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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*少し遅い朝食を終え、彼は鍛冶場へ向かった。西門付近に差し掛かると、景色が様変わりしていることに気づいた。*


*西門の横に石造りの駅舎が建てられていた。屋根はアーチ型で、プラットホームには既にレールが敷かれている。そしてその上に、ピカピカの機関車が2機並んでいた。以前の試運転で使った1号機、2号機とは別に、追加で製造された3号機と4号機だ。*


*ボルグが駅舎の前で腕を組み、満足げに鼻を鳴らしていた。*


ボルグ「おう、陛下。見に来たか。」


シロウ「……進んでるな。駅舎まで出来てるのか。」


ボルグ「レールの方もかなり伸ばした。砂国サルーナまでの行程、6割ってとこだ。」


*彼が機関車に近づくと、車両の側面に見慣れない装置が取り付けられていた。四角い箱型で、前面に魔紋が刻まれたパネルがある。*


シロウ「これは……エアコンか?」


ボルグ「ああ。砂国は昼と夜の寒暖差がひでぇって聞いてな。冷却と加熱の切り替え式にした。魔石で動く。」


*彼が装置に手を触れた。鑑定が自動で発動する。*


シロウ(温度調節魔道具。冷却と加熱を魔石のエネルギーで切り替え。……よく出来てる。)


ボルグ「中も見てくれ。座席を改良した。」


*車内に入ると、座席のクッションが厚くなり、窓には砂除けの二重ガラスが嵌め込まれていた。砂漠地帯を走ることを想定した設計だ。*


シロウ「砂対策まで考えてあるのか。」


ボルグ「ドワーフを舐めるなよ。」


*ボルグがにやりと笑い、駅舎の壁に貼られた地図を指差した。アストライアから砂国サルーナまで真っ直ぐ路線図が描かれており、完成済みの区間が赤く塗られている。残りの4割は砂漠地帯だった。*


ボルグ「問題は残りの砂漠区間だ。砂の上にレールを敷くのは普通じゃ無理だ。地盤が安定しねぇ。」


シロウ「あれ、俺。サルーナ側から砂対策した地盤設置の依頼してあるけど…聞いてないの?」


*ボルグがハッとした顔で額を叩いた。*


ボルグ「あー……! そうだった! サルーナ側からの依頼書、鍛冶場の机に埋もれてたわ……!」


シロウ「……おい。」


ボルグ「いや、すまん。あの時ちょうどエアコン魔道具の試作で頭がいっぱいでな……。」


*彼が呆れたようにため息をついた。ボルグが慌てて鍛冶場の奥から書類の束を引っ張り出してくる。砂埃を被った依頼書がぽろりと落ちた。*


ボルグ「……あった。サルーナ側の地盤工事、砂固め魔法と石盤の二重構造で……って、これもう着工済みか?」


シロウ「とっくにな。サルーナの土木班に依頼してある。砂対策の地盤はサルーナ側から敷いてもらって、こっちからのレールと合流する段取りだ。」


*彼が駅舎の壁の地図を指差した。赤い完成済み区間の先、砂漠地帯に青い線が引かれている。サルーナ側から伸びてくる地盤設置区間だ。*


シロウ「進捗報告だと、もう両断された山脈跡地の辺りまで来てるはずだ。」


ボルグ「……ってことは、残り4割のうち半分以上は地盤が出来てるのか。」


シロウ「ああ。こっちのレール敷設が追いつけば、想定より早く繋がる。」


*ボルグが腕を組み、唸った。それからにやりと歯を見せた。*


ボルグ「……陛下。追加の酒、出るか?」


シロウ「工期次第だな。」


ボルグ「2週間で繋げる。」


シロウ「……本気か?」


ボルグ「ドワーフを舐めるなっつったろ。酒がかかりゃ寝ずにやる。」


*鍛冶場の奥からドワーフたちの「酒!酒!」という合唱が聞こえてきた。既に聞き耳を立てていたらしい。*


シロウ「……分かった。繋がったらスコッチの30年ものを1樽出す。」


*鍛冶場が揺れるほどの歓声が上がった。*


ーー


*あれから2週間。ボルグ率いるドワーフ部隊は宣言通りにレール敷設を完了させた。サルーナ側の地盤とアストライア側のレールが砂漠の真ん中で繋がった瞬間、両国の作業員から歓声が上がったという。*


*そこからさらに1週間が経つと、効果は目に見えて現れ始めた。*


*サルーナからは香辛料、南方フルーツ、乾燥ナツメ、サフランといった特産品が列車に積まれて運ばれてくるようになった。ボルグが追加で設計した貨物列車には冷却魔道具が搭載されており、生鮮フルーツも鮮度を保ったまま輸送できる。*


*中央大陸のリンドブルムにも、アストライア経由でサルーナの品が届くようになると、各国の商人たちが色めき立った。今まで砂漠越えのキャラバンで命がけだった交易路が、列車1本で安全に繋がったのだ。*


*ある日、彼がオルクスの執務室を訪れた時のこと。*


シロウ「列車と商人の関税、もう少し下げようと思う。」


オルクス「……陛下、ご冗談を。これ以上下げたら利益が……。」


シロウ「薄利多売だ。流通量が増えれば税収は上がる。」


オルクス「しかし……!」


シロウ「信じろ。」


*オルクスが渋々承諾した。しかし1ヶ月もすると、関税を下げた効果が数字に出始めた。商人の数が倍増し、取引量が3倍に跳ね上がった。税収は下げる前より遥かに上回っている。*


オルクス「……陛下。申し訳ございませんでした。」


シロウ「だろ?」


オルクス「右肩上がりです。このままいけば年間の貿易収益は過去最高を更新します。」


*オルクスが深々と頭を下げた。彼の経済政策はまたしても的中したのだ。*


---


*そして、季節が少し進んだ頃。*


*城の中庭で、彼は小さな手に引っ張られていた。*


ルクス「ぱぱ、ぱぱ! あっち!」


*ルクスが3歳になった。銀色がかった髪に、ルミナ譲りの端正な顔立ち。まだ片言だが、少しずつ言葉が増えてきている。*


シロウ「どうした、ルクス。何がある?」


ルクス「おはな! きれー!」


*ルクスが指差した先には、中庭の花壇に咲いた色とりどりの花があった。世界樹の恩恵か、季節外れの花まで咲いている。*


*ルクスがとてとてと走り、花壇の前にしゃがみ込んだ。小さな手で花に触れようとして、ふにゃっと転んだ。*


ルクス「……うぅ。」


シロウ「おっと。」


*彼がすかさずルクスを抱き上げた。泣きそうな顔が、抱き上げられた瞬間にぱっと笑顔に変わる。*


ルクス「ぱぱ、たかい!」


*ルクスが彼の肩の上ではしゃいだ。高い視点から中庭を見渡し、きゃっきゃと笑っている。*


*その様子を、回廊からルミナが見ていた。*


ルミナ「……お兄ちゃん、甘すぎ。」


シロウ「息子に甘くて何が悪い。」


ルミナ「娘にも甘いくせに。」


シロウ「……それとこれとは別だ。」


ルミナ「同じだよ。」


*ルミナが回廊から降りてきて、彼の隣に並んだ。ルクスが母の姿を見つけ、彼の肩の上から手を伸ばした。*


ルクス「まま! まま、きて!」


ルミナ「はいはい、ルクス。」


*ルミナがルクスを受け取り、抱き上げた。ルクスが小さな手でルミナの銀髪を掴み、にこにこと笑う。*


ルクス「まま、おはな! きれー!」


ルミナ「そうね、綺麗ね。」


*ルミナが花壇の方を見ながら柔らかく微笑んだ。シロウ以外には見せない穏やかな表情だった。*


ルクス「ぱぱも! みんな、おはな!」


*ルクスが彼とルミナの顔を交互に見て、きゃっきゃと笑った。*


シロウ「……ああ。みんなで見よう。」


*彼がルミナの肩にそっと手を置いた。穏やかな昼下がりだった。*


シロウ「運動しろよ……。」


ルーナ「してるもん。えっちは全身運動だよ? カロリー消費すごいんだから。」


シロウ「最近バテるの早くなってるだろ。昨日なんか3回目で息切れしてたぞ。」


ルーナ「……っ。」


*図星だった。以前は12回搾り取っていた体力が、明らかに落ちている。3回で「ちょっと休憩……」と言い出すようになっていた。*


シロウ「知ってるか? 禁欲すると筋トレに意識が向くらしいよ。」


*ルーナの顔が凍りついた。*


ルーナ「……は?」


シロウ「つまり、お前が元のSランクの体に戻るまで禁欲な。」


ルーナ「ちょっと待って!? パパ、それは話が飛躍しすぎ!!」


シロウ「飛躍してないだろ。3ヶ月サボって5キロ太ったSランク冒険者なんて聞いたことねえぞ。」


ルーナ「うっ……。」


シロウ「マンゴーも1日1個まで。ビールは週2。温泉は運動した後だけ。」


ルーナ「パパが独裁者に見える……。」


シロウ「魔王だからな。」


ルーナ「……じゃあ、お腹が元に戻ったら……ご褒美は?」


シロウ「戻ったら考える。」


ルーナ「隠し部屋で好きなだけしていい?」


シロウ「……戻ったらな。」


*ルーナの目に火がついた。マンゴーの切れ端を一口で頬張り、もぐもぐと噛んだ後、ぐっと拳を握った。*


ルーナ「……分かった。やる。パパ、1ヶ月で戻す。」


シロウ「本気か?」


ルーナ「前世でライザップのCM見て感動した女だよ? モチベーションさえあれば……。」


シロウ「モチベーションがえっちなのはどうかと思うが。」


ルーナ「パパが禁欲なんて言うからでしょ!!」


*ルーナがぷんすかと頬を膨らませた。が、その頬も以前より少し丸い。*


*翌朝。彼が中庭を歩いていると、早朝からルーナが走り込みをしていた。「働いたら負け。」のシャツの上からジャージを着て、息を切らしながら中庭を周回している。*


ルーナ「はぁっ……はぁっ……パパのばかぁ……!」


*その横を、ルクスがとてとてと走っていた。*


ルクス「るーねえ、がんばえー!」


ルーナ「ルクスぅ……お姉ちゃん死にそう……。」


*彼が回廊から腕を組んで眺めていると、隣にルミナが並んだ。*


ルミナ「……何したの、お兄ちゃん。」


シロウ「痩せるまで禁欲って言った。」


ルミナ「……鬼。」


シロウ「効果はあるだろ。」


ルミナ「あるけど鬼。」


*彼がルミナの方を向いた。ふと思いつき、ルミナのお腹にも手を伸ばして摘んでみた。*


*――ぷにっ。*


シロウ「…………。」


ルミナ「…………。」


シロウ「………ルミナもか……。」


*ルミナの顔が一瞬で真っ赤になった。さっきまでルーナを「鬼」と評していた余裕が消え去っている。*


ルミナ「ちょ、お兄ちゃん!? いきなり摘まないで!」


シロウ「レイラを見習えよ……。」


*丁度そこに、レイラが回廊の向こうからやってきた。朝の鍛錬を終えたのか、軽装の剣術着姿で涼しい顔をしている。*


レイラ「何を騒いでおるのだ、朝から。」


*彼がレイラの前に立ち、同じようにお腹を摘んでみた。*


*――皮しかない。*


*腹筋の上に薄い皮膚が乗っているだけだった。指先に硬い筋肉の感触が伝わる。*


シロウ「……流石だ。」


レイラ「当然であろう。妾を誰だと思っておる。毎朝の鍛錬を欠かした日などないわ。」


*レイラが腰に手を当て、ふんっと胸を張った。小柄な体だが、戦士としての肉体は完璧に維持されている。*


*ルミナが自分のお腹を両手で隠しながら、レイラを恨めしそうに見た。*


ルミナ「……レイラは元々食べても太らない体質でしょ……ずるい……。」


レイラ「体質ではない。鍛錬の成果だ。お主、最近甘いものばかり食っておらぬか?」


ルミナ「……サルーナのデーツが美味しくて……。」


レイラ「知っておるぞ。昨日、厨房から蜂蜜漬けのデーツを丸ごと1瓶持ち出したであろう。」


ルミナ「……見てたの。」


レイラ「リーシアから報告があった。『ルミナ様が甘味の消費量を更新されました』とな。」


シロウ「リーシア、そんなことまで管理してるのか……。」


*中庭からルーナの叫び声が聞こえた。*


ルーナ「はぁっ……はぁっ……! あと……何周……!」


ルクス「あと10しゅー!」


ルーナ「ルクス!? 誰がそんなこと教えたの!?」


ルクス「れいらおばちゃん!」


*レイラがにやりと笑った。*


レイラ「子供は正直でよいな。」


シロウ「……お前、ルクスに仕込んだのか。」


レイラ「鍛錬の監督は得意だ。ルーナにはいい薬であろう。」


*彼がため息をつき、ルミナの方を見た。ルミナがそっと後ずさりしている。*


シロウ「ルミナ。お前もだぞ。」


ルミナ「……私は元熾天使だから、魔力で代謝を……。」


シロウ「摘めた時点でアウトだ。」


ルミナ「……お兄ちゃんのばか。」


*ルミナが頬を膨らませた。やはり、その頬も以前より少し丸い。*


レイラ「ルミナ、妾と一緒に朝の鍛錬をするか? 優しくしてやるぞ。」


ルミナ「……レイラの『優しく』は信用できない。」


*彼が異空間収納に手を入れ、小さな包みを取り出した。中にはサルーナ産のカカオ豆から作った板チョコレートが入っている。温室で試験栽培したカカオを焙煎し、砂糖と混ぜて固めた試作品だった。*


*彼がパキッとチョコを割り、一欠片を口に放り込んだ。*


シロウ「こんなものを作ったけど……しばらくお預けだな。」


*ルーナとルミナの視線がチョコレートに釘付けになった。二人の目がきらりと光る。*


ルーナ「……パパ、それ何。」


ルミナ「……チョコレート?」


シロウ「ルクスー、チョコ食べるー?」


ルクス「たべゅ!」


*ルクスがとてとてと駆け寄ってきた。彼が小さく割ったチョコの欠片をルクスの口に入れてやると、ルクスの目がぱぁっと輝いた。*


ルクス「おいしー!! ぱぱ、もっとー!」


シロウ「もう1個だけな。虫歯になるぞ。」


*彼がルクスにもう1欠片を渡した。ルクスがにこにこしながら大事そうに舐めている。*


*ルーナが中庭のランニングを中断して柵の向こうから身を乗り出した。汗だくのジャージ姿で、必死な顔をしている。*


ルーナ「パパ!! 私にも!!」


シロウ「お前はダメ。5キロ落としてからな。」


ルーナ「っ……!!」


*ルミナも彼の袖をそっと引っ張った。*


ルミナ「……お兄ちゃん、1個だけ……。」


シロウ「ルミナもダメ。摘めなくなってからな。」


ルミナ「…………。」


*ルミナの手がそっと自分のお腹に触れた。無言で唇を噛んでいる。*


レイラ「妾は良いのであろう?」


シロウ「レイラは合格だ。ほら。」


*彼がレイラにチョコを渡した。レイラが小さな口でぱくりと食べ、ふんっと満足げに鼻を鳴らした。*


レイラ「……ほう。甘いが、苦味もある。悪くないな。」


*ルーナとルミナが恨めしそうな目でレイラを見つめた。レイラが二人に向かって、わざとゆっくりチョコを舐めた。*


レイラ「鍛錬を怠るからこうなるのだ。」


ルーナ「煽らないで!!」


ルミナ「……レイラ、覚えてなさい。」


*ルーナが悔しそうに拳を握り、再び中庭を走り出した。そのペースが明らかに先程より速い。*


ルーナ「絶対痩せてやる……!! パパのチョコ食べてやる……!!」


*ルクスがチョコを舐めながら、走るルーナを応援した。*


ルクス「るーねえ、がんばえー!」


*彼がもう1欠片チョコを口に入れながら、穏やかに眺めていた。*


シロウ(まあ、結果的に健康になるなら何でもいいか。)


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