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*結局、一人2回ずつ。合計6回搾り取られた彼は、寝室のベッドから這うようにして起き上がった。*
*足元がふらつく。Lv.1000超えの身体が、精神的疲労で悲鳴を上げていた。*
シロウ「……朝からこれは堪える。」
*廊下を歩いていると、窓から朝日が差し込んでいた。城下町の喧騒が遠くに聞こえる。平和な朝だ。股間以外は。*
*執務室に向かう途中、メイド長のリーシアとすれ違った。彼のふらついた足取りを一瞬で見抜き、リーシアが恭しく頭を下げた。*
リーシア「おはようございます、シロウ様。……お顔の色が優れないようですが。」
シロウ「大丈夫だ。少し寝不足なだけだ。」
リーシア「朝食のご用意はできております。食堂にお持ちしましょうか、それとも執務室に?」
シロウ「食堂で。……ルクスは?」
リーシア「先程起きられまして、今はステラ様と一緒に朝食を召し上がっておいでです。」
シロウ「そうか。」
*食堂に入ると、ステラがルクスに離乳食を食べさせていた。ステラが彼に気付き、ぱっと顔を明るくした。*
ステラ「おはようございます、パパ! 明日いよいよ出航ですね!」
シロウ「ああ、おはよう。ステラは留守番頼むぞ。」
ステラ「はい! ルクスとお留守番します。……パパ、なんだか疲れてません?」
シロウ「気のせいだ。」
*椅子に座ると、腰が悲鳴を上げた。彼は何食わぬ顔でパンを齧りながら、今日の最終確認事項を頭の中で整理した。*
*ーー最終確認事項ーー*
*1. ストームブレイカーの最終点検*
*2. 乗船する八輝将メンバーの確認*
*3. 航路と海賊船団の最新情報の精査*
*4. 留守中の国政をルミナとオルクスに引き継ぎ*
*5. 魔導アーマーの最終動作確認*
*パンを咀嚼しながら、彼はステラに尋ねた。*
シロウ「ステラ、大学の方は大丈夫か? 休みの間にレポートとか溜まってないか?」
ステラ「大丈夫です! もう全部提出しました。だから父さまのお見送りもちゃんとできます。」
シロウ「優秀だな。」
ステラ「えへへ。」
*ルクスが離乳食の皿を叩いて、彼の方に手を伸ばした。*
ルクス「ぱー!」
シロウ「おう、ルクス。いい子にしてたか。」
*彼がルクスを抱き上げると、小さな手が頬をぺちぺちと叩いた。3歳児の無邪気な笑顔に、朝の疲れが少しだけ和らぐ。*
*食堂の扉が開き、ルーナがけろっとした顔で入ってきた。6回搾り取った側は元気そのものだ。*
ルーナ「おはよー! パパ、今日の最終確認、私も同行するね。」
シロウ「……お前の体力はどうなってるんだ。」
ルーナ「25歳だもん。若いもん。」
シロウ「……。」
*彼は静かにコーラを啜った。*
ーー
*サルーナ南港、第3桟橋。朝日が海面を金色に染めていた。*
*ストームブレイカーが桟橋に堂々と停泊している。ミスリル合金で補強された船体が朝日を反射し、鈍い銀色の輝きを放っていた。*
*彼は家族に見送られた後、訓練所でリオンとカインを回収し、3人でサルーナ南港へ転移した。*
リオン「……うわ、でけぇ。これがストームブレイカー?」
カイン「ほう。見事な船だ。ボルグの仕事か。」
シロウ「ああ。俺が設計して、ボルグが建造した。結界と風魔法推進も付与済みだ。」
*桟橋には既に2日前に雇った荒くれ者たちが集まっていた。ガーネットを筆頭に、屈強な海の男たちが荷物を担いで待機している。全員揃っているようだ。*
ガーネット「おう、船長! 全員集合済みだ。荷の積み込みも終わってるぜ。」
シロウ「上出来だ。」
*彼は甲板に上がり、船首に立った。潮風が黒髪を揺らす。前世で遊んだ海賊ゲームの記憶が鮮明に蘇る。*
シロウ「野郎どもー! 錨を上げろ!」
*荒くれ者たちが一斉に動いた。錨の巻き上げ機がギリギリと唸りを上げ、鉄の錨が海面から引き上げられる。*
ガーネット「錨上げ完了!」
シロウ「トップスル展開! 続いてゲルン、ローヤル、スタンスル! 順に張れ!」
*船員たちが帆柱に取り付き、ロープを引いた。巨大な帆が次々と展開されていく。白い帆布が朝風を受けて膨らみ、バサッと力強い音を立てた。*
リオン「……船長、やけに詳しいっすね。海賊でもやってたんすか。」
シロウ「ゲームでな。」
リオン「は?」
シロウ「気にするな。」
*ルーナが甲板に出てきた。肩にはメアが乗っている。黒猫が潮風に目を細めた。*
ルーナ「パパ、カッコいいじゃん。完全に海賊船長だね。」
メア「にゃー。」
*ルーナだけが「ゲーム」の意味を理解して、にやりと笑った。*
カイン「……それで、航路は? 海賊船団の位置は掴んでいるのか。」
シロウ「ああ。事前に諜報部が集めた情報だと、サルーナ南方の群島海域に拠点を構えている。船団の規模は大小合わせて12隻。旗艦は大型ガレオン級が1隻。」
*彼が航海図を広げた。群島海域に赤い印がいくつも打たれている。*
シロウ「まっすぐ南下して、およそ半日で群島海域に到達する。風魔法推進を使えばもっと早い。」
ガーネット「12隻か……普通なら艦隊を組まにゃ無理だが、この船なら……。」
シロウ「この船1隻で十分だ。」
*帆が完全に展開された。ストームブレイカーが桟橋を離れ、ゆっくりと港を出ていく。船体が波を切り、白い航跡を残した。*
シロウ「全帆展開! 針路、真南! ストームブレイカー、出航!」
*孤島が点々と現れ始めた。群島海域に入った証拠だ。岩礁が多く、彼は慎重に舵を切りながらストームブレイカーを進めていく。*
*その時、前方から1隻の船が姿を現した。船体に赤い蛇と剣の紋章。海賊船だ。*
ガーネット「船長! 前方に敵船!」
*海賊船の甲板から火球が放たれた。3発、4発と立て続けに飛んでくる。しかしストームブレイカーの結界が全て弾き返し、火球は海面に落ちて蒸気を上げた。*
リオン「は? 効いてねぇ……。」
カイン「流石だな。」
シロウ「大砲を用意しろ!」
*彼は舵を握ったまま、ストームブレイカーの船首を海賊船の側面に向けた。白楊樹の船体が波を切り裂き、恐ろしい速度で距離を詰める。*
*海賊船の甲板で、男たちが慌てふためいているのが見えた。魔法が効かない相手に、真っ直ぐ突っ込んでくる真っ白の船。恐怖そのものだ。*
シロウ「捕まれー!」
*アダマンタイト製の衝角が海賊船の側面に激突した。*
*ゴガァァァンッ!!*
*凄まじい衝撃が走った。海賊船の木材が粉砕され、船体がへし折れるように傾く。甲板にいた海賊たちが海に投げ出された。*
*船員たちがロープや手摺にしがみついた。ルーナがメアを抱えて柱に掴まり、カインは片手で欄干を握っただけで微動だにしない。リオンだけが甲板を転がった。*
リオン「ぐえっ! もうちょい早く言ってくれ!」
*彼は即座に舵を切り、ストームブレイカーを横向きにした。衝角で抉られた海賊船が傾きながらも沈んでいない。まだ浮いている。*
シロウ「帆を畳めー!」
*船員たちがロープを引き、展開していた帆が次々と畳まれていく。ストームブレイカーが減速し、傾いた海賊船と並走する形で停止した。*
*左舷8門の旋回砲が、海賊船の残骸に向けられた。*
シロウ「撃てッ!」
*轟音が海域に響き渡った。8門の旋回砲が一斉に火を噴き、鉄球が海賊船を貫いた。既にへし折れかけていた船体が完全に砕け散り、木片と海賊たちが海面に散らばった。*
ルーナ「1隻目、撃沈! ……パパ、容赦ないね。」
シロウ「海賊相手に容赦する理由がない。」
ガーネット「……船長、あの紋章の船だ。間違いねぇ、赤蛇海賊団だ。偵察船だったんだろうが……こっちを見つけたってことは、本隊に伝令が飛んでるかもしれねぇ。」
カイン「つまり、向こうも準備を始めるということか。」
シロウ「好都合だ。まとめて来い。」
*彼は航海図に目を落とした。群島海域の中心部、海賊の拠点と思われる島まであと数時間。*
*海面に浮かぶ海賊たちが、必死にしがみついた木片の上から、遠ざかるストームブレイカーを呆然と見上げていた。*
リオン「……あいつら放っとくんすか?」
シロウ「当たり前だ、相手は海賊だぞ?」
*海賊たちが浮かぶ海面に向けて、左舷の旋回砲が一斉に火を噴いた。鉄球が木片ごと海賊たちを粉砕し、海面が赤く染まった。*
リオン「……容赦ねぇ。」
シロウ「海賊に情けをかけて、後ろから刺されたら笑えねぇだろ。」
*ストームブレイカーは群島海域を南下し続けた。狭い水路を抜けるたびに、小型の海賊船が次々と現れた。*
*2隻目。右舷から突っ込んできた小型船。*
シロウ「撃てー!」
*右舷8門が火を噴き、小型船は一斉射で木っ端微塵になった。船体が爆散し、マストが折れて海に沈んでいく。*
*3隻目、4隻目。挟み撃ちを狙って両側から接近してきた。*
*彼は舵を切り、左側の船に衝角を正面からぶち当てた。アダマンタイト製の衝角が海賊船の船首を真っ二つに割り、そのまま突き抜けた。右側の船にはルーナが甲板から風魔法を叩き込み、帆ごと吹き飛ばした。*
ルーナ「4隻撃沈!」
*5隻目、6隻目、7隻目。もはや作業だった。結界で魔法を弾き、旋回砲で粉砕し、逃げる船には衝角で追突する。海面には木片と赤い染みが広がっていく。*
ガーネット「……こりゃ海戦じゃねぇ。一方的な虐殺だ。」
カイン「だが、奴らが商船にしてきた事も同じだろう。」
ガーネット「……違いねぇ。」
*8隻の小型船を沈めた頃、群島の奥から巨大な影が姿を現した。*
*それは小型船とは比較にならない巨体だった。全長40メートルを超える大型ガレオン級。黒い船体に赤い蛇と剣の紋章が大きく描かれている。左右に並ぶ砲門は20門以上。甲板には武装した海賊が鈴なりに立ち、その船首に一人の男が立っていた。*
*赤い髪を後ろに撫でつけた大男。片目に眼帯、腰には大剣を佩いている。*
赤髪の男「おいおいおい……! 俺の可愛い部下たちを随分と沈めてくれたじゃねぇか、白い船よぉ!」
*男の声が海上に響いた。魔力で増幅された声だ。*
ガーネット「あの男……赤蛇海賊団の頭目、ヴォルザ・クリムゾンだ。元Aランク冒険者で、3年前に海賊に転向した。懸賞金は白金貨50枚。」
シロウ「白金貨50枚か。」
*ストームブレイカーと旗艦が、約500メートルの距離で向かい合った。*
ヴォルザ「名を名乗れ、白い船の船長! 俺の海域で好き勝手やった代償、高くつくぜぇ!」
*旗艦の砲門が一斉にストームブレイカーに向けられた。その数24門。さらに甲板には魔法使いが10人以上並び、詠唱を始めている。*
*彼は舵を握ったまま、静かに口を開いた。*
シロウ「ーー俺の名前なんざどうでもいい。」
*彼は舵から手を離し、甲板を駆け抜けた。*
シロウ「踏ん張れー!」
*ストームブレイカーの衝角がヴォルザの旗艦の船首に正面から突き刺さった。*
*ドゴォォォンッ!!*
*旗艦の船首が砕け、木材が爆発するように飛び散った。衝撃でストームブレイカーも大きく揺れ、船員たちが必死に手摺やロープにしがみつく。だがミスリル合金の竜骨が衝撃を分散し、船体は無傷だった。*
*一方、旗艦は船首を半壊させながらも浮いていた。さすがに大型ガレオン級だ。しかし浸水が始まり、船体が前のめりに傾き始めている。*
シロウ「ロープを投げろ! 死ぬ気で引けー!」
*船員たちがフックの付いたロープを旗艦に向けて投げた。ガツン、ガツンと金属音が響き、フックが旗艦の欄干や砲門に食い込む。10本以上のロープが2隻の船を繋ぎ止め、船員たちが腕の筋を浮かせながら引き寄せた。*
*ギギギ……と船体同士が擦れ合い、側面が密着する。*
シロウ「乗り込めー!」
*彼は叫ぶと同時に、自ら船べりを飛び越えた。旗艦の側面に手をかけ、壁面をよじ登る。下からカインが跳躍し、一息で甲板に着地した。リオンは変身ベルトを起動し、最弱兵器の姿で飛び移った。ルーナは風魔法で浮遊し、メアを肩に乗せたまま優雅に甲板に降り立つ。*
*続いて荒くれ者たちが次々とロープを伝って乗り込んでくる。*
*彼が旗艦の甲板に足をつけた瞬間、目の前に海賊たちが殺到してきた。*
海賊A「殺せ! 船長を守れ!」
海賊B「こいつらぶっ殺してやる!」
*20人以上の海賊が剣やナイフを手に襲いかかってきた。*
*彼は腰の剣を抜かなかった。右手に魔力を集中させ、前方に振り払った。*
*ドンッ!*
*衝撃波が甲板を走り、最前列の海賊5人が吹き飛ばされて海に落ちた。*
カイン「ーー邪魔だ。」
*カインの大剣が横薙ぎに振るわれ、3人の海賊が一撃で叩き伏せられた。峰打ちではない。血飛沫が甲板に飛び散る。*
リオン「うおりゃあ!」
*リオンが最弱兵器の拳で海賊の顎を撃ち抜いた。変身ベルトの効果で出力が跳ね上がり、殴られた海賊が回転しながら吹き飛んだ。*
ルーナ「パパ、船尾に大物がいるよ。」
*彼が視線を向けると、旗艦の船尾甲板にヴォルザが立っていた。赤い髪を潮風になびかせ、大剣を肩に担いでいる。その周囲には精鋭と思しき海賊が5人。*
ヴォルザ「はっ! 自分から乗り込んでくるたぁ、度胸だけは認めてやるよ!」
*ヴォルザが大剣を振り下ろした。*
*ヴォルザの大剣が振り下ろされた瞬間、彼は右手の人差し指と中指で刃を挟み止めた。*
*真剣白刃取り。しかも指2本で。*
ヴォルザ「なっ……!?」
*彼はそのまま左拳をヴォルザの腹に叩き込んだ。拳が鳩尾にめり込み、大剣がバキィッと音を立てて真っ二つに折れた。*
ヴォルザ「がはっ……! ば、馬鹿な……俺の魔剣が……!」
シロウ「いい帽子だな。貰うぞ。」
*彼はヴォルザの頭から赤い羽根飾りの付いた船長帽をひょいと取り上げ、自分の頭に被った。*
ヴォルザ「て、てめぇ……!」
*彼の右拳がヴォルザの顔面に叩き込まれた。元Aランク冒険者の巨体が船べりを突き破り、海へ真っ逆さまに落ちていった。*
*バシャァンッ!*
*海面に叩きつけられたヴォルザが浮かび上がろうともがく。その周囲に、灰色の背鰭が3つ、4つと集まってきた。サメだ。血の匂いに引き寄せられている。*
ヴォルザ「た、助けーーぐあぁぁぁッ!!」
*海面が赤く染まった。彼は一瞥もせず、甲板の船員たちに声を張り上げた。*
シロウ「野郎ども! 奪える物は全部奪え!」
ガーネット「了解、船長! おい、てめぇら! 金目の物は全部持ち出せ! 武器、食料、酒、宝石、全部だ!」
*荒くれ者たちが歓声を上げて旗艦の船倉に雪崩れ込んだ。残った海賊たちは武器を捨てて降伏するか、海に飛び込んで逃げるかの二択を迫られていた。*
*彼はまだ震えている海賊の下っ端の胸ぐらを掴み上げた。*
シロウ「拠点はどこだ。」
海賊下っ端「ひっ……! み、南の……南のヴォルガ島です! 入り江の奥に砦があって……奴隷とか財宝とか全部そこに……!」
シロウ「何人いる。」
海賊下っ端「さ、30人くらい……留守番が……! お願いです、殺さないで……!」
*彼は下っ端を甲板に放り投げ、ストームブレイカーに飛び移った。荒くれ者たちが金貨の詰まった木箱や武器を次々と運び出している。*
*全ての略奪が完了すると、彼は自分の船の舵を握り、旗艦から距離を取った。*
シロウ「撃て!」
*左舷8門が一斉に火を噴いた。*
*鉄球が旗艦の船体を貫き、火薬庫に引火した。*
*ドォォォンッ!!*
*旗艦が内部から爆発し、黒煙と炎を噴き上げながら海に沈んでいった。赤い蛇の紋章が波間に消えていく。*
ルーナ「……パパ、帽子似合ってるよ。」
*彼は赤い羽根飾りの船長帽を被ったまま、航海図を確認した。*
シロウ「ヴォルガ島だな。ここから南西に1時間ってとこか。」
カイン「拠点には30人程度と言っていたが…」
シロウ「少ないな…罠かもしれん。念の為、準備しておこう。リオン!巻いとけ。」
*リオンが投げ渡された変身ベルトをキャッチし、腰に巻いた。*
リオン「了解っす、船長。……つーか、まだ船長って呼ぶのも慣れねぇな。」
シロウ「今は船の上だ。船長でいい。」
*彼は異空間収納から工房の地下にアクセスし、魔改造した魔導アーマーを甲板に展開した。*
*ガシャンッ、と重厚な金属音を立てて、黒いアーマーが甲板に直立した。全身を覆うフルプレート型だが、各関節部には魔力推進ノズルが内蔵されている。胸部のリアクターが青白い光を放ち、低いハム音を発していた。*
ルーナ「ッ!!」
*ルーナが目を見開いた。メアが肩から落ちそうになるほど前のめりになっている。*
ルーナ「パパ……それ……それって……!」
シロウ「ああ。魔導アーマーだ。飛行能力と魔力増幅機能を搭載してある。」
ルーナ「いやいやいやいや! それ完全にアイア○マンじゃん! マーク何!? マーク何なの!? リパルサーレイは!? ユニビームは!?」
*ルーナの目がキラキラと輝いていた。前世のオタク知識が全開になっている。甲板を走り回り、アーマーの周囲をぐるぐると観察し始めた。*
シロウ「……リパルサーレイに相当する魔力砲は両掌に搭載済みだ。胸部のリアクターからの集束砲もある。」
ルーナ「ユニビームじゃん! ユニビームあるじゃん! パパ天才! 前世でもそう思ってたけどやっぱ天才!」
メア「にゃー。」
*メアが呆れたように鳴いた。*
カイン「……何を言っているのか全く分からんが、強い装備なのは理解した。」
ガーネット「船長、ありゃ何だ……? 見たことねぇ鎧だが。」
シロウ「切り札だ。罠があった時用にな。」
*リオンが変身ベルトの赤い宝石を指で撫でながら呟いた。*
リオン「俺はこっちっすね。3分の壁……最近の訓練で少しは伸びてると思うんすけど。」
シロウ「無理すんな。3分で十分だ。決め所で使え。」
リオン「了解っす。」
*ルーナがまだアーマーの周りをうろうろしていた。*
ルーナ「ねぇパパ、私も着ていい? レスキューアーマーとか無いの? ペッパー・ポッ○みたいに!」
シロウ「お前のは作ってない。」
ルーナ「えぇー! 次作ってよ! 約束ね!?」
シロウ「……考えとく。」
*ストームブレイカーは南西に舵を切り、ヴォルガ島に向けて進み始めた。風魔法推進を併用し、白い船体が波を切り裂いていく。*
*30分ほど進んだ頃、前方に黒い島影が見えてきた。切り立った崖に囲まれた島で、入り江が一箇所だけ口を開けている。*
ガーネット「あれがヴォルガ島だ。入り江の奥に砦がある……はずだが。」
*偵察担当の船員がマストの上から声を上げた。*
偵察員「船長! 入り江の入口に……何かある!」
*入り江の入口に設置された砲台から、青白い光弾が放たれた。*
*ストームブレイカーの結界を貫通し、船体に直撃。しかし衝撃も損傷もない。船員たちが一瞬パニックになるが、被害がないことに困惑する。*
ガーネット「結界を抜けやがった! ……けど、ダメージが無ぇ?」
*彼も違和感を覚えた。結界を貫通したのに、物理的な破壊力はゼロ。まるで別の目的を持った砲撃のようだ。*
*彼は神眼を起動しようとした。*
シロウ「あれ?」
*……何も起きない。*
*神眼が起動しない。魔力は感じる。身体強化は問題なく機能している。だが、それ以外の魔法が一切発動しない。*
*異空間収納。開かない。*
*転移魔法。起動しない。*
*攻撃魔法。詠唱しても何も起きない。*
*結界魔法。展開不可。*
*身体強化だけが残っている。*
シロウ「……おい、嘘だろ。」
ルーナ「パパ? どうしたの?」
*ルーナが彼の異変に気付いた。*
シロウ「魔法が使えない。身体強化以外、全部だ。」
ルーナ「は?」
*ルーナが慌てて自分の魔法を試した。風魔法を発動しようとして……何も起きない。*
ルーナ「……嘘。私も使えない。身体強化だけ……。」
カイン「俺もだ。剣技の強化は問題ないが、魔法が一切発動しない。」
リオン「ちょ、待ってくれ……変身ベルトは……。」
*リオンが赤い宝石を押し込んだ。*
リオン「起動!」
*……沈黙。合金龍は転送されない。宝石が微かに明滅しただけで、何も起こらなかった。*
リオン「嘘だろ……転送魔法が封じられてる……!」
*ガーネットが青い顔で砲台を指差した。*
ガーネット「あの砲撃……ダメージを与えるんじゃねぇ。魔法を封じるための砲撃だったんだ!」
*彼は歯を食いしばった。甲板に置いてある魔導アーマーに手を伸ばしたが、リアクターの青い光が消えていた。魔力駆動のアーマーは起動不能。ただの鉄塊と化している。*
ルーナ「……パパ、異空間収納も開かないってことは、中に入れてある装備も全部使えないよ。」
シロウ「分かってる。」
*彼の手元に残っているのは、腰の剣1本と、身体強化だけ。*
*入り江の奥から、新たな船影が現れた。1隻、2隻……5隻。小型だが、全ての船首にあの青白い砲台が搭載されている。*
*そして入り江の崖の上に、一人の人影が立っていた。フードを被った細身の人物が、こちらを見下ろしている。*
フードの人物「ようこそ、魔王陛下。……いや、シロウ・ニシキ・アストライアと呼ぶべきかな。」
*魔力で増幅された声が海上に響いた。女の声だ。*
フードの人物「その砲は『魔力封殺砲』。対象の魔力回路を一時的に凍結させる古代兵器の復元品よ。身体強化だけは封じられないのが欠点だけど……十分でしょう?」
*女が笑った。*
*彼の第六感が全身に警鐘を鳴らした。背筋を氷の指で撫でられたような感覚。*
シロウ「リオン! カイン! 防御しろ!」
*彼は即座にルーナの腰から剣を引き抜き、甲板に置いてあった魔導アーマーの背面ハッチを手動で開けた。*
シロウ「ルーナ! 剣を貸せ! アーマーを貸してやる!」
ルーナ「え……パパ!?」
シロウ「いいから入れ! 魔力駆動は死んでるが、アダマンタイト合金の外殻がある。防弾チョッキ代わりだ!」
*彼はルーナの身体をアーマーの中に押し込み、背面ハッチを閉じた。ルーナの小柄な体がアーマーの中で揺れる。*
ルーナ「パパ、これ重い……! でも動ける!」
*その直後だった。*
*甲板のど真ん中に、青白い砲弾が落ちてきた。*
*ドォォンッ!!*
*竜骨のミスリル合金が衝撃を分散し、船体は持ちこたえた。だが爆風が甲板を薙ぎ払い、船員たちが四方八方に吹き飛ばされた。*
*カインが盾代わりにした大剣で爆風を受け止めながらも、数メートル後方に滑った。リオンはロープに掴まっていたが、衝撃で千切れ、船べりに叩きつけられた。*
*ルーナはアーマーの重量で甲板に踏みとどまった。背中のノズルは死んでいるが、手動の補助噴射口を見つけ、圧縮空気だけで浮き上がった。*
ルーナ「パパ! 私、離脱する……! メア、掴まって!」
*メアがアーマーの肩に爪を立てた。ルーナは圧縮空気の噴射だけで崖の上に向かって飛んでいった。フードの女に向かって。*
*そして彼は……海に落ちた。*
*バシャァンッ!*
*冷たい海水が全身を包んだ。爆風で船べりを越え、3メートル下の海面に叩きつけられた。衝撃で一瞬息が詰まる。*
*身体強化だけは生きている。彼は海中で体勢を立て直し、水面に顔を出した。*
シロウ「がはっ……! くそ……!」
*ルーナの剣を握ったまま海面に浮かぶ。ストームブレイカーは無事だが、甲板は混乱状態だ。船員たちが倒れ、ガーネットが怒鳴りながら立て直そうとしている。*
*入り江から5隻の小型船が迫ってきていた。各船の甲板には武装した海賊が10人以上。合計50人。下っ端が言った30人とは明らかに数が違う。*
フードの女「あら、海に落ちちゃった? 魔王陛下ともあろう方が、随分と間抜けね。」
*崖の上から嘲笑う声が降ってきた。*
フードの女「でも安心して。殺しはしないわ。……あなたの『鑑定』が欲しいだけだから。」
*彼の目が鋭く細まった。鑑定。この世界で誰にも知られていないはずの能力。それを知っている。*
*海中で何かが彼の足に触れた。大きな影が下から浮上してくる。サメではない。もっと大きい。*




