宝石が心臓のように脈動している。*
シロウ「……さあ。」
*彼は首を鳴らした。装甲が軋む。*
*彼は突撃してくる海賊の群れに向かって一歩踏み出した。*
シロウ「始めようか……宴を。」
*最初の海賊がカトラスを振り下ろした。装甲の腕で刃を受け流し、そのまま懐に入る。右拳を腹に叩き込む。アダマンタイト装甲越しの一撃で、海賊の身体がくの字に折れ、5メートル吹き飛んだ。*
海賊「囲め! 囲め! 一人だ!」
*8人が同時に斬りかかった。彼はしゃがんで全ての斬撃をかわし、回転しながら足払い。3人が倒れた所に膝を落とす。肋骨が砕ける音。残りの5人が怯んだ隙に、一人の剣を掴み取った。*
*奪った剣を投擲。回転しながら飛んだ刃が、逃げ出した海賊の背中に突き刺さった。*
海賊「ぎゃあああ!!」
*次々と倒れていく。パンチ一発で壁に叩きつけられる者。蹴りで中庭の石畳にめり込む者。投げ飛ばされて仲間に激突する者。*
*40人いた海賊が、3分で半数になった。*
*残った海賊たちが武器を捨て、逃げ出そうとする。だが彼は追わなかった。*
*視線を屋上に向けた。イヴが7人の部下と共に立っている。彼女の顔は蒼白だった。*
*彼は砦の壁を駆け上がった。装甲の爪が石壁に食い込み、垂直の壁を3秒で登りきる。屋上に着地した衝撃で石畳が蜘蛛の巣状にひび割れた。*
*部下の魔導士が火球を放った。彼は火球の中を歩いた。装甲が炎を弾く。魔導士の喉を掴み、持ち上げ、屋上の端から放り投げた。残り6人が雷撃と氷槍を同時に放つ。全て装甲で弾き、一人ずつ殴り倒していった。*
*10秒で7人全員が地に伏した。*
*残ったのはイヴだけだった。*
*彼は銀色だった装甲を見下ろした。海賊の返り血で赤く染まっている。夜明けの光が血を黒く照らしていた。*
シロウ「お前、知ってんのか? アークライトが先に手を出した事。」
*イヴが後ずさった。魔力封殺砲に手を伸ばすが、砲身は合金龍の変身時に歪んで使い物にならなくなっていた。*
イヴ「……何を……。」
シロウ「あの戦争。アークライト聖王国が『魔族は人に非ず』の教義を掲げて、魔族の集落を焼いたのが始まりだ。女も子供も関係なく殺した。それに対してレイラが報復した。……やりすぎだったのは認める。だが、先に手を出したのはお前の国だ。」
*彼はイヴの前にしゃがんだ。血塗れの装甲が軋む。ヘルメットの奥から、静かな目がイヴを見据えていた。*
シロウ「それを知ってんのか?」
*イヴの膝が崩れた。石畳に座り込み、首飾りを握りしめた。*
*イヴは膝をついたまま、震えを止められなかった。だが、その目に宿る光は消えていなかった。憎悪の炎が、むしろ強くなっていた。*
イヴ「……ええ、そうよ。知ってるわ。」
*彼の目が僅かに細まった。*
イヴ「父上の書斎から、開戦の勅令書も見つけた。魔族の集落を『浄化』せよという命令書も。全部読んだわ。」
*イヴは首飾りを握りしめたまま、顔を上げた。*
イヴ「それでも……魔族は許さない。」
*彼女の声は震えていたが、芯は折れていなかった。*
イヴ「父が間違っていた? そうかもしれない。先に手を出した? そうでしょうね。でも、それがどうしたの? 私の母は、妹は、弟は……何も知らなかった民は……あの日、魔王の軍勢に焼かれて死んだのよ。」
*涙が頬を伝った。だがイヴは拭わなかった。*
イヴ「人間は人間として生き、魔族は滅ぶべきなの。それが……私の答えよ。」
*完全な人間絶対主義者。どれだけ事実を突きつけても、根底にある憎悪と思想は揺るがない。*
シロウ「そうか、他に言いたいことは?」
*彼はしゃがんだまま、静かに聞いた。血塗れの装甲が朝日を浴びて鈍く光っている。*
イヴ「……一つだけ。」
*イヴが懐に手を入れた。小さな魔石を握っている。黒い光が漏れていた。*
イヴ「この島の地下には、私が3年かけて集めた実験体が200体いる。全部、魔族と亜人の混血よ。この石を砕けば、全員の魔力暴走が始まる。島ごと吹き飛ぶわ。」
*彼女の指に力が入った。*
イヴ「殺すなら、道連れにしてあげる。」
*地下から微かな振動が伝わってきた。200体の実験体。ミラもその中にいるはずだ。*
*彼はしゃがんだまま、イヴの目を見ていた。*
*神眼が起動した。視界に情報が流れ込む。地下の魔力反応を一つ一つスキャンし、ミラ・セイヴァスの魔力パターンを特定した。地下3階、第7実験室。*
シロウ「あー、ミラか。神眼、ミラの魔力を探知。遠距離転移発動。」
*彼が指を鳴らした。転移魔法陣が足元に展開し、一瞬で地下からミラの身体が光に包まれて屋上に出現した。*
*ミラは実験用の薄い囚人服を着たまま、石畳の上に崩れ落ちた。3週間の実験で痩せ細り、腕には無数の注射痕が残っている。だが、生きている。*
ミラ「え……ここ、は……?」
*イヴが唖然とした顔で固まった。握りしめていた黒い魔石が、力なく手の中で揺れている。*
イヴ「……は?」
*数秒の沈黙。それから、イヴの顔が怒りで歪んだ。*
イヴ「ズルい……ズルいズルいズルい!! なんなのよそれ! 転移魔法を無詠唱で!? しかも地下の魔力遮断結界を無視して!? そんなの……そんなのありえない! 卑怯よ!!」
*イヴが叫びながら黒い魔石を握り潰そうとした。だが彼は動かなかった。*
シロウ「で?」
*一言。*
*イヴの手が止まった。彼の声には怒りも焦りもなかった。ただ、圧倒的な余裕があった。*
イヴ「……っ。」
*イヴが魔石を砕こうとしても、もう人質は目の前にいる。200体の実験体を暴走させたところで、彼が片っ端から転移させるだけだ。イヴ自身もそれを理解していた。*
*彼はゆっくりと立ち上がった。血塗れの装甲が朝日を浴びて赤黒く光る。*
シロウ「お前の手札は全部切ったか?」
*イヴの手から魔石が滑り落ち、石畳の上で乾いた音を立てた。*
イヴ「……殺しなさいよ。」
*イヴが膝をつき、首を差し出した。目は閉じない。最後まで彼を睨みつけていた。*
イヴ「どうせ魔族の味方なんでしょう。人間絶対主義者の私を生かしておく理由なんてない。さっさと殺して、英雄気取りでもしてなさい。」
*ミラが震えながら彼の後ろに隠れた。地下から微かな振動がまだ続いている。200体の実験体が、まだ地下に囚われたままだ。*
*彼はミラに視線を向けた。ミラは彼の後ろで膝をつき、ガタガタと震えている。3週間の実験で頬はこけ、目の下に深い隈が刻まれていた。*
シロウ「ミラ、他の奴らはまだ生きてんのか?」
*ミラの表情が凍りついた。視線が地面に落ちる。*
ミラ「……生きてる、とは……言えない。第3実験室の被験体は魔獣との融合実験で原形を……第5実験室は魔力暴走の反復実験で、もう……人の形をしていない。私が最後の……まだ、人間でいられた個体だ…。」
*彼は無言でミラを見つめた。*
シロウ「そうか、お前は船に飛ばす。」
ミラ「あの、……まだ伝えt……」
*ミラの声は転移の光に呑まれ、掻き消えた。銀色の粒子が散り、屋上にはイヴと彼だけが残った。*
*朝日が水平線から顔を出し、砦を赤く染めた。血塗れの装甲と、地に膝をついたイヴの紫髪が同じ色に染まる。*
*イヴは首を差し出していた姿勢から、ゆっくりと顔を上げた。目に、最後の切り札を切る覚悟が宿っていた。*
イヴ「……殺さないの? なら教えてあげる。」
*イヴが懐から別の魔石を取り出した。先程の黒い魔石とは違う。赤黒い禍々しい光を放つ、歪な結晶体。*
イヴ「地下の実験体……人の形をしていない、とミラは言ったわね。あの子は優しいから、言い方を選んだのよ。正確には……『魔物に作り変えた』の。」
*イヴの唇が歪んだ。*
イヴ「200体の魔族と亜人の混血を、3年かけて魔物に改造した。Aランク相当が148体。Sランク相当が47体。そしてSSランク相当が5体。この石を砕けば、全てが解放される。」
*イヴが魔石を掲げた。*
イヴ「あなたは強い。あなた一人なら、全部倒せるでしょうね。でも……この島から最も近い人間の港町、ポルト・ヴェリアまでは船で2時間。200体が一斉に海を渡れば、1時間で届く。あなたが全部倒す前に、何体が海に逃げると思う?」
*彼は黙って聞いていた。*
イヴ「私を殺しても、この石は砕ける。私の心臓が止まれば、石に仕込んだ術式が自動で起動するようにしてあるから。」
*イヴが立ち上がった。膝の土を払い、彼を真っ直ぐに見据えた。*
イヴ「さあ、どうする? 魔王さま。私を殺して港町の3万人を見殺しにする? それとも……私の条件を呑む?」
*風が吹いた。朝日がイヴの紫髪を揺らす。彼女の顔には、追い詰められた者特有の狂気と、それでもなお折れない意志が同居していた。*
シロウ「ふっ……なかなか交渉上手だな。」
*イヴの表情に、一瞬だけ勝利の色が浮かんだ。唇の端が微かに持ち上がる。*
イヴ「理解したなら……」
シロウ「全部潰す。」
*イヴの笑みが凍った。*
シロウ「昨日言ったろ? 警告だって。」
*彼の声は静かだった。怒りを通り越した先にある、凪のような殺意。*
イヴ「……っ! 後悔しなさい!!」
*イヴが赤黒い魔石を頭上に掲げ、石畳に叩きつけた。結晶が砕け散り、禍々しい赤黒い光が地面に染み込んでいく。*
*地下が震えた。*
*ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!*
*砦全体が揺れた。石壁にひびが走り、瓦礫が落ちる。中庭の石畳が盛り上がり、地下から無数の咆哮が響いてきた。人のものではない。獣のものでもない。人と魔獣を無理やり融合させた、歪な存在の叫びだった。*
イヴ「あはっ……あはははは!!」
*イヴが笑っていた。涙を流しながら。*
イヴ「来なさい! 全部出てきなさい! お前たちは兵器よ! 人間を守る為の兵器! さあ、海を渡りなさい! ポルト・ヴェリアの3万人を盾にして、この魔王を……!」
*砦の中庭が崩壊した。地下から最初の個体が這い出てきた。*
*元は人だったものだ。上半身は女性の形を残しているが、下半身は蜘蛛の脚が8本生えている。目が6つ。口から酸の唾液が滴り落ち、石畳を溶かしていた。Aランク相当。*
*次々と地下から這い出てくる。狼と融合した男。翼と鱗を持つ子供。角と尾を生やした老人。全員が理性を失い、ただ暴れ回っている。*
*10体。30体。50体。まだ増える。*
*Sランク相当の個体が地面を突き破って出現した。全長8メートルの巨躯。元は獣人だったのだろう、毛皮の名残が残っているが、身体の半分が結晶化している。口から魔力の砲撃を放ち、砦の壁を一撃で吹き飛ばした。*
*そして……海に向かって走り出す個体が現れた。*
イヴ「ほら、見なさい! もう止められない! あなたがどれだけ強くても、200体同時には……!」
シロウ「必殺……」
*彼は地面を蹴った。アダマンタイト装甲の脚力が爆発し、身体が垂直に打ち上げられる。100メートル。200メートル。500メートル。朝日を突き抜け、雲を貫いた。*
*上空1000メートル。ヴォルガ島が眼下に豆粒のように見える。海を渡ろうとする魔物の群れが、蟻の行列のように海岸線に殺到していた。*
*彼はベルトの赤い部分をカチッと押し込んだ。*
*ベルトが唸った。赤い宝石が白熱し、赤から橙へ、橙から白へと色が遷移する。装甲全体がエネルギーで震え始めた。*
*そして、合金龍が顕現した。*
*魔力の塊。可視化するほど圧縮された膨大な魔力が、彼の足元から翼を広げる形で実体化する。アダマンタイトとミスリル合金の幻影が空を覆い、巨大な龍の形を成した。翼を広げた全長は200メートルを超えていた。*
*合金龍の幻影が翼を折り畳み、彼の右足に全エネルギーを収束させた。足先が白く輝き、太陽よりも眩しい光を放つ。*
───────────
*ストームブレイカー・甲板*
*全速離脱中の船上で、全員が空を見上げていた。*
リオン「……嘘だろ。」
*リオンの顔から血の気が引いた。自分があのベルトで変身した時の感覚を覚えている。あの時でさえ、身体が壊れるかと思った。だが、上空に見えるものは次元が違った。*
カイン「あれが……真のライダーキック……。」
ルーナ「パパ……。」
*ルーナがメアを抱きしめながら空を見上げていた。恐怖ではない。あの光の中にいる父を、ただ見つめていた。*
ガーネット「全員何か掴まれ! 衝撃波が来るぞ!!」
ミラ「……あの人、何者なの……。」
───────────
*上空1000メートル*
*合金龍の翼が直下へ向いた。彼の身体が落下を開始する。落下ではない。突撃だった。*
*音速を超えた。衝撃波が円錐形に広がり、雲を切り裂く。2倍。3倍。加速が止まらない。白い光の尾を引きながら、島に向かって一直線に落ちていく。*
*島の上空で、イヴが空を見上げていた。白い光が近づいてくる。流星のように。いや、流星よりも速く、流星よりも美しく、流星よりも残酷に。*
イヴ「……綺麗ね。」
*イヴは逃げなかった。笑っていた。涙を流しながら。*
シロウ「ライダー……キック……。」
*静かな呟きだった。だが、その一言が世界を変えた。*
*彼の身体が白い流星となって落下した。音速の壁を何度も突き破り、衝撃波が幾重にも広がる。*
*イヴは逃げなかった。涙を流しながら、笑っていた。*
イヴ「……ごめんなさい、お父様。私も……そちらに……。」
*白い光がイヴを包んだ。一瞬だった。合金龍の顕現が翼を広げたまま彼女を呑み込み、その身体は灰すら残さず消滅した。*
*着弾。*
*砦が消えた。*
*消えた、としか表現できない。合金龍の顕現エネルギーが砦の中心を貫通し、地下1階、2階、3階……実験室も、牢屋も、武器庫も、全てが白い光に飲まれていく。200体の改造魔物が咆哮を上げる間もなく、分子レベルで分解された。*
*そしてキックは止まらなかった。地下を突き抜け、岩盤を貫き、更に深く。*
*マグマ層に到達した。*
*ドゴォォォォォォォォッッッ!!!!!*
*ヴォルガ島の中央から、溶岩が噴き上がった。大噴火。赤黒いマグマの柱が空を突き、噴煙が成層圏まで立ち昇る。島が真っ二つに割れ、海水がマグマに触れて水蒸気爆発を起こした。連鎖的な爆発が島全体を包み込む。*
───────────
*ストームブレイカー・甲板*
*衝撃波が来た。*
ガーネット「掴まれぇぇぇぇ!!!」
*船が大きく傾いた。マストがきしみ、ロープが何本か弾け飛ぶ。巨大な波が船を持ち上げ、甲板に海水が叩きつけられた。船員たちが転がり、樽や木箱が滑っていく。*
*リオンが片手でルーナを、もう片手でミラを掴んで柱にしがみついた。*
リオン「くそ……あの人、島ごと吹き飛ばしやがった……!」
カイン「……馬鹿な。あれは……火山噴火だぞ……。キック一発で火山を……。」
*ルーナはリオンに支えられながら、振り返って島を見た。*
*島があった場所には、もう何もなかった。巨大な溶岩の柱と、黒い噴煙だけが空に昇っている。海面は赤く染まり、蒸気が立ち込めていた。*
ルーナ「……パパ。」
*ミラが呆然と呟いた。*
ミラ「……あの人が、魔王……。」
*船が波に揺られながら安定を取り戻していく。全員がずぶ濡れだった。*
*そして、噴煙の中から一つの影が飛び出してきた。*
*血塗れの装甲。ところどころ溶岩で焦げている。*
*彼は上空で浮遊しながら、血塗れの装甲を解除した。合金龍が分離し、小さな金属球に戻って彼の手のひらに収まる。*
シロウ「まじか……。」
*神眼でステータスを表示する。*
───────────────────
名前:シロウ・ニシキ・アストライア
種族:人間
職業:魔王 / SSS冒険者
Lv:2,013
HP:測定不能
MP:測定不能
攻撃力:測定不能
防御力:測定不能
魔力:測定不能
速度:測定不能
運:測定不能
【スキル】
神眼Lv.MAX / 創造Lv.MAX / 身体強化Lv.MAX / 全属性魔法Lv.MAX / 転移Lv.MAX / 異空間収納Lv.MAX / 経験値倍増Lv.MAX / スキル整理Lv.MAX / 剣術Lv.MAX / 魔力操作Lv.MAX / 並列思考Lv.MAX / 他多数
───────────────────
シロウ「経験値倍増が仕事しすぎだろ……。一気に1000近く上がってんじゃねぇか。」
*彼は頭を掻いた。眼下ではヴォルガ島だった場所が溶岩に沈み、蒸気と噴煙が空を覆っている。島の形すら残っていない。新しい火山島が誕生しつつあった。*
シロウ「……やりすぎたな。」
*呟いて、ストームブレイカーの方角に目を向けた。船はかなり遠くまで離脱している。傾いたマストが見えるが、沈んではいない。*
*彼は転移を発動し、甲板に降り立った。*
*ドンッ、と軽い着地音。*
*全員が振り返った。ずぶ濡れの船員たち。柱にしがみついたままのリオン。ルーナを抱えたカイン。呆然と立ち尽くすミラ。*
*沈黙が落ちた。*
*彼は溶岩で焦げたシャツと、ボロボロのズボン姿だった。ベルトだけが無傷で腰に巻かれている。髪には灰が混じり、顔には煤がついている。*
リオン「……お帰りなさい、陛下。」
*リオンが乾いた声で言った。*
リオン「島、消えましたけど。」
シロウ「……悪い。」
リオン「悪いじゃねぇよ。火山作ってんじゃねぇよ。海図変わるだろうが。」
*リオンのツッコミに、船上の緊張が少しだけ解けた。*
ルーナ「パパ!!」
*ルーナが駆け寄ってきた。メアが肩から飛び降り、彼の足元でにゃあと鳴いた。ルーナが彼の胸に飛び込む。煤だらけのシャツに顔を埋めた。*
ルーナ「ばか……ばかパパ……心配したんだから……っ。」
*彼はルーナの頭を撫でた。銀髪に灰が落ちる。*
シロウ「……ただいま。」
*彼はルーナに寄りかかった。全身の力が抜けていく。*
シロウ「久しぶりにハッスルしすぎたわ……。」
*ルーナが彼の身体を受け止めた。ずしりと重い。煤だらけのシャツ越しに父の体温が伝わる。*
ルーナ「もう……パパったら、無茶しすぎ……。」
*ルーナが背中に手を回した瞬間、指先にヌルッとした感触が走った。*
ルーナ「……え?」
*手を見た。赤い。血だった。彼のシャツの背中側が、べっとりと赤黒く染まっている。*
ルーナ「……パパ? パパ! 血が……! 血が出てる!!」
*彼の意識が遠のいていく。ルーナの声が水の底から聞こえるように遠い。*
*溶岩の破片か。噴火の中を脱出する際に、装甲の隙間から背中を貫通していた。変身中のアドレナリンと戦闘の興奮で気づかなかった。深い裂傷が背中を斜めに走り、肋骨が見えている。*
シロウ「……わり……ちょっと……寝る……。」
*彼の目が閉じた。ルーナの腕の中で、糸が切れたように崩れ落ちた。*
ルーナ「パパ!! パパ起きて!! 誰か……誰か治癒魔法を!!」
*メアがにゃあ、と鳴いて彼の顔を舐めた。反応がない。*
リオン「どけ! ルーナ嬢、うつ伏せにしろ!」
*リオンが駆け寄り、彼の背中を見て舌打ちした。*
リオン「……クソ、深ぇ。肋骨まで見えてやがる。応急処置じゃ間に合わねぇぞ。」
カイン「俺の治癒魔法じゃSSSランクの身体には効果が薄い……。陛下クラスを治せるのは……。」
ルーナ「ママ……ママを呼んで! ルミナママなら……!」
*ルーナが震える手で念話を飛ばした。涙が止まらない。彼の血がルーナの手を、服を、甲板を赤く染めていく。*
ルーナ『ママ! ママ聞こえる!? パパが……パパが倒れた! 血が止まらないの! お願い……お願いだから……!』
*念話の向こうで、ルミナの声が返ってきた。*
ルミナ『……ルーナ、落ち着いて。今の位置は? 転移で向かう。お兄ちゃんの傷の深さは? ……ルーナ、聞いて。泣くのは後。今は止血して。お兄ちゃんのシャツを裂いて傷口を圧迫。リオンに手伝わせなさい。私が着くまで絶対に死なせないで。』
*ルーナが涙を拭い、彼のシャツを裂いた。震える手で背中の傷口を圧迫する。白い布がすぐに赤く染まった。*
ルーナ「死なないで……パパ……約束したでしょ……どこにも行かないって……。」
*メアが彼の頬に寄り添い、小さく鳴き続けていた。*
*甲板に血だまりが広がっていく。朝日が赤い海面を照らし、遠くでは新しい火山島が煙を上げ続けていた。*




