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*リオンがベルトを押し込んだ瞬間、空間が裂けた。*
*大迷宮99階層から転送魔法陣が展開され、リオンの隣に巨大な影が降り立った。全身がアダマンタイトとミスリルの合金で覆われた龍。核にはオリハルコンとヒヒイロカネが脈動している。*
*合金龍が首をもたげ、咆哮した。*
合金龍「グァァァァオーーーー!!!!」
*大気が震えた。地面が割れ、砂塵が四方に吹き飛んだ。その咆哮は戦場全体を包み、残り5万の敵兵が膝をついた。魔物の群れが怯え、森に逃げ戻っていく。衛兵たちですら一瞬足が止まった。*
*レイラと戦っていた四天王も動きを止めた。*
ザルバ「な……何だ、あの龍は……!」
*遥か遠方、レグナール連邦共和国の王城。玉座に座っていた統一王が、その咆哮を聞いた。窓ガラスが震え、壁に飾られた剣が落ちた。統一王の顔から血の気が引いた。*
*合金龍が第2形態へ自動的に変形を開始した。巨大な龍の体が折り畳まれ、圧縮され、約2メートルの人型へと再構築されていく。合金の外殻が鎧のように全身を覆い、内部のオリハルコンとヒヒイロカネの核が胸部で脈動する。*
*人型になった合金龍が、圧倒的な威圧を放ちながらリオンの肩に手を置いた。その威圧だけでバハムートの動きが一瞬止まった。改造人間の戦闘AIが、目の前の存在を脅威と判定したのだ。*
*リオンの体が震えていた。恐怖ではない。合金龍から流れ込んでくる膨大なエネルギーに体が追いつかないのだ。*
*だがリオンは歯を食いしばった。*
*倒れているカイ・ウォーカーが見えた…盾に穴を空けられたまま気を失っている。ドルガンは森の中。カインは衛兵隊の中に突っ込んだまま。ゲオルグ、アシュトン、ヴァイスは折り重なって倒れている。ルナは陛下に支えられている。*
*仲間が全員やられた。*
*自分だけが立っている。最弱の自分だけが。*
リオン「――変身!」
*叫んだ。震えは消えていた。*
*合金龍の第2形態が光を放ち、第3形態への変形を開始した。人型の合金が分解され、無数のパーツとなってリオンの体に飛んでいく。脚部、腰部、胸部、腕部、そして頭部。アダマンタイトとミスリルの合金が、ライダースーツとしてリオンの全身を包み込んでいった。*
*胸部にオリハルコンとヒヒイロカネの核が収まった。*
*ヘルメットのバイザーが閉じた瞬間、衝撃波が放たれた。リオンを中心に地面が放射状に砕け、空気が爆発的に膨張した。*
*変身が完了した。*
*全身を合金龍の装甲で覆った、約2メートルの人型。ライダーの姿。バイザーの奥で赤い光が灯った。*
*バハムートの戦闘AIが警告を発した。目の前の存在のエネルギー量が、自身を遥かに上回っている。*
*リオンが拳を握った。合金の指が軋む。体中に力が漲っている。*
*3分間。たった3分間だけの力。*
*だがリオンにはそれで十分だった。*
*合金龍の装甲を纏ったリオンが地面を蹴った。地面が蜘蛛の巣のように砕け、衝撃波が後方に広がる。バハムートの戦闘AIが反応するより早く、リオンの拳がバハムートの顔面に突き刺さった。*
*メキン、と合金が軋む音。バハムートの頭部が後方にのけぞった。*
*続けて左の拳。腹部に突き刺さる。右の拳。胸部に叩き込む。左。右。左。右。左右左右左右――。*
*ただひたすらに殴った。*
*バハムートが反撃に拳を振るう。だがリオンは軽く首を傾けるだけでそれをいなした。合金龍のスーツが体の動きを補助し、人間の反応速度を遥かに超えた動体視力と反射神経を与えていた。*
*バハムートの竜化砲が口腔内で収束する。至近距離で放とうとした。リオンの右拳がバハムートの顎を下から打ち上げ、砲撃が明後日の方向に放たれた。光の柱が空を裂き、雲を吹き飛ばした。*
リオン「うおおおおおぉぉぉ!!」
*殴る。殴る。殴る。バハムートの反魔力装甲が砕け、生体金属がひしゃげていく。再生能力が修復しようとするが、リオンの拳の方が速い。壊す速度が再生を上回っていた。*
*バハムートの体が宙に浮いた。連続の打撃で足が地面から離れたのだ。リオンはその体を掴み、力任せに天へ投げ飛ばした。*
*バハムートが空高く舞い上がる。50メートル、100メートル、150メートル――。*
*リオンが膝を曲げ、跳んだ。合金龍の脚部から推進エネルギーが噴出し、リオンの体が弾丸のように空へ駆け上がる。*
*空中でバハムートに追いついた。*
*リオンがベルトの赤いコアを再度押し込んだ。胸部のオリハルコンとヒヒイロカネの核が共鳴し、全エネルギーが右脚に収束していく。脚部が白熱し、赤から橙、橙から白へと色が変わった。*
リオン「ライダー……キィィィック!!」
*リオンの右脚がバハムートの胸部を貫いた。*
*バハムートの内部炉心を、合金龍のエネルギーを纏った蹴りが直撃した。炉心が砕けた。バハムートの体内でエネルギーが暴走し、内側から亀裂が走る。*
*爆発。*
*空中で白い閃光が炸裂した。衝撃波が地上にまで届き、戦場の全員が空を見上げた。*
*爆炎の中から、リオンが落下してきた。合金龍の装甲が所々剥がれ、右脚の装甲は完全に砕けていた。だがリオンは生きていた。*
*着地。片膝をつく。地面が陥没した。*
*倒れていたカインが片目を開けた。*
カイン「……マジかよ、あいつ」
*ドルガンが森の中から木の枝を払いながら這い出てきた。*
ドルガン「おい……今の、リオン…か?」
*バハムートの残骸は空を横切り、レグナール連邦共和国の正門に激突した。*
*轟音。そして大爆発。*
*バハムートの内部に残っていたエネルギーが一気に解放され、正門が跡形もなく吹き飛んだ。石壁が粉砕され、門の両脇に立っていた巨大な竜の石像が砕け散る。爆炎が城壁を舐め、黒煙が空高く立ち昇った。*
*レグナールの城内で、統一王が玉座から立ち上がった。*
統一王「……正門が……」
*側近が蒼白な顔で駆け込んでくる。*
側近「へ、陛下! 正門が消滅しました! ベヒモスも、バハムートも……全て……!」
*統一王の手が震えていた。*
*――戦場。*
*3分が経過した。リオンの全身を覆っていた合金龍の装甲が光の粒子となって剥がれ落ちていく。胸部のオリハルコンとヒヒイロカネの核が最後に一度だけ脈動し、合金龍は元の龍の姿に戻って転送魔法陣の中に消えた。大迷宮99階層へ帰還したのだ。*
*リオンはその場に大の字で倒れ込んだ。*
*全身の筋肉が悲鳴を上げていた。合金龍のエネルギーに3分間耐えただけで、体中の血管が浮き上がり、指先の感覚すらない。息は荒く、心臓が破裂しそうなほど鼓動していた。*
*だがリオンの顔は――笑っていた。*
*やり遂げた顔だった。目尻に涙が滲んでいたが、口元は確かに笑っていた。*
リオン「……倒した、よな……俺……」
*カインが片腕で体を起こし、リオンを見た。*
カイン「……ああ。倒した。お前が倒したんだ、リオン」
*ドルガンが森から出てきて、リオンの傍に立った。戦斧を杖代わりにして、ボロボロの体で。*
ドルガン「やるじゃねぇか、最弱」
リオン「……その呼び方やめろって、何回言えば……」
*リオンの声はかすれていたが、いつものやさぐれた口調だった。*
*ゲオルグがアシュトンとヴァイスに支えられながら立ち上がった。*
アシュトン「記録しました。八輝将リオン、改造人間バハムートを単独撃破。歴史に残りますよ」
ヴァイス「……推せる」
*ヴァイスが小さく呟いた。*
*カイ・ウォーカーが意識を取り戻し、砕けた盾を見つめて溜息をついた。*
カイ・ウォーカー「……盾、新調しないとな」
*ルナが駆け寄り、リオンの隣に膝をついた。*
ルナ「リオン……怪我は……」
リオン「全身痛い。でも骨は折れてない……と思う。多分」
*ルナの手がリオンの額に触れた。回復魔法の淡い光が灯る。リオンは目を閉じ、空を仰いだまま深く息を吐いた。*
*戦場が静まり返っていた。ベヒモスは崩壊し、バハムートは消滅し、正門は吹き飛んだ。レグナールの最終兵器は全て破壊された。*
*レイラの方では、四天王の残り3人が動きを止めていた。正門の爆発と、ベヒモス崩壊とバハムートの敗北、戦意は喪失していた。しかしレイラが止まるはずもない。*
*リオンは大の字のまま空を見上げていた。全身が鉛のように重い。指一本動かすのすら億劫だった。だが胸の奥は、今までの人生で一番熱かった。*
シロウ「どうだリオン、最強になった気分は?」
リオン「……最高だ」
*それだけ言って、リオンは目を閉じた。口元には笑みが浮かんでいた。*
シロウ「そりゃあ良かった。お前のおかげで敵の全兵士が戦意喪失したからな。『最弱』から『最弱兵器』に格上だな」
リオン「……それ格上がってんのか? 最弱は取れてねぇじゃねぇか……」
*かすれた声でツッコミを入れる。だがその声には力がなく、そのまま意識が薄れていった。ルナの回復魔法の温かさに包まれて、リオンは眠りに落ちた。*
ルナ「……リオン、寝ちゃいました。でも、命に別状はありません」
*ルナの声はいつもの静かなトーンだったが、リオンの髪を撫でる手は優しかった。*
*カインがボロボロの体を引きずりながら彼の傍に来た。*
カイン「陛下。レイラ様の方は」
*彼が視線を向けた先では、レイラが四天王の残り3人を蹂躙していた。セリカが倒れた事で回復と強化が途切れ、ザルバ、ミラージュ、ガロンの連携は崩壊していた。*
レイラ「遅いぞ! さっきの威勢はどうした!」
*レイラの拳がザルバの顔面に炸裂し、竜人の巨体が吹き飛んだ。ミラージュが氷の槍を放つが、レイラは素手で叩き折り、蹴りをミラージュの腹に叩き込んだ。ガロンが背後から闇の刃を振るうが、レイラは振り向きもせず肘を叩き込んだ。*
*3人が地面に転がった。もう立ち上がる気力は残っていなかった。*
ザルバ「……化け物が」
レイラ「褒め言葉として受け取っておくぞ」
*レイラが髪をかき上げた。血塗れだったが、満足げな顔だった。*
*残り5万の敵兵は、正門の爆発とバハムートの消滅、四天王の敗北を目の当たりにし、武器を捨て始めていた。膝をつく者、逃げ出す者、泣き崩れる者。もはや軍としての体をなしていない。*
*アシュトンが折れた羽根ペンを拾い上げ、新しいペンに持ち替えた。*
アシュトン「記録します。南大陸戦役、アストライア軍の完全勝利。ベヒモス――破壊。改造人間バハムート――八輝将リオンが単独撃破。四天王――女王レイラが殲滅。敵軍20万――壊滅」
ヴァイス「……リオンさん、推しに追加します」
アシュトン「お前は本当にブレないな」
*レイラは四天王の3人を完全に圧倒していた。セリカの回復が途切れた時点で、勝負は決まっていた。*
*ザルバの拳をレイラが片手で掴み、そのまま腹に膝を叩き込んだ。竜鱗が砕け、ザルバが血を吐いた。ミラージュが背後から氷の刃を突き出すが、レイラは振り向きざまの裏拳で氷ごとミラージュの顔面を粉砕した。最後に残ったガロンが闇のエネルギーを全身に纏い、捨て身の突撃を仕掛けた。*
*レイラの右腕が漆黒の魔力で覆われた。*
*3発。胸、腹、胸。全て同じ箇所を打ち抜いた。ガロンの胴体に拳大の穴が空き、竜人の巨体が崩れ落ちた。*
*続いてザルバ、ミラージュにも同様に穴を空けた。3人の竜人が地面に転がり、動かなくなった。*
レイラ「ふぅ……」
*レイラが膝をついた。そしてそのまま前のめりに倒れ込んだ。全身血塗れで、魔力はほぼ空だった。だがその顔は満足げに笑っていた。*
シロウ「誰か、レイラを回収してやってくれ」
*衛兵4000に命じると、すぐに担架が用意された。レイラは担架に乗せられてもまだ薄く笑っていた。*
レイラ「……シロウ」
シロウ「何だ?」
レイラ「……楽しかった」
*それだけ言って、レイラは意識を手放した。*
*担架を担いだ衛兵たちが、彼が創造した海上の岩の道を通ってアストライア本国へとレイラを運んでいく。リオンも別の担架に乗せられ、ルナが付き添っていた。八輝将の残りもそれぞれ肩を貸し合いながら後退していく。*
*戦場に残ったのは、彼と、武器を捨てて膝をついた敵兵の群れだけだった。*
*5万の敵兵が、ただ一人立っている彼を見上げていた。誰も動けなかった。恐怖ではない。もはや戦う理由が無かった。最強の兵器も、四天王も、全てが敗れた。*
*彼は降伏した敵兵には目もくれず、正門が吹き飛んだレグナールの城を見据えた。*
*正門の瓦礫の向こうに、城の尖塔が見えていた。統一王がまだあの中にいるはずだ。*
*アシュトンが折れかけた体で彼の隣に立った。*
アシュトン「陛下。レグナールの統一王への対応は如何なさいますか」
シロウ「ああ。手紙だけ書いておこう。」
《拝啓、レグナール連邦共和国の王へ。1週間後に会いにいくから準備よろ。敬具っと。》
*腰を抜かした兵士の前に、彼がふわりと浮遊して降り立った。兵士は顔面蒼白で、歯がガチガチと鳴っていた。周囲には15万の死体が転がり、血の臭いが充満している。*
シロウ「あんた、これを王に届けておいてくれ。届かなかったら全員瓦礫の下に消えることになるからそのつもりでな」
*封筒を差し出した。兵士は震える手でそれを受け取った。*
兵士「は、ははっ……! 必ず、必ずお届けいたします……!」
*兵士が封筒を胸に抱え、正門の瓦礫の方へ走っていった。何度も転びながら。*
*彼は踵を返し、海上の岩の道へ向かった。*
*撤収は速やかだった。衛兵4000が隊列を組み、担架に乗せたレイラとリオンを中心に、岩の道を渡っていく。八輝将の残りも互いに支え合いながら歩いていた。*
*カインが片腕をドルガンの肩に預けながら振り返った。*
カイン「……正門吹き飛ばして手紙一通残して帰るって、煽りにも程があるだろ」
ドルガン「あの手紙の中身、絶対ふざけてるよな」
アシュトン「記録しましょうか。内容は確か――『準備よろ』でしたね」
ヴァイス「……推せる」
カイン「お前それしか言わねぇのか」
*海風が岩の道を吹き抜けた。夕陽が水平線を赤く染め、帰路を照らしている。*
*ルナがリオンの担架の横を歩きながら、静かに回復魔法を当て続けていた。リオンは深く眠っている。やさぐれた顔がほんの少しだけ穏やかだった。*
*別の担架ではレイラが寝息を立てていた。全身血塗れのまま、満足そうな寝顔で。衛兵たちは女王の寝顔を見ないよう、必死に前を向いて歩いていた。*
*彼は最後尾を飛行魔法で浮きながらついていった。南大陸を振り返ると、正門から黒煙がまだ立ち昇っていた。*
*1週間後、再びあの城に行く。統一王との会談だ。条件次第では穏便に済む。条件次第では――済まない。*
*だが今はそれを考える必要はなかった。*
*カイ・ウォーカーが砕けた盾の破片を拾い集めながら歩いていた。*
カイ・ウォーカー「陛下、この盾の修理代は経費で落ちますか」
シロウ「オルクスに言え」
カイ・ウォーカー「オルクス殿、絶対渋りますよね……」
ゲオルグ「俺の鎧も胸がへこんでる。ついでに頼む」
カイ・ウォーカー「自分で言ってくれ……」
*ボロボロの軍が、夕陽の中を帰っていく。誰もが傷だらけで、疲れ切っていた。だが誰一人として暗い顔はしていなかった。*
*完全勝利だった。*




