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*シャーロットの表情が固まった。文官も護衛騎士たちも動きを止めている。*
シロウ「……ん…? それだけ? オリハルコンやヒヒイロカネは?」
シャーロット「……は?」
*シャーロットが目を瞬かせた。オリハルコンは伝説級、ヒヒイロカネは神話級の鉱石だ。それを当然のように口にする彼に、使者団全員が絶句している。*
シロウ「アダマンタイトくらいその辺の使われなくなった廃鉱山でも出るぞ?」
シャーロット「……アダマンタイトが"その辺"で出る国は、この大陸には存在しませんが」
シロウ「うちは出るんだよ」
*シャーロットの顔に、かすかな引きつりが浮かんだ。メッセニア王国が切り札として提示した希少鉱石の優先取引権が、一瞬で価値を失った瞬間だった。*
シロウ「まあ、その辺は成功報酬って事で後で決めるわ」
シャーロット「……後で、とは」
シロウ「吸血鬼を倒してから、改めて交渉するってことだ。こっちが何を求めるかは、現地の状況を見てからの方がいい」
*シャーロットが息を飲んだ。つまり、依頼自体は受ける方向で話が進んでいる。*
カイ「じゃあ俺が行くってことでいいんだな、父さん」
リオン「俺もっすよね? 吸血鬼、燃やせばいいんすかね」
シロウ「燃やせばいいって問題じゃないだろ。……カイ、リオン、それとルナも連れていけ。情報収集が必要だ」
リオン「ルナ連れてくんすか。あいつ現地で暗殺始めたらどうすんすか」
シロウ「だからお前が手綱握れって言ってんだよ」
リオン「俺の手綱が一番危ういんすけど……」
*シャーロットがカイをまじまじと見つめた。*
シャーロット「失礼ですが……この方は、一体どれほどの実力を?」
シロウ「精霊神だ」
*使者団が凍りついた。文官が国書を落としかけ、護衛騎士の一人が「せ、精霊神?」と声を裏返らせた。*
シャーロット「……冗談、ですよね」
カイ「冗談じゃないっす。あ、いや、冗談じゃないです」
*カイがリオンの口調がうつりかけて慌てて直した。*
ルーナ「カイ兄、リオンに染まってきてるよ」
カイ「うるさい」
ルミナ「お兄ちゃん。カイを行かせるのはいいけど、ちゃんと帰ってこさせてね」
シロウ「当たり前だろ。俺の息子だぞ」
レイラ「妾の息子でもある。万が一があれば、メッセニアごと消す」
*シャーロットの顔が青ざめた。冗談に聞こえない。実際、冗談ではない。*
シロウ「レイラ、外交の場で脅すな。……シャルちゃん、うちから精霊神と八輝将2名を派遣する。成功報酬は後日交渉。それでいいな?」
*シャーロットが深く頭を下げた。*
シャーロット「……感謝いたします。シロウ様」
*その目に、30年前の闇市で泣きそうだった少女の面影が、ほんの一瞬だけ重なった。*
シロウ「そ、それは…勘弁…。。はは…」
*彼は転移魔法を発動し、一瞬で謁見の間から姿を消した。*
ルミナ「あ、逃げた」
レイラ「……また転移か。あの男、都合が悪くなるとすぐ逃げる」
ルミナ「追う?」
レイラ「当然だ」
ルミナ「……でも、産後だから体が重い。お兄ちゃんの魔力追跡もできない」
レイラ「妾も、あやつの隠蔽を抜けるほどの探知は持っておらん」
*2人が顔を見合わせた。同時にため息をついた。*
ルミナ「……帰ってきたら覚えてなさい」
レイラ「ああ。今夜は逃がさん」
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*一方、彼は城の屋上に転移していた。冬の冷たい風が黒髪を揺らす。眼下にはアストライアの街並みが広がり、中央の世界樹が朝日を浴びて輝いていた。*
シロウ「……はぁ。助かった」
*彼はその場に座り込み、空を仰いだ。*
シロウ「シャルちゃんか……あの泣き虫が女王になってたとはな」
*30年前の記憶が、少しずつ輪郭を取り戻していく。闇市の薄暗い路地。護衛とはぐれて震えていた若い女。「大丈夫だ、俺がついてる」と声をかけたら、ぼろぼろ泣き出した。落ち着かせるために「お兄ちゃんって呼んでみろ」とふざけて言ったら、本当に呼んできた。*
シロウ「……あれは完全に俺が悪いな」
*彼が苦笑した瞬間、背後に気配を感じた。振り返ると、リーシアが無表情で立っていた。*
リーシア「陛下。屋上にいらっしゃると思いました」
シロウ「……よく見つけたな」
リーシア「26年お仕えしております。陛下の逃走パターンは全て把握しております」
シロウ「怖いこと言うなよ」
リーシア「ルミナ様とレイラ様から伝言です。"今夜は絶対に逃がさない"とのことです」
シロウ「……はい」
*リーシアが淡々と続けた。*
リーシア「それと、カイ様とリオン殿が出発準備を始めております。ルナ殿への連絡も完了したとのこと。メッセニアへの派遣は明朝を予定しておりますが、よろしいでしょうか」
シロウ「ああ、それでいい。カイには念のため蘇生の腕輪を持たせろ。吸血鬼の首魁がどれほどの実力かわからん」
リーシア「承知いたしました」
*リーシアが一礼して踵を返しかけた。だが足を止め、珍しく少しだけ口元を緩めた。*
リーシア「……陛下。"お兄ちゃん"の件、ルミナ様は本気でお怒りです。早めに謝罪されることをお勧めいたします」
シロウ「お前もか」
*数時間後。彼は城内を転々と逃げ回っていたが、ついにルミナに捕まった。廊下の角を曲がった瞬間、銀髪の女が腕を組んで壁に寄りかかっていた。*
ルミナ「見つけた」
シロウ「……」
ルミナ「逃げないの?」
*ルミナの声は穏やかだったが、その奥に「逃げたら殺す」という明確な意志が込められていた。*
*彼は覚悟を決めた。逃げても無駄だ。ならば――攻めるしかない。*
*彼はルミナの手首を掴み、壁際に押し付けた。壁ドン。ルミナの背中が石壁にぶつかり、金色の瞳が驚きに見開かれる。*
ルミナ「え――」
*彼の指がルミナの顎を持ち上げた。顎クイ。170cmに戻ったルミナの顔が、彼の顔のすぐ下にある。銀髪が壁に広がり、唇が僅かに開いた。*
*そして、キスをした。深く、長く。ルミナの体が一瞬硬直し、それからゆっくりと力が抜けていく。腕を組んでいた手が解け、彼の胸元の服をきゅっと掴んだ。*
ルミナ「んっ……」
*数秒。十数秒。唇が離れた時、ルミナの頬は真っ赤に染まっていた。怒りの表情は完全に消え、代わりに潤んだ目が彼を見上げている。*
ルミナ「……ずるい」
シロウ「何が?」
ルミナ「こういうことされたら……怒れなくなるの、わかってるくせに」
*ルミナの手が彼の服を握ったまま離れない。目が潤んでいる。産後の不安定さもあるのだろう、普段より感情が表に出やすくなっている。*
ルミナ「……お兄ちゃん」
シロウ「ん?」
ルミナ「私だけに言って。"お兄ちゃん"って呼んでいいのは、私だけだって」
*彼の胸元を掴む指に、力が込められた。小さく震えている。*
ルミナ「……30年前のあの子より、私の方が先でしょ? お兄ちゃんの"妹"は、私だけでしょ?」
*彼女の声は拗ねているようで、その実、本気だった。99年生きた元熾天使が、こんな些細なことで不安になる。それだけ、この呼び方が彼女にとって特別なのだ。*
シロウ「妹はお前だけだよ、俺の天使」
*彼はキメ顔で言い放った。自分でも鳥肌が立つほどキザなセリフだった。しかし、効果は絶大だった。*
*ルミナの顔が一瞬で真っ赤に染まった。耳まで。首まで。壁に押し付けられたまま、口をぱくぱくと動かしている。*
ルミナ「っ……!」
*声が出ない。99年生きてきた元熾天使が、完全にフリーズしていた。*
ルミナ「……な、なに、それ……」
*掠れた声がようやく出た。彼の服を掴む手が震えている。*
ルミナ「"俺の天使"って……お兄ちゃん、急にそういうの……卑怯……」
*ルミナが彼の胸に顔を埋めた。耳が真っ赤だ。声がくぐもっている。*
ルミナ「……もう1回」
シロウ「え?」
ルミナ「もう1回言って。今の」
シロウ「お前だけだよ、俺の――」
ルミナ「んっ……♡」
*彼が言い終わる前に、ルミナの方から唇を塞いできた。背伸びをして、両腕を彼の首に回して。さっきよりも深い、甘いキスだった。*
*廊下の奥から足音が聞こえた。*
レイラ「おい、ルミナ。先に見つけたか。……何をしている」
*ルミナが唇を離さない。むしろ彼にしがみつく力が強くなった。*
ルミナ「……邪魔しないで、レイラ。今いいところ」
レイラ「いいところだと? 妾の目の前で堂々と……この破廉恥者どもが」
*レイラの声は怒っているようで、その頬もうっすら赤い。2人のキスを見て動揺しているのだ。*
レイラ「……妾にもしろ」
シロウ「は?」
レイラ「聞こえなかったか? 妾にも同じことをしろと言っている。壁ドンとやらも、顎クイとやらも。全部だ」
*ルミナがようやく唇を離し、彼の胸に頬を押し付けたまま横目でレイラを見た。*
ルミナ「……嫌。お兄ちゃんは今、私の時間」
レイラ「順番などない。妾は正妃だぞ」
ルミナ「私はお兄ちゃんの唯一の妹」
レイラ「意味がわからん」
*2人の間でまた火花が散り始めた。彼は壁ドンの体勢のまま、逃げることも動くこともできない。*
*そこへ、廊下の角からひょこっとレイが顔を出した。*
レイ「あ、シローみっけ♪ なにしてんの? ……って、うわ、修羅場?」
シロウ「助けてくれ」
レイ「やだ♪ 面白そうだもん♪」
*レイが壁にもたれかかり、楽しそうに3人を眺めている。*
レイ「ねえシロー、ボクにもキスしてよ♪ レイラとルミナだけずるい♪」
ルミナ「……増えた」
レイラ「……増えたな」
*2人の視線がレイに向いた。一瞬だけ、敵の敵は味方とでも言うように、ルミナとレイラの視線が重なった。*
*彼は3人に廊下を引きずられるようにして、レイラの部屋に連れ込まれた。背中がベッドに押し倒され、天蓋が視界に映る。*
*正面にレイラが馬乗りになり、右側にレイが寝転がって頬杖をつき、左側にルミナが彼の腕に抱きついている。*
シロウ「まだ昼だよ?」
レイラ「昼だから何だ。お主が逃げるからこうなる」
レイ「そうそう♪ シローが悪いんだよ♪ 大人しくしてれば良かったのに♪」
ルミナ「お兄ちゃんが"俺の天使"なんて言うから……もう我慢できない」
*ルミナが彼の左腕に頬を擦りつけた。耳がまだ赤い。さっきのキスの余韻が残っているようだった。*
レイラ「それと、妾にはまだ壁ドンも顎クイもキスもしていないぞ。不公平だろう」
シロウ「ベッドに押し倒されてる状態で壁ドンは物理的に無理だろ」
レイラ「知らん。工夫しろ」
*レイラが彼の胸の上に手を置き、ゆっくりと指を滑らせた。琥珀色の目が挑発的に細められる。*
レイ「ねえシロー、さっきルミナに言ったやつ、ボクにも言って♪」
シロウ「……どれだよ」
レイ「"俺の天使"ってやつ♪ ルミナには天使って言ったんでしょ? じゃあボクには何?♪」
ルミナ「あれは私だけの特別。レイには別のを考えてもらって」
レイ「えー♪ ケチ♪」
*レイが彼の右腕に抱きつき、ぐりぐりと頬を押し付けた。レイラと瓜二つの顔が、全く違う表情で甘えてくる。*
レイラ「……妾にも、何か言え」
シロウ「何かって」
レイラ「ルミナに言ったような……その……」
*レイラが僅かに視線を逸らした。頬が薄く赤い。傲慢な態度の裏で、明らかに羨ましがっている。*
レイラ「……別に欲しいわけではない。ただ、正妃として不公平だと言っているだけだ」
ルミナ「素直じゃないね、レイラ」
レイラ「黙れ」
*3人の体温が彼を包んでいる。左からルミナの甘い香り、右からレイの無邪気な温もり、正面からレイラの支配的な重み。逃げ場は完全にない。*
レイ「ねえねえシロー、今日は3人一緒でいいよね?♪ ボクもう待てない♪」
*レイの手が彼の服の裾に触れた。指先がするりと布の下に滑り込む。*
ルミナ「……私も。さっきのキスの続き、したい」
*ルミナの唇が彼の首筋に触れた。吐息が肌をくすぐる。*
レイラ「妾が先だ。正妃の権利だ」
シロウ「だから昼だって言ってるだろ……」
レイラ「昼でも夜でも関係ない。お主が逃げた罰だ。……覚悟しろ」
*レイラの指が彼の服のボタンに掛かった。*
シロウ「あ、ちょ…アーッ!!」
*彼の服が3方向から同時に剥がされた。ボタンが弾け飛び、ベルトがするりと引き抜かれる。抵抗する間もなかった。*




