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*一瞬で景色が変わった。*
*灰色の空。熱風。硫黄の臭いが鼻を突く。足元は黒い火山岩で覆われ、所々から蒸気が噴き出していた。遠くにそびえるグラナド火山の山頂からは、赤黒い溶岩が流れ落ちているのが見える。噴火は現在進行形だった。*
シロウ「……結構派手にやってるな。」
*彼は鑑定を起動し、火山の地中を透視した。マグマの流れ、地層の構造、鉱脈の位置……全てが神眼を通じて頭の中に流れ込んでくる。*
シロウ「……お。」
*山腹の地下300メートル付近。マグマの圧力で圧縮された炭素の層が広がっていた。ダイヤモンドの原石鉱脈だ。しかもかなりの規模。高品質な結晶がびっしりと並んでいる。*
*さらに深く探ると、ルビーの原石であるコランダムの鉱脈も見つかった。火山特有の高温高圧環境が、宝石の宝庫を生み出していた。*
*彼は火山を見上げながら、頭の中で時系列を整理していた。*
シロウ「そもそも数百年静かだったのに、なんでいきなり噴火したんだ……?」
*腕を組み、しばらく考え込む。そして一つの仮説が頭をよぎった瞬間、背筋に冷たいものが走った。*
シロウ「ここは深淵の迷宮の近く……。最近俺が攻略して、31階層にいた深淵の根源体を覚醒させて解放した……。」
*グラナド火山の方角と、深淵の迷宮があったガルド山脈の位置関係を思い浮かべる。直線距離で数十キロ。地下の地脈で繋がっていてもおかしくない距離だ。*
シロウ「深淵の根源体の役割は『無に返すこと』……。つまりここの火山が噴火していなかったのは、深淵の根源体が地中のマグマの活動エネルギーを吸収していたから……。」
*彼の顔が引きつった。*
シロウ「あれ……もしかして俺のせい?」
*沈黙が流れた。遠くでドゴンと低い轟音が響き、火口から新たな噴煙が立ち上った。赤い溶岩が山肌を這い下りてくる。*
シロウ「……俺のせいだな。」
*認めざるを得なかった。深淵の根源体、つまりネメシスが数万年に渡って無意識に周囲のエネルギーを吸収し続けていた。それが突然解放されたことで、抑えられていた火山活動が一気に再開した。数百年分の蓄積されたマグマの圧力が、一度に解放されている。*
シロウ「……冒険者が避難依頼出してるって話だったな。周辺の村は……。」
*彼は神眼を起動し、火山周辺を広域探査した。山麓に3つの小さな集落が点在している。そのうち2つは既に住民が避難を開始していた。だが1つ……南東の斜面にある集落は、溶岩流の進路に近い位置にあるにも関わらず、まだ人の気配が残っていた。*
シロウ「まだ残ってる奴がいるのか……。」
*彼は頭を掻いた。宝石の採掘どころではなくなった。*
シロウ「はぁ……。自分で蒔いた種だ、仕方ねえ。」
*まずは残っている住民の避難が先だ。そして溶岩流の進路を逸らすか、止めるか。土魔法で岩壁を作れば溶岩は防げる。*
*彼は南東の集落に向かって跳んだ。着地すると、小さな村が目に入った。木造の家が十数軒。畑と牧場に囲まれた、のどかな山村だ。だが空は灰色に曇り、火山灰が雪のように降り注いでいる。*
*村の広場に老人が数人と、足を怪我したらしい女性、そして幼い子供が2人。逃げ遅れたようだ。*
老人「もうだめだ……馬車も壊れちまったし、歩いて山を下りるには遠すぎる……。」
シロウ「おい、あんたら。」
*彼が声をかけると、老人たちが振り返った。見知らぬローブ姿の男に警戒の目を向ける。*
ギメイ(シロウ)「逃げ遅れたのか?」
老人「あんた誰だ……冒険者か? 馬車の車輪が折れちまって、ミーナは足を挫いてて動けねえ。子供らもいるし……。」
*彼は異空間収納から回復薬が入った樽を取り出した。蓋を開け、中の薬を足を挫いた女性の頭からざばっとぶっかけた。*
ミーナ「きゃっ! な、何を……!」
*女性が驚いて目を見開くが、すぐに表情が変わった。腫れ上がっていた足首がみるみる元に戻っていく。*
ミーナ「足が……痛くない……。」
*彼は樽に蓋をし、ホースを繋げてノズルを取り付けた。樽を異空間収納にしまい、ノズルだけ手元に残す。これで必要な時にいつでも回復薬を噴射できる即席の救急装備だ。*
ギメイ(シロウ)「よし、救助活動開始っと。」
老人「あ、あんた一体何者……。」
ギメイ(シロウ)「ただの通りすがりだ。ここから一番近い安全な町はどこだ?」
老人「ふ、麓のレンツォの町だが……ここから歩いて半日はかかる……。」
ギメイ(シロウ)「全員ここに集まれ。転移で飛ばす。」
*老人たちが目を丸くした。転移魔法は高位の魔法使いにしか使えない。それを複数人同時に飛ばすなど、普通ならありえない。*
*だが彼の有無を言わさない口調に押され、村人たちが広場に集まった。老人5人、ミーナ、子供2人。合計8人。*
子供「おじちゃん、まほうつかい?」
ギメイ(シロウ)「まあそんなとこだ。目を閉じてろ、一瞬で終わる。」
*彼が転移魔法を発動した。一瞬の浮遊感の後、景色が切り替わる。灰色の空と硫黄の臭いが消え、麓の町レンツォの入り口広場に全員が立っていた。*
老人「お、おお……! 本当に一瞬で……!」
ミーナ「子供たちも無事……ありがとうございます!」
ギメイ(シロウ)「他の村にも逃げ遅れがいるかもしれない。この町に避難所はあるか?」
*町の入り口に立っていた自警団の男が、突然現れた集団に驚きながらも答えた。*
自警団員「あ、ああ。教会を避難所として開放している。既に2つの村から避難者が来ている。」
ギメイ(シロウ)「分かった。この人たちを頼む。」
*彼は村人たちを自警団員に任せ、再び転移した。火山の麓に戻る。*
シロウ「さて……まずは溶岩を止めるか。」
*山頂を見上げた。溶岩流は南東の斜面を3本の筋になって流れ落ちている。このまま放置すれば、数時間後にはレンツォの町まで到達する可能性がある。*
*彼は土魔法を発動し、溶岩流の進路に巨大な岩壁を生成した。高さ20メートル、厚さ5メートルの半円形の防壁。溶岩がぶつかり、赤い飛沫を上げながら左右に逸れていく。無人の谷へと流れが変わった。*
*彼はノズルをストレートに切り替え、火山灰の中を歩き始めた。*
*視界は悪い。灰が吹雪のように舞い、数メートル先も霞んでいる。だが神眼が地中と周囲の生体反応を捉えている。*
シロウ「……あそこに一人。」
*道端に倒れている男を見つけた。顔が灰で真っ白になり、呼吸が浅い。火山灰を吸い込んだのだろう。彼はノズルを向け、バシュッと勢いよく回復薬をぶっかけた。*
男「ぐはっ! げほっ、げほっ……! な、何だ……!?」
ギメイ(シロウ)「起きたか。レンツォの町の方角は分かるか?」
男「あ、ああ……南に下れば……。」
ギメイ(シロウ)「走れ。溶岩は止めてあるが、いつまで持つか分からん。」
*男が慌てて立ち上がり、転がるように南へ駆け出した。彼はそれを見届けず、さらに先へ進む。*
*倒壊した家屋が道を塞いでいた。木造の民家が火山灰の重みで潰れている。彼は異空間収納を起動し、瓦礫ごと収納した。家一軒分の残骸が一瞬で消える。後で固めて別の場所にまとめて出しておく。復興資材として使えるかもしれない。*
*さらに進む。2軒、3軒と倒壊した家を収納していく。道が開けた先に、また人影があった。*
シロウ「……3人か。」
*母親らしき女性が、子供2人を庇うように覆いかぶさって倒れていた。火山灰で全身が灰色だ。子供の泣き声が微かに聞こえる。まだ生きている。*
*彼はノズルを向け、シャワーに切り替えて3人にまとめて回復薬を浴びせた。*
母親「けほっ……! こ、子供たちは……!」
子供「うわあああん!」
ギメイ(シロウ)「全員無事だ。動けるか?」
母親「は、はい……でも娘の足が……。」
*見ると、幼い女の子の足に瓦礫の破片が刺さっていた。回復薬で傷は塞がりかけているが、破片が残っている。彼はしゃがみ、手早く破片を抜いた。女の子が短く悲鳴を上げたが、すぐにノズルから回復薬を傷口に直接吹き付けた。数秒で傷が塞がる。*
ギメイ(シロウ)「南に走れ。レンツォの町に避難所がある。」
母親「あ、ありがとうございます……!」
*母親が子供2人の手を引いて駆け出していった。*
*彼は火山の斜面をさらに登りながら、倒れている人間にノズルをぶっかけ、倒壊した家を収納し、道を切り開いていく。淡々とした作業だった。*
シロウ(……今のところ死者はゼロか。噴火からそこまで時間が経ってないのが幸いしたな。)
*神眼で広域探査をかける。火山周辺の生体反応を全てスキャンした。*
シロウ(残り……12人。散らばってるな。西斜面に4人、北の谷に3人、東の森に5人。)
*彼は西斜面に転移した。到着すると、牧場の柵が倒れ、家畜が暴れている。羊が10頭以上パニックで走り回り、その中で牧場主らしき老夫婦と若い青年。*
*彼は暴れ回る羊の群れに向かって幻影魔法を展開した。羊たちの視界に、緑豊かな牧場の風景が映し出される。パニック状態だった羊が一斉に落ち着き、幻影の牧場に向かってとことこと歩き始めた。その先にはレンツォの町の避難所がある。勝手に辿り着くだろう。*
*老夫婦は火山灰を吸い込んで咳き込んでいた。彼はノズルから回復薬を頭からぶっかけ、二人が咳を止めた瞬間に転移魔法で避難所へ飛ばした。*
*残ったのは青年一人。肩が不自然な方向に曲がっている。脱臼だ。*
*彼は周囲を見渡し、倒壊した柵から革紐を引き剥がした。それを丸めて青年の口元に持っていく。*
ギメイ(シロウ)「噛め。」
青年「え……?」
ギメイ(シロウ)「我慢しろよ。」
*青年が革紐を歯に噛んだ瞬間、彼は肩関節を掴み、一気に押し込んだ。*
バキッ。
青年「んぐぅぅぅっ……!!」
*鈍い音と共に肩が元の位置に戻った。青年の目から涙が溢れ、革紐に歯形がくっきりと残っている。すかさずノズルから回復薬を肩に吹き付けた。炎症と内出血が数秒で引いていく。*
ギメイ(シロウ)「動かしてみろ。」
*青年が恐る恐る肩を回した。痛みが消えている。*
青年「う、動く……。あんた、一体……。」
ギメイ(シロウ)「羊は幻影で避難所に向かってる。お前も追いかけろ。南だ。」
青年「で、でも牧場が……うちの生活が……。」
ギメイ(シロウ)「命あっての物種だ。牧場はまた建てられる。死んだらそれまでだぞ。」
*青年が唇を噛み、しかし頷いた。羊の群れを追いかけて南へ走り出す。*
シロウ(西斜面、完了。残り……北の谷に3人、東の森に5人。)
*彼は北の谷へ転移した。到着すると、川沿いの小道に馬車が横転していた。荷台から木箱が散乱し、その下敷きになっている商人風の男が一人。傍で女性と子供が泣きながら木箱を退かそうとしている。*
ギメイ(シロウ)「退け。」
*彼は片手で木箱を掴み、軽々と持ち上げて脇に放り投げた。商人の足が潰れかけていた。ノズルから回復薬を浴びせる。骨が再生し、皮膚が元に戻っていく。*
商人「ひぃぃ……た、助かった……。」
ギメイ(シロウ)「3人とも動けるか。」
女性「は、はい……。」
ギメイ(シロウ)「転移で飛ばす。目を閉じろ。」
*3人を避難所へ転移させた。残り5人。東の森だ。*
シロウ(ペースは悪くない。溶岩も岩壁で逸れてる。あと5人……。)
*東の森へ転移した。木々の間に火山灰が積もり、枝が重みで折れて散乱している。神眼が5つの生体反応を捉えた。うち2つは極端に小さい。子供……。*
ギメイ(シロウ)「風が邪魔だな。」
*彼は風魔法を展開した。周囲に散乱する火山灰が渦を巻き、一箇所に圧縮されていく。灰色の視界が少しずつ晴れ、森の中の様子が見えてきた。*
シロウ(……あそこか。)
*折れた大木の根元に、大人の男が2人と女性が1人。その女性が胸に子供を2人抱きしめていた。彼は駆け寄り、しゃがみ込んで容態を確認した。*
*まず大人の男の一人。猟師風の格好をした中年の男だ。背中に大きな裂傷がある。折れた枝が直撃したらしく、服が血で真っ赤に染まっていた。意識はあるが、顔が蒼白で呼吸が荒い。出血量が多い。*
シロウ(失血が酷い。先にこいつだな。)
*ノズルを傷口に向けて回復薬を吹き付けた。裂けた皮膚がじわじわと塞がっていく。男が苦悶の表情のまま目を開けた。*
猟師「うぐっ……。」
ギメイ(シロウ)「動くな。傷が塞がるまで待て。」
*次にもう一人の男。こちらは若い青年で、左腕が折れて変な方向に曲がっている。骨折だ。意識はあるが、歯を食いしばって痛みに耐えていた。*
ギメイ(シロウ)「腕、折れてるな。ちょっと痛いぞ。」
青年「あ、あんた誰……ぐぁっ!」
*彼は青年の腕を掴み、一瞬で骨の位置を矯正した。すかさず回復薬を吹き付ける。骨が繋がり、腫れが引いていく。*
*最後に女性と子供2人。女性は大きな外傷は無いが、火山灰を大量に吸い込んだらしく、咳が止まらない。子供2人は……3歳くらいの双子だろうか。泣きじゃくっているが、外傷は見当たらない。女性が身体を張って庇ったのだ。*
*彼はノズルをシャワーに切り替え、女性と子供にまとめて回復薬を浴びせた。女性の咳が収まり、呼吸が楽になった。*
女性「けほっ……あ、ありがとう、ございます……。この子たちは……。」
ギメイ(シロウ)「子供は無事だ。外傷も無い。あんたがちゃんと守ったからだ。」
*女性の目から涙がぽろぽろとこぼれた。子供たちをさらに強く抱きしめる。*
ギメイ(シロウ)「全員動けるか? 麓の町に飛ばす。」
猟師「あ、ああ……背中がもう痛くねえ。あんた一体何を……。」
ギメイ(シロウ)「質問は後だ。目を閉じろ。」
*5人を転移魔法でレンツォの避難所へ送った。一瞬で森から人の気配が消える。*
*彼は立ち上がり、神眼で周囲を再スキャンした。*
シロウ(……よし。生体反応、周囲にはもう無し。全員避難完了だな。死者ゼロ。)
*彼はふぅと息を吐き、ノズルを異空間収納にしまった。空を見上げる。火山はまだ噴煙を上げているが、溶岩流は岩壁で逸れたまま無人の谷に流れ込んでいる。当面は大丈夫だろう。*
*彼が一息ついた矢先、避難所となっている教会の方角から騒がしい声が聞こえた。レンツォの町に戻ると、自警団員が担架を運んでいる。その上に横たわる人物は……明らかに周囲の避難民とは違っていた。*
*仕立ての良い絹のコート。金糸の刺繍が入った襟元。指には宝石をあしらった指輪が光っている。だが顔は血まみれで、左脚が異常な角度に折れ曲がり、白い骨が皮膚を突き破っていた。開放骨折だ。腹部にも大きな裂傷があり、内臓が見えかけている。*
自警団員「た、旦那! この人、火口付近で馬車ごと崖から落ちたらしくて……通りかかった猟師が引きずって降ろしてきたんですが……。」
ギメイ(シロウ)「こいつはどうしたんだ?」
*彼はしゃがみ込み、神眼で男を鑑定した。*
シロウ(……ヴェルナー・フォン・ブランシュタット。帝国北部の男爵家の当主か。35歳。なんでこんな火山の近くに貴族がいるんだ?)
*男の意識は朦朧としていた。唇が微かに動いている。*
ヴェルナー「こう……ざん……。鉱山の……視察に……。」
シロウ(鉱山の視察? このタイミングで火山付近の鉱山を……。)
*彼は眉をひそめた。帝国の男爵家が火山地帯の鉱山に関心を持っている。宝石の鉱脈絡みか、それとも別の理由か。*
*だが今はそんな詮索をしている場合ではない。腹部の傷から出血が止まらず、このまま放置すれば数分で失血死する。*
*担架の上のヴェルナーの腹部には、馬車の残骸から飛び出したと思われる鉄の棒が深々と突き刺さっていた。直径3センチほど。腹部を貫通はしていないが、かなり深く刺さっている。*
ギメイ(シロウ)「こんな状態で良く生きてたな……普通死ぬぞ。」
自警団員「猟師が見つけた時にはもう虫の息で……正直、ここまで運ぶ間に死ぬかと……。」
*彼は即座に転移魔法でヴェルナーの上半身の衣服だけを剥がした。血に染まった絹のコートとシャツが地面に落ちる。露わになった上半身は痩せ型だが、貴族らしく傷一つない白い肌だった。今は血まみれだが。*
*彼は異空間収納から酒瓶を取り出し、蓋を開けた。ドワーフ特製の強い蒸留酒だ。アルコール度数は60を超える。*
ギメイ(シロウ)「消毒する。これだけの傷、回復薬でも治せるが菌が入る危険性がある。」
*酒を傷口の周囲にぶっかけた。ヴェルナーの身体がびくんと跳ねた。*
ヴェルナー「がぁっ……!」
ギメイ(シロウ)「鉄の棒で良かったな。木だったら折れて破片が体内に散らばってた。鉄なら一本で抜ける。」
*彼は鉄の棒を掴み、刺さった角度を神眼で正確に把握した。臓器の損傷状況も確認する。*
シロウ(胃と腸は避けてる……肝臓を掠めてるが致命傷じゃない。運のいい奴だ。)
ギメイ(シロウ)「今から抜く。噛め。」
*近くにあった革のベルトをヴェルナーの口に噛ませた。朦朧とした意識の中、男が本能的に歯を食いしばる。*
ギメイ(シロウ)「3、2……。」
*2を言い終わる前に、彼は一息で鉄の棒を真っ直ぐ引き抜いた。*
ヴェルナー「んぐぅぅぅぅぅっ!!」
*鮮血が噴き出した。彼はすかさず酒を傷口に流し込み、消毒。そしてノズルから回復薬を至近距離で噴射した。腹部の裂けた筋肉が繋がり、内臓の損傷が修復されていく。皮膚が閉じ、出血が止まった。*
*続いて左脚の開放骨折。飛び出した骨を手で押し込み、回復薬を吹き付ける。骨が繋がる鈍い音がした。*
*数十秒後、ヴェルナーの全身の傷が塞がっていた。顔色に少しだけ赤みが戻ってくる。*
自警団員「す、すげえ……。死にかけだったのに……。」
ギメイ(シロウ)「出血が多かった分、しばらくはふらつくだろうが命に別状は無い。安静にさせておけ。」
*担架で運ばれていくヴェルナーが、ふと腕を伸ばした。彼の手首を掴む力は弱々しかったが、確かな意志が込められていた。*
ヴェルナー「ま、待ってくれ……。命を……救ってもらった恩、忘れない……。あなたの名は……。」
*血の気の失せた顔で、それでも必死に目を開けている。貴族としての矜持がそうさせているのだろう。*
ギメイ(シロウ)「ギメイだ。ただの通りすがりだよ。」
ヴェルナー「ギメイ殿……必ず、この恩は……。」
*そこまで言って意識が途切れた。握っていた手がだらりと落ちる。自警団員が慌てて担架を運んでいった。*
ギメイ(シロウ)「おい、土と触れさせるなよ。毛布でも何でもいいから下に敷け。感染症になる。」
自警団員「は、はい!」
*担架が教会の中に消えていく。彼はそれを見送り、ふぅと息を吐いた。*
シロウ(鉱山の視察、ね。この火山に鉱脈があることを知ってたのか? それとも偶然か……。)
*神眼で確認した巨大なダイヤモンドとルビーの鉱脈が脳裏に浮かぶ。帝国北部の男爵家がわざわざ火山地帯まで視察に来る理由。偶然とは思えない。*
*だが今はそれどころではない。彼は教会の前に立ち、避難所の様子を見渡した。*
*教会の中は人で溢れていた。3つの村からの避難民と、先ほど彼が救助した者たち。合計で50人近い。毛布が足りず、床に直接座り込んでいる者もいる。子供の泣き声と、火山灰で咳き込む音が響いている。*
町長「いやはや……これだけの人数、食料も寝具も足りません……。」
*白髪の老人が額の汗を拭いながら近寄ってきた。レンツォの町長だろう。*
ギメイ(シロウ)「食料と毛布か。」
*彼は異空間収納から毛布の束を20枚ほど取り出した。ついでに保存食の干し肉と硬パンも箱ごと出す。迷宮探索用の備蓄だが、今使わなくてどうする。*
町長「こ、これは……! あなた一体……。」
ギメイ(シロウ)「配ってくれ。子供と怪我人を優先で。」
町長「は、はい! ありがとうございます!」
*町長が慌てて毛布と食料を受け取り、避難民に配り始めた。*
ギメイ(シロウ)「あとは国の…帝国の救助隊が来るだろう。そいつらを頼れば問題ないだろう。」
*彼は火山の火口に向かって跳んだ。途中、結界に熱変動無効化を付与する。数千度の熱が肌に届く前に、見えない壁に弾かれて消えた。まるで涼しい風の中を歩いているかのようだ。*
*火口の縁に立つと、赤く煮えたぎるマグマが遥か下で渦巻いていた。硫黄の臭いすら結界が遮断している。彼はそのまま火口の内壁を伝って降下していく。*
*地下100メートル。マグマの流れから逸れた横穴に入ると、そこは別世界だった。*
シロウ「……おいおい。」
*原石がゴロゴロと転がっていた。文字通り、足の踏み場もないほどに。*
*拳大のダイヤモンドの原石が壁面から突き出し、床には赤く輝くルビーの塊が散乱している。サファイアの青い結晶が天井から鍾乳石のように垂れ下がり、奥の壁面にはエメラルドの緑が脈状に走っていた。*
*神眼を起動して鑑定する。*
シロウ(ダイヤモンド原石……純度Sクラスが12個、Aクラスが40個以上。ルビーはSSクラスが3個……SSクラスのルビーって市場に出たら白金貨数百枚は下らないぞ。)
*さらに奥へ進む。横穴はどんどん広がり、やがて巨大な空洞に出た。天井は30メートル以上の高さがある。そしてその中央に……。*
シロウ「……嘘だろ。」
*高さ2メートルほどの巨大なダイヤモンドの結晶が、地面から生えるように鎮座していた。透明度が異常に高く、結界越しでも分かるほどの虹色の光を放っている。*
*神眼が鑑定結果を表示した。*
シロウ(『始原のダイヤモンド』……世界創生期に生成された天然結晶。純度は測定不能。魔力伝導率が通常のダイヤモンドの500倍……。これ、宝石としての価値だけじゃなく、魔道具の素材としても最高級じゃないか。)
*彼は腕を組んで巨大な結晶を見上げた。*
シロウ(これ一つで黒金貨何万枚だ? いや……値段がつかないレベルだぞ。市場に出したら経済が崩壊する。)
*巨大結晶は置いておくとして、周囲の原石だけでも莫大な量だ。彼は異空間収納を展開し、手当たり次第に原石を回収し始めた。*
*ダイヤモンド原石を50個、ルビーを30個、サファイアを20個、エメラルドを15個。全て拳大以上の高品質なものだけを選別して収納した。*
シロウ(これだけあれば酒の買い付け資金どころか、ドワーフどもに上等な酒を何百年分でも送れるな。)
*それも収納し、彼は空洞を見渡した。まだまだ鉱脈は続いている。この火山の地下全体が巨大な宝石の貯めこんでいた。*
*彼は火口内の空洞を歩き回りながら、手当たり次第に原石を異空間収納にポイポイと放り込んでいった。壁面に突き刺さった結晶は土魔法で周囲の岩盤ごと切り出し、丁寧に収納する。*
ギメイ(シロウ)「あの男爵には悪いが、残らず頂いていこう。」
*始原のダイヤモンドの前に立つ。2メートルの巨大結晶が虹色の光を放っている。彼は根元の岩盤を土魔法で切断し、結晶ごと異空間収納に飲み込ませた。空洞から虹色の光が消え、暗闇だけが残った。*
ギメイ(シロウ)「始原のダイヤは博物館に飾るか……丁度アスカロンが無くなって寂しかったんだよな。」
*かつて石化した古龍と共に飾られていた聖剣アスカロンの跡地。あそこに始原のダイヤモンドを据えれば、世界樹の隣の博物館に相応しい目玉展示になるだろう。*
*さらに奥の鉱脈にも踏み込み、天井のサファイア鍾乳石も壁面のエメラルドの脈も根こそぎ回収した。火山の地下が文字通り空っぽになっていく。*
*1時間後。彼は火口から飛び出し、近くの岩場に腰を下ろして異空間収納の中身を確認した。*
ギメイ(シロウ)「えー合計で……。」
*神眼で一つ一つ鑑定しながら数え上げる。*
シロウ(ダイヤモンド原石……Sクラス38個、Aクラス127個、Bクラス以下が340個。ルビー……SSクラス3個、Sクラス22個、Aクラス89個。サファイア……Sクラス15個、Aクラス61個。エメラルド……Sクラス8個、Aクラス43個。それに始原のダイヤモンド1個。)
*彼は頭の中で概算を弾いた。*
シロウ(Sクラスのダイヤ原石1個が加工後で白金貨50枚から100枚……。SSクラスのルビーは希少すぎて相場が無いが、白金貨500枚は堅い。全部合わせると……。)
*指折り数える。*
ギメイ(シロウ)「……ざっと黒金貨200枚から300枚分か。始原のダイヤは値段がつかないから除外して。」
*つまり日本円換算で2億から3億。始原のダイヤモンドを除いてもだ。以前日本で拳大のダイヤ原石を3億5,000万で売った時の事を思い出す。あの時はたった1個だった。今回は数百個。*
*彼は満足げに頷き、立ち上がった。*
*彼は博物館のメインスポットに始原のダイヤモンドを設置し終えた。ガラスケースの中で2メートルの巨大結晶が静かに佇んでいる。明日、照明が当たれば虹色の光が館内を満たすだろう。*
シロウ「……うん、いい感じだ。」
*満足げに頷き、城に戻って泥のように眠った。火山での救助活動と採掘で、流石に疲れていた。*




