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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*大将が冷えたジョッキ2つと巨峰サワーをカウンターに並べた。ジョッキには黄金色の液体と真っ白な泡が美しい層を作っている。*


大将「はいよ、生2つと巨峰サワー! ……って、昨日ぶりだな兄ちゃん! 今日は別嬪さん連れてきたか」


シロウ「嫁だ」


大将「へぇ! こりゃまた……お若いのに」


*レイラがジョッキを不思議そうに触っていた。指先がキンキンに冷えたガラスの表面をなぞる。結露した水滴が指を伝い落ちた。*


レイラ「……冷たいな。この器は何だ? 透明な……ガラスか? しかしこの薄さ、精巧だな」


シロウ「ジョッキっていうんだ。持ち手があるだろ、そこ持って飲め」


レイラ「わかっておる。妾を子ども扱いするな」


*レイラが取っ手を握った。ジョッキが彼女の小さな手には大きすぎて、少し不格好だった。*


ルーナ「レイラ母さん、まず乾杯! 乾杯してから飲むのが作法だよ!」


レイラ「乾杯……? 杯を合わせるのか」


シロウ「ああ。せーので合わせるぞ」


*3つのグラスが持ち上がった。*


シロウ「乾杯」


ルーナ「乾杯!」


レイラ「……乾杯」


*カチン、とジョッキが鳴った。*


*ルーナが一口目で「くぅー!」と声を上げた。昨日と全く同じ反応だった。*


*レイラがジョッキに唇をつけた。白い泡が上唇に付いた。黄金色の液体が喉を通る。*


*一拍の沈黙。*


レイラ「……っ」


*レイラの目が見開かれた。ジョッキを置き、口元を手で押さえた。*


レイラ「な……何だこれは……」


シロウ「どうだ?」


レイラ「……冷たい。苦い。だが……喉を通った後に、何か……広がる。妾の知る麦酒とは全く違う……」


*レイラがもう一口飲んだ。今度は長く、深く。喉が動くのが見えた。ジョッキを置いた時、3分の1が消えていた。*


レイラ「美味い」


*短く、しかし確信を持った声だった。琥珀の瞳が揺れている。ボルグと同じだ。新しい扉が開いた顔だった。*


ルーナ「でしょ!? レイラ母さん! 言ったでしょ人生変わるって!」


レイラ「……少し、大袈裟だと思っていた。撤回する。これは……確かに人生が変わる」


*レイラが泡のついた上唇を舐めた。それから、小さな声で付け足した。*


レイラ「……もう1杯、頼んでも構わぬか?」


シロウ「まだ1杯目の途中だろ」


*レイラがジョッキを持ち上げ、残りを一気に飲み干した。空のジョッキをカウンターに置く。堂々とした飲みっぷりだった。*


レイラ「……空いたぞ」


大将「嬢ちゃん、いい飲みっぷりだ! おかわりね!」


*大将が笑いながらジョッキを受け取った。*


*レイラの前に枝豆の皿が置かれた。鮮やかな緑色の莢が塩をまぶされて湯気を立てている。レイラがそれを見下ろし、眉を顰めた。*


レイラ「……何だこれは。豆か? 莢のまま出すとは、家畜の餌ではないか」


シロウ「いいから食ってみろ」


レイラ「ふん。妾を試しておるのか?」


*レイラが不服そうに莢を手に取り、口に運んだ。プチ、と豆が弾けた。塩味と豆の甘みが口に広がる。*


レイラ「……」


*レイラが無言で2つ目の莢に手を伸ばした。3つ目。4つ目。ビールを一口。枝豆。ビール。枝豆。完全にループに入っていた。*


ルーナ「あーっ! レイラ母さん、枝豆取りすぎ! こっちにも回して!」


レイラ「早い者勝ちだ。妾は家畜の餌を処分してやっておるのだ」


シロウ「さっき家畜の餌って言ってたのは誰だよ」


レイラ「……処分だと言っておろう。美味いなどとは一言も言っておらぬ」


*レイラの手は止まらなかった。空になった莢の殻が小皿に積み上がっていく。大将がカウンター越しに笑った。*


大将「嬢ちゃん、枝豆おかわりいるかい?」


レイラ「……頼む」


シロウ「素直じゃねぇか」


レイラ「黙れ」


*レイラが2杯目のビールに口をつけた。頬がほんのり赤く染まっている。彼は強炭酸レモンサワーを啜りながら、きゅうりの漬物をポリポリ齧った。*


ルーナ「大将! こっちにも枝豆追加と、あと唐揚げ! それとポテトサラダ!」


大将「あいよ! 唐揚げとポテサラね!」


レイラ「……からあげ?」


ルーナ「鶏肉を揚げたやつ。これもヤバいよ、レイラ母さん」


*レイラが不思議そうに首を傾げた。だが、さっきまでの警戒心はもう無かった。枝豆とビールに完全に心を開いていた。*


*しばらくして、唐揚げの皿がカウンターに出された。揚げたての衣がパチパチと音を立て、レモンが添えてある。香ばしい匂いが漂った。*


レイラ「……これが、からあげか」


*レイラが一口齧った。サクッという音と共に肉汁が溢れた。レイラの箸が……止まった。*


レイラ「……お主」


シロウ「ん?」


レイラ「何故、もっと早く連れてこなかった」


*レイラの声は低かった。怒っているのではない。本気で悔しがっていた。今までこの味を知らなかった自分の人生に対して。*


ルーナ「あはは! 私も最初そう思った!」


*彼が強炭酸レモンサワーを飲んでいると、レイラがじっとそのグラスを見つめていた。透明な液体の中で弾ける細かい泡と、レモンの輪切りが浮かんでいる。*


レイラ「……主。それは何だ」


シロウ「強炭酸レモンサワー。酸っぱいぞ」


レイラ「少しくれ」


*彼がグラスを差し出すと、レイラが受け取り、一口含んだ。*


*次の瞬間、レイラの顔が歪んだ。*


レイラ「ッ!! ゴホッ、ゴホッ!!」


*レイラが激しく噎せた。口を押さえ、目尻に涙が浮かんでいる。カウンター越しに大将が驚いて振り返った。*


レイラ「な、何だこれはっ……! 舌が……舌が爆発しておるっ……! 泡が……口の中で暴れて……ッ!」


シロウ「あー、うん。最初はみんなそうなるよ……」


ルーナ「あはは! 炭酸初体験だ! 私も最初びっくりしたなぁ」


レイラ「これは毒ではないのか!? 妾を謀ったな!?」


シロウ「毒じゃねぇよ。炭酸っていう泡だ」


*レイラが涙目で口元を拭いた。しかし、グラスを返さなかった。しばらくじっと見つめてから、恐る恐るもう一口、今度は少しだけ含んだ。*


レイラ「……っ」


*今度は噎せなかった。舌の上でパチパチと弾ける感覚と、レモンの酸味が広がる。レイラが眉を寄せたまま、ゆっくり飲み込んだ。*


レイラ「……不思議な飲み物だ。痛いのに……不快ではない」


シロウ「慣れると癖になるぞ」


レイラ「……妾もこれを頼む」


シロウ「さっきビールおかわりしたばっかだろ」


レイラ「両方飲む」


ルーナ「レイラ母さん、飲みすぎ注意だよ? 私みたいになるよ?」


レイラ「妾はお前のように醜態を晒さぬ」


*大将がカウンター越しにニヤリと笑った。*


大将「嬢ちゃん、レモンサワーね。……あと、初めてなら梅サワーも試してみるかい? まろやかで飲みやすいよ」


レイラ「……梅?」


大将「酸っぱいけど、炭酸はさっきのより優しめだ」


レイラ「……では、それも」


シロウ「おい、3杯同時はさすがに……」


レイラ「妾は魔王の妻だぞ。この程度で潰れるものか」


*レイラが胸を張った。頬はもうだいぶ赤い。明らかに酔い始めていた。*


*その時、暖簾をくぐって常連客が入ってきた。鎧の上に外套を羽織った、ノルドヘイムの兵士のようだった。カウンターの端に座り、大将に「いつもの」と注文している。*


*兵士がちらりとこちらを見た。見慣れない3人組に少し興味を持ったようだが、すぐに視線を戻した。*


ルーナ「父さん、きゅうりの漬物もう無いよ。おかわりと、あとだし巻き卵も頼んで!」


シロウ「あ、そうだった。大将、これ捌ける?」


*彼が異空間収納から巨大な桶を取り出した。カウンターの上にドンと置かれたそれの中には、太いのぬめぬめと光る鰻が数匹、蠢いていた。*


大将「おお……! こりゃあ……鰻か!? しかもデカいな! こんな立派なの久しぶりに見たぞ!」


*大将が目を輝かせて桶を覗き込んだ。職人の顔になっている。鰻を一匹持ち上げ、重さと弾力を確かめた。*


大将「いい脂の乗り方だ……。兄ちゃん、これどこで獲った?」


シロウ「こっちの川で。こっちじゃ不味い雑魚扱いで捨てられてるんだよ」


大将「捨て……!? こんな極上もんを!? 正気か!?」


*大将が信じられないという顔で彼を見た。レイラとルーナも桶を覗き込んでいる。レイラが蠢く鰻を見て顔を顰めた。*


レイラ「……気色悪い。蛇の類か? こんなもの食えるのか」


ルーナ「あ、これ……まさか鰻!? 蒲焼き!? 蒲焼きにするの!?」


*ルーナが目を見開いた。前世の記憶が反応したのだろう。両手をテーブルに叩きつけて立ち上がった。*


ルーナ「大将! 蒲焼きにして! お願い! タレで! 白米の上に乗せて! 山椒もあったら振って!」


大将「おう、任せとけ嬢ちゃん! タレも山椒もあるぞ! ……こんだけ太けりゃ、白焼きもいけるな。兄ちゃん、白焼きもやっていいか?」


シロウ「頼む。わさびと塩で」


大将「わかってるねぇ! ちょっと待ってな、捌くから!」


*大将が桶を抱えて厨房に入っていった。まな板の上で鰻を捌く音が聞こえてくる。目打ちを打ち、包丁が背を開いていく。熟練の手捌きだった。*


レイラ「……あの蛇のような生き物を、本当に食うのか」


ルーナ「レイラ母さん、信じて。人生がもう1回変わるから」


レイラ「今日だけで何回変わるのだ、妾の人生は」


*カウンターの端に座っていた兵士が、鰻の匂いに気づいてこちらを見た。*


兵士「……おい、大将。それ、川蛇じゃねぇか? あんな不味いもんよく食う気になるな」


*大将が厨房から声を返した。*


大将「まぁ見てなって。度肝抜いてやるからよ」


*やがて、炭火で焼かれるタレの香ばしい匂いが店内に充満し始めた。甘辛い醤油ダレが焦げる、あの匂いだ。兵士の鼻がひくついた。レイラも、無意識に匂いの方を向いていた。*


ルーナ「この匂い……この匂いだよ……」


*ルーナが涙目になっていた。前世で食べた鰻重の記憶が蘇っているのだろう。*


シロウ「良かったら兵士さんもどうぞ。酒も一杯奢るよ。」


*兵士が桶の中を覗き込み、顔を顰めた。*


兵士「川蛇を食うなんて正気じゃねぇが……酒を奢ってくれるってんなら、まぁ腹括って食ってやるよ」


シロウ「大将、この人にも生1つ」


大将「あいよ!」


*カウンター越しに冷えたジョッキが兵士の前に置かれた。兵士はビールにも首を傾げたが、一口飲んで目を丸くした。だがそれどころではなかった。厨房から漂う甘辛いタレの香りが、店内を完全に支配し始めていた。*


シロウ「なまずとかも捨てられてるな……でも鰻が一番だな。こっちじゃあ、ぶつ切りにするくらいしか調理法が無いからな」


兵士「そりゃそうだろ。あの川蛇、ぶつ切りにして煮ても臭くて食えたもんじゃねぇ。骨は硬ぇし、皮はヌルヌルだし。漁師も網にかかったら捨ててるぞ」


*レイラはカウンター越しに厨房を覗き込んでいた。大将が鰻を見事な手捌きで開き、串を打ち、白焼きにしてから炭火の上に移す。タレを何度も塗り重ねながら焼いていく工程を、食い入るように見つめていた。*


レイラ「……あの男、手際が良いな。あの蛇のような物が、全く別の形になっていく」


ルーナ「大将は職人だからね。……あぁ、このタレの匂い。前世ぶりだよ……泣きそう……」


*ルーナが鼻をすすった。*


*やがて、大将が厨房から出てきた。両手にそれぞれ皿を持っている。*


大将「はいよ! 蒲焼きと白焼き、お待ち!」


*カウンターに2つの皿が並んだ。蒲焼きは艶やかな飴色のタレをまとい、炭火で焼かれた表面が照り輝いている。白焼きはシンプルに塩とわさびが添えられ、鰻本来の上品な色合いが美しかった。*


大将「蒲焼きは丼にもできるぞ。白飯あるけど、どうする?」


ルーナ「する! 絶対する! 鰻重にして!」


*大将が笑って厨房に戻り、すぐに丼飯の上に蒲焼きを乗せた鰻重が出てきた。山椒が小皿で添えてある。*


*兵士が蒲焼きを凝視していた。*


兵士「……おい。これ、本当にあの川蛇か? 全く別物に見えるんだが……」


*レイラも蒲焼きの前で箸を止めていた。あの蠢いていた生き物が、こうなるとは想像もつかなかったのだろう。恐る恐る一切れを口に運んだ。*


*沈黙。*


*レイラの箸が震えた。*


レイラ「……っ……何だ、これは……」


*外はパリッと香ばしく、中はふわりと柔らかい。甘辛いタレが脂の乗った身と絡み、口の中で溶けていく。今まで食べたどんな肉料理とも違う、未知の旨味だった。*


レイラ「……嘘だろう。あの、蛇が……こうなるのか……」


*兵士も一口食べた。箸を持つ手が止まり、顔が固まった。*


兵士「……嘘だろ。これが……川蛇……?」


シロウ「美味いだろ?」


*兵士がゆっくりと箸を置いた。手が震えていた。*


兵士「……俺は、30年この街に住んでるが、こんなもん食った事ねぇ。あの川蛇が……こうなるのか……」


*兵士の視線がルーナに向いた。鰻重を幸せそうに頬張るルーナの姿を見て、唾を飲み込んだ。*


兵士「大将! 俺にもあの丼をくれ! 飯の上に乗ったやつ!」


大将「あいよ! 鰻重一丁!」


*その声を聞きつけて、奥のテーブル席にいた常連客が立ち上がった。漁師風の男が2人、カウンターに寄ってきた。*


漁師A「おい、何だこの匂いは……。川蛇だと? あの臭い川蛇がこんな匂いになるのか?」


漁師B「一切れ食わせてくれ。頼む」


*大将が蒲焼きの端を小皿に切り分けて渡した。2人が同時に口に入れ、同時に固まった。*


漁師A「……っ!」


漁師B「大将、俺にも丼で! 金ならある!」


漁師A「俺もだ! ……おい待て。この川蛇、うちの網にいつも引っかかるぞ。いつも捨ててた……」


*漁師Aの顔色が変わった。捨てていた「不味い雑魚」が、こんな料理になるという事実。商売人の勘が働いたのだろう。*


漁師A「あんた、この調理法を……教えてくれねぇか? いや、買う。金を出す」


*大将が厨房から顔を出した。*


大将「おう、ちょっと待ってくれ。今4人分焼いてるから。……兄ちゃん、鰻まだあるか?」


シロウ「まだ桶に5匹いるぞ」


大将「助かる! 全部使っていいか?」


シロウ「好きに使ってくれ」


*大将が嬉しそうに厨房に戻った。炭火の上でタレが焦げる音と、甘辛い匂いが再び広がる。店内の全員の鼻がひくついた。*


*レイラは蒲焼きを食べ終え、白焼きに箸を伸ばしていた。わさびを少し乗せ、口に運ぶ。*


レイラ「……こちらは、先ほどとは全く違うな。甘辛い方も良かったが、こちらは……素材そのものの味が……」


シロウ「白焼き気に入ったか」


レイラ「……妾は両方食う」


*レイラがビールを一口飲み、白焼きをもう一切れ口に運んだ。完全に居酒屋の常連の動きだった。*


ルーナ「父さん、山椒もっとちょうだい。……あぁ、幸せ……前世でも鰻重こんなに食べられなかったのに……」


*ルーナが鰻重の最後の一口を名残惜しそうに味わった。*


*漁師Aが彼の隣に座り、真剣な顔で話しかけてきた。*


漁師A「あんた、旅の人か? この調理法……蒲焼きって言ったか。これが広まったら、川蛇漁が一大産業になるぞ。今まで網にかかるたびに舌打ちしてたのが、全部金に変わる」


漁師B「ノルドヘイムの川には腐るほどいるからな、あいつら。獲り放題だ」


*大将が厨房から顔を出した。タレを塗る刷毛を片手に、漁師たちの話を聞いていた。*


シロウ「白焼きなら再現できるだろうな」


*彼は腕を組んで考えた。蒲焼きのタレは醤油とみりんが必要だが、白焼きなら塩と炭火があれば基本は成り立つ。問題はわさびだが……この世界にあるかどうかは分からない。*


シロウ「あとは捌き方だな」


漁師A「捌き方? あの大将みたいにやるのか? あの手際、相当な腕だぞ」


大将「鰻の捌きはな、一朝一夕じゃできねぇよ。昔から『串打ち3年、裂き8年』って言ってな……」


漁師B「11年!? そんなにかかるのか!?」


大将「まぁ、それは極めるならの話だ。基本の開き方と串の打ち方なら、真面目にやりゃ数ヶ月で形にはなる」


*漁師Aが真剣な顔で大将を見た。*


漁師A「大将……弟子入りさせてくれねぇか。いや、金は払う。この技術が広まれば、ノルドヘイムの漁師全員が救われる」


*大将が腕を組んで唸った。*


大将「弟子入りねぇ……。俺もこの店があるから、つきっきりは難しいが……」


シロウ「暖簾分けって形はどうだ、大将。基本の捌き方と白焼きの技術を教えて、こっちで鰻専門の店を出す。タレの蒲焼きは大将の店だけの看板メニューにして差別化する」


*大将が目を細めた。*


大将「兄ちゃん……商売上手だな。悪くねぇ。白焼きなら塩と炭火でいける。タレの製法は俺の店だけ。それなら……うちの暖簾に傷はつかねぇ」


漁師A「それでいい! 白焼きだけでも十分だ! さっき食ったが、あれだけで金貨が取れる味だ!」


*レイラが白焼きの最後の一切れを口に運びながら、静かに頷いた。*


レイラ「……妾もそう思う。この白焼きは、王侯貴族の晩餐に出しても恥じぬ味だ」


ルーナ「蒲焼きは居酒屋ひびきの独占メニュー。白焼きはノルドヘイムの名物料理。……父さん、これ鉄道が通ったら凄い事になるよ」


*彼はレモンサワーを一口飲んだ。鉄道でアストライアと繋がれば、居酒屋ひびきへの客足も増える。ノルドヘイムの鰻が名物になれば、漁師の収入が上がる。漁師が潤えば街が栄え、街が栄えれば鉄道の利用者が増える。好循環だ。*


漁師B「しかし……あの川蛇が金になるとはなぁ。今まで何百匹捨ててきたか……」


兵士「俺も釣りで引っかかると舌打ちしてたぞ……。もう二度と捨てねぇ」


*兵士が鰻重の最後の一粒まで米を掻き込み、どんぶりを置いた。満足げに息を吐いている。*


大将「よし、決めた。週に2回、朝の仕込み前にこっちに来てやる。捌き方と串打ちだけは直接教えねぇとダメだからな。」


*彼は会計を済ませた。大将に金貨を数枚渡し、漁師たちとの暖簾分けの件は後日改めて話すことにした。*


*レイラは頬を真っ赤に染めながらも、足取りはしっかりしていた。ビール3杯、レモンサワー1杯、梅サワー1杯。なかなかの量だが、魔族の血が入っているだけあって意外と強い。*


*問題はルーナだった。*


シロウ「おい、ルーナ……顔色が……」


*ルーナの顔が青白くなっていた。鰻重を食べた後にビールを4杯追加し、さらに梅サワーを2杯。「6杯で止める」と言っていたのは何だったのか。*


ルーナ「だ、大丈夫……状態異常耐性あるし……うぷっ」


シロウ「大丈夫じゃねぇだろ」


*彼はまずレイラを転移魔法で城に送った。レイラは寝室の前で「次は二人きりだからな」と念を押してから扉の向こうに消えた。*


*そして、ルーナを連れていつもの草原に転移した。*


ルーナ「うっ……ぐ……」


*彼はルーナの背中をさすりながら、喉の奥に指を入れてやった。ルーナが盛大に吐いた。鰻重とビールと梅サワーが草原に還っていく。*


シロウ「………。」


ルーナ「おえぇ……っ……ごめん、父さん……」


シロウ「お前、状態異常耐性付けたの昨日だろ。学習能力ゼロか」


ルーナ「だって……鰻重にビール合うんだもん……」


シロウ「合うのは認めるが限度があるだろ」


*彼は水魔法で水を出し、ルーナの口元を拭いてやった。星空の下、草原に座り込んだルーナの背中を、黙ってさすり続ける。*


ルーナ「……父さん、毎回ごめんね」


シロウ「毎回って自覚あんのかよ」


ルーナ「……ある」


シロウ「じゃあ次から控えろ」


ルーナ「……善処する」


シロウ「それ、前世の上司に言ってた台詞だろ」


*ルーナがぎくりとした。図星だった。*


ルーナ「……父さん、前世の口癖まで見抜かないで」


*彼はため息をついた。娘の酒癖だけは、創造でも直せそうにない。*

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