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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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*合戦の日。早朝。*


*アストライアの南岸に全軍が集結していた。潮風が砂浜を吹き抜け、波音だけが静かに響く。*


*レイラは軽装だった。黒い戦闘服に革のブーツ。防具らしい防具は一切身に着けていない。20万を相手にするのに、まるで散歩にでも出かけるような格好だった。*


*八輝将の8名はアダマンタイト製の武具で全身を包んでいた。銀色の鎧が朝日を反射し、砂浜に眩い光を落とす。その後ろに衛兵4000名が整列している。*


*彼は砂浜に膝をつき、両手を地面に押し当てた。土魔法と創造が同時に発動する。*


*ごごごごご、と地鳴りが響いた。海面が盛り上がる。水を押し退けるように、岩盤が海の底から隆起していく。幅は馬車3台分。南大陸に向かって一直線に、石の道が海の上を走っていく。水平線の彼方まで、延々と。波が道の両脇で砕け、白い飛沫を上げた。*


*数分後。南大陸まで繋がる海上の道が完成した。彼は立ち上がり、額の汗を拭った。*


シロウ「レイラ、試しに殴ってみてくれ」


*レイラが無言で道の端に立ち、拳を振り下ろした。魔力を込めた全力の一撃。轟音が響き、衝撃波で周囲の海面が波立つ。*


*道には傷一つなかった。*


レイラ「ほう。頑丈だな」


シロウ「よし……全軍出陣」


*その号令が終わる前に、レイラは既に駆け出していた。黒い影が道の上を疾走し、みるみる小さくなっていく。*


リオン「……行っちまった。速すぎて見えねぇ」


ルナ「追いましょう。置いていかれるわ」


*八輝将が各部隊を率いて道を進み始める。アダマンタイトの鎧が足音を刻み、4000の衛兵が隊列を組んで続く。*


*彼は最後尾を歩きながら、懐からベルトを取り出した。赤い宝玉が朝日を受けて鈍く光る。*


リオン「陛下、それ何すか?」


シロウ「お前へのプレゼントだ」


*彼はベルトをリオンに投げ渡した。リオンが慌てて受け取る。*


リオン「えっ……ベルト? これがアイテム?」


シロウ「腰に巻け。使い方は簡単だ。バックルの宝玉を押して『起動』と言う。それからなんかでてくる。そしたら『変身』と叫べ」


リオン「へ、変身……?」


シロウ「3分間だけ、お前はこの戦場で最強クラスになれる。ただし3分過ぎたら体に相当な負荷がかかる。使い所は自分で見極めろ」


*リオンがベルトを手に、呆然と立ち尽くしていた。*


リオン「……陛下。これ、マジっすか」


シロウ「嘘ついてどうする。ただし本番まで絶対に使うな。テストしてないから壊れるかもしれん」


リオン「テストしてないんすか!?」


シロウ「俺では試した。お前では試してない」


リオン「それ全然違うっすよね!?」


*彼は前を向いたまま、口元だけで笑った。海上の道を進む軍勢の先、水平線の向こうに南大陸の影がうっすらと見え始めていた。*


シロウ「理論上はレイラも圧倒する力を得られる」


*リオンの目が見開かれた。*


リオン「……は? レイラ様を? あの化け物を?」


シロウ「化け物言うな、俺の嫁だぞ。……だがまぁ、事実だ。あのベルトの核は99階層の合金龍だ。レイラは99階層で負けてる」


*リオンがベルトを見下ろした。腰に巻かれた黒い革と銀のバックル。赤い宝玉が朝日を受けて脈動するように光っている。その手が微かに震えていた。畏怖か、興奮か、あるいはその両方か。*


リオン「……俺がこれを使ったら、レイラ様より強くなるってことっすか」


シロウ「3分間だけな」


リオン「3分……」


シロウ「使う時は精神を強く保てよ〜」


*彼は手を振りながら前方へ歩いていった。軽い調子だった。まるで土産を渡した後のような気軽さで。*


リオン「精神を強く保てって何すか!? 具体的に! もっと説明してくださいよ陛下!」


*返事はない。彼は既に八輝将の隊列の間を縫って前方へ向かっていた。*


ルナ「リオン。陛下がああ言うということは、相応のリスクがあるということよ」


リオン「分かってるっすよ……分かってるけど……」


*リオンはベルトのバックルをそっと撫でた。そして小さく息を吐いた。*


リオン「……最弱の俺が、3分だけ最強か」


ルナ「使い所を間違えないで。あなたが倒れたら、私が背負って帰らないといけなくなる」


リオン「それ心配してくれてるんすか、面倒がってるんすか」


ルナ「両方」


*海上の道を進む軍勢。波が道の両脇で砕け、潮の匂いが全軍を包んでいた。*


*先頭のレイラは既に視界から消えている。あの速度なら、もう南大陸の海岸線が見えているだろう。*


*道の中程を歩いていた第四部隊のカインが、前方の水平線を睨んだ。*


カイン「見えてきたな。南大陸だ」


ドルガン「ああ。砂浜に何か並んでる。……あれは陣形だな。待ち構えてやがる」


*南大陸の海岸線に、黒い点の群れが見えた。20万の軍勢が上陸地点を塞ぐように展開している。その後方に――巨大な影が一つ。靄の中にぼんやりと聳えていた。*


リオン「……あれ、何すか。デカすぎないっすか」


ルナ「巨大兵器。格納庫から出してきたようね」


*靄が晴れ始めた。全軍の目に、その全容が映った。*


*全長40メートル。四足歩行の鋼鉄の巨獣。背中に巨大な砲塔を2門備え、全身が黒い金属で覆われている。魔力の光が関節部から漏れ、低い振動音が海を越えて伝わってくる。*


リオン「……ゴーレムっすか。いや、あんなのゴーレムの範疇じゃねぇっす」


ルナ『陛下。巨大兵器の目視を確認。全長推定40メートル。四足歩行型の魔導兵器です。砲塔が2門』


*先頭を歩いていた彼が足を止め、前方を見据えた。*


シロウ『八輝将、幸運を祈る』


*彼は念話を切り、飛行魔法で一気に上空へ飛び上がった。海風が頬を叩く。眼下に広がるのは、南大陸の海岸線と、その奥に展開する20万の大軍勢。そして――既にその中央で暴れ回っている、一つの小さな影。*


*レイラだった。*


*平原が赤く染まっていた。文字通りの血の海だった。レイラは魔法と物理を交互に叩き込みながら、20万の軍勢の真ん中を蹂躙していた。*


レイラ「はははっ! 遅い! 弱い! つまらん! もっと来い!」


*彼女の右手から放たれた漆黒の魔力弾が、密集した前衛部隊を丸ごと吹き飛ばす。着弾地点にクレーターが生まれ、砂煙が舞い上がった。その煙の中からレイラが飛び出し、最寄りの兵士の顎を蹴り上げる。兵士が人形のように宙を舞った。*


南大陸兵「ば、化け物だ! 近づくな! 弓兵隊、射て!」


*矢の雨がレイラに降り注ぐ。数百本。だがレイラは足を止めもしなかった。魔力の薄い障壁が全身を覆い、矢が触れた瞬間に全て砕け散る。*


レイラ「矢如きで妾を止められると思うたか!」


*レイラが地面を踏み抜いた。衝撃波が放射状に広がり、半径30メートルの兵士が全員吹き飛んだ。*


*上空から見下ろす彼の目には、レイラを中心に円形の空白地帯が広がり続けていく様子がはっきりと見えた。まるで赤い絨毯の上に落とされた黒い雫が波紋のように広がっていくようだった。*


シロウ「……楽しそうだな、ほんとに」


*一方、後方では八輝将の部隊が上陸を完了し、巨大兵器へ向かって進軍を開始していた。*


カイン「でけぇな……。あの砲塔、こっちに向いてるぞ」


ドルガン「避けろ。来る」


*巨大兵器の背中の砲塔が光を帯びた。低い振動音が空気を震わせ、砲口に魔力が凝縮されていく。*


*そして――轟音と共に、光の柱が放たれた。八輝将の部隊に向けて、大地を抉りながら直進する。*


カイン「全員散開!」


*八輝将の各部隊が左右に飛び退く。光の柱が通過した跡には、幅5メートル、深さ3メートルの溝が数百メートルに渡って刻まれていた。*


ドルガン「……一発でこれか。厄介だな」


ルナ『陛下。巨大兵器、砲撃を確認。威力は推定Sランク魔法相当。連射間隔は不明です』


*彼は上空から巨大兵器を見下ろした。鑑定を発動する。*


シロウ「鑑定」


```

名称:鋼鉄城塞ベヒモス

種別:魔導兵器(古代遺物改造型)

全長:42メートル

装甲:黒鋼鉄(アダマンタイト未満・ミスリル以上)

砲塔:魔力収束砲 x2(連射間隔:約90秒)

弱点:腹部の魔力炉心

備考:遠隔操作

```


*ドルガンのアダマンタイトの戦斧がベヒモスの右前脚に叩き込まれた。黒鋼鉄の装甲に火花が散り、浅い傷が刻まれる。*


ドルガン「硬ぇ……! だが斬れねぇ訳じゃねぇ!」


*直後、ベヒモスの脚が持ち上がった。巨大な足裏がドルガンの頭上に落ちてくる。影が彼を丸ごと飲み込んだ。*


ゲオルグ「ドルガン!」


*ゲオルグが横から突進し、ドルガンの腰を抱えて転がった。直後、ベヒモスの足が地面を踏み砕く。着地の衝撃だけで二人は5メートル吹き飛ばされた。*


ドルガン「……助かった」


ゲオルグ「礼は後だ。立て」


*左側の森から溢れ出した魔物の群れが、衛兵4000の隊列に殺到していた。オーガ、ワーウルフ、キメラ――統一性のない魔物の大群。明らかに人為的に放たれたものだった。*


衛兵長「魔物は私たちの兵で抑えます。八輝将はベヒモスに集中して下さい!」


リオン「森からまだ出てくるぞ! 第三部隊、左翼を固めろ! 槍兵前列!」


*リオンがやさぐれた顔のまま的確に指示を飛ばす。最弱でも戦場の指揮は別だ。衛兵たちがアダマンタイトの槍を構え、魔物の突進を受け止めた。*


*ベヒモスの砲塔が再び光を帯びた。*


カイン「砲撃が来る! 90秒だったな! 散開!」


*八輝将が左右に飛び退く。光の柱が大地を抉り、通過した場所が溶岩のように赤く溶けた。*


アシュトン「記録します。砲撃の角度、仰角約15度。射角の死角は――直下です」


ヴァイス「つまり腹の下に入れば砲撃は当たらない」


カイン「だが踏まれるぞ」


ドルガン「踏まれるのと砲撃食らうの、どっちがマシかって話だろ」


*ドルガンが戦斧を担ぎ直し、再びベヒモスに向かって走り出した。カインが双剣を抜き、反対側から挟撃する。*


*上空から、彼は戦況を俯瞰していた。*


*レイラの方は既に平原が赤い湖と化していた。20万のうち、立っている者は半数を切っている。レイラは笑いながら拳を振るい続けていた。血飛沫の中で踊る死神のように。*


*八輝将の方は苦戦していた。ベヒモスの装甲は硬く、脚への攻撃では致命傷に至らない。弱点は腹部の魔力炉心だが、42メートルの巨体の下に潜り込むのは自殺行為に等しい。*


*上空から彼は戦場の全容を見渡していた。レイラの周囲は既に15万の屍が転がる赤い平原と化している。残り5万が後退し始めた、その時だった。*


*敵陣の奥から4つの影が飛び出した。尋常ではない速度。地面を蹴る度に地割れが走る。全員が鱗に覆われた肌を持ち、瞳は縦に裂けた爬虫類のそれ。竜人だった。*


```

南大陸四天王

ザルバ(赤竜人):火属性特化、近接格闘型

ミラージュ(青竜人):氷属性特化、速度型

ガロン(黒竜人):闇属性特化、重撃型

セリカ(白竜人):光属性特化、回復支援型

全員Lv.600台

```


*ザルバが縮地でレイラの背後に回った。拳がレイラの背中を捉える。同時にミラージュが左、ガロンが右から挟み込む。3発の拳が同時にレイラの体に叩き込まれた。*


レイラ「がっ……!」


*レイラの体が後方へ吹き飛んだ。地面を3回バウンドし、岩壁に激突する。岩が砕け、粉塵が舞った。*


ザルバ「これが魔王の嫁か。大したことねぇな」


ミラージュ「油断するな。まだ立つ」


*粉塵の中から笑い声が聞こえた。*


レイラ「ははっ……! 効いたぞ、今の! 久しぶりだ、この感覚!」


*自動治癒が発動し、折れた肋骨が瞬時に修復される。レイラは血を拭い、満面の笑みで四天王を見据えた。*


レイラ「4人がかりか。妾を殴り飛ばしたのはシロウ以来だ。褒めてやろう」


*レイラが踏み込んだ。ザルバに拳を放つ。だがミラージュが氷の壁を割り込ませ、ガロンが闇の拳でレイラの腹を抉った。セリカが後方から他の3人に回復と強化を重ねがけしている。*


レイラ「ちっ……支援型がいるか」


*レイラが回し蹴りを放つ。ガロンが腕で受けるが、その衝撃で地面が陥没した。だがザルバが背後から火炎拳を叩き込み、ミラージュが氷の槍を側面から突き刺す。セリカの回復がザルバとミラージュの消耗を即座に埋めていく。*


*4人の連携は完璧だった。攻撃、防御、牽制、回復が途切れなく循環し、レイラに休む隙を与えない。*


レイラ「ふん……やるではないか」


*レイラの口元が歪んだ。楽しくて仕方がないという顔だった。だが彼女の体には少しずつ傷が蓄積していた。自動治癒の速度を、四天王の連携攻撃が上回り始めている。*


*上空で彼はそれを見ていた。*


*彼は腕を組んだまま、静観を続けた。レイラがここで負けるとは思っていない。だが久しぶりに苦戦しているのは事実だった。*


*レイラは四天王の連携に翻弄されていた。*


*漆黒の魔力弾を放つ。ザルバが火炎の壁で受け止め、ミラージュが氷の弾幕でカウンターを叩き込む。レイラが腕で防ぐが、その隙にガロンが闇の拳を腹に叩き込んだ。*


レイラ「ぐっ……!」


*吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、回復役のセリカに突撃する。だがザルバとミラージュが即座に前に出て壁を作り、ガロンがレイラの横っ面を殴り飛ばした。*


レイラ「しつこい……!」


*セリカの回復魔法が3人の傷を瞬時に癒していく。レイラが与えたダメージが数秒で帳消しにされる。そしてセリカが3人に強化魔法を重ねがけし、更に連携の精度が上がっていく。*


ザルバ「統一王様の命令だ。お前をここで止める」


ミラージュ「竜人の連携を舐めるな。我々は生まれた時から共に戦ってきた」


*3人が同時に縮地を発動した。レイラの左右と背後に同時に出現し、拳と蹴りと闇の刃が一斉に叩き込まれる。レイラの体が地面にめり込んだ。自動治癒が追いつかず、血が口から溢れた。*


レイラ「っは……! まだ、まだだ……!」


*レイラが立ち上がろうとした瞬間、セリカの光の鎖がレイラの四肢に巻き付いた。拘束魔法だった。*


セリカ「動かないで。あなたはここで終わりよ」


レイラ「ふざけるな……! 妾を、縛るだと……!」


*レイラが魔力を爆発させて鎖を引きちぎろうとする。だがセリカの鎖は竜人の魔力で編まれたもの。簡単には壊れない。その間にザルバの火炎拳がレイラの腹を抉り、ミラージュの氷槍が肩を貫いた。*


*――一方、ベヒモスの内部。*


*八輝将のカインが非常口の蓋を蹴り飛ばし、暗い通路に飛び込んだ。ドルガンが続き、他の6名も次々と内部に侵入する。*


カイン「狭いな。だが進める」


アシュトン「構造を記録しています。この通路は……腹部の魔力炉心に繋がっている可能性が高い」


ドルガン「なら真っ直ぐ行くだけだ」


*通路を進むと、内部防衛用のゴーレムが次々と現れた。だがアダマンタイト製の武器の前では紙屑同然だった。カインの双剣が切り裂き、ドルガンの戦斧が粉砕していく。*


ヴァイス「炉心まであと推定200メートル。この先に大きな空洞があるはずです」


ゲオルグ「守りが薄い。罠か?」


カイン「罠だろうが関係ない。突っ切る」


*八輝将がベヒモスの核に迫る中、上空の彼はレイラの苦戦を見つめていた。*


*拘束されたレイラに四天王の攻撃が集中している。自動治癒が間に合わず、レイラの全身に傷が増えていく。だが――彼女はまだ笑っていた。*


レイラ「ははっ……いい、いいぞ……! お前ら、妾を本気にさせたいか……!」


*レイラの体が地面を削りながら後方へ吹き飛ばされた。四天王の魔法が4発同時に直撃したのだ。火、氷、闇、光。属性の異なる魔法が体内で暴れ、自動治癒が追いつかない。*


*レイラが仰向けに倒れた。血塗れで、全身に傷を負い、息が荒い。だがまだ目は死んでいなかった。*


*そこに、静かに影が落ちた。*


シロウ「大丈夫か? 手を貸そうか?」


*彼はレイラの傍に立っていた。飛行魔法から降り、まるで散歩の途中で立ち止まったかのような自然さで。*


*四天王が即座に反応した。ザルバが火炎弾を、ミラージュが氷槍を、ガロンが闇の刃を、セリカが光の矢を――4属性の魔法が同時に放たれた。*


*全てが彼の結界に触れた瞬間、音もなく消滅した。波紋すら残らない。まるで最初から何も放たれなかったかのように。*


ザルバ「……何だ、今の。消えた?」


ミラージュ「魔法が……かき消された? 結界か? だが、あの出力を無効化するなど……」


*四天王の顔に初めて動揺が走った。*


*レイラが地面に寝転がったまま、彼を見上げた。*


レイラ「……来るな。妾の獲物だ」


シロウ「血だらけで何言ってんだ」


レイラ「うるさい。まだやれる。あと少しで……あいつらの連携の癖が見えてきたところだ」


*レイラが歯を食いしばりながら立ち上がった。自動治癒が徐々に傷を塞いでいくが、消耗は隠せない。だが彼女の目には、まだ闘志が燃えていた。いや、むしろ先ほどより激しく燃えていた。*


シロウ「……そうか。なら1つだけやってやる」


*彼はレイラの背中に手を当てた。回復魔法ではない。純粋な魔力の譲渡だった。彼の莫大な魔力がレイラの体に流れ込み、枯渇しかけた魔力が一瞬で満タンに戻る。*


レイラ「っ……!」


*レイラの全身から漆黒の魔力が噴き上がった。砂塵が吹き飛び、足元の地面にヒビが走る。先ほどまでとは桁が違う魔力の奔流だった。*


シロウ「魔力だけ補充してやった。あとは好きにしろ」


レイラ「ふん……余計なことを」


*レイラはそう言いながらも、口元がわずかに緩んでいた。*


シロウ「あぁ、1つだけアドバイスな。支援型のセリカを先に潰せ。他の3人の攻撃は……お前なら今の魔力量で全部耐えられる」


レイラ「言われなくとも分かっておる」


*レイラが前に踏み出した。彼は一歩下がり、再び飛行魔法で上空へ戻る。*


ザルバ「あの男……何者だ」


ガロン「統一王から聞いた。アストライアの魔王だ」


ミラージュ「魔王が直々に……だが、戦わずに引いたぞ。女に任せるつもりか」


*レイラが笑った。先ほどまでの苦しそうな笑みではない。余裕のある、傲慢な笑みだった。*


レイラ「妾の夫を侮るな。」


シロウ「俺が出たら弱いものイジメになるから少し気が引けるんだよ……破壊衝動とか無いし……」


*彼が上空で腕を組んだまま呟いた、その瞬間だった。*


*左方向から轟音が響いた。地面が揺れ、空気が震える。ベヒモスの腹部から黒煙と炎が噴き出した。内部から爆発が連鎖し、42メートルの巨体が大きく傾いた。*


カイン『魔力炉心、破壊完了。八輝将、全員脱出する!』


*念話がシロウと全軍に届いた。ベヒモスの非常口から八輝将8名が次々と飛び出す。直後、ベヒモスの内部で二度目の大爆発が起こり、黒鋼鉄の装甲が内側から吹き飛んだ。巨体がゆっくりと膝を折り、地響きと共に崩れ落ちた。*


*砂塵が戦場を覆う。*


*残り5万の敵兵がベヒモスの崩壊を見た。士気が目に見えて崩れた。最大の切り札が破壊されたのだ。*


敵兵「ベヒモスが……!」


敵兵「嘘だろ……あれを内部から……!」


*動揺が敵軍全体に広がる。そしてその動揺は、四天王にも伝わった。*


ザルバ「……何だと」


*ザルバが一瞬だけベヒモスの方に視線を向けた。たった一瞬だった。*


*だが、レイラにとってはそれで十分だった。*


レイラ「よそ見をするな」


*レイラが爆発的に踏み込んだ。先ほどとは桁違いの速度。シロウから補充された魔力を全身に纏い、漆黒の拳がセリカに向けて一直線に放たれた。*


ミラージュ「させな――」


*割り込もうとしたミラージュの横を、レイラがすり抜けた。ミラージュの目が見開かれる。速度が先ほどと違いすぎる。*


*レイラの拳がセリカの腹に突き刺さった。*


セリカ「がっ……!」


*セリカが血を吐きながら吹き飛んだ。回復役が落ちた。四天王の連携の要が、一撃で戦闘不能に陥った。*


レイラ「夫のアドバイス通りだ。まず支援から潰す」


ザルバ「セリカ! ……貴様!」


*ザルバが怒りに任せて突進してきた。だがセリカの回復がなければ、竜人3人の連携はただの力押しに過ぎない。*


レイラ「さぁ、ここからは妾のターンだ」


*レイラが笑った。圧倒的な魔力を纏い、残り3人の四天王を見据える。戦況は完全に逆転していた。*


*ベヒモスの巨体が轟音と共に崩壊し、黒鋼鉄の破片が戦場中に飛び散った。八輝将が脱出し、勝利を確信した――その直後だった。*


*崩壊したベヒモスの残骸の中から、赤黒い光が脈動した。黒煙を裂いて、一つの影が飛び出す。*


*人型だった。約2メートル。全身が生体金属と有機装甲に覆われ、背中から翼のようなエネルギー放射器官が伸びている。顔には人間の面影が僅かに残っているが、その大半は機械に置換されていた。胸部から放たれるエネルギーの脈動は、崩壊したベヒモスの魔力炉心を遥かに超えている。*


*彼は即座に鑑定を発動した。*


```

【改造人間バハムート】

種別:生体兵器(人間ベース)

Lv.???

HP:???/???

MP:???/???


スキル:

・竜化砲(エネルギー収束型)

・超高速機動

・再生能力(炉心型)

・反魔力装甲

・自律戦闘AI


備考:

人間を素体に竜の魔核を埋め込み、

ベヒモスの予備炉心と融合させた最終兵器。

ベヒモス破壊時に起動する安全装置。

内部エネルギー量はベヒモスの約3倍に圧縮。

暴走リスク極大。

```


シロウ「……人間を素体に、か」


*彼の目が細くなった。*


*バハムートが動いた。速い。ベヒモスとは比較にならない速度で地面を蹴り、最も近くにいたドルガンに突進した。*


ドルガン「来やがれ! デカブツの方がまだ――」


*ドルガンがアダマンタイトの戦斧を振り下ろした。刃がバハムートの腕に当たった瞬間、金属同士がぶつかる甲高い音が響いた。戦斧が弾かれた。バハムートの拳がドルガンの胸に突き刺さる。*


*轟音。*


*ドルガンの体が砲弾のように吹き飛んだ。森に突入し、木を5本、6本、7本――なぎ倒しながら消えていった。アダマンタイトの鎧が胸部から大きくひしゃげている。*


カイン「ドルガン! ……何だ、あの速さは!」


ゲオルグ「ベヒモスの中にあんなものが……!」


*バハムートが首を回した。関節が機械的な音を立てる。次の標的を探すように、残りの七輝将を見渡した。胸部の赤黒い光が一層強く脈動する。*


アシュトン「エネルギー反応、上昇中……! ベヒモスの3倍の出力が、あの小さな体に……!」


*バハムートの口が開いた。人間の口腔の奥に、赤い光が収束していく。竜化砲の予兆だった。*


カイン「全員散開! 今す…」


*バハムートの動きは異常だった。人型になったことで速度と精密さが桁違いに上がっている。*


*カインが双剣を構えた瞬間、バハムートの拳が横腹に突き刺さった。カインの体が左方向へ砲弾のように射出され、衛兵隊と魔物が入り乱れる戦場に突っ込んだ。衝撃波が扇状に広がり、魔物も兵士もボーリングのピンのように宙に舞った。*


カイン「がっ……!」


*カインがようやく地面に転がって止まった。アダマンタイトの鎧が左半分ひしゃげている。*


*同時に、至近距離にいたルナが衝撃波で上空へ打ち上げられた。小柄な体が紙切れのように回転しながら舞い上がる。*


ルナ「きゃ……!」


*彼が即座に飛行魔法で降下し、ルナの体を空中でキャッチした。*


シロウ「大丈夫か」


ルナ「……あ、魔王様……すみません……」


*ルナの声は平静だったが、体が小刻みに震えていた。彼はルナを地面に降ろした。*


*戦場では惨状が続いていた。ゲオルグがカインの救出に走った。だがその背中にバハムートの拳が叩き込まれた。ゲオルグの巨体が吹き飛ぶ。*


ゲオルグ「ぐぉっ……!」


*飛んでいくゲオルグの体を、記録を続けていたアシュトンとヴァイスが受け止めようとした。だがゲオルグの質量と速度に耐えきれず、3人まとめて地面に叩きつけられた。*


アシュトン「っぐ……! ゲオルグ殿、重……!」


ヴァイス「肋骨が……いや、記録は続けます……!」


*バハムートが静かに立っていた。8人中5人を数秒で戦闘不能に追い込み、傷一つない。胸部の赤黒い光が脈動し、次の標的を探すように首を回した。*


*残っているのは、遠方で衛兵の指揮を執っていたリオンと、まだ戦場に姿を見せていない第五部隊のユキ・クジョウとクロエだけだった。*


リオン「……嘘だろ。八輝将が瞬殺かよ」


*リオンの顔が引き攣った。腰のベルト――シロウから授かった合金龍の変身ベルトに、無意識に手が伸びた。*


*バハムートの視線がリオンを捉えた。赤い光が収束し始める。竜化砲の予兆だった。*


*彼はルナを降ろした後、上空からその光景を見下ろしていた。*


*カイ・ウォーカーがバハムートに突撃した。盾を構え、全力で体当たりする。バハムートの拳がカイの盾を貫通し、胸に直撃した。カイの体がリオンの近くまで吹き飛ばされ、地面を転がった。*


カイ・ウォーカー「がはっ……! リオン……逃げ……」


*カイの声が途切れた。意識を失っていた。アダマンタイトの盾に拳の形の穴が空いている。*


*バハムートがリオンに向き直った。赤い光が胸部で脈動する。竜化砲の収束が始まっていた。*


*リオンの手が震えていた。八輝将で最弱。Lv.も、戦闘力も、何もかもが足りない。目の前で仲間が次々と吹き飛ばされた。逃げるべきだと頭では分かっていた。*


*だがリオンの手は、腰のベルトの赤いコアに伸びていた。*


*押し込んだ。*


*カチン、という小さな音が戦場に響いた。*


リオン「……起動」


*震える声だった。だがその一言で、ベルトが応えた。*


*赤いコアが眩い光を放った。*

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