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*一行がエレベーターでエントランスまで戻ってきた。砂漠の乾いた空気が遺跡の入り口から流れ込んでくる。ガイアはシロウの袖をしっかり掴んだまま、キョロキョロと周囲を見回していた。*
シロウ「あ、そうそう。このIDがあればどこでも入れるから。」
*彼はIDカードを研究員Aに手渡した。研究員Aが目を丸くして受け取る。*
研究員A「これを……我々に? よろしいのですか!?」
シロウ「ああ。俺たちは遺跡の調査が本業じゃないしな。砂月王国の研究チームが調べた方が有意義だろ。」
研究員B「あ、ありがとうございます! これで全フロアにアクセスできるんですね!?」
シロウ「B10までは確認済み。ただ、上の階はまだ見てない。」
*彼がピラミッド内部の上層階を指差した。地下に降りることばかりに気を取られていたが、このビル型遺跡には上層階も存在する。*
シロウ「上の階、まだ見てないから行く?」
*研究員たちの目が輝いた。サラディン王もハシムと顔を見合わせ、頷く。*
サラディン「是非とも確認したい。未踏の区画があるなら尚更だ。」
ハシム「陛下、お時間は大丈夫ですか?」
サラディン「構わん。こんな機会は二度とないかもしれん。」
*ガイアがシロウの袖を引っ張った。*
ガイア「上の階はガイアも行ったことないのだ。ガイアはずっとB10に閉じ込められてたのだ。」
ルーナ「じゃあ、ガイアも一緒に見ようか。」
ガイア「ルーナ、好きなのだ!」
*ルーナの腕にしがみつくガイア。ユキがガイアの銀髪をぺろぺろ舐めている。*
*一行は再びビル内部に入り、エレベーターの上層階ボタンを押した。1F、2F、3F……表示パネルには10Fまで存在している。*
シロウ「とりあえず1Fから順番に行くか。」
*エレベーターが1Fで停止し、扉が開いた。*
*そこに広がっていたのは——巨大な図書館だった。*
*天井まで届く本棚が整然と並び、古代文字で書かれた書物が数万冊は収められている。保存魔法がかかっているのか、紙の劣化は一切見られない。中央には閲覧用の大きなテーブルと、水晶のモニターのような装置が設置されていた。*
研究員C「こ、これは……! 古代の大図書館……!」
研究員A「この量の文献……解読だけで何十年かかるか……!」
*研究員たちが震えている。学者にとって、これは黄金の山に等しい発見だ。*
サラディン「……これだけで、我が国の歴史研究が百年は進むな。」
カイ「父さん、あの水晶モニターみたいなの、端末かな?」
シロウ「触ってみるか。」
*彼が中央の水晶端末に手を翳すと、淡い光が灯り、古代文字のメニュー画面が浮かび上がった。*
ガイア「あっ、それ検索端末なのだ! 本のタイトルとか内容で検索できるのだ!」
ルーナ「ガイア、読めるの?」
ガイア「当然なのだ! ガイアはここで作られたのだ!」
*彼が本棚から一冊を手に取り、ページをめくった。言語理解スキルが自動的に発動し、古代文字——アラビア語に酷似した文字列がすらすらと読めた。*
シロウ「あれ? これ……アラビア語だな……。」
*内容を読み進める。最初のページには『砂漠の勇者と7人の花嫁』というタイトル。異世界ハーレムもの。彼は隣の本を手に取った。『最強鍛冶師は引きこもりたい』——スローライフ系。さらにその隣。『転生したら砂竜だった件』——転生もの。*
*全部ラノベだった。*
*彼は本棚を見渡した。数万冊。全て。ラノベ。*
シロウ「…………ただのオタクかよ……。」
*研究員たちが歴史的大発見だと震えていた興奮が、一気に冷めていく。*
研究員A「な、何が書いてあるのですか!? 古代の叡智ですか!? 失われた魔法理論ですか!?」
シロウ「……砂漠の勇者がハーレム作る話。」
研究員A「…………は?」
シロウ「こっちは引きこもりの鍛冶師の話。あとこれは砂竜に転生する話。」
*沈黙が降りた。研究員Cが別の棚から本を引き抜き、シロウに差し出す。彼が読んだ。*
シロウ「『僕だけレベルアップな件』……。うん、ラノベだな。」
研究員B「ま、まさか全部……?」
シロウ「全部。」
*研究員たちが膝から崩れ落ちた。学者人生をかけた大発見が、古代人のラノベコレクションだった。*
サラディン「……我が国の地下に、数千年前のオタクの書庫があったと?」
シロウ「そういうことになりますね……。」
*ルーナだけが目を輝かせていた。前世オタクの血が騒いでいる。*
ルーナ「ちょっと待って。これ、古代のラノベでしょ? つまり数千年前の創作文化が分かるってこと。むしろ超貴重じゃない?」
*ルーナが次々と本を手に取り、ぱらぱらとめくっていく。*
ルーナ「あっ、これ挿絵付き! 古代のイラストレーターがいたってこと!? 画風めっちゃ綺麗……!」
ガイア「おお! ルーナも分かるのだ!? ここの本、ガイアのお気に入りがいっぱいあるのだ!」
*ガイアがぶかぶかのワンピースの裾を引きずりながら、一直線に奥の棚へ走った。一冊を抱えて戻ってくる。*
ガイア「これなのだ! 『孤独な人造少女は愛を知りたい』! ガイアが一番好きな本なのだ!」
シロウ「…………。」
*彼は遠い目をした。数千年前の古代文明が生み出した人造生命体の愛読書が、自己投影系ラノベだった。*
カイ「父さん、なんか疲れた顔してるけど。」
シロウ「いや……古代文明って何なんだろうなって……。」
レイラ「くくく……妾は嫌いではないぞ、この文明。」
*一行がエレベーターで2Fに到着した。扉が開くと、1Fの図書館とは打って変わって無機質な空間が広がっていた。*
*白い壁面に沿って巨大な製図台が並び、その上に黄ばんだ設計図が何十枚も広げられている。中央のテーブルには、人型の模型——マネキンのようなものが3体並んでいた。*
研究員A「これは……設計図ですか?」
*彼が一番近い製図台に歩み寄り、設計図を手に取った。言語理解が自動発動し、アラビア語の注釈がすらすらと読める。*
シロウ「人型の……人形? いや、これは……。」
*設計図には人体を覆う装甲の断面図、関節の可動域、内部配線——そしてエネルギー供給ラインが描かれていた。エネルギー源の欄に、見覚えのある図面がある。*
シロウ「あれ……地下にアークリアクターがあったし……もしかして……。」
ルーナ「父さん、これ。」
*ルーナが別の製図台から大判の設計図を持ってきた。全身図。人型の装甲が描かれており、各パーツごとに分解図と組み立て手順が記されている。胸部にアークリアクターが収まる空洞。背面にスラスター。腕部に魔力増幅器。*
ルーナ「これ、パワードスーツだよ。間違いない。」
シロウ「……マジか。」
ルーナ「アークリアクターを動力源にした魔導パワードスーツ。B9にあったリアクターの大量在庫はこれの量産用ストックだったんだ。」
*彼女の目が完全にオタクモードに入っていた。設計図を食い入るように読み込んでいる。*
ルーナ「見て、ここ。装甲材質は魔力伝導合金……竜鱗を加工した複合素材。関節部はドワーフの鍛造技術がベース。魔力増幅器はエルフの魔導理論。全種族の技術の集大成じゃん……。」
*ガイアが設計図を覗き込んだ。*
ガイア「あー、これなのだ。ガイアの博士たちが作ろうとしてたやつなのだ。」
シロウ「博士たち?」
ガイア「ガイアを作った人たちなのだ。ガイアが目覚めた時にはもう誰もいなかったけど、記録データにはあったのだ。『全種族を守る鎧』って呼んでたのだ。」
研究員B「全種族を守る鎧……。」
*サラディン王が設計図を無言で眺めていた。表情が険しい。*
サラディン「……これは完成しているのか?」
ガイア「知らねーのだ。ガイアが起きた時には試作品すら残ってなかったのだ。設計図だけなのだ。」
ルーナ「でもパパ、素材とリアクターは全部揃ってるよ。B9のアークリアクター、異空間収納に回収してあるでしょ?」
*ルーナがシロウを見上げた。その目は「作ろう」と明確に語っていた。*
カイ「父さん、これ作れるの……?」
シロウ「設計図と素材と動力源が揃ってるなら……理論上は。」
ルーナ「理論上じゃなくて、作れるよ。父さんとガイアがいれば。」
ガイア「おっ! ガイアの出番なのだ!? ガイアは天才だから余裕なのだ!」
*ガイアが胸を張った。*
*ルーナの目が完全に輝いていた。設計図を抱えたまま、興奮を抑えきれない様子で口を開く。*
シロウ「確かに……合金龍の感じで作れんことも無いが……ルーナ……これ着たいだけだろ……。」
ルーナ「浪漫だよパパ! 古代文明のパワードスーツだよ!? 浪漫の塊じゃん!」
シロウ「分かるけども……。」
*サラディン王とハシム、研究員たちが怪訝な顔で首を傾げた。*
ハシム「あの……合金龍、とは?」
サラディン「聞き慣れぬ名だな。竜の一種か?」
*ルーナがくるりと振り返り、まるで自分のことのように胸を張った。*
ルーナ「合金龍はパパが作った迷宮の99階層ボスです! アダマンタイトとミスリルの合金外殻、核はオリハルコンとヒヒイロカネの合金。3つの形態を持ち、第3形態では装着者と融合して絶大な力を発揮するんです!」
*一気にまくし立てた。研究員たちがポカンとしている。*
研究員A「……装着者と融合?」
ルーナ「そうです! パパはこの合金龍をベースにした変身ベルトまで作ってるんですよ! 仮面ラ……えっと、変身装甲システムです! 装着者に龍の力を纏わせて戦う超兵器!」
研究員B「変身……装甲……?」
ルーナ「実際に八輝将のリオンが装着してベヒモスの改造バハムートを撃破しました! 3分の時間制限があったんですけど、改良して体力が続く限り持続するようになって——」
シロウ「ルーナ、喋りすぎ。」
ルーナ「あっ。」
*口を押さえたが、時既に遅し。サラディン王の表情が完全に固まっていた。ハシムのペンも止まっている。*
サラディン「……つまり、貴殿は既に龍を素材にした変身兵器を実用化していると?」
シロウ「まぁ……はい。」
サラディン「…………。」
*長い沈黙の後、サラディン王がゆっくりとハシムに向き直った。*
サラディン「ハシム。」
ハシム「はい。」
サラディン「アストライア魔導皇国とは、絶対に敵対するなと後世に書き残せ。」
ハシム「……既にそのつもりでございます。」
*ガイアがぴょんぴょん跳ねていた。*
ガイア「すっげーのだ! おにーさん天才なのだ! じゃあこの設計図と合わせたら、もっとすごいの作れるのだ!?」
ルーナ「そう! そこなの! この古代の設計図は魔力増幅器と全種族の技術が統合されてる! 合金龍の変身システムと組み合わせれば——」
シロウ「お前ら、盛り上がるのはいいけど後にしろ。まだ上の階あるんだから。」
ルーナ&ガイア「「はーい。」」
*完全に息が合っていた。オタク同士の親和性は種族も時代も超えるらしい。カイが苦笑し、レイラが呆れ顔で腕を組んでいる。*
レイラ「……ルーナとガイア、妙に気が合うな。」
カイ「オタクは万国共通だからね……。」
*上は居住エリアだった。生活空間が広がっており、寝室、キッチン、浴室——そして見覚えのあるものが並んでいた。*
*モニター。PC。スマートフォンらしき端末。テレビのような薄型ディスプレイ。*
ルーナ「……うん、知ってた。」
シロウ「だよな。」
*2人にとっては見慣れた光景だった。前世——日本の生活空間そのもの。他のメンバーは首を傾げるばかりだが、彼とルーナだけが無言で頷き合った。*
カイ「父さん、これ何?」
シロウ「まぁ……生活用品だ。」
レイラ「妾にはさっぱり分からんな。」
シロウ「そろそろ帰るか。」
*正直飽きてきた。古代文明のオタクの部屋を見せられても感動は薄い。彼が踵を返そうとした時、ガイアが袖を引っ張った。*
ガイア「待つのだ! 最上階、まだ見てないのだ!」
シロウ「最上階?」
ガイア「おにーさんとルーナだけなのだ。他の人が見たら頭パンクするのだ。」
サラディン「……頭がパンク?」
ガイア「ハゲのおっさんは特にダメなのだ。残りの毛が全部抜けるのだ。」
サラディン「…………。」
*ハシムが王の肩に手を置いた。慰めの手だった。*
ハシム「陛下、ここでお待ちしましょう。」
サラディン「……そうしよう。」
*彼とルーナだけがガイアに連れられ、エレベーターで最上階——30Fへ向かった。扉が開いた瞬間、2人の足が止まった。*
*巨大な格納庫。天井まで10メートルはある空間に、ガラスケースがずらりと並んでいる。その中に——パワードスーツが整然と陳列されていた。*
*赤と金の装甲。胸部に円形のリアクター。流線型のフェイスプレート。スラスター付きのブーツ。全部で12体。*
*それぞれデザインが異なる。重装甲型、高速機動型、水中戦型、砂漠戦型——バリエーションが揃っている。中央のひときわ大きなケースには、全高3メートルの巨大装甲が鎮座していた。*
シロウ「……確信。ここのやつ、アイア○マン好きだね。」
ルーナ「間違いないね……。マーク1からマーク85まで揃ってる……。ハルク○スターまであるじゃん……。」
ガイア「博士たちのリーダーが設計したのだ! 『いつか全部完成させる』って記録に残ってたのだ!」
*ガイアが中央のケースを叩いた。*
ガイア「でもこれ全部試作品なのだ。動力が入ってないから動かないのだ。アークリアクターを入れれば動くはずなのだ。」
*ルーナが震えていた。感動で。*
ルーナ「パパ……。」
シロウ「分かってる。」
ルーナ「持って帰ろう。」
シロウ「分かってるって。」
ルーナ「全部。」
シロウ「……全部か。」
ルーナ「全部。」
*彼は深くため息をついた。しかし口元は笑っていた。正直、彼も浪漫を感じていた。合金龍の技術とこの古代のパワードスーツを組み合わせれば、とんでもないものが作れる。*
「……ここの古代文明の技術者、完全に同類だな。」
ルーナ「前世日本人だったんじゃない? ここまでアイア○マンに寄せてくるの、逆に清々しいよ。」
*ガイアが赤と金のスーツのケースをぺたぺた触りながら振り返った。*
ガイア「博士のリーダー、『トニー』って呼ばれてたのだ。」
シロウ「……もう確定じゃん。」
ルーナ「転移者か転生者だね、間違いなく。」
*彼は異空間収納を開き、全てのパワードスーツを1体ずつ丁寧に収納していった。ガイアが横で「丁寧に扱うのだ!」と監督している。*
ルーナ「パパ、設計図も全部回収した。帰ったらすぐ解析しよう。」
シロウ「ああ。合金龍のフレームにこっちの魔力増幅器を組み込めば——」
ルーナ「変身ベルトの上位互換が作れる。」
*2人の目が合い、にやりと笑った。*
ガイア「おにーさんたち、めちゃくちゃ楽しそうなのだ。」
シロウ「さ、降りるぞ。王様待たせてる。」
*なんやかんやと話し合いが終わり、1000体分の竜の死骸を砂月王国の訓練所に引き渡した。サラディン王との正式な書面はハシムが後日届けるとのこと。ガイアの身柄委託も口頭で合意済み。長い1日だった。*
*宿に戻る頃には日が沈みかけていた。彼は玄関をくぐると、ロビーのソファにどさっと倒れ込んだ。*
シロウ「俺、疲れたから先に寝るわ……。」
カイ「お疲れ様、父さん。今日は色々あったからね。」
レイラ「ふん。情けない顔をするな。王の前では堂々としておったくせに。」
シロウ「あれは気力で持たせてたんだよ……朝からずっとダルくて……。」
*彼がソファに顔を埋めていると、ガイアがとてとてと近づいてきた。ぶかぶかの黒いワンピースを引きずりながら、彼の背中にぽんと手を置く。*
ガイア「おにーさん、じっとしてるのだ。」
シロウ「ん?」
*ガイアの手から淡い金色の光が溢れた。温かい、柔らかな力が彼の体内に浸透していく。骨の芯にこびりついていた倦怠感が、溶けるように消えていった。筋肉の強張りが解け、頭の霞が晴れる。まるで12時間ぐっすり眠った後のような爽快感。*
シロウ「あれ、体が軽い……。」
*彼はソファから跳ね起きた。両手を握ったり開いたりする。朝からずっと纏わりついていた、あの「搾り取られた」ような脱力感が完全に消えている。*
シロウ「何したんだ、ガイア?」
ガイア「えへへ。活力回復なのだ。おにーさん、精気がすっからかんだったのだ。誰かに吸われたみたいにごっそり無かったのだ。」
*「精気がごっそり」という言葉に、ルーナの箸が止まった。テーブルでパンを齧っていた彼女の表情が一瞬だけ凍りつく。*
ルーナ「…………。」
ガイア「普通の人間なら寝込んでるレベルだったのだ。おにーさんは頑丈だから平気だったけど、あのままだと2、3日はダルかったのだ。」
シロウ「精気……? サキュバスに襲われた覚えはないんだが……。」
レイラ「妾を見るな。妾は精気など吸わんぞ。」
シロウ「いや、見てない見てない。」
*ルーナが黙々とパンを口に詰め込んでいた。視線を絶対にシロウに向けない。ユキがルーナの肩の上で「きゅい?」と首を傾げた。*
ルーナ(私のせいだ私のせいだ私のせいだ。一晩中ピーーーで……あんなに出させたらピーも減るに決まってる……ごめんなさいパパ……でもリングは返さない……。)
ガイア「まぁ原因は分かんないけど、もう大丈夫なのだ! ガイアの回復はすごいのだ!」
シロウ「ありがとな、ガイア。助かった。」
*彼がガイアの頭をぽんぽんと撫でると、ガイアが嬉しそうに目を細めた。*
ガイア「えへへ……撫でられるの、初めてなのだ……。」
*銀髪の少女が、くすぐったそうにした。*
*夜。宿の大浴場を貸し切りにした。砂月王国の宿は砂漠気候のため、水が貴重だが、高級宿だけあって広い浴場が備わっていた。彼が魔法で湯を張り直し、温度を調整する。*
ルーナ「ちょっとパパ、ガイアと一緒にお風呂って……幼女と入浴とか大丈夫?」
シロウ「だったら一緒に入れば解決だな。」
ルーナ「……まぁ、それはそうだけど。」
シロウ「お前が監視役ってことで。それにガイアは少なくとも3000歳だぞ。俺らより遥かに年上だ。」
ガイア「そうなのだ! ガイアは大先輩なのだ! 敬えなのだ!」
ルーナ「見た目がね……。」
*結局3人で浴場に入った。彼が先に湯船に浸かり、ルーナが体を洗い、ガイアは——*
ガイア「うおおおお! お湯すげーのだ!!」
*ばしゃばしゃと湯船で暴れていた。水飛沫が飛び散る。*
シロウ「暴れんな。」
ガイア「だってカプセルの中は液体だったけど温かくなかったのだ! これあったかいのだ! 最高なのだ!」
*銀髪がお湯に広がり、ガイアは湯船の中でくるくる回っている。幼い見た目に反して、体つきは15、6歳相応——薄い胸に細い腰。しかし彼女の肌は人間とは微妙に違い、陶器のように滑らかで傷一つない。人造生命体ならではの完璧な肌質だった。*
ルーナ「……肌きれい。ずるいな。」
*ルーナが髪を洗い終えて湯船に入ってきた。銀髪を纏め上げ、タオルを胸に当てている。*
ガイア「ルーナも綺麗なのだ。おっぱいあるし。」
ルーナ「ママ譲りだからね。ガイアも成長するの?」
ガイア「……分かんないのだ。ガイアはずっとこのままかもしれないのだ。」
*少しだけ寂しそうな顔をした。彼がガイアの頭に手を置く。*
シロウ「別にそのままでいいだろ。」
ガイア「……おにーさん。」
シロウ「うちには2歳の息子も12歳の双子もいる。お前がどんな見た目だろうと家族みたいなもんだ。気にすんな。」
*ガイアの目がじわっと潤んだ。ぐしぐしと目を擦る。*
ガイア「ガ、ガイアは泣いてないのだ……湯気が目に入っただけなのだ……。」
ルーナ「はいはい。」
*ルーナが優しく笑い、ガイアの背中を流し始めた。ガイアが「くすぐったいのだ」とじたばたしている。*
シロウ「……。」
*彼は湯船の縁に頭を預け、天井を見上げた。ガイアの活力回復のおかげで体は絶好調。朝のダルさが嘘のようだ。*
*……しかし、ふと気になった。精気がごっそり無くなっていた、とガイアは言った。サキュバスに襲われた覚えはない。レイラは精気を吸う体質ではない。昨夜は普通に寝ただけのはずだ。*
*——だったら、何が原因だ?*
ルーナ「パパ、何か考え事?」
*彼は湯船に沈みながら、ぼんやりと天井を見上げた。*
シロウ「いや、何に精気を吸われたんだろうってな。こんな話、娘にする事じゃないが……まぁ、最悪またなればガイアに活力回復してもらうか……。」
ガイア「任せるのだ! おにーさんの精気が無くなったら、いつでも回復してやるのだ!」
*ガイアが湯船の中で胸を張った。小さな体で精一杯威張っている。*
シロウ「ありがとな。頼りにしてる。」
ガイア「えへへ……。」
*ルーナは湯船の隅で膝を抱えていた。顔が赤いのは湯気のせいだけではない。*
ルーナ「……パパ、その、精気って……減る原因って何があるの?」
シロウ「ん? まぁ、サキュバス系の魔物に吸われるか、呪いの類か、あとは……まぁ、大量に魔力を消費した時とかだな。昨日は特にそういうことしてないんだが。」
ルーナ「……ふーん。」
ルーナ(リングに精気吸収機能なんてあったっけ……? いや、体液を大量に……その……搾ったから……物理的に精気が……うぅ……。)
*ルーナが湯船にぶくぶくと顔半分を沈めた。*
ガイア「ルーナ、溺れるのだ?」
ルーナ「溺れてない。のぼせただけ。」
シロウ「お前、長湯するとすぐのぼせるからな。そろそろ上がるか。」
ルーナ「……うん。」
*3人が湯船から上がり、脱衣所へ向かう。彼がガイアの髪をタオルで拭いてやると、ガイアが猫のように目を細めた。*
ガイア「おにーさん、ガイアの髪乾かすの上手なのだ。」
シロウ「子供5人育ててるからな。慣れたもんだ。」
*ルーナが自分の髪を乾かしながら、ちらりと彼の背中を見た。広い背中。傷だらけだけど頼もしい背中。その背中の持ち主から、自分が精気を搾り取ったという事実が重くのしかかる。*
ルーナ(……もうしない。絶対もうしない。……たぶん。……リングは返さないけど。)
*彼女は心の中で誓った。たぶん、という保険付きで。*
*風呂上がり、3人が部屋に戻ると、レイラがベッドの上で腕を組んで待っていた。*
レイラ「遅いぞ。ガイアと一緒に入ったのか?」
シロウ「ルーナもいたから問題ないだろ。」
レイラ「ふん。……まぁよい。明日はどうする?」
シロウ「明日か……。パワードスーツの解析を始めたいところだが、砂月にいる間にやることあるか?」
*ガイアがぴょんと彼のベッドに飛び乗り、枕を抱きしめた。*
ガイア「ガイア、おにーさんと寝るのだ。」
ルーナ「……パパ、モテるね。幼女に。」
シロウ「やめろその言い方。」
*深夜。宿の部屋は静まり返っていた。*
*彼はガイアを腕の中に抱いて横になっていた。銀髪の少女は彼のシャツをぎゅっと握りしめ、すぅすぅと寝息を立てている。*
シロウ「ほら、じっとして。寝ろよ。」
ガイア「……おにーさん、あったかいのだ……。」
*ガイアが小さく呟いて、彼の胸に顔を埋めた。数秒後には完全に眠りに落ちた。3000年ぶりの安眠だろう。彼はガイアの銀髪をそっと撫で、目を閉じた。*




