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*レイラの最後の一撃がヴァルガルムの頭蓋を砕いた。*
*ドゴォォン!!*
*15メートルの巨体が崩れ落ち、赤い鬣の炎がゆっくりと消えていく。黄金の瞳から光が失われ、灼獄獅王は動かなくなった。*
レイラ「ふん……。妾を5回も爆発させた報いだ。」
*レイラは息を整えながら立っていた。服はもはや布切れが数枚引っかかっているだけの状態。太ももも腹部も背中も丸見えだった。しかし本人は全く気にしていない。*
シロウ「……お疲れ。はい、予備の服。」
*彼が異空間収納から替えの服を取り出してレイラに渡した。レイラはそれを無言でひったくり、柱の影で着替え始めた。*
*彼はヴァルガルムの死骸を異空間収納にしまい込んだ。テオにゃんの上位種。素材としても研究対象としても価値がある。*
シロウ「さて、更に下か。」
*B8への階段を降りた。非常扉を開けた瞬間、彼とルーナは同時に足を止めた。*
*そこには……無数のガラスケースが整然と並んでいた。中には緑色の溶媒液が満たされ、その中に竜の胎児が浮かんでいた。小型の砂竜。中型の砂竜。翼竜。そして……灼獄獅龍の幼体まで。*
*全てのケースから太いケーブルが伸び、壁面の巨大なコンピュータらしき装置に繋がっている。装置は微かに稼働していた。数千年経った今でも。*
ルーナ『……クローン培養施設。』
*ルーナが日本語で呟いた。彼女の顔は青ざめていた。*
シロウ『ああ。砂竜が異常発生してた原因はこれか。ここで量産されてたんだ。』
ハシム「こ、これは……何なのですか……?」
シロウ「簡単に言えば、竜を人工的に作り出す装置だ。こいつが動いてる限り、砂竜は無限に湧き続ける。」
ハシム「なっ……!?」
*ハシムが絶句した。砂月王国を長年苦しめてきた砂竜の異常発生。その根源がここにあった。*
シロウ「ルーナ、手伝え。ケーブル引っこ抜くぞ。」
ルーナ「了解。」
*2人は黙々と作業を開始した。ケースに繋がるケーブルを1本ずつ手作業で引き抜いていく。機械を壊せば簡単だが、爆発や暴走のリスクがある。地球の技術で作られたものだ。下手に破壊するのは危険だった。*
*1本、2本、5本、10本……。*
*レイラは着替え終え、腕を組んで壁に寄りかかっていた。*
レイラ「妾にもやらせろ。」
シロウ「お前にやらせたら引き抜くんじゃなくてケースごと粉砕するだろ。」
レイラ「……。」
*図星だった。*
*30分後。全てのケーブルが引き抜かれた。装置の稼働音が止まり、溶媒液の循環が停止する。ケースの中の胎児たちが動きを止めていく。*
シロウ「……終わった。これで竜の量産は止まる。」
ルーナ「砂月王国の竜問題、これで解決だね。」
*ルーナが額の汗を拭いて一息ついた。*
*彼とルーナがB9への階段を降りていく。レイラとハシムが後に続いた。*
*非常扉を開けた瞬間、白い光が目に飛び込んできた。*
*フロア全体に、拳大の球体がラックに整然と並んでいた。数百……いや、数千個。全てが淡い白色の光を放ち、微かに振動している。まるで心臓の鼓動のように。*
ルーナ『……うそ。』
*ルーナが息を呑んだ。彼も足を止めていた。*
*白い球体。中央にリング状のコイル。その構造は……。*
シロウ『アークリアクター……。』
*彼はラックから1つを手に取った。ずしりとした重量感。しかし数千年経っても稼働している。異常な耐久性だった。*
*彼はそれを床に置き、慎重に外殻を割った。内部構造が露わになる。精密に巻かれたコイル。そしてリング型の据えられた銀白色の金属片。*
シロウ「パラジウムだ。」
ルーナ『水素吸蔵合金……常温核融合の一種? いや、これは……。』
シロウ「水素式のフリーエネルギーだ。」
*彼は分解した部品を手のひらに並べて眺めた。コイル、リング型のパラジウム触媒、水素吸蔵セル。理論上は無限にエネルギーを生み出し続ける装置。地球では実用化されていなかったはずの技術が、ここでは完成形として数千個も並んでいる。*
ルーナ『父さん……これ、地球の技術だよね。でも地球にはこんなもの存在しない。少なくとも私が生きてた時代には。』
シロウ『ああ。つまり……俺たちより遥かに進んだ技術を持った奴が、この世界に来てたってことだ。あるいは……未来の地球から。』
*2人は日本語で小声で話し続けた。レイラとハシムには内容が分からない。*
レイラ「主、何をぶつぶつ言っておるのだ。」
シロウ「……説明すると長くなるんだが。簡単に言うと、この球体1個で街1つ分の魔力……いや、エネルギーを無限に生み出せる。」
ハシム「む、無限……!?」
*ハシムが球体に手を伸ばしかけ、慌てて引っ込めた。*
ハシム「こ、これが上の階の培養装置を動かしていたのですか……?」
シロウ「ああ。数千年間ずっと。燃料切れなし、メンテナンスなし。だからクローン製造が止まらなかった。」
*彼はフロアを見渡した。数千個のフリーエネルギー電池。1個で街1つを賄えるなら、ここにある分だけで大陸全体のエネルギーを賄える計算になる。*
ルーナ「……父さん、これ全部持って帰る?」
*ルーナの目がきらりと光った。前世のオタク魂が疼いているのが分かる。*
シロウ「当然。」
*彼は即答し、異空間収納を展開した。ラックごと片っ端から収納していく。*
レイラ「……また何か企んでおるな。その顔は。」
シロウ「企んでるんじゃない。閃いてるんだ。」
*彼の頭の中では既に計算が始まっていた。国のインフラ、迷宮の設備、新しい兵器開発……。使い道は無限にある。*
*彼はフロアの奥を見渡した。ラックの大半は既に異空間収納にしまい終えている。その時、壁際の隅に何かが転がっているのが目に入った。*
シロウ「ん? 何だこれ……。」
*白骨死体だった。壁にもたれかかるように座り、そのまま朽ちたのだろう。白衣らしき布の残骸が骨に引っかかっている。研究者か技術者か。数千年の時を経て、肉も髪も全て消え失せていた。*
*彼はしゃがみ込み、白骨の胸元を調べた。首からぶら下がっていた金属製のIDパスがかろうじて原型を留めている。表面は腐食が進んでいたが、文字がうっすらと読めた。*
シロウ『……日本語だ。』
*ルーナが横から覗き込んだ。*
ルーナ『「国立先端技術研究機構 第7研究室 主任研究員」……名前は読めない。腐食がひどすぎる。』
*そしてもう1つ。白骨の握りしめていた手の中に、密封された試験管があった。中には数本の髪の毛が保存されていた。密封が完璧だったのか、数千年経っても劣化していない。*
シロウ「髪の毛……DNA採取用か。一応入れておこう。」
*彼はIDパスと試験管を異空間収納にしまった。*
ルーナ『この人、地球からこの世界に来て……ここで死んだんだね。』
シロウ『ああ。しかも国の研究機関の人間だ。個人の転移じゃない。組織ぐるみの可能性がある。』
*2人は顔を見合わせた。答えは出ない。だが手がかりは増えた。*
*彼は立ち上がり、フロアの奥を確認した。B9の先には扉も階段もない。行き止まりだった。*
シロウ「この奥はもう無いか……上に戻ろう。」
ルーナ「うん。」
*4人は来た道を引き返し、階段を上り始めた。B8のクローン培養室を通過する。ケーブルを引き抜かれた装置は完全に沈黙していた。溶媒液が濁り始め、中の胎児はもう動かない。*
*B7の広大な空間を抜け、B6、B5と上がっていく。ルーナが蹴散らした砂竜の死骸がそこかしこに転がっていた。*
*B1のサーバールームを通過し、1階のエントランスに戻った。外から八輝将の戦闘音が聞こえる。まだ掃討戦が続いているようだった。*
ハシム「し、シロウ殿……今回の発見は、砂月王国にとって歴史を覆すほどの……。」
*ハシムは興奮で声が震えていた。羊皮紙のメモは既に10枚を超えている。*
シロウ「ああ。竜の量産装置は止めた。これで砂竜の異常発生は収まるはずだ。」
ハシム「感謝の言葉もありません……! 王にすぐ報告せねば……!」
カイ「おかえり、父さん。中はどうだった?」
*ユキがルーナの腕からするりと抜け出し、B1フロアをてくてくと歩き回っていた。好奇心旺盛な始祖竜は、崩れたサーバーラックの隙間を嗅ぎ回り、砂に埋もれた機材を鼻先でつついている。*
ルーナ「ユキー、あんまり遠くに行かないでー。」
ユキ「きゅい!」
*ユキが返事をしながらも止まらない。フロアの奥にある半壊した受付カウンターの裏側に回り込み……何かの台座にぴょんと飛び乗った。*
*カチッ。*
*台座のセンサーが反応した。数千年の沈黙を破り、天井に埋め込まれたスピーカーから音声が流れ出した。*
『おはようございます。IDをかざしてください。』
*澄んだ女性の機械音声。日本語だった。フロア全体に響き渡る。*
ハシム「ひぃぃぃぃっ!? な、何だ!? 何の声だ!? 敵か!? トラップか!?」
*ハシムが腰を抜かし、羊皮紙とペンを放り投げて四つん這いで後ずさった。*
ユキ「きゅいいいっ!?」
*ユキも自分が乗った台座から飛び上がり、全速力でルーナの元へ駆け戻った。ルーナの胸に飛び込み、ぶるぶると震えている。*
ルーナ「よしよし、大丈夫だよユキ。怖くないよ。」
*ルーナがユキを抱きしめながら、台座を見つめた。目が輝いている。*
ルーナ『……自動受付の音声案内だ。まだ生きてるんだ、このシステム。』
*台座は繰り返し同じ音声を流し続けている。*
『IDをかざしてください。IDをかざしてください。』
シロウ『……B9のフリーエネルギーが電力供給してたからな。ケーブルは培養装置のだけ抜いたが、ビル全体のインフラはまだ一部生きてるのか。』
*彼はポケットに手を入れ、先ほど回収したIDパスを取り出した。腐食が酷いが、形は残っている。*
レイラ「主、何をする気だ。」
シロウ「ちょっと試す。」
*彼が台座にIDパスをかざした。*
*数秒の沈黙。そして……。*
『……ID認証……エラー。損傷により読み取りできません。管理者権限でのオーバーライドが必要です。』
シロウ「やっぱりか。腐食が酷すぎるな。」
ハシム「し、シロウ殿……今のは……古代の……精霊の声……?」
シロウ「精霊じゃない。機械だ。ハシム、これは人が作ったものだ。」
ハシム「き、機械が喋る……? そんな魔道具が……。」
*ハシムは完全に混乱していた。彼の常識では理解できない光景が続きすぎている。*
カイ「父さん、中は大丈夫だったか? 何か凄い音が聞こえたけど。」
シロウ「ああ。竜の量産装置を止めた。これで砂竜の異常発生は収まる。……それと、色々面白いものが見つかった。」
カイ「面白いもの?」
シロウ「後で説明する。まずは八輝将の掃討が終わるのを待とう。」
*ルーナはユキを抱えたまま、まだ台座を名残惜しそうに見つめていた。*
*4人がビルの外に出た瞬間、目の前で銀色の装甲騎士が砂竜を蹴り飛ばしていた。*
リオン「ライダーキィィック!!」
*リオンの右足に白熱したエネルギーが集束し、中型の砂竜の胴体を貫いた。砂竜が爆発四散する。着地と同時に振り返り、背後から迫る別の砂竜に拳を叩き込む。*
リオン「ライダーパンチ!!」
*橙から白へと色が変わるエネルギーが砂竜の頭蓋を粉砕した。ワンパン。即死。次の砂竜が飛びかかってくるが、回し蹴りで3体まとめて吹き飛ばした。全てワンパンキル。*
シロウ「……さすが、俺の設計。」
*彼は腕を組んで満足げに頷いた。合金龍の力を宿した変身ベルト。大迷宮99階層の合金龍をエネルギー源とした最高傑作。リオンの動きは洗練されており、無駄がない。*
ハシム「あ、あの……シロウ殿、あの銀色の人は一体……?」
シロウ「さあ。」
ハシム「さあ、って……あの動き、明らかに八輝将の一人では……!?」
シロウ「知らないな。」
ハシム「し、知らないわけが……!」
*彼は完全にとぼけた。答える義理はない。ハシムが食い下がろうとしたが、リオンが最後の砂竜をライダーキックで爆散させた衝撃波で吹き飛ばされ、会話が中断した。*
ハシム「ぐわっ!?」
*リオンの変身が解除された。銀色の装甲が光の粒子となって散り、合金龍が転送魔法陣を通じて大迷宮へと帰還していく。中から現れたのは、やさぐれた顔の青年だった。*
リオン「……あー、疲れた。こっちは片付いたぞ。」
ルナ「お疲れ様、リオン。」
*ルナがリオンの隣に音もなく現れた。いつの間にそこにいたのか誰も気づかなかった。彼女の短剣には砂竜の体液がべっとりと付着している。*
カイン「東側、掃討完了。」
ドルガン「西も終わった。」
*八輝将が続々と集結してきた。アシュトンが記録用の羊皮紙を広げ、ヴァイスが淡々と戦闘データを口述している。ゲオルグが負傷した兵士の治療を行い、カイ・ウォーカーがフェンとイグニを労っていた。*
カイ「父さん、中の状況は?」
シロウ「竜の量産装置を停止させた。これで砂竜の異常発生は止まる。あと……色々持ち帰るものがある。詳しくは後で。」
*彼はカイに軽く手を挙げて答えた。*
ルーナ「……ユキ、降りて。重い。」
ユキ「きゅい……。」
*ユキはルーナの腕の中でまだ震えていた。B1の機械音声がよほど怖かったらしい。始祖竜の成体が飼い主に甘えてしがみつく光景に、ドルガンが苦笑した。*
ドルガン「あれが始祖竜か……。見た目は可愛いもんだな。」
ルーナ「可愛いでしょ。うちの子。」
*ルーナが誇らしげにユキを抱え直した。*
シロウ「俺が抱っこしようか?」
ユキ「きゅいっ!」
*ユキが彼の広げた腕に飛び込んできた。ずしりとした重量感。始祖竜の成体は見た目こそ小型犬程度だが、体重は普通の獣とは比べ物にならない。彼は身体強化を発動し、ユキを軽々と抱き上げた。*
シロウ「よしよし、怖かったな。機械の声なんて聞いたことないもんな。」
ユキ「きゅい……。」
*ユキが彼の胸に顔を埋めて甘えている。尻尾がぱたぱたと揺れていた。*
ルーナ「あ、ずるい。パパに取られた。」
シロウ「さて、帰ろうか。」
*彼が転移魔法陣を展開した。八輝将、カイ、ハシム、ルーナ、レイラ。全員が魔法陣の上に集合する。白い光が全員を包み込み、一瞬で砂月王国の首都に転移した。*
*夕暮れ時の街は活気に溢れていた。市場には香辛料と焼き肉の匂いが漂い、砂漠特有の乾いた風が吹き抜ける。*
ハシム「お、お疲れ様でした……! 今回の成果は直ちに王宮へ報告いたします! シロウ殿、本当にありがとうございました……!」
*ハシムが何度も頭を下げながら王宮の方へ駆けていった。羊皮紙の束を大事そうに抱えている。*
カイ「父さん、俺は八輝将と宿に戻る。明日の予定は?」
シロウ「明日は休みだ。疲れたからな……砂月王国の王と会談は明後日にしてもらった。今回の報酬の話もある。」
カイ「了解。じゃあまた明後日。」
*カイが八輝将を引き連れて宿へ向かった。リオンが欠伸をしながらついていく。ルナがリオンの袖を掴んで無言で歩いている。*
*残されたのは彼、レイラ、ルーナ、そしてユキ。*
レイラ「……妾は先に宿に戻る。風呂に入りたい。」
*レイラの服は替えたとはいえ、髪はまだ煤だらけだった。5回爆発した恨みが顔に滲んでいる。*
ルーナ「お疲れ、レイラさん。」
レイラ「……ルーナ。」
ルーナ「ん?」
レイラ「転がるのは……有効だったか。」
ルーナ「……うん。めっちゃ有効だった。」
レイラ「……覚えておく。」
*それだけ言って、レイラは背を向けて宿へ歩いていった。小さな背中がどこか不機嫌に揺れている。*
シロウ「……次から転がってくれるかな。」
ルーナ「無理だと思う。」
シロウ「だよな。」
*ユキを抱えたまま、彼とルーナも宿へ向かった。夕日が砂漠の街を橙色に染めている。*
シロウ「なぁ、ルーナよ。実は父さん、時空魔法が使えるのは知ってるよな?」
*彼は異空間収納に手を突っ込んだ。時空魔法の微細な波動が指先に集中する。収納空間内で、腐食したIDパスに時間逆行の魔力を流し込んだ。*
*数秒後、取り出されたIDパスは……新品同様に復元されていた。金属の光沢が蘇り、文字がくっきりと浮かび上がる。*
ルーナ「……!」
*ルーナの目が大きく見開かれた。IDパスの表面には日本語で印字されていた。*
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国立先端技術研究機構
第7研究室 主任研究員
氏名:桐谷 蓮
ID:NT-0074821
セキュリティクリアランス:レベル5
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*顔写真も鮮明に蘇っている。30代後半の日本人男性。眼鏡をかけた知的な顔立ち。*
ルーナ「桐谷……蓮……。聞いたことない名前。でもセキュリティクリアランス、レベル5って……相当上の人間だよね。」
シロウ「こっそり行っちゃう?」
*彼がにやりと笑った。ルーナは一瞬きょとんとし、すぐにその意味を理解した。*
ルーナ「……まさか、あのビルに戻って、このIDで認証を通すってこと?」
シロウ「自動AIが生きてた。IDをかざせって言ってただろ。復元したIDなら通る可能性がある。」
*ルーナの目がきらりと光った。前世のオタク魂が完全に点火している。*
ルーナ「行く。絶対行く。今すぐ行く。」
シロウ「レイラには内緒な。あいつ連れてくと壊す。」
ルーナ「分かってる。レイラママは風呂入ってるし、今がチャンスだね。」
*ユキが彼の腕の中で「きゅい?」と首を傾げた。また怖い声が聞こえる場所に行くのかと不安そうな顔をしている。*
ルーナ「ユキ、大丈夫。ママがいるから。」
ユキ「きゅい……。」
*全く安心していない顔だった。*
シロウ「よし、行くぞ。」
*彼が転移魔法を展開した。座標はB1フロア、あの台座の前。白い光が3人を包み込み……一瞬で遺跡ビルの内部に転移した。*
*B1のサーバールームは先ほどと変わらない。砂に埋もれた機材、崩れたラック。そして受付カウンターの裏にある台座が、微かな光を放ちながら待っていた。*
『IDをかざしてください。IDをかざしてください。』
*機械音声が繰り返している。彼は復元したIDパスを台座にかざした。*
*ピッ。*
『……ID認証完了。桐谷蓮主任研究員、おかえりなさい。セキュリティクリアランス:レベル5。全フロアへのアクセスが許可されています。』
*台座から青い光が広がり、フロア全体の照明が次々と点灯していった。蛍光灯……ではなく、LEDパネルが天井を白く照らし出す。*
ルーナ「うわぁ……。」
*数千年の埃を被りながらも、B1フロアの全貌が明らかになった。*
*彼は壁に貼られた案内図に時空魔法を当てた。色褪せてボロボロだった紙が、元の鮮やかなカラー印刷に蘇る。*
シロウ「高層ビルのくせに地下にしか行けなくて不思議だったんだよな。」
*復元された案内図を2人で覗き込んだ。日本語で書かれたフロアマップ。*
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【国立先端技術研究機構 第7研究棟】
30F~20F:居住区画
19F~15F:観測・通信施設
14F~10F:研究区画(生体工学)
9F~ 5F:研究区画(エネルギー工学)
4F~ 2F:管理・会議室
1F :エントランス・受付
B1 :サーバールーム
B2~B4 :資材倉庫
B5~B7 :実験区画(生体兵器)
B8 :培養施設
B9 :動力室
B10 :【機密】クリアランスLv.5以上
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ルーナ『……B10!? さっき行き止まりだったのに、まだ下があったの!?』
シロウ「1階はエントランスか……。上層階は居住区に観測施設、研究区画。ちゃんとした研究施設だったわけだ。」
ルーナ「しかも30階建て。居住区まである。ここに住み込みで研究してた人たちがいたってこと……。桐谷さんだけじゃなく、複数人の研究者が。」
*彼はIDパスを指で弾いた。*
シロウ「それよりルーナ、見ろ。B10。機密フロア。クリアランスLv.5以上。」
ルーナ「……桐谷さんのクリアランスがLv.5。つまりこのIDなら入れる。」
*2人の目が同時に輝いた。*
シロウ「まず上を見るか、下に行くか。」
ルーナ「下。絶対下。B10。」
*即答だった。オタク魂に火がついたルーナの目は真剣そのものだった。*
シロウ「だよな。」
*彼が台座に向かって声をかけた。*
シロウ「B10へのアクセスを許可してくれ。」
『桐谷主任研究員のクリアランスを確認。B10へのエレベーターを起動します。生体認証が必要です。エレベーター前のスキャナーに手のひらをかざしてください。』
*エントランスの奥で、先ほどまで完全に沈黙していたエレベーターの1基が低い駆動音と共に起動した。インジケーターが点灯する。*
ルーナ「エレベーター動くの!? 数千年前の!?」
シロウ「B9のフリーエネルギーが全部残ってたからな。電力は潤沢だ。問題は……生体認証。」
*彼は異空間収納から試験管を取り出した。中には桐谷蓮の髪の毛が入っている。*
シロウ「……DNA認証なら、これでいけるかもしれない。」
ルーナ「でも手のひらって言ってたよ。掌紋認証じゃない?」
シロウ「創造で何とかする。」
*彼はDNAから掌紋パターンを再構築する魔法を瞬時に組み上げた。髪の毛から抽出した遺伝情報を元に、自分の右手の表面に桐谷蓮の掌紋を一時的に再現する。*
ルーナ「……反則でしょ、それ。」
シロウ「異世界だからセーフ。」
*2人はエレベーターの前に立った。*
*エレベーターの扉が静かに開いた。内部は驚くほど綺麗だった。ステンレスの壁面が蛍光灯の光を反射し、数千年前のものとは思えない清潔さを保っている。密閉空間だったおかげだろう。*
*彼は3人分の認識阻害の結界膜を即座に展開した。光が薄い膜となってシロウ、ルーナ、ユキを包み込む。エレベーター内に足を踏み入れた瞬間、彼の目が天井の隅を捉えた。*
シロウ「やっぱりあったか……危なかった……。」
ルーナ「え? 何が?」
*ルーナが首を傾げた。彼は黙って天井の通気口カバーの裏を指さした。肉眼ではほぼ見えない位置に、極小のレンズが埋め込まれている。隠しカメラだ。*
ルーナ「……あ。」
シロウ「AIが生きてる以上、監視システムも稼働してる可能性がある。桐谷蓮の姿が映ってないのにIDだけ通ったら、セキュリティが作動するかもしれないからな。」
ルーナ「認識阻害なら映像にも映らないから、IDだけが勝手に認証された扱いになる……。」
シロウ「そういうこと。最悪、侵入者として扱われてB10に罠が待ってる可能性もあった。」
*ルーナがぞっとした顔をした。ユキは彼の腕の中で「きゅい……」と小さく震えている。エレベーターの閉塞感が怖いらしい。*
シロウ「大丈夫だ、ユキ。すぐ着く。」
*彼がパネルの「B10」ボタンを押した。ボタンが青く点灯し、エレベーターが静かに下降を始める。耳がわずかにツンとする。かなり深い。*
『B10フロアへ移動中。到着まで約30秒。本フロアは最高機密区画です。記録装置の持ち込みは禁止されています。』
ルーナ「記録装置の持ち込み禁止……。相当やばいもの置いてるってことだよね。」
シロウ「ああ。竜のクローン培養がB8で、フリーエネルギーがB9。その下にある機密フロアだ。」
*エレベーターが減速し、停止した。*
*ピンッ。*
『B10フロアに到着しました。桐谷主任研究員、お気をつけて。』
*扉がゆっくりと開いた。*
*その先に広がっていたのは……真っ白な廊下だった。無菌室のような清潔さ。天井のLEDが自動点灯し、廊下の奥まで白い光で満たされていく。壁には等間隔でガラス窓が並んでおり、その奥に個室が見えた。*
*そして廊下の中央、床に1枚のプレートが埋め込まれていた。日本語で刻まれた文字。*
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【Project:GENESIS/Gaia】
~ 異世界適応型人造生命体研究計画 ~
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ルーナ「……ジェネシス……異世界適応型……人造、生命体……?」
*ルーナの声が震えていた。*




