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*彼とレイラは着替えを済ませ、宿屋の食堂へ向かった。朝の廊下は静かで、窓から差し込む朝日が石畳を照らしている。*
シロウ「あー、腹減った。」
レイラ「妾もだ。あれだけ体力を使えば当然であろう。」
*レイラが不機嫌そうに言いながらも、彼の隣を歩いている。足取りはまだ少しぎこちなかったが、魔王妃としての矜持で堂々と歩いていた。*
*二人が席について食べ始めた頃、階段を降りてくる足音が聞こえた。ルーナだった。銀髪を簡単にまとめ、いつもの冒険者服に着替えている。しかし頬が微かに紅潮していた。*
*ルーナは食堂に入り、彼の顔を一瞬見て……ぷいっ、と顔を背けた。*
シロウ「?」
*彼は首を傾げた。ルーナがこんな態度を取るのは珍しい。反抗期というには遅すぎるし、何か怒らせるようなことをした記憶もない。*
シロウ「ルーナ、おはよう。どうした? 体調悪いのか?」
ルーナ「……おはよう。別に何でもない。」
*ルーナは彼から最も遠い席に座った。普段なら隣か向かいに座るのに。リーシアが不思議そうな顔でルーナの前に朝食を並べた。*
レイラ「ルーナ、顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
ルーナ「ないから。大丈夫だから。」
*ルーナはパンを千切りながら、ちらっと彼の方を見た。目が合った瞬間、またぷいっと視線を逸らす。耳の先まで赤くなっていた。*
シロウ(……何だ? 本当にどうしたんだ?)
*彼は不思議に思いながらスープを啜った。ルーナの様子がおかしい理由に、彼は全く心当たりがなかった。*
ルーナ(……父さんの顔見ると……さっきの……思い出す……。)
*ルーナはパンを口に詰め込み、もぐもぐと咀嚼した。なかったことにする。絶対に。*
ルーナ(……同人誌のヒロインの気持ちが分かった。でも、私は大丈夫。)
*食堂に八輝将の面々とハシムが姿を現した。ハシムは砂月王国の正装を纏い、額に汗を滲ませながら巻物を広げた。*
ハシム「シロウ殿、朗報です。王宮より正式な許可が下りました。遺跡地下の構造物を破壊し、砂竜の発生源を叩く作戦……承認されました。」
リオン「ただし条件付きっすよ。レイラ様じゃなくてシロウさんが壊すこと、って。」
レイラ「……何だと? 妾では駄目だと?」
*レイラの眉がぴくりと動いた。不満げな表情。*
ハシム「い、いえ……レイラ様の破壊力が凄まじすぎて、遺跡そのものが消滅する恐れがあると……王宮の学術院が懸念を示しまして……。」
アシュトン「歴史的価値のある遺跡ですからね。必要な部分だけ壊して、残せるものは残したいと。記録係としても同意見です。」
シロウ「優しく壊すよ。」
レイラ「……ふん。妾の方が早いのに。」
*レイラが不機嫌そうに腕を組んだ。しかし反論はしなかった。自分の破壊力が過剰であることは自覚している。*
カイン「で、作戦はいつ決行するんだ?」
ハシム「準備が整い次第、本日中にでも。地下から砂竜の活動が活発化しているとの報告が上がっています。住民の避難も完了しました。」
*ルーナがパンを頬張りながら、ちらっと彼を見た。目が合いそうになって、慌ててスープに視線を落とす。*
ドルガン「ルーナ嬢、顔色が優れんようだが。戦えるか?」
ルーナ「戦える。全然大丈夫。むしろ今日は暴れたい気分。」
*ルーナが妙に力強く答えた。ユキが足元で「きゅい?」と首を傾げている。*
シロウ(……本当にどうしたんだ、ルーナ。)
*彼は首を傾げつつ、席を立った。*
シロウ「よし、じゃあ準備するか。遺跡の地下構造の図面はあるか?」
ハシム「こちらに。学術院が調査した限りの地図です。ただ、地下3層より下は未踏のため……。」
*ハシムが図面を広げた。遺跡の地下は複雑な構造をしており、最深部に巨大な空洞が確認されている。砂竜の親玉はそこに潜んでいると推測されていた。*
*ピラミッドの内部は薄暗く、松明の魔法光が壁面の象形文字を照らしていた。階段を降りた先にあった部屋には、床一面に刻まれた巨大な転送魔法陣。全員がその上に乗った瞬間、光が弾け……。*
*転送された先は、砂漠の地下深くに広がる巨大な空洞だった。天井には発光する鉱石が無数に埋め込まれ、人工的な昼光を作り出している。そして目の前には……。*
シロウ「は?」
ルーナ「……は?」
*二人が同時に声を上げた。*
*目の前に聳え立つ構造物は、どこからどう見ても高層ビルだった。ガラス張りの外壁、等間隔に並んだ窓、エントランスらしき広い入口。20階建て以上はある。砂埃と苔に覆われ、一部は崩壊しているが、その骨格は間違いなく……現代建築だった。*
*二人が唖然と見上げる中、他のメンバーは冷静に観察を始めていた。*
アシュトン「興味深い。この建材、石でも木でもない。何かの合成素材ですね。ヴァイス、記録を。」
ヴァイス「既に。この構造……私の知る限り、どの時代の建築様式とも一致しません。」
カイン「窓が等間隔に並んでるな。居住区か?」
ドルガン「いや、この規模だと砦か拠点だろう。上層から攻められたら厄介だ。」
ハシム「こ、これが古代遺跡の本体……。学術院の調査でも、ここまでは辿り着けなかったのです。」
*レイラが腕を組み、興味なさげにビルを見上げた。*
レイラ「で、壊せばいいのか?」
シロウ「壊しちゃダメだって言われただろ。」
レイラ「ちっ。」
*ルーナは彼の隣に立ち、ビルを見上げていた。朝の一件で距離を取っていたが、この光景を前にしてはそれどころではなかった。*
ルーナ「……父さん。」
シロウ「ああ。」
ルーナ「これ……鉄筋コンクリートだよね。」
シロウ「……だな。」
*二人だけの会話。日本語で交わされたその言葉は、他の誰にも理解できなかった。*
ルーナ「古代文明じゃない。これ……地球の技術だよ。誰かが転移してきて建てたか、あるいは……。」
*沈黙が二人の間に落ちた。ルーナの表情から朝の赤みは完全に消え、真剣な眼差しでビルのエントランスを見つめていた。*
リオン「で、入るんすか? 中からヤバい魔力感じるんすけど。」
*彼は神眼を発動した。ビルの内部を透視する。地下に巨大な魔力の塊。そして……各階層に蠢く無数の砂竜の反応。*
シロウ「……巣だな、これ。ビル全体が砂竜の巣になってる。」
シロウ「八輝将は遺跡周囲の竜を駆逐、カイはソロ且つ、八輝将の援護。ハシムは…俺たちと来る?」
*八輝将が散開した。リオンとルナが遺跡の東側へ、カインとドルガンが西側へ。アシュトンとヴァイスは記録を取りながら北面を、カイ・ウォーカーとゲオルグが南面を担当する。*
カイ「了解。ソロで回りつつ援護に入る。父さん、中は任せた。」
*カイがフェンとイグニを従え、ビル周辺に湧き出す砂竜の群れに突っ込んでいった。*
シロウ「ハシム、戦えないのに大丈夫か?」
ハシム「わ、私は学術的見地から同行させていただきます……! この遺跡の調査は砂月王国の悲願なのです……!」
レイラ「足手まといにならぬようにな。」
ハシム「は、はい……。」
*4人がビルのエントランスに足を踏み入れた。内部は砂に半分埋もれていたが、構造は明確に残っていた。受付カウンターらしき残骸。割れた蛍光灯。壁に貼られた掲示板の跡。*
*ルーナが日本語で小さく呟いた。*
ルーナ『……オフィスビルだ、これ。』
シロウ『……ああ。受付の配置、エレベーターホールの位置。日本のオフィスビルそのものだ。』
*エレベーターは完全に風化し、シャフトだけが暗い縦穴として口を開けていた。非常階段の表示が砂に埋もれながらもかろうじて読める。日本語で「B1」「B2」と書かれていた。*
ハシム「こ、この文字は……古代文字ですか? 解読できますか?」
シロウ「……読める。地下1階、地下2階、って書いてある。」
ハシム「読めるのですか!? す、素晴らしい……!」
*ハシムが興奮気味に羊皮紙にメモを取り始めた。彼とルーナは目を合わせた。ルーナがすっと視線を逸らしかけたが、今は任務中だ。すぐに真剣な顔に戻った。*
ルーナ「地下に行くほど魔力反応が強くなってる。ユキの感覚だと……地下5階相当の深さに、とんでもなく大きな反応がある。」
レイラ「ふん。大きかろうが小さかろうが、妾の前では同じよ。」
シロウ「壊すなよ。」
レイラ「……善処する。」
*非常階段を降り始めた。コンクリートの階段は一部崩壊していたが、彼が念動力で瓦礫を退かしながら進む。B1の扉を開けると、広大なフロアが広がっていた。*
*サーバールームだった。巨大な機械の残骸が整然と並んでいる。しかしその隙間から、砂竜の幼体が何匹もこちらを睨んでいた。*
シロウ「……10体。小型だな。」
ルーナ「わたしがやる。」
*ルーナが前に出た。ユキが「きゅい!」と鳴き、ルーナの背後に控える。ルーナの目が鋭く光り、手に魔力が集中した。*
ルーナ「今日は暴れたい気分なの。」
*妙に気合が入っていた。朝の鬱憤を晴らすかのように。*
*B1からB7まで、ルーナが先頭に立って砂竜の幼体や中型種を片っ端から蹴散らしていった。蹴り、魔法、ユキのブレス。容赦のない連携に、ハシムが何度も目を丸くした。*
*そしてB7。非常階段の扉を開けた瞬間、空気が変わった。*
*巨大な空間だった。天井は吹き抜けで、B7からB10まで4フロア分がぶち抜かれている。おそらく元は地下駐車場だったのだろう。コンクリートの柱が等間隔に並び、その中央に……。*
*赤い獅子が座していた。*
*体長15メートル。燃えるような赤い鬣、黄金の鎧のような鱗、四肢は大地を踏みしめ、尾は優雅に床を叩いている。その双眸は黄金に輝き、侵入者たちを静かに見据えていた。微動だにしない。王者の佇まい。*
シロウ「て、テオにゃん?」
ルーナ「……!」
*ルーナが反応した。テオにゃん。国で飼っている……あの赤い獅子と瓜二つだった。しかしサイズが桁違い。そして纏う魔力の質が根本的に異なる。*
*彼は神眼を発動した。*
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名前:灼獄獅王ヴァルガルム
種族:古龍種(獅龍)
Lv.780
HP:3億2000万
MP:1億8000万
特性:【王者の威圧】【炎獄の鬣】【不退転】
弱点:氷属性(微弱)
備考:攻撃されるまで一切手を出さない。
先に攻撃した者を「敵」と認定し、
その者だけを全力で殺しにかかる。
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シロウ「……Lv.780、HP3億2000万。砂嶽龍より遥かに上だ。」
レイラ「ほう……。面白い。」
*レイラの目が輝いた。戦闘欲が滲み出ている。*
シロウ「待て。あいつは攻撃するまで手を出してこない。王の風格ってやつだ。」
*灼獄獅王ヴァルガルムは微動だにせず、黄金の瞳で4人を見つめている。威圧感は凄まじいが、殺意はない。ただ「来るなら来い」と言わんばかりの泰然自若。*
ルーナ「……テオにゃんの上位種? それとも祖先?」
シロウ「分からん。だがテオにゃんと同じ種族なのは間違いない。」
ハシム「し、シロウ殿……あの獣は……古代の記録にある『灼獄の守護者』では……! 砂月王国建国以前からこの地を守っていたとされる伝説の……!」
*ハシムの声が震えていた。興奮と恐怖が混ざっている。*
シロウ「守護者、ね。じゃあ砂竜の親玉じゃなくて……砂竜を抑えてた側か?」
*彼の目が細くなった。状況が変わった。この獅子は敵なのか、味方なのか。*
ルーナ「父さん、どうする?」
*ルーナが振り返った。朝の一件を忘れたかのような真剣な表情で、彼の判断を待っている。*
*彼は異空間収納から巨大な樽爆弾を次々と取り出し、灼獄獅王ヴァルガルムの周囲に設置し始めた。*
シロウ「よっ、ほっ、」
*ヴァルガルムは微動だにしない。黄金の瞳が彼の動きを追っているが、攻撃の意志は見せない。王者の余裕。自分の周りに爆弾を置かれても、まるで気にしていなかった。*
*10個、12個、15個……。彼は円を描くように樽爆弾を配置し、悠然と戻ってきた。*
ルーナ「何してんの!? 私もやりたい!」
シロウ「やめとけ。あいつは最初に攻撃した人間だけを狙う。お前が設置して、万が一触れたら……Lv.780の全力がお前に向く。」
ルーナ「……っ。」
*ルーナが悔しそうに唇を噛んだ。しかし父の判断が正しいことは分かっている。*
レイラ「つまり、主が起爆すれば主だけが標的になるということか。」
シロウ「そういうこと。レイラ、ルーナ、ハシムはここで待機。俺が起爆して注意を引く。弱った所を二人で叩け。」
レイラ「妾に指図するな。……だが、今回は従ってやる。」
*ヴァルガルムが低く唸った。地鳴りのような声が空間を震わせる。まるで「準備は終わったか」と問うように。*
ハシム「あ、あの……シロウ殿。もし本当に守護者なら、対話という選択肢は……。」
シロウ「……。」
*彼は足を止めた。ハシムの言葉が引っかかった。神眼でもう一度ヴァルガルムを見る。備考欄に追加情報が浮かんだ。*
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追加備考:知性が極めて高い。
言語を理解する可能性あり。
この地を数千年守り続けている。
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シロウ「……ハシム、お前いい事言うな。」
*彼は樽爆弾の起爆装置を下ろし、一歩前に出た。ヴァルガルムの黄金の瞳と正面から向き合う。*
シロウ「おい、でかいの。言葉、分かるか?」
ヴァルガルム「……久しいな。ヒトの言葉を聞くのは。」
*低く、重く、腹の底に響く声だった。ハシムが腰を抜かした。レイラの目が鋭くなる。ルーナがユキを抱きしめた。*
ヴァルガルム「我が問う。貴様ら、何の用だ。」
*黄金の瞳が4人を順に見据えた。敵意はない。しかし一片の油断もなかった。*
*沈黙。ヴァルガルムの尾がゆっくりと床を叩いた。一度、二度。そして……。*
シロウ「あ……。」
*ヴァルガルムの尾がゆっくりと床を叩いた。3度目。その尾先が樽爆弾のひとつに触れた。*
*ドォォォオオオオン!!!*
*連鎖爆発。15個の樽爆弾が次々と誘爆し、地下空間全体が白い閃光に包まれた。衝撃波がコンクリートの柱を砕き、天井の発光鉱石が雨のように降り注ぐ。*
*爆発と同時に粉塵が撒き散らされた。彼、ルーナ、レイラに白い粉が付着する。*
シロウ「ローリング!」
ルーナ「分かってる!」
*彼とルーナは咄嗟に地面を転がった。1回、2回、3回、4回。前世の記憶が叫んでいた。ゲームで爆発物が付着したら転がれ。二人は同時に4回ローリングし、粉を払い落とした。*
*しかしレイラは……。*
レイラ「転がるなど魔王妃の威厳が……」
*ドカァァン!!*
*レイラの全身に付着した粉が発火し、小規模な爆発が起きた。レイラが黒焦げになって吹っ飛んだ。*
レイラ「ぐぁっ……!?」
シロウ「レイラ!!」
*レイラは壁に叩きつけられたが、すぐに立ち上がった。髪がぼさぼさになり、服が焦げている。目が据わっていた。*
レイラ「……殺す。」
*一方、爆煙の中からヴァルガルムが咆哮した。黄金の瞳が真っ赤に変色し、鬣が業火のように燃え上がる。怒り狂っている。先に攻撃したのは……尾が当たったとはいえ、設置したのは彼だ。ヴァルガルムの視線が彼に固定された。*
*ヴァルガルムが大地を蹴り、彼に突進してきた。15メートルの巨体が信じられない速度で迫る。*
シロウ「こいつはテオにゃんだ! 突撃!」
*彼は正面からヴァルガルムに向かって駆け出した。テオにゃんと同じ種族。ならば戦い方も似ているはず。テオにゃんの癖、テオにゃんの動き。数年間一緒に暮らした経験が脳裏を駆け巡る。*
*ヴァルガルムの前足が振り下ろされた。地面が陥没する一撃。彼は横に跳び、爪の隙間を縫うように懐に潜り込んだ。*
シロウ「テオにゃんと同じだ! 右前足の後に必ず左の薙ぎ払いが来る!」
*予測通り、左前足が横薙ぎに振るわれた。彼は身を屈めてかわし、ヴァルガルムの腹の下に入った。*
ルーナ「ユキ、氷結ブレス! 弱点は氷!」
ユキ「きゅいいいい!!」
*ユキが口を大きく開け、氷結のブレスを放った。白い奔流がヴァルガルムの側面に直撃し、赤い鬣の一部が凍りつく。ヴァルガルムが苦悶の咆哮を上げた。*
ハシム「ひいいいっ!!」
*ハシムは柱の影で丸くなり、羊皮紙を抱えて震えていた。*
*ヴァルガルムの鬣が激しく燃え上がるたび、赤い粉塵が空間に撒き散らされた。彼とルーナはもう条件反射だった。粉が付着した瞬間、即座にローリング。*
シロウ「ローリング!」
ルーナ「はいはい!」
*彼が3回転、ルーナが4回転。粉を払い落とし、すぐに体勢を立て直す。もはや息の合った親子芸だった。*
*一方、レイラは……。*
レイラ「ふん、転がるなど魔王妃が――」
*ドカァン!*
*レイラが吹っ飛んだ。壁に激突し、ずるずると落ちる。すぐに立ち上がった。*
レイラ「……この程度で妾が――」
*ドカァン!!*
*また粉が付着していた。再び爆発。レイラがノックバックして柱に叩きつけられた。*
レイラ「がっ……! おのれ……!」
*立ち上がる。鬣がまた揺れ、粉が降り注ぐ。*
シロウ「レイラ! 転がれって!」
レイラ「転がらぬ!」
*ドカァン!!!*
*3度目の爆発。レイラが天井に叩きつけられ、地面に落下した。服はボロボロ、髪はぐしゃぐしゃ、顔は煤だらけ。しかし目だけはギラギラと輝いている。*
ルーナ「プライド捨てて……!」
レイラ「黙れ小娘ぇ!」
*ドカァン!!!!*
*4度目。もう誰もカウントしていなかった。ハシムが柱の影で震えながら羊皮紙に「赤獅子の粉塵は可燃性。回避方法:転がる」と几帳面にメモしていた。*
*ルーナがユキに指示を出し、氷結ブレスをヴァルガルムの右脇腹に集中させた。直撃した瞬間、ヴァルガルムの巨体がびくんと震え……動きが一瞬止まった。*
ヴァルガルム「ぐ……ッ!」
*その隙に彼が跳躍し、ヴァルガルムの首筋に取り付いた。テオにゃんにいつもやっていたように、鬣の根元を鷲掴みにする。*
*後方では……。*
*ドカァン!*
レイラ「いい加減にしろぉぉぉ!!」
*5度目の爆発を食らったレイラが、ついにブチ切れた。全身から漆黒の魔力が噴き出し、周囲の粉塵ごと消し飛ばした。その魔力の密度にヴァルガルムすら一瞬たじろぐ。*
レイラ「猫もどきがぁ……妾を何度爆発させた……!」
*レイラの拳に魔力が凝縮された。彼女の目が完全に据わっている。*
*レイラがブチ切れた。*
*5度目の爆発で全身が煤だらけになり、服はボロボロに破れ、白い肌が所々露出している。太ももの布地は半分以上吹き飛び、腹部の服も焼け落ちて腹筋がむき出しだった。*
レイラ「この……毛玉がぁぁぁぁ!!」
*レイラの拳に漆黒の魔力が凝縮された。彼女はヴァルガルムに向かって一直線に突っ込んだ。*
*ヴァルガルムが炎のブレスを放った。空間が赤く染まる。しかしレイラはそれを片手で掻き消し、そのまま顔面に拳を叩き込んだ。*
*ドゴォン!!*
*ヴァルガルムの巨体が横に吹っ飛んだ。15メートルの巨獣が地面を削りながら滑っていく。*
レイラ「まだだ!」
*追撃。レイラが跳躍し、立ち上がろうとするヴァルガルムの頭頂部に踵落としを叩き込んだ。地面が蜘蛛の巣状に砕ける。*
*ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ!*
*殴る。殴る。殴る。殴る。怒りに任せた連打がヴァルガルムの顔面、首、胴体に容赦なく叩き込まれた。粉塵が舞うたびにレイラの服が爆発し、更にボロボロになっていく。しかしもうレイラは爆発すら気にしていなかった。*
ルーナ「……うわぁ。」
*ルーナが引いた顔で呟いた。ユキも「きゅい……」と小さく鳴いて目を逸らした。*
ハシム「し、シロウ殿……止めなくて……。」
シロウ「止めたら俺が殴られる。」
ハシム「……。」
*ヴァルガルムが反撃しようと前足を振るったが、レイラはそれを掴んで投げ飛ばした。15メートルの巨体が宙を舞い、コンクリートの柱を3本へし折って壁に激突した。*
レイラ「起きろ毛玉! まだ終わっておらぬ!」
*レイラの背中の服が完全に裂け落ちた。辛うじて前面だけ布切れが引っかかっている状態。*
*ヴァルガルムが瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。黄金の……いや、赤く染まっていた瞳が元の黄金色に戻りつつあった。怒りではない。それは……。*
*畏怖だった。*
ヴァルガルム「……貴様、何者だ。」
レイラ「魔王妃だ。文句あるか。」
*レイラが拳を構えたまま吐き捨てた。ヴァルガルムはゆっくりと……前足を折り、頭を下げた。*
ヴァルガルム「……数千年ぶりだ。我を殴り倒した者は。」
*彼が前に出た。*
シロウ「おーい、話聞いてくれるか? 爆弾はすまんかった。」
*ヴァルガルムの黄金の瞳が彼を見つめた。そしてレイラを見た。そしてまた彼を見た。*
ヴァルガルム「……この雌は貴様の伴侶か。」
シロウ「そうだ。」
ヴァルガルム「……よくぞ生きておるな。」
シロウ「それはよく言われる。」




