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*翌朝……いや、朝かどうかすら分からない。松明が新しいものに替えられていた。トビーが替えたのだろう。*
*石段を降りてくる複数の足音。重い引きずるような音が混じっている。*
*鉄格子の向こうに、イヴと2人の部下が現れた。部下の一人が、銀髪の少女を肩に担いでいる。*
*ルーナだった。*
*魔導アーマーは剥がされ、手首に魔力封殺の枷が嵌められていた。意識はない。頬に擦り傷、服のあちこちが破れている。抵抗した痕だ。*
シロウ「る、ルーナ!? 大丈夫か!」
*彼は鎖を引きちぎらんばかりの勢いで鉄格子に掴みかかった。枷が手首に食い込み、血が滲む。*
*部下が隣の牢を開け、ルーナを床に放り投げた。ゴトリ、と鈍い音。*
*その時、部下の一人……髭面の海賊がルーナの破れた服の隙間に手を伸ばした。*
髭の海賊「へへ……こりゃ上玉だな。銀髪の嬢ちゃん、肌も白くて……」
*パァン。*
*イヴが海賊の手を叩き落とした。乾いた音が牢屋に響く。*
イヴ「触るな。まだ手は出さない。」
髭の海賊「で、でもよ姐さん……」
イヴ「聞こえなかった? 『まだ』と言ったのよ。……この娘は交渉材料。傷物にしたら殺すわ。」
*海賊が怯えた顔で手を引いた。イヴが冷たい目で彼を見る。*
シロウ「娘に手を出したら殺すぞ……。」
*低い声だった。魔力も身体強化もない。枷に繋がれた無力な男の声。だが、その声に込められた殺気は本物だった。*
*牢屋の温度が下がったように感じた。海賊2人が無意識に後ずさる。イヴだけが動かなかった。*
イヴ「……殺す? その状態で?」
*イヴが薄く笑った。だが、その目は笑っていなかった。彼の殺気を正面から受けて、わずかに喉が動いた。*
イヴ「残り2日よ、魔王陛下。答えが出なければ……次は『まだ』じゃなくなるわ。」
*イヴが部下を連れて去っていく。鉄格子が閉まり、鍵がかかる音。*
*彼は隣の牢のルーナに目を向けた。銀髪が石の床に広がっている。呼吸はある。気絶しているだけだ。*
シロウ「ルーナ……。」
*返事はない。彼は鉄格子越しに手を伸ばしたが、届かなかった。*
*指先があと数センチ足りない。*
*彼は手を下ろし、壁に背をつけた。肋骨が軋む。殴られた頬が熱い。*
*残り2日。ルーナが捕まった。アーマーも奪われた。ストームブレイカーは入り江の外で足止め。*
*手札が、一枚ずつ消えていく。*
*夜。松明の灯りが弱まり、牢屋は薄闇に沈んでいた。*
*彼は浅い眠りの中で、隣の牢から聞こえる物音で目を覚ました。*
*鉄格子を開ける音。複数の足音。低い笑い声。*
髭の海賊「へへ……姐さんはもう寝てるだろ。今のうちだ。」
*彼は目を見開いた。隣の牢に3人の海賊が入り込んでいる。髭面の男が、気絶したままのルーナの襟元に手をかけた。*
髭の海賊「おい、起きろよ嬢ちゃん。」
*ルーナの服が引き裂かれる音がした。白い肩が露わになる。*
ルーナ「っ……やめ……!」
*意識が戻ったルーナが抵抗するが、魔力封殺の枷を嵌められた身体では力が入らない。別の海賊がルーナの両腕を押さえつけた。*
海賊「暴れんな! 大人しくしてろ!」
*髭の海賊がルーナの胸元の布を剥ぎ取った。白い下着が露わになる。汚い手がルーナの胸を鷲掴みにした。*
ルーナ「やだっ……離して……! パパ……!」
*彼は鉄格子に掴みかかった。枷が手首に食い込み、血が流れる。*
シロウ「やめろ!! ルーナから手を離せ!!」
髭の海賊「うるせぇ! 隣で見てろよ、魔王様よぉ!」
*海賊の手がルーナの腰に伸びた。スカートを引き下ろし、ルーナの白い太腿が晒される。ルーナが必死に足を閉じるが、別の海賊に押し開かれた。*
ルーナ「いやぁ……! やめてっ……!」
*ルーナの目に涙が溢れた。震えている。恐怖で歯がカチカチと鳴っていた。*
*髭の海賊が自分のズボンに手をかけた、その瞬間だった。*
*バチィッ!*
*紫色の雷撃が海賊の手を弾いた。イヴが通路に立っていた。手のひらに紫電を纏い、冷たい目で海賊たちを見下ろしている。*
イヴ「……何をしてるのかしら。」
髭の海賊「あ、姐さん……これは……」
イヴ「触るなと言ったはずよ。」
*イヴの手から雷撃が伸び、3人の海賊を牢の外に吹き飛ばした。壁に叩きつけられ、うめき声を上げる。*
イヴ「次はない。殺すわ。」
*海賊たちが転がるように逃げていった。*
*ルーナは牢の隅で膝を抱えて震えていた。服は破れ、肩と胸元が露出したまま。涙が頬を伝い、声にならない嗚咽が漏れていた。*
シロウ「最後の警告だ、解放しろ。でなければ後悔することになるぞ……。」
*彼の声は静かだった。だが、その奥に煮えたぎる怒りがあった。*
*イヴが鼻で笑った。*
イヴ「後悔? その鎖に繋がれた状態で? ……面白い冗談ね。」
*イヴがルーナの牢に上着を投げ入れた。*
イヴ「……残り1日よ、魔王陛下。」
*メアが天井の換気口からするりと滑り込んできた。黒い毛並みが松明の灯りに溶ける。小さな影が隣の牢に入り、震えるルーナの頬をぺろぺろと舐めた。*
ルーナ「……メア……。」
*ルーナがメアを抱きしめた。まだ震えている。イヴに投げ入れられた上着を肩にかけ、牢の隅で膝を抱えたまま動かない。*
*彼はルーナの様子を確認してから、視線を手元に落とした。*
*隠しておいた硬い干し肉。食料としてではなく……道具として。*
*彼は干し肉を細く裂き、石の床に並べ始めた。魔法陣。正確には、異空間収納へのアクセス回路だ。魔力封殺の枷は魔力の発動を封じる。だが、魔法陣そのものは「回路」に過ぎない。起動に必要なのは魔力ではなく、回路に込めた「気力」だ。*
*転移前の知識と、この世界で積み上げた経験。その両方がなければ、こんな裏技は思いつかない。*
*干し肉の陣が淡く光った。枷が反応しない。気力は魔力ではないからだ。*
*異空間の裂け目が、ほんの数センチだけ開いた。指先がやっと入る程度。*
*彼は2本の指を突っ込み、手探りで目的の物を掴んだ。*
*魔法のリング。場所と場所を繋ぐ魔法の指輪。普段はルミナやレイラとの夜の営みで……壁越しに手を伸ばしたり、離れた場所から触れたりと、エロい事にしか使っていない代物だ。*
シロウ「こんな時に役に立つとはな……。」
*彼は苦笑いを浮かべ、リングを起動した。干し肉の魔法陣は既に崩れている。痕跡は残らない。*
*深夜。松明が燃え尽きかけ、牢屋が闇に沈んだ。看守の交代は終わり、石段の上から微かないびきが聞こえる。*
*彼はリングに気力を込めた。空間の裂け目が、鉄格子の向こう……通路の壁に掛けられた鍵束の真横に開いた。*
*指先を通す。鍵束に触れる。金属が擦れる音を最小限に抑え、一本ずつ確かめる。*
*3本目。枷の鍵穴に合う形状。彼はリングの裂け目を通して鍵を引き抜いた。*
*カチリ。*
*左手の枷が外れた。次に右手。次に足首。*
*魔力が身体に戻ってきた。堰を切ったように全身を巡る。封じられていた力が一気に目覚める。*
*神眼が起動した。視界の端にステータスが浮かぶ。*
シロウ「クソが……。」
*低く呟いた。怒りを押し殺した声だった。*
*彼はリングを通して隣の牢にも手を伸ばし、ルーナの枷を外した。カチリ、カチリ、と静かに。*
ルーナ「……パパ……?」
*ルーナが顔を上げた。涙の跡が残る頬に、微かな希望が灯った。*
シロウ「静かに。」
*彼はルーナのおでこに唇を落とした。冷たい肌に、温かい感触が残る。*
シロウ「お前は先に家に帰ってろ。」
ルーナ「パパ……でも……」
シロウ「アーマーは気にするな、勝手に家に帰る。」
*リングを通してリオンの腰からベルトを引き寄せた。リオンに渡していた変身ベルトだ。腰に巻き付ける。赤い宝石が鈍く光った。身体強化だけならこれで十分だ。*
*メアがルーナの肩に飛び乗った。彼は転移魔法を発動し、ルーナとメアをストームブレイカーに飛ばした。*
ルーナ「パパ……!」
*銀髪が光に包まれ、消えた。*
*その瞬間だった。*
*キィィィィィン!!*
*牢屋中に甲高い警報音が鳴り響いた。赤い魔法灯が点滅し、石壁が振動する。*
シロウ「仕事が早いこって……。」
*石段の上から怒号と足音が雪崩れ込んでくる。*
───────────
*ストームブレイカー・甲板*
*転移の光が弾け、ルーナとメアが甲板に現れた。ガーネット船長が目を剥く。*
ガーネット「な……! 嬢ちゃん!? どこから……!」
ルーナ「今すぐ全速力で離脱して!」
*リオンが駆け寄ってきた。腰のベルトが消えている事に気付き、顔色が変わった。*
リオン「ベルトが……消えた。まさか、陛下が……。」
ルーナ「パパがベルトを回収した。今から島を……。」
*その時、島の方角から轟音が響いた。地鳴りのような振動が海面を伝わってくる。*
リオン「……おい。全員聞け。今すぐこの海域から離れろ。死ぬぞ。」
カイン「何だと? まだ陛下が……」
リオン「だから言ってんだ! あの人が本気で怒ってる! 巻き添えで死にたくなかったら全速離脱しろ!!」
*リオンの声が震えていた。恐怖ではない。あの力を知っているからこその、本能的な警告だった。*
ガーネット「……全帆展開! 面舵いっぱい! この海域を離れるぞ!!」
───────────
*ヴォルガ島・地下牢*
*彼は牢を出た。鉄格子を手で握り、捻じ曲げた。身体強化を纏ったベルトの補助だけで、鉄が飴のように歪む。*
*石段を上る。看守2人が剣を抜いて立ち塞がった。*
看守「止まれ! 囚人が……」
*彼は歩みを止めなかった。看守の剣が振り下ろされる。素手で刃を掴み、へし折った。もう片方の看守の顎に掌底を叩き込む。2人が壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。*
*地上に出た。夜明け前の空。潮の匂い。砦の中庭に海賊たちが武器を手に集まっている。40人。その奥にイヴの直属の部下7人。*
*そして、砦の屋上にイヴが立っていた。紫髪が風になびく。*
イヴ「……枷を外した? どうやって……」
シロウ「最後の警告はしたぞ。」
*彼の声が中庭に響いた。*




