333☆
333☆
*数日間、砂漠をひたすら歩き続けた。昼はクーラードリンク、夜はホットドリンクを全員に配り、気温の問題は解決していた。だが、問題はそこではなかった。*
*砂。砂。砂。枯れ草。砂。砂。また砂。*
*景色が一切変わらない。戦闘も無い。ただ歩くだけの数日間。退屈という名の拷問だった。*
*そして、ようやく。*
ハシム「見えました! あれがオアシスです!」
*砂丘の向こうに、緑が見えた。椰子の木が数十本立ち並び、透き通った水面が太陽の光を反射している。砂漠の中にぽつんと浮かぶ、命の島。*
シロウ「一旦休憩……。」
*彼が言い終わる前に、ルーナが走り出していた。*
ルーナ「水ぁぁぁぁっ!!」
ユキ「きゅいいいいいっ!!」
*ルーナとユキが同時にオアシスに飛び込んだ。巨大な水柱が上がり、椰子の木が揺れた。ルーナが水面に顔を出し、最高の笑顔を見せる。*
ルーナ「つめたーい! 最高ーっ! 砂漠歩きの後の水は命!」
ユキ「きゅいっ! きゅいっ!」
*ユキがオアシスの中でばしゃばしゃと暴れ、水が四方八方に飛び散った。始祖竜の巨体には少し小さいオアシスだが、お構いなしだ。*
*レイラが腕を組み、オアシスの縁から2人を見下ろしていた。*
レイラ「はしたない。皇族たる者が犬のように水に飛び込むなど……。」
シロウ「そうだな。」
レイラ「まったく、品性の欠片も……。」
*彼がレイラの背後に立った。*
シロウ「暑かったろ。」
レイラ「……何を。」
*ひょい。*
レイラ「なっ……!?」
*彼がレイラの腰を掴み、そのままオアシスに放り投げた。小柄な体が宙を舞い、綺麗な放物線を描く。*
レイラ「シロウッ! 貴様ぁぁぁぁっ!」
*ばしゃーんっ!*
*盛大な水飛沫が上がった。レイラが水面から顔を出す。黒髪ロングが水に張り付き、服がびしょ濡れだ。琥珀色の目が怒りで燃えている。*
レイラ「殺す……。殺してやる……! よくも妾を……!」
ルーナ「あはははっ! レイラママ、水も滴るいい女!」
レイラ「ルーナ、お前もだ! 止めなかっただろう!」
ルーナ「止める理由がないもん!」
*だが、レイラの体が水の冷たさに馴染んでいく。数日間の砂漠行軍の疲れが、じわりと溶けていくのが分かった。*
レイラ「……。」
*彼女は小さく息を吐いた。怒りの表情が、ほんの少しだけ緩む。*
レイラ「……まあ……悪くは、ない。」
シロウ「素直じゃないな。」
レイラ「黙れ。次やったら本当に殺すぞ。」
*カイがフェンとイグニを連れて、オアシスの端で静かに水を汲んでいた。*
カイ「……うちの両親、いつもいつも。」
*オアシスでの休息を終え、一行はハシムの案内で近くの集落の宿屋に通された。砂岩で造られた素朴な建物だが、砂漠の民の知恵が詰まった涼しい構造だった。*
*彼は全員を広間に集め、地図を広げた。ハシムが砂竜の出没地点を赤い印で書き込んでいく。王都サルーナまでの道中に、まだ相当数の砂竜が徘徊しているらしい。*
シロウ「よし、八輝将らよ。」
*全員の顔を見回した。そして、にやりと笑う。*
シロウ「1番多く狩れた者に、俺のできる範囲で何でも一つ願いを叶えてやろう。」
*一瞬の沈黙。そして、空気が変わった。*
ドルガン「……何でも、だと?」
カイン「……一つ、か。」
ルナ「……ふふ。」
*八輝将の目つきが一斉に変わった。それぞれが脳裏に欲しいものを思い浮かべている。ドルガンは最強の武器、カインは復讐の情報、ルナはリオンとの何か、ヴァイスはシロウの未公開資料、アシュトンは家の問題……。*
リオン「……あの、陛下。」
*リオンが恐る恐る手を挙げた。*
リオン「一番弱い俺は、どうすれば……。他の皆と張り合えるわけないっすよ。」
*彼は無言でリオンの前に歩み寄った。そして異空間収納から、あるものを取り出した。*
*金属の重厚な輝き。龍の意匠が刻まれたベルト。合金龍の力を宿した変身ベルト。南大陸との戦争でリオンに授けたあの装備だ。*
*無言で、リオンの手に押し付けた。*
リオン「……これ。」
シロウ「……。」
リオン「……あの時の。」
*リオンがベルトを見下ろした。南大陸の戦争から半年以上が経っている。あの時は3分が限界だった。体力の続く限り変身を維持できるはずの装備だが、リオンの体力では3分で強制解除されていた。*
リオン「……陛下。俺、あれからずっと鍛えてたんすよ。毎朝走って、ルナに殺されかけながら特訓して。」
ルナ「殺してないよ。半殺しにしただけ。」
リオン「それ大差ねぇっす……。」
*リオンがベルトを腰に巻いた。カチリと音が鳴り、龍の意匠が淡く光る。*
リオン「……3分の壁、超えられたかは分かんないっすけど。」
シロウ「試してこい。」
*リオンの目に、覚悟の光が宿った。半年前とは違う目だ。やさぐれつつも、確かに強くなった目。*
ドルガン「おい、リオン。それ何だ? ずるくねぇか?」
リオン「ずるくねぇっす。最弱なりの戦い方があるんすよ。」
カイン「……面白い。だが、数で負けるつもりはない。」
*八輝将の間に、静かな闘志が燃え上がっていた。*
シロウ「明日から掃討作戦を開始する。範囲は王都サルーナまでの全域。各部隊に分かれて行動し、討伐数を競え。」
*彼は地図の上に駒を並べた。*
*彼は地図の上に指を走らせ、王都サルーナまでの経路を示した。*
シロウ「で、俺とルーナとレイラで親玉を叩きに行く。カイはレベリングしつつ、八輝将の援護。って感じかな。」
カイ「了解。……でも、援護って言うより監視だよね。暴走しそうなのが何人かいるし。」
*カイの視線がドルガンとリオンに向いた。ドルガンは拳を鳴らし、リオンは変身ベルトを撫でていた。*
シロウ「まあ、頼んだ。終わったら砂漠の古代遺跡に入れてもらう約束だからな。楽しみだ。」
*彼の目が一瞬、少年のように輝いた。古代遺跡。未知の技術。この異世界に来てから、こういう瞬間が一番心が躍る。レイラがそれを見抜いて鼻を鳴らした。*
レイラ「本音はそちらだろう。砂竜討伐など口実に過ぎん。」
シロウ「……否定はしない。」
ルーナ「父さん、遺跡好きだもんね。ダンジョン潜りの血が騒ぐってやつ?」
シロウ「まあな。」
*ハシムが恐る恐る手を挙げた。*
ハシム「あの……親玉、というのは……。」
シロウ「砂竜がこれだけ大量発生してるってことは、どこかに巣の核がある。女王個体か、それに類する存在が砂竜を生み出してる。そいつを潰さない限り、いくら掃討しても湧き続ける。」
ハシム「な、なるほど……。我々も長年、発生源を探しておりましたが……見つからず……。」
ルーナ「多分、地下だよ。砂漠の地下深くに巣がある。遺跡と繋がってる可能性もあるね。」
シロウ「ああ。遺跡の最深部と砂竜の巣が同じ場所、ってのは十分ありえる。」
*レイラが椅子の背もたれに体を預け、腕を組んだ。*
レイラ「つまり、遺跡に潜れば親玉も叩ける。一石二鳥か。」
シロウ「そういうこと。」
*八輝将たちがそれぞれの表情で頷いた。ドルガンは闘志を燃やし、カインは静かに剣の柄を握り、ヴァイスはペンを走らせ、アシュトンは採取瓶を並べていた。*
リオン「……陛下。」
*リオンが立ち上がった。腰に巻いた変身ベルトの龍の意匠が、ランプの光を受けて淡く輝いている。*
リオン「3分の壁、超えてみせるっす。見ててください。」
ルナ「リオン……かっこいい。」
リオン「……ルナにそう言われると逆に怖いんすけど。」
ルナ「ふふ。」
*彼はリオンの目を見た。半年前、変身が解けて砂の上に倒れた男。あの時とは目の色が違う。確かに成長している。*
シロウ「ああ。期待してる。」
*夜が更けていく。砂漠の空に星が瞬き始めた。明日から、本格的な掃討作戦が始まる。*
*彼は窓の外を見ながら、小さく呟いた。*
シロウ「……古代遺跡か。何があるんだろうな。」
*その声には、魔王でもない、ただの冒険者としての純粋な好奇心があった。*
*砂漠の朝。既に気温は上昇し始めている。彼はクーラードリンクの瓶を傾け、喉を潤した。普通に、歩きながら。*
*隣ではルーナが両手でガッツポーズを決めていた。あの独特の、ぐっと拳を握りしめるモーション。飲み干した瓶を持ったまま、満面の笑みで。*
ルーナ「ぷはーっ! やっぱドリンク飲んだらこれでしょ!」
ユキ「きゅい!」
*ユキまで前足を上げてポーズを真似していた。いつの間に覚えたのか。*
ルーナ「……ん? 父さん、なんでしないの? ガッツポーズ。」
シロウ「最近のモンハ○はガッツポーズ廃止されたよ? 歩きながら飲むのが主流になってきた。」
*ルーナの動きが止まった。両手を上げたまま固まっている。*
ルーナ「……は?」
シロウ「ワー○ドの時にな。モーション変わった。」
ルーナ「……えっ。嘘。あのポーズ無くなったの?」
*ルーナの顔が、信じられないものを見た表情に変わった。前世の記憶はXXの途中までらしい。そこから先のシリーズは知らないのだ。*
ルーナ「あの、狩りの後にシュバッてやるあれ? 回復薬飲んで、ぐっとやるあれが?」
シロウ「無い。」
ルーナ「……。」
*ルーナが両手をゆっくり下ろした。砂漠の風が吹き、砂粒が頬を撫でていく。*
ルーナ「……文化の喪失じゃん……。」
シロウ「いや、普通に便利だぞ。隙がなくなるから。」
ルーナ「そういう問題じゃない! あれは儀式なの! 狩りを終えた者だけが許される勝利の舞なの! 様式美なの!」
*ルーナが砂漠の真ん中で力説していた。ユキが困惑気味に首を傾げている。*
レイラ「……お前ら、何の話をしている。」
*レイラがドリンクを一口飲みながら近づいてきた。当然、ガッツポーズはしない。*
ルーナ「レイラママには分からない話……。」
レイラ「分からなくて結構だ。さっさと歩け。」
*彼はルーナの肩を叩いた。*
シロウ「まあ、ここは異世界だ。好きにやればいい。」
ルーナ「……そうだよね。ここでは私がルールだよね。」
*ルーナが再び両手でガッツポーズを決めた。何かを取り戻したような、晴れやかな笑顔で。*
ルーナ「よし! 今日も元気にやっていくよ!」
*一行は再び砂漠を歩き始めた。王都サルーナへの道のりは、まだ続く。*
ーー
*砂漠の向こうに、巨大な三角形のシルエットが見えた。夕日を背に、黄金色に輝く石造りの建造物。紛れもないピラミッドだ。*
シロウ「はぇー……こっちにもこういうのあるんだ……。」
*彼は素直に感心していた。砂岩で造られた巨大なピラミッドが3基、整然と並んでいる。地球のギザのそれとは細部が異なるが、基本構造は酷似していた。*
ハシム「ああ、これは古代遺跡の一部でございます。砂月王国の建国よりも遥か昔、太古の文明が築いたものと伝えられておりまして……。」
シロウ「中は見たの?」
ハシム「はい。過去に幾度か調査隊を送り込みました。中には壺や石棺……墓のようなものが並んでおりました。副葬品なども多少は。」
シロウ「地下は?」
ハシム「……地下、ですか?」
*ハシムが首を傾げた。完全に「何を言っているんだ」という顔だった。*
ハシム「地下と申されますと……? 床より下ということでしょうか?」
シロウ「ピラミッドは見た感じ三角だけど、本来はひし形だからね?」
*ハシムだけでなく、ルーナも足を止めた。*
ルーナ「……え? ひし形?」
シロウ「地上に見えてる三角形は上半分。地下にもう一つ逆三角形が埋まってる。つまり全体はひし形。地球のピラミッドもそうだった。」
ルーナ「嘘!? 私そんなの知らない!」
シロウ「お前の前世、いつの時代だよ。研究が進んで判明したんだよ。地中レーダーで巨大な空洞が確認されてる。」
ルーナ「マジで……。前世の知識、アップデートされてないのが地味に痛い……。」
*ハシムが目を見開いていた。*
ハシム「地下に……もう半分が……? し、しかし、我々は何百年もこの遺跡を調査してきましたが、地下への入口など……。」
シロウ「見つけてないだけだろ。」
*彼はピラミッドに近づき、その表面に手を触れた。鑑定を発動させる。*
シロウ「……やっぱりな。」
*神眼が捉えた情報が脳裏に流れ込んでくる。地表のピラミッドの直下、地中深くに巨大な構造体が埋まっている。そしてその最深部から、膨大な魔力反応。*
シロウ「地下に空間がある。しかも、でかい。地上部分の3倍はある。」
ハシム「3倍……!?」
ルーナ「父さん。その最深部の魔力反応、もしかして……。」
シロウ「ああ。砂竜の発生源と一致してる。親玉はここの地下にいる。」
*レイラが腕を組み、ピラミッドを見上げた。*
レイラ「ほう。つまり、入口を見つけて潜ればいいだけか。」
シロウ「見つけるっていうか……。」
*彼はピラミッドの基部、砂に半分埋もれた壁面の一点を指差した。神眼が示す、最も壁が薄い場所。*
シロウ「ここ、壁の厚さ30センチしかない。向こう側に通路がある。」
ルーナ「……壊す?」
シロウ「壊す。」
レイラ「妾がやろうか。」
ハシム「お、お待ちください!」
シロウ「と、思ったが。その辺は議論とかあるだろう。一旦放置で。」
*ハシムが胸を撫で下ろした。額に脂汗が浮いている。他国の、しかも数千年の歴史を持つ遺跡を目の前で破壊されるところだったのだ。*
ハシム「あ、ありがとうございます……。帰国次第、国王陛下に地下調査の件を上奏いたしますので……。」
シロウ「ああ、任せる。」
*彼はピラミッドから離れ、ルーナの隣を歩き始めた。レイラは興味を失ったのか、先を歩いている。*
シロウ「あとは地球の3大ピラミッドってあるだろ?」
ルーナ「うん。ギザの3大ピラミッド。クフ王、カフラー王、メンカウラー王の。」
シロウ「あれ、宇宙人が作ったと言われている……というより確定だ。」
ルーナ「え? いやいや、確定って。オーパーツ説とか宇宙人説は前世でも聞いたことあるけど、都市伝説の域じゃなかった?」
シロウ「なぜなら3大の位置とオリオン座の『オリオンのベルト』と全く同じ位置だからな。」
*ルーナの足が止まった。*
ルーナ「……え。」
シロウ「3つの星の並びと、3つのピラミッドの配置が完全一致。しかもナイル川の位置が天の川と対応してる。古代エジプト人にそこまでの天文学的精度は無理だ。あの時代に衛星写真なんて無いからな。」
ルーナ「……待って待って待って。それ私が死んだ後に判明した話?」
シロウ「いや、お前の前世の時代でも一部では言われてた。ロバート・ボーヴァルの『オリオン・ミステリー』って本がある。ただ確定的な証拠が出たのはお前の後だな。地中レーダーで地下の通路構造が星座の配置と一致してた。」
ルーナ「マジかぁ……。前世でちゃんと調べておけばよかった……。OLやってる場合じゃなかった……。」
シロウ「OLやってなかったら生活できなかっただろ。」
ルーナ「それはそう。」
*ルーナがピラミッドを振り返った。砂漠の夕日に照らされた3基の巨大建造物。その配置を目で追う。*
ルーナ「……父さん。ここの3基も、何かの星座と対応してたりしない?」
*彼も振り返った。3基のピラミッドの配置。等間隔ではない。微妙にずれている。まるで……。*
シロウ「……あー。」
ルーナ「何? 心当たりある顔してる。」
シロウ「この世界の星座は分からんが、この配置、地球で言うと夏の大三角に近い。ベガ、アルタイル、デネブ。」
ルーナ「夏の大三角……。織姫と彦星の……。」
シロウ「ああ。今夜、空を見て確認するか。この世界にも同じ配置の星があるかもしれない。」
*ハシムが後ろで必死にメモを取っていた。額の汗はもう止まっていない。*
ハシム「ち、地下構造に星座の対応……。数千年、誰も気づかなかったことを、一目で……。」
レイラ「ハシム。慣れろ。あの2人が並ぶとこうなる。」
ハシム「慣れるものなのですか……?」
ーーー
*彼はピラミッドの頂上を指差した。確かに、3基とも頂点が平らに切り取られている。何かが乗っていた台座のような痕跡が残っていた。*
シロウ「ピラミッドのてっぺんって何も無いだろ? 昔は全部純金で作られた一角があったんだよ。キャップストーンって呼ばれてた。」
ルーナ「へぇ……。盗まれたとか?」
シロウ「まあそれもあるけど、なんで金かっていうとそれは地球ができる前まで話が遡る。」
*ルーナが目を輝かせた。こういう話になると、彼女のオタク気質が全開になる。*
*彼はピラミッドの影に腰を下ろし、水筒を片手に語り続けた。ルーナはユキの背中に座り、目を輝かせて聞いている。レイラは興味なさそうに爪を眺めていたが、耳はしっかりこちらに向いていた。*
シロウ「かつて、地球は陸と海の二つのみだった。しかも軸が真っ直ぐで昼と夜も無い。陸はずっと昼、海はずっと夜。」
「ある時、別の宇宙にいた『ドラコニアン』が自分の星のバリアを維持するために金を欲した。だがそんな貴重な物が直ぐに見つかるわけもなく宇宙を彷徨う。」
ルーナ「ドラコニアン……。ドラゴンの宇宙人?」
シロウ「まあ、爬虫類型の知的生命体だな。地球の神話に出てくる龍や竜の原型とも言われてる。」
ルーナ「へぇ……。」
*ルーナが砂の上に座り込み、膝を抱えて聞いていた。完全に聞き入っている。ユキも首を伸ばして彼の方を向いていた。理解しているかは不明だが。*
シロウ「で、地球にいたのは日本の先祖。古代人と呼ばれる人達。彼らはテレパシー能力とテレポーテーション能力を産まれ持ちながら平和に暮らしていた。」
ルーナ「テレパシーとテレポート……。生まれつき?」
シロウ「ああ。今の人間とは根本的に違う存在だった。言葉を使わずに意思疎通ができて、空間を跳んで移動できた。争いもなく、ただ穏やかに生きていた。」
ルーナ「……なんか、この世界の精霊族に近いね。」
シロウ「似てるな。で、そこにドラコニアンがやってきた。彼らは古代人を従えて、金を採掘させ始めた。」
ルーナ「奴隷……。」
シロウ「そう。平和に暮らしていた古代人が、突然労働を強いられた。だが、その苦痛を見かねた別の宇宙人……『レプティリアン』が古代人を別の宇宙へ避難させた。」
ルーナ「レプティリアン! 陰謀論で聞いたことある!」
シロウ「この時のレプティリアンは善意で動いてた。問題はその後だ。怒ったドラコニアンは……地球をボンッと爆発させた。」
ルーナ「……は?」
*ルーナが固まった。*
ルーナ「爆発? 地球を? 星ごと?」
*レイラが爪を眺めるのをやめ、ちらりとこちらを見た。口では興味なさそうにしているが、体がこちらを向いている。*
シロウ「そして何億年かが過ぎるうちに、熱された地球は冷めていき『レプティリアン』は地球が存続できるように月を作って近くに置いた。」
「戻ってきたドラコニアンは今度は失敗しないと心に誓い、自分達の細胞を使って生命体を作る事にした。」
「これが、恐竜の成り立ちだ。」
*ルーナが口を開けたまま固まっていた。ユキが心配そうに鼻先でルーナの頬を突いている。*
ルーナ「……恐竜って、宇宙人が作ったの?」
シロウ「正確には、ドラコニアンの細胞から生まれた副産物だな。金を採掘する労働力として作ろうとしたが、酸素濃度の計算を間違えた。地球の酸素濃度は彼らの星より遥かに濃かった。」
ルーナ「それで巨大化……。」
シロウ「ああ。酸素が濃いと生物は巨大化する。古代の地球は今よりずっと酸素濃度が高かった。だから昆虫すらメートル級だった。トンボの翼幅が70センチとかな。」
ルーナ「メガネウラ……。それは前世で知ってる。でもまさか恐竜の起源がそこに繋がるなんて……。」
シロウ「で、巨大化して手に負えなくなった恐竜を見て、ドラコニアンは『もういいや』って地球に隕石を落とした。リセットだな。」
ルーナ「隕石もドラコニアンの仕業!?」
シロウ「ああ。ユカタン半島のチクシュルーブ・クレーター。あれは自然現象じゃなくて、意図的な投下だ。」
*ルーナが頭を抱えた。前世の常識が音を立てて崩れていく感覚だろう。*
ルーナ「じゃ、じゃあ……その後は? 恐竜が絶滅して、哺乳類が進化して人間が生まれたんでしょ? それは普通の進化論じゃないの?」
シロウ「そこもドラコニアンが絡んでる。恐竜の失敗を踏まえて、今度は小型で知能の高い生命体を作った。猿をベースに自分たちの遺伝子を掛け合わせた。」
ルーナ「……それが人間。」
シロウ「そう。で、ようやくピラミッドの話に戻る。金のキャップストーンは、ドラコニアンへの貢物だ。採掘した金を目立つ場所に置いて、回収しやすくした。ピラミッド自体がエネルギーの増幅装置で、頂上の金が送信機の役割を果たしていた。」
*レイラがいつの間にか彼の隣に座っていた。爪を眺めるふりをしていたが、完全に話を聞いている。*
レイラ「……つまり貴様の世界では、人間は宇宙の生き物に作られた家畜だったと。」
シロウ「まあ、乱暴に言えばそうだな。」
レイラ「ふん。こちらの世界では神が人を作ったと言われておるが……大差ないな。」
ルーナ「……あれ。この世界の神って実在するよね。カイの精霊神とか、ルクスの光の神とか。じゃあこの世界の『創造の真実』も、実は……?」
*ルーナがピラミッドを見上げた。異世界の砂漠に建つ、地球のものと酷似した建造物。その地下に眠る巨大な構造体。*
*彼は砂に指で簡単な図を描きながら話を続けた。エジプトの壁画に描かれた王と、その隣に立つ黒い長身の存在。*
シロウ「だからエジプトの壁画の王様の隣にいる黒いやつ、あれも宇宙人だ。アヌビスとか呼ばれてるが、あれはドラコニアンの監視役だな。」
ルーナ「アヌビス……犬頭の神様じゃなくて……。」
シロウ「見た目を神話風に描き直しただけだ。実物はもっと異質な姿だったろうよ。」
*ルーナが唸りながら砂に描かれた図を見つめている。*
シロウ「ちなみに他の宇宙に避難した古代人達は戻ってきている。縄文時代にな。」
ルーナ「縄文……。」
シロウ「縄文時代って、約1万年以上続いてんだ。おかしいだろ?」
*ルーナが首を傾げた。*
ルーナ「……言われてみれば。弥生時代とか平安時代とか、他の時代は数百年単位なのに縄文だけ桁が違う。」
シロウ「そう。1万年以上も『同じ時代』が続くなんて、普通の文明の進歩速度じゃありえない。逆に言えば、争いも進歩の必要も無かった。テレパシーで通じ合い、テレポートで移動し、自然と共存して平和に暮らしてたからだ。」
ルーナ「古代人が……帰ってきて、元の生活に戻った……。」
シロウ「ああ。で、縄文時代が終わったのは朝鮮半島が戦争で追いやられて百済の民が日本に突入してきた辺りだな。大陸の争いに巻き込まれて、弥生時代が始まった。稲作や鉄器が入ってきて便利になった反面、土地の奪い合いが始まった。」
ルーナ「……つまり、1万年の平和が外部からの侵入で壊された。」
シロウ「そういうことだ。テレパシーもテレポートも、争いの中で徐々に失われていった。必要なくなったんじゃなくて、使える環境じゃなくなった。」
*ルーナが膝を抱え直した。砂漠の風が髪を揺らす。*
ルーナ「……なんか、切ない話だね。」
シロウ「まあな。」
*ルーナが砂に指で「第六感、第七感、第八感、第九感」と書き並べた。*
ルーナ「だから沖縄の人達は時間にルーズだし……って、それ繋がるの?」
シロウ「繋がる。沖縄とアイヌは古代人の血が最も濃く残ってる地域だ。大陸からの侵入の影響が最も少なかった場所。だから独自の文化と感覚が残ってる。沖縄の『なんくるないさ』って、時間にルーズなんじゃなくて、元々時間に縛られない生き方をしてたんだよ。」
ルーナ「あー……。確かに前世で沖縄行った時、時間の流れ方が違うって感じたなぁ……。」
シロウ「で、日本人は第六感が優れている。いわゆる『虫の知らせ』とか『なんとなく嫌な予感がする』ってやつ。これは古代人のテレパシー能力の残滓だ。」
ルーナ「残滓……。」
シロウ「第七感が、何かをパッと思いつく直感力。第八感が発想力と想像力。日本のアニメ、漫画、ゲームが世界で突出してるのは、この2つが異常に発達してるからだ。他の国の人間には思いつかないものを、日本人は平気で生み出す。」
ルーナ「……言われてみれば。前世でも海外の人に『なんで日本人はこんなもの思いつくんだ』って言われてたよね。変態的な発想力って。」
シロウ「変態って言うな。文化だ。」
ルーナ「いや、一部は変態だったよ。薄い本とか。」
シロウ「お前が言うな。メロンブックスで大量購入してたのは誰だ。」
ルーナ「……それは、その、資料として。」
*ルーナが目を逸らした。カイが遠くで聞こえないふりをしている。聞こえていた。*
シロウ「一応第九感まであるが、そこはテレパシーやテレポーテーションの領域だから今の人間には無いんだ。古代人は第九感まで全開だったが、今は第八感が限界。それでも日本人は他の民族より上限が高い。」
ルーナ「……だから異世界転移とか転生とかで日本人が多いのかな。第九感に近い素質が残ってるから、次元の壁を超えやすいとか。」
*彼の手が止まった。*
シロウ「……お前、今すごいこと言ったな。」
ルーナ「え?」
シロウ「異世界に来る日本人が多い理由。考えたことなかったが、今の仮説が正しいなら辻褄が合う。古代人の血が濃い日本人は、次元の壁が薄い。だから召喚や転移に引っかかりやすい。」
*2人の間に沈黙が落ちた。砂漠の風が砂を巻き上げ、ピラミッドの影が伸びていく。*
ルーナ「……父さん。この世界のピラミッドの地下にも、同じような真実が眠ってるのかな。」
シロウ「さあな。だからこそ調べに行く価値がある。」
*ハシムはもうメモを取る手が追いついていなかった。ペンが折れていることにすら気づいていない。*
レイラ「……妾には分からんが、お前達が楽しそうなのは分かった。」
*レイラが立ち上がり、砂を払った。*
レイラ「さっさと王都に着け。遺跡の中なら涼しかろう。」
シロウ「動機が不純だな。」
*砂漠の夜が訪れていた。昼間の灼熱が嘘のように、冷たい風が砂丘を撫でる。彼はホットドリンクを飲みながら、空を見上げた。*
*虫の音色が、どこからか聞こえてくる。オアシスの近くに棲む砂漠の虫たちだ。リーリーリーと、心地よいリズムを刻んでいる。*
シロウ「夜、虫の音色が聴こえるだろ? あれ、海外の人には騒音に聴こえるらしいぜ。凄いよな……。」
ルーナ「え、騒音? こんなに綺麗なのに?」
シロウ「日本人は虫の音を左脳……言語脳で処理してる。だから『声』として聴こえる。でも他の国の人は右脳で処理するから、ただのノイズにしか聴こえない。」
ルーナ「脳の構造が違うの?」
シロウ「構造というより、使い方だな。日本語の母音が多い言語体系が関係してるとも言われてるが、俺は古代人の感覚が残ってるからだと思ってる。自然の音に意味を見出す能力。テレパシーの名残だよ。」
ルーナ「……だから日本の和歌とか俳句には虫の声が出てくるんだ。」
シロウ「そう。『秋の夜長に虫の声』ってのは、日本人にしか分からない感性だ。」
*ルーナが目を輝かせていた。もっと聞きたい、という顔をしている。彼は笑って立ち上がった。*
シロウ「宿に着いたら続き話してやるよ。もっと面白い話がある。」
ルーナ「約束だからね! 絶対だよ!」
*一行はオアシスの集落の宿に向かって歩き始めた。砂漠の夜空には満天の星が広がっている。彼はふと足を止め、3基のピラミッドの上に輝く星々を確認した。*
*……あった。3つの星が、ピラミッドの配置と同じ角度で並んでいる。*
シロウ「……ルーナ。」
ルーナ「ん?」
シロウ「あれ見ろ。」
*彼が指差した先。ピラミッドの頂点を結ぶ線と、夜空の3つの星を結ぶ線が完全に重なっていた。*
ルーナ「……嘘。」
シロウ「嘘じゃない。この世界のピラミッドも、星座と対応してる。」
*ルーナが息を呑んだ。異世界の砂漠に建つピラミッドと、異世界の夜空に浮かぶ星座。地球と同じ法則がここにもある。*
ルーナ「……父さん。この世界のピラミッドを作ったのも……。」
シロウ「分からん。だからこそ、地下を調べる。」
*レイラが宿の入口から振り返った。*
レイラ「おい、いつまで突っ立っておる。飯が冷める。」
シロウ「はいはい。」
*彼はもう一度だけ夜空を見上げた。3つの星が静かに瞬いている。この世界の真実が、あのピラミッドの地下に眠っている。そんな予感がしていた。*
*宿に入ると、砂漠の民の料理が並んでいた。香辛料の効いた羊肉のスープ、薄焼きのパン、干した果実。ルーナが席に着くなり身を乗り出した。*
ルーナ「さあ父さん、続き! もっと面白い話って何!?」




