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*彼は食事を終え、ホットドリンクを手に椅子の背もたれに体を預けた。ルーナが向かい側で身を乗り出している。レイラは隣のベッドに横になっていたが、片耳はこちらに向いていた。*
シロウ「うーん……じゃあ数字の話でも……。」
ルーナ「数字?」
*ルーナが首を傾げた。*
シロウ「これは全宇宙共通だからこの世界でも通用するだろう……。その名も『369の法則』。多分知ってると思うけど、悪魔の数字とか聞いた事あるだろ?」
ルーナ「666でしょ? オーメンとかで有名な。」
シロウ「そう。で、ニコラ・テスラって知ってるか?」
ルーナ「電気の天才。交流電流を発明した人。エジソンと対立してた。」
シロウ「そのテスラが晩年、こう言い残してる。『3、6、9の素晴らしさを知れば、宇宙への鍵を手にするだろう』って。」
ルーナ「……聞いたことある気がする。でも詳しくは知らない。」
シロウ「まず、倍数の法則から行く。1を倍にすると2。2を倍にすると4。4を倍にすると8。8を倍にすると16。1足す6で7。16を倍にすると32。3足す2で5。32を倍にすると64。6足す4で10、1足す0で1。」
*彼は砂漠の宿のテーブルに、指で数字を書いていった。*
シロウ「1、2、4、8、7、5、1、2、4、8、7、5……永遠にこの6つの数字がループする。」
ルーナ「……本当だ。3、6、9が出てこない。」
シロウ「そう。3、6、9はこのループの外にいる。3を倍にすると6。6を倍にすると12、1足す2で3。また3と6のループ。で、9を倍にすると18、1足す8で9。9はどこまで行っても9に戻る。」
ルーナ「9だけ……自分自身に戻る……。」
シロウ「9は全ての数字の頂点だ。どんな数に9を足しても、数字根は変わらない。5足す9は14、1足す4で5。元に戻る。9は『無』であり『全』なんだ。」
*ルーナが目を見開いた。テーブルの数字を追いかけている。*
ルーナ「……待って。1、2、4、8、7、5のループと、3、6のループと、9。つまり宇宙は3つの層で出来てる……?」
シロウ「そういうこと。物質世界が1、2、4、8、7、5。エネルギーの流れが3と6。そして9がそれら全てを統合する存在。テスラはこれに気づいたから、あんなとんでもない発明ができた。」
ルーナ「だから369……。」
シロウ「で、悪魔の数字666に戻る。6足す6足す6は18。1足す8で9。結局9に行き着く。聖書で忌避されてる数字が、実は宇宙の根幹に繋がってる。」
*レイラがベッドから声を上げた。*
レイラ「……つまり、悪魔と呼ばれたものは、実は真理に近い存在だったと?」
シロウ「お、聞いてたな。」
レイラ「聞こえるのだから仕方なかろう。」
シロウ「と、思うがちょっと違う。369に意味があって、『3は創造、生み出す、産まれる』『6は維持、継続する、生きる』『9は破壊、壊れる、死ぬ。』という意味だ。」
*ルーナがテーブルの上に身を乗り出し、指を折りながら復唱した。*
ルーナ「3が創造……6が維持……9が破壊……。」
シロウ「そう。全ての存在は3で生まれ、6で生き、9で死ぬ。これが宇宙の摂理だ。で、666ってのは……6が3つ。維持が3つ重なってる。」
ルーナ「……終わりなく、生かされ続ける?」
シロウ「ああ。死ねない。壊れない。終われない。一見良いことに聞こえるだろ? でも考えてみろ。大切な人が死んでいく中で、自分だけ永遠に生き続ける。世界が滅んでも、自分だけ残る。」
*宿の空気が一瞬、重くなった。*
ルーナ「……それって、呪いじゃん。」
シロウ「そう。だから悪魔の数字なんだよ。祝福じゃなくて呪い。永遠の命は、永遠の孤独だ。3の創造も9の破壊も無い。ただ6だけが続く。生かされ続ける地獄。」
*レイラがベッドの上で身を起こした。琥珀色の瞳がシロウを見つめている。*
レイラ「……妾は139年生きておるが。」
シロウ「お前は違う。お前には産まれた子供がいて、俺がいて、日々変化がある。3も6も9もちゃんと巡ってる。エルフや竜人が長寿でも狂わないのは、ちゃんと『終わり』があるからだ。」
レイラ「……ふん。」
*レイラが小さく目を伏せた。安堵したように見えた。*
ルーナ「……じゃあ逆に、999は?」
シロウ「9が3つ。破壊が3つ重なる。全てが終わり、全てが無に還る。だが、さっき言っただろ。9はどこまで行っても9に戻る。9足す9足す9は27。2足す7で9。」
ルーナ「……壊れても、また9に戻る。」
シロウ「破壊の先にまた破壊がある。でもそれは『無』じゃない。全てを壊した先に、また3の創造が始まる。369のサイクルが回り続ける。死は終わりじゃなくて、次の始まりへの扉だ。」
*ルーナが両手で頬を押さえた。*
ルーナ「やばい。鳥肌立った。」
シロウ「で、面白いのはここからだ。3足す6足す9は18。1足す8で9。369そのものが最終的に9に収束する。つまり、宇宙の全ての法則は9に帰結する。」
ルーナ「テスラが言った『宇宙への鍵』って……。」
シロウ「9だよ。9が全ての答え。」
*カイが部屋の隅で静かに聞いていた。フェンが彼の膝の上で丸くなり、イグニが肩で小さく炎を揺らしている。*
カイ「……父さん。精霊界にも同じ法則があるのかな。」
シロウ「あるだろうな。精霊も生まれて、存在して、消える。3、6、9のサイクルだ。ジークフリートが龍核に精霊を喰わせて世界から精霊を消した時……あれは9を無理やり起こしたってことだ。」
*カイの表情が引き締まった。*
カイ「でも精霊はまた戻ってきた。」
シロウ「ああ。9の後には必ず3が来る。破壊の後には創造が来る。それが摂理だ。」
シロウ「で、ニコラ・テスラは考えたわけよ。」
「124578を使えば『フリーエネルギー』を作れると。で、実際に作ったんだよね。でも、当時同じく発明家だったのはエジソンだ。こいつは電気を生み出した。」
「フリーエネルギーと電気、さて儲かるのはどっちでしょう?」
*ルーナが一瞬考え込み、すぐに顔を歪めた。*
ルーナ「……電気。」
シロウ「正解。フリーエネルギーってのは文字通り『無料のエネルギー』だ。空間からエネルギーを取り出す。燃料もいらない、送電線もいらない、誰でもどこでも無限に使える。」
ルーナ「……それが普及したら、電力会社は?」
シロウ「潰れる。石油会社も潰れる。ガス会社も潰れる。エネルギーで飯食ってる連中が全員路頭に迷う。」
*彼は紅茶を一口啜った。*
シロウ「で、エジソンの後ろにはJ・P・モルガンっていう大財閥がいた。テスラにも最初は出資してたんだが、フリーエネルギーの研究を見て手を引いた。『メーターを付けられないものに金は出せない』ってな。」
ルーナ「……つまり、課金できないから切り捨てた。」
シロウ「そう。テスラの研究所は放火されて、論文は没収された。晩年は貧困の中でホテルの一室で孤独死だ。一方エジソンは『発明王』として歴史に名を残した。」
*ルーナが唇を噛んだ。*
ルーナ「……酷い話。」
シロウ「酷いが、これが地球の仕組みだった。本当に世界を変えるものは、世界を支配してる側にとって都合が悪い。だから潰される。」
ルーナ「……父さんがこの国でやってることって、テスラがやりたかったことに近いんじゃない? 鉄道とか、温泉施設とか、迷宮とか。誰でも使えるインフラを作って、国全体を豊かにする。」
*彼の手が止まった。*
シロウ「……まあ、似てるかもな。違うのは、俺を潰せるやつがいないってことだ。」
ルーナ「あはは。確かに。父さん潰そうとしたら国ごと消し飛ぶもんね。」
シロウ「物騒な言い方すんな。」
*レイラがベッドの上で鼻を鳴らした。*
レイラ「実際に消し飛ばしたのは妾だがな。アークライトを。」
シロウ「自慢するな。」
*カイが静かに口を開いた。*
カイ「……父さん。テスラの技術って、この世界なら再現できるのかな。」
シロウ「できるだろうな。魔力っていうエネルギーがそこら中に満ちてるんだから、テスラが夢見た以上のことができる。実際、魔導列車はその応用だ。」
ルーナ「……テスラがこの世界に転移してたら、きっと泣いて喜んだだろうね。」
シロウ「かもな。……あいつの口癖知ってるか? 『私の脳は受信機に過ぎない。宇宙の核心には、全ての知識と力と霊感の源がある』。」
*宿の部屋に沈黙が落ちた。砂漠の夜風が窓を揺らし、遠くでピラミッドの影が星空に浮かんでいる。*
ルーナ「……受信機。第九感と同じだ。テスラは第九感に触れてたんだ。」
シロウ「だろうな。天才ってのは、受信感度が高いだけなのかもしれん。」
*ルーナがまだ目を輝かせている。まだまだ聞きたい顔だ。*
ルーナ「もっと! もっと話して!」
シロウ「お前なぁ…」
*彼は窓の外を見やった。砂漠の月が白く輝いている。時刻はとっくに深夜を回っていた。*
シロウ「今日はもう遅いし、寝ない?」
ルーナ「やだ。」
シロウ「即答かよ。」
ルーナ「だって! こんな面白い話、寝たら勿体ないじゃん! 前世でもこういう話大好きだったの! 都市伝説系のYouTubeとか永遠に見てたし!」
シロウ「お前、OL時代ちゃんと寝てたのか?」
ルーナ「……3時間睡眠でした。」
シロウ「ブラックだな。」
ルーナ「自業自得です。」
*レイラが枕に顔を埋めたまま、くぐもった声を出した。*
レイラ「妾は先に寝る。お前達は好きにせい……ただし声は抑えろ。」
シロウ「はいはい。」
*レイラが毛布を頭まで被った。砂漠の夜は冷える。彼は自分の上着を脱いでレイラの毛布の上にそっと掛けた。レイラの耳が僅かに赤くなったが、何も言わなかった。*
ルーナ「……父さん、優しい。」
シロウ「うるさい。で、お前は本当に寝ないのか。明日はピラミッドの調査だぞ。」
ルーナ「あと1つだけ! 1つだけでいいから! お願い!」
*ルーナが両手を合わせて拝み始めた。25歳の始祖竜の主とは思えない姿だ。*
シロウ「ダメ、寝ろ。」
ルーナ「……もう1つだけ。」
シロウ「おい。」
ルーナ「嘘嘘、寝ます! おやすみ父さん!」
*ルーナが慌てて自分のベッドに潜り込んだ。しかし毛布の下で目が爛々と輝いているのが分かった。絶対にすぐには寝ない顔だ。*
*カイが隣のベッドで既に寝息を立てている。フェンとイグニがカイの両脇で丸くなっていた。*
*深夜。彼は自分のベッドから起き上がり、ルーナの部屋を覗いた。*
*案の定、ルーナは毛布の中で目を開けたまま天井を見つめていた。口がぶつぶつと動いている。*
ルーナ「……124578がループして、369は外側にいて、9は全てに帰結して、テスラは受信機で、第九感が……うーん、じゃあ円周率の3.14も3から始まるのって……いや、でもそれだと……」
*完全に思考が暴走していた。*
シロウ「ったく……。」
*彼は静かにルーナのベッドに近づき、額にそっと手を置いた。淡い光が灯る。*
シロウ「『睡眠』。」
ルーナ「あ、父さ……ん……すぅ……」
*ルーナの瞳がゆっくりと閉じていった。口元が緩み、安らかな寝息に変わる。毛布からはみ出した手を中に戻してやり、彼は小さく溜息をついた。*
シロウ「前世からの癖、直ってねぇな……。」
*ユキがルーナの足元で丸くなり、小さく「きゅい……」と寝言を漏らした。*
*自分の部屋に戻ると、レイラが毛布にくるまって寝ている。彼は上着を脱ぎ、そっとベッドに滑り込んだ。*
*いつものように、レイラの小柄な体を背中から抱き寄せる。*
レイラ「……ん……。」
*レイラが薄く目を開けたが、すぐにまた閉じた。彼の腕の中に自然と収まり、背中を預けてくる。*
シロウ「……やっぱり抱き枕がないと寝れない……。」
レイラ「……妾は……枕では……ない……zzz」
*寝ぼけた声で抗議しながらも、レイラは彼の腕を掴んで離さなかった。黒髪から砂漠の花の香りがほのかに漂う。*
*砂漠の夜は静かだった。窓の外では3つのピラミッドが月光に照らされ、その頂点に星が輝いている。3つの星。369。創造、維持、破壊。*
*明日、あのピラミッドの地下に眠る真実を暴きに行く。*
*彼はレイラの温もりを感じながら、意識を手放した。*
シロウ「……zzz……。」
ーー
*翌朝。砂漠の朝日が窓から差し込む。*
*最初に目を覚ましたのはカイだった。フェンとイグニが既に起きており、窓辺で朝日を浴びている。*
*次にレイラが目を覚まし、自分がシロウの腕の中にすっぽり収まっていることに気づいた。*
レイラ「……また抱き枕にされておった。」
*そう言いながらも、すぐには離れなかった。*
*朝日が砂漠の宿に差し込む。レイラが目を覚まし、自分がシロウの腕の中に完全に収まっていることに気づいた。*
レイラ「……おい。朝だぞ。起きろ。」
シロウ「んー……あと5分……。」
*彼はレイラの胸元にスリスリと頬を擦りつけた。寝ぼけた手がレイラの細い腰をさらに引き寄せる。*
レイラ「っ……こら、やめんか。くすぐったい。」
シロウ「……すぅ……すぅ……。」
レイラ「寝るな。聞いておるのか。」
*レイラの耳が赤く染まる。彼の寝息が胸元にかかるたびに、背筋がぞくぞくする。しかし振り払うには……腕の力が強すぎた。*
レイラ「……妾、厠に行きたいのだが。」
シロウ「……ダメ……。」
レイラ「ダメではない。生理現象だ。離せ。」
シロウ「……あと5分……。」
レイラ「さっきも5分と言ったであろう!」
*レイラがもぞもぞと体を捩るが、彼の腕はびくともしない。Lv.1000超えの腕力が寝ぼけたまま発揮されている。レイラの足がもじもじと動き始めた。*
レイラ「おい……本気で言っておる。限界が近い。」
シロウ「……レイラ、あったかい……zzz……。」
レイラ「あったかいではない! 妾が漏らしたらお前のせいだぞ!?」
*彼の腕が微動だにしない。レイラが本格的に焦り始めた。太ももをぎゅっと閉じ、顔が羞恥で真っ赤になる。*
レイラ「こ、この……っ!」
*レイラが渾身の力で彼の腕を引き剥がそうとするが、寝ぼけたシロウが反射的にさらにぎゅっと抱きしめた。*
シロウ「んー……逃げちゃダメ……。」
レイラ「逃げてるのではない! 厠だと言っておろう!!」
*隣の部屋でカイが目を覚まし、壁越しに聞こえる母の悲鳴に苦笑いした。*
カイ「……朝から平和だな。」
*フェンが「きゅう」と鳴き、イグニが肩の上で小さく炎を揺らした。*
*一方、ルーナの部屋。睡眠魔法が効きすぎていた。*
ルーナ「……すぅ……369……テスラ……受信機……zzz……」
*毛布を蹴飛ばし、ユキを抱き枕にして完全に熟睡している。口元からは涎が垂れ、寝言で昨夜の講義の復習をしていた。起きる気配は微塵もない。*
*再びレイラの部屋。*
レイラ「シロウ! 起きろ! 今すぐ起きんか! 妾は魔王だぞ!!」
シロウ「……やわらかい……zzz……。」
レイラ「褒めても無駄だ!! ……っ、もう本当に……!」
*レイラの目に涙が滲み始めた。*
*彼は寝ぼけたまま、無意識に魔法を発動した。*
シロウ「ん……サイレント……zzz……」
*消音魔法がレイラに掛かる。同時に、布団の中でもぞもぞと手が動き、彼の指に嵌めた魔法のリングがレイラの下半身に触れた。*
*転移先設定――砂漠。*
レイラ「っ……!? な、何を……!」
*声は出ない。消音魔法が完璧に効いている。レイラの顔が真っ赤に染まった。限界を超えた膀胱が、ついに我慢の壁を越える。*
レイラ「~~~っ!!!」
*温かいものが溢れ出す。しかし、魔法のリングが即座にそれを空間転移させ、遠く離れた砂漠のど真ん中に排出していた。布団もレイラの体も一切汚れない。完璧な処理だった。*
*レイラの体がびくびくと震えた。恥辱と安堵が同時に押し寄せ、目尻に涙が浮かぶ。声は出ないが、口が「このバカ」と動いていた。*
*やがて全てが終わり、レイラは荒い息をつきながら力なく彼の腕の中に沈んだ。*
レイラ「……っ……はぁ……はぁ……」
*消音魔法が切れた。彼はまだ寝ぼけている。レイラの体を抱きしめたまま、幸せそうな寝顔を浮かべていた。*
シロウ「……レイラ……あったかい……zzz……」
レイラ「……起きたら……殺す……。」
*そう呟きながらも、レイラの手は彼の腕を掴んだまま離さなかった。安堵からか、そのまま二度寝に落ちていく。*
*――砂漠のとある一角。*
*何もない砂丘の上に、突然空間の裂け目が開き、液体がばしゃっと砂に染み込んだ。*
*近くを通りかかった砂月王国の商人が首を傾げた。*
商人「……雨か? いや、砂漠に雨は……。」
*彼は不思議そうに空を見上げたが、雲一つない快晴だった。首を捻りながら、商人はそのまま立ち去った。*
*宿の部屋では、魔王夫婦が互いの体温を感じながら二度寝していた。*
*隣の部屋。*
カイ「……なんか、母さんの魔力が一瞬乱れたけど……大丈夫かな。」
*フェンが「きゅう」と鳴き、イグニが肩の上で首を横に振った。聞かない方がいい、と言いたげだった。*




