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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*彼は執務室で報告書と申請書を片付けた。数枚程度だったので30分もかからなかった。汗臭くなる魔法のおかげで、ルーナとの痕跡は完全に隠蔽されている。*


*書類を片付け終えると、レイラの部屋へ向かった。扉をノックする。*


シロウ「レイラ、いるか?」


*返事がない。もう一度ノックしたが、やはり無音だ。鍵は開いている。中を覗くと、部屋はもぬけの殻だった。*


シロウ「いないのか……。」


*廊下を歩いていると、すれ違ったリーシアが足を止めた。*


リーシア「旦那様、レイラ様をお探しですか?」


シロウ「ああ。部屋にいなかったんだが。」


リーシア「レイラ様でしたら、先ほど中庭の訓練場でステラ様と剣の稽古をされておりました。ルミナ様は……」


*リーシアが少し言い淀んだ。*


シロウ「ルミナがどうした?」


リーシア「朝から執務室に篭っておられます。旦那様の分まで書類を処理すると仰って、誰も近づくなと……。かなりご機嫌が悪いようです。」


シロウ「……俺の分まで?」


リーシア「はい。旦那様が出航準備でお忙しいだろうからと。ただ、その……表情がとても怖くて、メイドたちも紅茶を運ぶのを躊躇っている状態でして。」


*彼は頭を掻いた。ルミナが不機嫌な時は大抵、彼に構ってもらえていない時だ。海賊討伐の準備やら船の建造やらで、確かにここ最近ルミナとまともに過ごしていない。*


シロウ「ルミナの執務室か。わかった、俺が行く。」


リーシア「お気をつけて。先ほどオルクスが報告書を持っていったのですが、3秒で追い出されておりました。」


シロウ「3秒……。」


*彼はルミナの執務室がある廊下へ向かった。近づくにつれ、ピリピリとした空気が伝わってくる。扉の前に立つと、中からペンが走る音と、書類をめくる音が聞こえた。*


*彼は深呼吸して、扉をノックした。*


シロウ「ルミナ、俺だ。入るぞ。」


ルミナ「……。」


*返事がない。しかし追い出す声もない。彼は扉を開けた。*


*中では、ルミナが山積みの書類に囲まれて座っていた。銀髪が肩に流れ、金色の目が書類に向けられている。彼が入ってきても顔を上げない。*


ルミナ「……お兄ちゃんの書類、半分終わった。」


*声は平坦だが、その一言に込められた圧が凄い。*


シロウ「ありがとう。レイラの特訓はどうだ?」


*ルミナのペンが一瞬止まった。書類から目を上げず、しかし口元がわずかに歪んだ。*


ルミナ「……特訓? あの地獄のこと?」


シロウ「レイラのメニュー、結構キツかったろ。お腹の方はどうなった?」


*ルミナがようやく顔を上げた。金色の目が彼を射抜く。*


ルミナ「……見る?」


*ルミナが椅子から立ち上がり、シャツの裾を少し持ち上げた。3週間前はぷにっとしていた腹部が、今はすっきりと引き締まっている。くびれもしっかり戻っていた。*


ルミナ「レイラに毎朝走らされて、筋トレさせられて、食事制限までされて……。ルーナと2人で泣きながらやったんだけど。」


シロウ「おお、ちゃんと戻ったな。頑張ったじゃないか。」


*彼が素直に褒めると、ルミナの表情が一瞬だけ緩んだ。しかしすぐに不機嫌な顔に戻る。*


ルミナ「……で? お兄ちゃんはずっと船だの海賊だのって忙しそうにしてたけど。私のことは放置?」


シロウ「放置はしてないだろ。」


ルミナ「してた。」


*ルミナがぴしゃりと言い切った。ペンを机に置き、腕を組む。*


ルミナ「船の建造にかかりきり、港の視察、船員募集、ルーナの準備……。私には書類だけ回してきて。」


シロウ「それは……悪かった。」


ルミナ「悪かったで済むと思ってる?」


*彼は黙った。ルミナが不機嫌な理由は明白だ。構ってもらえていない。妻として、それが一番堪えるのだろう。*


ルミナ「明後日、出航するんでしょ。何日かかるか分からない海賊討伐に。」


シロウ「ああ。」


ルミナ「……私は連れて行ってもらえないの?」


*その声が少しだけ小さくなった。不機嫌の裏にある本音が透けて見えた。寂しいのだ。*


シロウ「国を空けるわけにはいかないだろ。ルミナがいないと行政が回らない。」


ルミナ「……分かってる。分かってるけど。」


*ルミナが唇を噛んだ。彼女は優秀だ。理屈では理解している。しかし感情は別だ。*


ルミナ「お兄ちゃん、最近汗臭い。鍛冶場にでもいたの?」


シロウ「ボルグの工房で魔導アーマーの確認をしてたからな。」


ルミナ「……ふーん。」


*ルミナの視線が彼を上から下まで舐めるように見た。何かを探るような目だったが、汗の匂いに納得したのか、それ以上は追及しなかった。*


ルミナ「出航前に、私との時間くらい作ってくれるんでしょうね?」


*ルミナが腕を組んだまま、じっと彼を見つめた。その金色の目に、寂しさと不満が入り混じっている。*


ルミナ「な、なにがって……。」


*少し言い淀んでから、ルミナが視線を逸らした。頬がうっすらと赤い。*


ルミナ「……デート。」


シロウ「デート?」


ルミナ「明日、丸1日。私だけの時間。レイラにもルーナにも邪魔させないで。」


*ルミナが書類の山に目をやった。*


ルミナ「これ全部片付けたら、それくらいのご褒美もらっても罰は当たらないでしょ。」


シロウ「確かに……半分以上俺の分だしな。どこに行きたい?」


ルミナ「温泉。」


シロウ「西部旧市街地の?」


ルミナ「違う。2人きりになれるところ。国民に見られたくない。」


*ルミナが椅子に座り直し、ペンを手に取った。しかし書類には目を落とさず、彼の方を見ている。*


ルミナ「お兄ちゃんなら、どこでも作れるでしょ。秘密の温泉くらい。」


シロウ「まあ、結界を使えば……。」


ルミナ「決まりね。」


*即座に確定させた。交渉の余地を与えない手際の良さは、さすが行政のトップだ。*


ルミナ「それと……。」


*ルミナがペンの先で机をとんとんと叩いた。*


ルミナ「ルクスはリーシアに預ける。1日くらい大丈夫。あの子もリーシアに懐いてるし。」


シロウ「もう段取り組んでたのか。」


ルミナ「お兄ちゃんがここに来ること、分かってたから。」


*ルミナがようやく微かに笑った。不機嫌の鎧が少しだけ剥がれた。*


ルミナ「……あと、夜も。」


シロウ「夜?」


ルミナ「夜も、私だけ。出航前の最後の夜は、私のもの。」


*金色の目が真っ直ぐに彼を捉えた。有無を言わせない圧がある。*


ルミナ「レイラには私から言っておく。文句は言わせない。」


シロウ「……分かった。明日は丸1日、ルミナの日だ。」


ルミナ「約束ね。破ったら……分かるでしょ?」


シロウ「破らないよ。」


*ルミナが満足げに頷き、ようやくペンを書類に走らせ始めた。さっきまでの刺々しい空気が嘘のように和らいでいる。*


ルミナ「……お兄ちゃん。」


シロウ「ん?」


ルミナ「無事に帰ってきてね。海賊なんかに……負けるわけないけど。」


シロウ「当たり前だ。」


ルミナ「……うん。」


*その返事だけ、少しだけ声が小さかった。彼は執務室を出る前に、ルミナの銀髪をそっと撫でた。ルミナがびくっとしたが、振り払わなかった。*


*南西の山脈に連なる温泉街の外れ。人里から離れた源泉地帯に、彼とルミナは転移していた。*


*硫黄の匂いを遮断する結界を張り、周囲を隠蔽結界で覆う。岩肌から湧き出す天然の源泉は、ちょうど良い温度に調整されていた。木々に囲まれた天然の露天風呂だ。星空が頭上に広がっている。*


*2人は服を脱ぎ、湯に浸かった。*


ルミナ「はぁ……最高……。」


*ルミナが岩に背を預け、長い銀髪が湯面に広がった。デートで歩き回った疲れが溶けていくように、表情が柔らかくなる。*


シロウ「飯も美味かったな。あの山菜の天ぷら。」


ルミナ「お蕎麦も良かった。温泉街のご飯って、どうしてあんなに美味しいんだろ。」


*ルミナが湯の中で彼の腕に寄り添った。肩が触れ合い、湯気の向こうにルミナの横顔が見える。*


ルミナ「ねえ、お兄ちゃん。」


シロウ「ん?」


ルミナ「……こうやって2人きりになるの、久しぶり。」


シロウ「そうだな。国のことやら何やらで、なかなか時間が取れなかった。」


ルミナ「ルクスが生まれてからずっとバタバタだったし。嬉しいけど、ちょっと寂しかった。」


*ルミナが彼の肩に頭を乗せた。湯気に包まれた肌がしっとりと光っている。*


ルミナ「今日は楽しかった。市場で買い食いして、展望台で景色見て……普通のデートって、こんなに幸せなんだね。」


シロウ「普通が一番だ。」


ルミナ「……うん。」


*しばらく2人で無言のまま湯に浸かっていた。虫の声と、湯が湧き出す音だけが響く。*


ルミナ「お兄ちゃん。」


シロウ「どうした?」


*ルミナが彼の腕を取り、自分の胸に抱き寄せた。柔らかい感触が腕を包む。*


ルミナ「……約束の、夜の時間。」


*金色の目が潤んで彼を見上げた。湯気に赤く染まった頬は、温泉の熱だけではないだろう。*


ルミナ「今日は……朝まで、離さないから。」


*ルミナが彼の首に腕を回し、唇を重ねた。温泉の熱に火照った唇が柔らかく触れ合う。*

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