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*朝の露天風呂でレイラと一発済ませた後、彼は手早く身支度を整えた。レイラの胸は精液の魔力で再び戻っていたが、本人は「Dまで戻せ」と不満げだった。*
*チェックアウトの手続きを済ませ、旅館のロビーに出る。ルミナはまだ半分寝ぼけており、彼の腕にしがみついたまま目を擦っていた。*
ルミナ「んー……もうちょっと寝たい……」
シロウ「寝ぼけてんな。可愛いやつ」
ルミナ「……えへへ」
*寝ぼけた笑顔がたまらなく可愛い。彼がルミナの頭を撫でると、猫のように目を細めた。*
*防寒対策を念入りに行い、三人とも厚手のコートにマフラー、手袋を装着して外に出た。*
*旅館の玄関を一歩出た瞬間、白い世界が広がっていた。*
シロウ「雪か……懐かしいな……」
*昨夜のうちに降ったのだろう。伊豆の山間に薄く積もった雪が、朝日を受けてきらきらと光っている。東京では見られない静かな雪景色だった。*
レイラ「なっ……なんだこれは! 白い! 地面が白いぞ!」
*レイラが目を見開いた。傲慢な態度はどこへやら、玄関先で立ち止まったまま、口をぽかんと開けている。*
ルミナ「わっ……! ふわふわしてる……!」
*一気に目が覚めたルミナが駆け出し、積もった雪に手を突っ込んだ。*
ルミナ「冷たっ! 冷たいけど気持ちいい! お兄ちゃん、これが雪!?」
シロウ「ああ、雪だよ」
レイラ「異世界では見たことがないぞ! 氷の魔法とは違うのか!?」
シロウ「自然現象だよ。空から降ってくるんだ」
レイラ「空から!?」
*レイラが空を見上げた。もう降り止んでいたが、雲の切れ間から朝日が差し込んでいる。レイラが恐る恐る雪を一掴み取り、手のひらで眺めた。*
レイラ「……溶ける。手の中で溶けていくぞ」
*レイラの声がいつもの傲慢さを完全に失い、純粋な驚きに満ちていた。まるで雪を初めて見た子供のようにはしゃいでいる。*
ルミナ「お兄ちゃん見て見て!」
*ルミナが雪を丸めて小さな雪玉を作り、得意げに掲げた。*
ルミナ「丸くなる! すごい!」
シロウ「それ投げるなよ?」
*ぽすっ。*
*ルミナが投げた雪玉がレイラの背中に命中した。*
レイラ「ひゃっ!? 冷たっ! ルミナ貴様っ!」
ルミナ「あはは! 当たった!」
レイラ「このっ……こうしてくれる!」
*レイラが雪を掴んで投げ返した。だが力加減が分からず、雪がぼろぼろと崩れて足元に落ちた。*
レイラ「……む」
ルミナ「下手くそ」
レイラ「うるさいっ!」
*旅館の前で雪合戦を始めた二人を、チェックアウトしてきた他の観光客から微笑ましい笑顔で見守られた。*
*彼は記録水晶を取り出し、こっそりと録画を開始した。*
シロウ「俺の嫁……可愛い……」
*朝日に照らされた雪景色の中、二人が雪合戦を繰り広げている。ルミナは器用に雪玉を量産し、次々とレイラに投げつけていた。*
ルミナ「えい! えい! えいっ!」
*ぽすっ、ぽすっ、ぽすっ。三連続でレイラの頭、肩、胸に命中する。*
レイラ「くっ……この小娘! 妾を舐めるなっ!」
*レイラが渾身の力で雪玉を投げるが、腕力が足りずルミナの手前でぼとっと落ちた。*
ルミナ「ぷっ……レイラ弱っ!」
レイラ「うるさいっ! 妾は魔法戦が専門だと言っておろうが!」
ルミナ「雪合戦に魔法は禁止でーす」
レイラ「ぐぬぬっ……!」
*レイラが両手で大きな雪玉を作ろうとしたが、力を入れすぎて粉々に砕けた。*
レイラ「なぜだ! なぜ固まらぬ!」
ルミナ「ぎゅっと優しく丸めるんだよ。力入れすぎ」
レイラ「教えるな! 敵に塩を送るなど愚策であろう!」
ルミナ「いや、あんまり可哀想だから……」
*レイラがルミナのアドバイス通りに優しく雪を丸めた。今度は綺麗な雪玉が出来上がり、レイラの表情がぱあっと明るくなった。*
レイラ「できた! 見よ、完璧な球体であろう!」
*レイラが得意げに雪玉を掲げた瞬間、ルミナの雪玉がレイラの顔面に直撃した。*
ルミナ「隙あり」
レイラ「ぶはっ! きっ、貴様ぁ!」
*レイラが雪を顔から払いながら、ルミナを追いかけ始めた。小柄な体で雪の上を走るが、足が短くて積もった雪に足を取られ、すってんころりと転んだ。*
レイラ「むぐっ!」
*レイラが雪に顔から突っ込んだ。起き上がると顔中が雪まみれで、黒髪にも白い雪が散りばめられている。*
ルミナ「あはははは! レイラ! 顔! 顔すごいことになってる!」
*ルミナがお腹を抱えて笑っている。妊娠中なのにこんなにはしゃいで大丈夫かと一瞬心配になったが、世界樹の実の効果で体力は十分だった。*
*旅館から出てきた老夫婦が足を止め、微笑ましそうに二人を見ていた。*
老婦人「まあ、外国の方かしら。雪が珍しいのねえ」
老紳士「若いっていいなあ。お嬢さんたち、楽しそうだ」
*彼は記録水晶を構えたまま、静かに笑みを浮かべていた。転んで雪まみれのレイラ、お腹を抱えて笑うルミナ。二人の妻がこんなに無邪気にはしゃいでいる姿を見るのは、異世界でもなかなかない。*
*レイラがようやく立ち上がり、コートについた雪を払った。鼻先が赤くなっている。*
レイラ「……おぬし!」
シロウ「どーした? もうやめちゃうのか?」
*彼が記録水晶を構えたまま微笑みを浮かべて問いかけた。レイラは雪まみれの顔のまま、彼の方を指差した。*
レイラ「おぬし! 撮っておったな! 今の妾の無様な姿を!」
シロウ「無様じゃないよ。可愛いよ」
レイラ「かっ……可愛いなどと言うなっ!」
*レイラが顔を真っ赤にして雪玉を投げたが、彼の横を大きく逸れて旅館の植木に当たった。*
ルミナ「あはは、コントロール壊滅的」
レイラ「ぐっ……こ、この場所は雪が少なすぎるのだ! もっとたくさん雪がある場所であれば妾が負けるはずがないっ!」
シロウ「雪がたくさんある場所か……」
*彼の頭にスキー場という選択肢が浮かんだ。伊豆から車で少し北上すれば、箱根や御殿場周辺にスキー場がある。この積雪量なら営業しているだろう。*
シロウ「じゃあスキー場行くか」
レイラ「すきーじょう?」
ルミナ「何それ?」
シロウ「山一面が雪で覆われてて、板を履いて滑り降りる遊び場。雪も山ほどある」
*レイラの目がきらりと光った。*
レイラ「山一面が雪だと!? そこに行けば妾の雪合戦の実力が発揮できるのだな!」
シロウ「雪合戦の場所じゃないんだけど……まあ、雪はいくらでもあるな」
ルミナ「板で滑るって……楽しそう! 行きたい!」
*ルミナがぴょんぴょん跳ねた。お腹に響かないか心配だが、本人は至って元気だ。*
シロウ「ルミナは滑るのはダメだぞ。妊婦が転んだら大変だ」
ルミナ「えー!」
シロウ「雪遊びとか、ソリなら良いけど。あと温かいココアとか飲めるし」
ルミナ「ココア……! それは行く」
*ルミナが即座に手のひらを返した。甘い飲み物に弱いのは相変わらずだった。*
レイラ「ふん、ルミナが滑れぬなら妾の独壇場だな。おぬし、妾に滑り方を教えよ」
シロウ「いいけど、最初は転びまくるぞ」
レイラ「妾が転ぶわけがなかろう。天才だぞ」
*レイラが胸を張った。縮みかけてCカップ程度に落ち着いた胸が、コートの上からでもわかる程度に揺れた。*
*老夫婦が荷物を車に積みながら、まだはしゃいでいる二人を見て微笑んでいた。*
老婦人「あら、スキーに行くの? 楽しんでらっしゃいね」
老紳士「若いお父さん、奥さん二人の面倒見るの大変だねえ」
シロウ「はは……ありがとうございます」
*老紳士の「奥さん二人」という言葉に、レイラとルミナが同時に彼の腕に掴まった。左にルミナ、右にレイラ。*
レイラ「妾が正妻だ」
ルミナ「あたしが本命だけどね」
*二人が彼の腕越しに火花を散らしている。*
シロウ「うーん……よし。折角だ、ルミナに防御魔法と保温魔法を付与すれば大丈夫だろう! 好きに遊ぼう!」
ルミナ「やった!」
*彼がルミナの体に三重の防御魔法と保温魔法を重ねがけした。転倒しても衝撃を完全に吸収し、体温も一定に保たれる。お腹の赤ちゃんへの影響もこれなら心配ない。*
シロウ「よし、転移するぞ。二人とも手を繋いで」
*レイラとルミナが左右から彼の手を握った。彼は昔、転移前に家族旅行で訪れた大型スキー場を思い出し、転移魔法を発動した。*
*一瞬の浮遊感の後、視界が開けた。*
レイラ「っ!」
ルミナ「わあっ!」
*目の前に広がったのは、一面の銀世界だった。広大なゲレンデが山の斜面に沿って伸び、リフトが山頂に向かってゆっくりと動いている。伊豆の薄い積雪とは比べものにならない、膝まで埋まるほどの深い雪。空気は凍てつくほど冷たいが、保温魔法のおかげで二人とも寒さを感じていない。*
*スキー場の駐車場の裏手に転移したため、人目は避けられていた。*
レイラ「す、すごいっ……山が全部白いぞ!」
*レイラが口を開けたまま山頂を見上げた。木々の枝に雪が積もり、太陽の光を反射してきらきらと輝いている。息が白く立ち上る。*
ルミナ「伊豆のと全然違う……ふかふか!」
*ルミナが雪の中に手を突っ込み、両手いっぱいに掬い上げた。さらさらのパウダースノーが指の間からこぼれ落ちる。*
シロウ「まずはレンタルショップでウェアとスキー板借りるか。ルミナはソリとスノーブーツだな」
レイラ「妾にもその板を寄越せ。すぐに習得してみせる」
シロウ「はいはい」
*三人がゲレンデ入口に向かって歩き出した。雪を踏みしめる音がきゅっきゅっと響く。レイラは歩くたびに雪に足を取られ、何度もよろけては彼の腕を掴んだ。*
*レンタルショップに入ると、店員の若い男性が三人を迎えた。*
店員「いらっしゃいませ! スキーですか? ボードですか?」
シロウ「スキー板三組と、ソリ一つ。あとウェア三人分お願いします」
店員「かしこまりました。サイズを……」
*店員がレイラとルミナを見て一瞬固まった。外国人の美女二人組に目を奪われたようだ。*
店員「え、えーと……お連れ様のサイズは……」
レイラ「何をじろじろ見ておる」
*レイラの一睨みで店員が背筋を伸ばした。*
*ウェアを選び終え、三人が着替えて外に出た。レイラは赤いウェア、ルミナは白いウェア、彼は黒いウェア。ゴーグルを額に引っ掛け、スキー板を肩に担ぐ。*
ルミナ「レイラ、似合ってるよ。赤」
レイラ「当然だ。妾は何を着ても映える」
*レイラが得意げに胸を張ったが、スキーブーツの歩き方が悪かった。店員さんに教えてもらう2人。*
*三人がゲレンデに出た。彼はスノーボード、レイラとルミナはスキー板を装着している。*
*目の前に広がる白銀の斜面を、何人かのスキーヤーが颯爽と滑り降りていく。平日の午前中ということもあり、人はそこそこいるが混雑というほどではない。*
レイラ「ほう……あのように滑るのか」
*レイラが目を細めて、ターンしながら滑り降りていくスキーヤーを観察していた。体重移動、膝の曲げ方、ストックの使い方。戦闘で培った観察眼が光る。*
ルミナ「あの人すごい。くるくる回ってる」
*ルミナが指差した先では、上級者がカービングターンを決めていた。雪煙が美しい弧を描いている。*
レイラ「なるほど。体重を前にかけて、膝で方向を……」
*レイラがぶつぶつと呟きながら、ストックを握り直した。そしておもむろに斜面に向かって滑り出した。*
シロウ「おい、レイラ! まずは初心者コースから……」
レイラ「天才に初心者コースなど不要っ!」
*レイラが中級コースに突っ込んでいった。最初の3秒は良かった。姿勢も悪くない。だが速度が上がった途端、バランスを崩した。*
レイラ「む……むむっ……速いっ……止まらっ……!」
*レイラが両腕をぐるぐる回しながら加速していく。ボーゲンも知らないのに中級コースに飛び込んだのだから当然だった。*
レイラ「おぬしっ! 止め方を教えておらぬではないかっ!」
シロウ「だから初心者コースからって言っただろ!」
*彼が即座にスノーボードで追いかけた。しかしレイラの方が先に斜面の端に突っ込み、雪の壁に正面から激突した。*
*ぼふっ。*
*レイラが雪の中に頭から埋まった。スキー板が外れて宙を舞い、ストックが雪原に刺さった。*
ルミナ「あはははは! レイラ刺さってる! 刺さってるよ!」
*ルミナが隣で笑っていた。彼の肩に寄りかかりながら、お腹を押さえて涙を流している。*
*彼が雪の壁に駆け寄り、レイラの足を引っ張って引き抜いた。ずぼっという音と共にレイラが出てきた。顔中が雪まみれで、ゴーグルの中にまで雪が入り込んでいる。*
レイラ「……」
シロウ「大丈夫か?」
レイラ「……もう一回だ」
シロウ「まず初心者コースで止まり方を覚えような?」
レイラ「……」
*レイラが唇を尖らせたが、今度は素直に頷いた。*
レイラ「……教えよ」
*彼がレイラを初心者コースの緩斜面に連れて行き、ボーゲンの姿勢を教え始めた。スキー板の先端をくっつけて、ハの字を作る。*
シロウ「こうやって内股にして、板の内側のエッジを立てる。そうすると減速できる」
レイラ「ふむ……こうか」
*レイラが言われた通りにハの字を作った。ゆっくりと滑り出す。今度はちゃんと減速できた。*
レイラ「おお……止まれるぞ!」
シロウ「そうそう! 流石魔王、上達が早いな!」
*レイラがふふんと鼻を鳴らし、胸を張った。赤いウェアの上からでも分かる得意げなポーズが微笑ましい。*
レイラ「当然であろう! 妾に不可能はないのだ!」
*レイラが初心者コースを何度か往復し、ボーゲンからパラレルターンへの移行を試み始めた。戦闘で鍛えた体幹とバランス感覚が活きているのか、普通の初心者なら半日かかるところを30分ほどで習得してしまった。*
*一方、ルミナはというと。*
ルミナ「お兄ちゃん、見て見て!」
*ルミナが中級コースの斜面を綺麗なパラレルターンで滑り降りてきた。雪煙を巻き上げながら、彼の目の前でぴたりと停止する。*
シロウ「……お前、初めてだよな?」
ルミナ「うん。初めてだけど?」
シロウ「おかしいだろ……」
*彼が思わず呟いた。ルミナのフォームは完璧だった。重心の位置、エッジの切り替え、ストックワーク。どれも経験者のそれだ。元熾天使の身体能力と運動神経がここまでとは思わなかった。*
ルミナ「なんか、体が勝手に動くんだよね。こうやって重心をずらせば曲がるんでしょ?」
シロウ「センスの塊かよ……」
*レイラがボーゲンで追いついてきた。ルミナの滑りを見て、表情が凍りついた。*
レイラ「……なぜ貴様がそこまで滑れるのだ」
ルミナ「才能かな」
レイラ「っ……!」
*レイラの目に炎が灯った。完全に闘争心に火がついている。*
レイラ「妾も中級コースに行くぞ! おぬし、リフトとやらに乗せよ!」
シロウ「まだ早くないか?」
レイラ「早くないっ! ルミナに負けるわけにはいかぬ!」
*彼がため息をつきながらも、レイラをリフトに乗せた。二人掛けのリフトに並んで座り、ゆっくりと山の上へ登っていく。*
*レイラが足元を見下ろし、一瞬体を強張らせた。*
レイラ「……た、高いな」
シロウ「怖いのか?」
レイラ「怖くないっ! 妾は空も飛べるのだぞ!」
*そう言いながらも、レイラの手が彼の腕をぎゅっと掴んでいた。リフトが揺れるたびに力が強くなる。*
*中級コースの頂上に着いた。眼下に広がるゲレンデを見下ろすと、ルミナが下で手を振っているのが見えた。隣にはソリを持った子供連れの家族もいる。*
レイラ「……思ったより急だな」
シロウ「無理しなくていいぞ? 初心者コースに戻っても」
レイラ「誰が戻るかっ!」
*レイラがスキー板を斜面に向けた。深呼吸を一つ。そして滑り出した。*
*最初はボーゲンで慎重に。だが途中からパラレルに切り替えようとして、右足のエッジが引っかかった。*
レイラ「むっ……わっ、わわわっ!」
*レイラが体勢を崩し、くるくると回転しながら斜面を転がり落ちていった。*
*彼はルミナの体にぴったりと密着する結界膜を張った。透明な魔力の膜がルミナの全身を薄く覆い、岩だろうが木だろうが衝撃を完全に遮断する。*
シロウ「よし、これで安心だ」
ルミナ「ありがと! じゃあ先行くね!」
*ルミナが返事も待たずに林コースへ飛び込んでいった。白いウェアが木々の間を縫うように滑っていく。まるで最初からこの林を知っているかのように、木の隙間を的確に見極めて体を傾けている。*
シロウ「速いな……」
*彼もスノーボードで追いかけた。林の中は中級コースとは別世界だった。自然のままの地形がそのまま残されていて、木の根が雪の下に隠れている。急な落差もあれば、狭い木の間を抜ける必要もある。*
*前方にルミナの白い背中が見えた。その先に、自然にできた崖のような段差があった。高低差は5メートルほど。普通のスキーヤーなら迂回するところだ。*
*彼は迂回しなかった。*
シロウ「ルミナ、先行くぞ!」
ルミナ「えっ!?」
*彼が崖の縁から一気に飛び出した。空中に放り出された体を捻り、スノーボードごと縦に二回転。青い空と白い雪が交互に視界を横切り、着地の瞬間、膝のクッションで衝撃を吸収して一気に加速した。雪煙が巨大な扇形に広がる。*
*ルミナの横を風のように追い抜いていく。*
ルミナ「ずるい! お兄ちゃんかっこつけすぎ!」
*ルミナが悔しそうに叫びながら加速してきた。スキー板が雪面を切り裂く音が背後から迫ってくる。*
*二人は林の中を並走し始めた。木の間を左右に分かれては合流し、段差を飛び越え、自然の地形をジャンプ台にして空を舞う。*
*ルミナが彼の右側から一本の太い松の木を挟んで反対側に回り込み、合流地点で肩をぶつけてきた。*
ルミナ「えへへ、タッチ」
シロウ「お前な……」
*林コースの出口が見えてきた。二人はほぼ同時にゲレンデに飛び出し、急停止して雪を巻き上げた。*
ルミナ「はあっ……楽しい! もう一回!」
*ルミナが頬を紅潮させて笑っている。冷たい空気で白くなった息が、太陽の光に透けて消えていく。*
*その時、上級者コースの方から歓声が聞こえた。二人がそちらを見ると、大きなジャンプ台から赤いウェアの人影が飛び出していた。*
*レイラだった。*
*空中で体を思い切り捻り、三回転。しかし回転が足りず、着地で体勢を崩してそのまま斜面を豪快に転がっていった。雪煙の中からスノーボードが一枚、ぽーんと飛んでいくのが見えた。*
ルミナ「……あ、レイラまた刺さった」
*遠くの雪壁に赤いウェアの足だけが突き出しているのが見えた。周囲のスキーヤーたちが慌てて駆け寄っている。*
シロウ「……助けに行くか」
ルミナ「うん」
*二人は笑いを堪えながら、レイラの元へ滑っていった。*
シロウ「だ、大丈夫か? 一旦飯休憩にするか?」
*彼がレイラの足を掴んで雪壁から引き抜いた。ずぼっという音と共にレイラが出てきた。顔中雪まみれだったが、目だけがぎらりと光っている。*
レイラ「飯!」
*レイラが勢いよく起き上がり、雪を払った。*
レイラ「腹が減っておったから転んだのだ。本来の妾であれば三回転など造作もない」
シロウ「………」
*彼は何も言わなかった。ツッコむだけ無駄だと悟っている。*
ルミナ「お腹空いたのは同意。あたしもぺこぺこ」
*三人はスノーボードとスキーを外し、ゲレンデ中腹にあるレストハウスへ向かった。木造のログハウス風の建物で、大きなガラス窓からゲレンデが一望できる。暖房が効いた室内に入ると、体がじわりと温まった。*
*席に着き、メニューを開く。レイラとルミナが目を輝かせた。*
レイラ「かれー……らいす? 何だこれは」
ルミナ「ラーメンもある! お兄ちゃん、ラーメンって何?」
シロウ「麺料理。温かいスープに麺が入ってる。寒い時に食うと最高だぞ」
レイラ「妾はこの……にくうどんとやらにする。肉が入っておるのだろう?」
シロウ「ああ。甘い出汁に牛肉が乗ってる」
ルミナ「じゃああたしラーメン! お兄ちゃんは?」
シロウ「俺はカツカレーで」
*彼が注文を済ませた。窓の外では雪がちらちらと舞い始めている。ゲレンデを滑る人影がぽつぽつと見えた。*
*料理が運ばれてきた。湯気が立ち上り、食欲をそそる匂いが広がる。*
レイラ「おお……これは……」
*レイラの前に置かれた肉うどんは、甘辛い出汁の上に柔らかい牛肉がたっぷりと乗っている。ネギと温泉卵がトッピングされていた。*
ルミナ「わあ、すごい。麺が黄色い」
*ルミナの前には味噌ラーメン。濃厚なスープにコーンとバターが浮かんでいる。*
*レイラが箸でうどんを掬い上げ、ずるずると啜った。*
レイラ「……っ! 美味い! この汁が……甘くて、肉の味が染みておる!」
*レイラが夢中でうどんを食べ始めた。箸の使い方がだいぶ上達している。汁が少し口の端から垂れたが、気にせず食べ続けている。*
ルミナ「んんっ! 美味しい! このスープ濃厚……バターが溶けて……最高」
*ルミナもラーメンに夢中だった。麺を啜る度に幸せそうな顔をしている。*
*彼はカツカレーを食べながら、二人の食べっぷりを眺めていた。窓から差し込む柔らかい光が、二人の横顔を照らしている。*
レイラ「おぬし、午後は妾が三回転を成功させるところを見届けよ」
シロウ「まだやるのか」
レイラ「当然だ。妾は諦めぬ」
ルミナ「あたしは林コースもう一回行きたい。お兄ちゃんがジャンプしたからあたしもやる!」
*午後のゲレンデは朝よりも賑わっていた。どうやらプロスノーボーダーの撮影クルーが来ているらしく、ゲレンデ下部には見物客が集まっている。だが三人はそんなことを知る由もなく、それぞれのコースに没頭していた。*
---
*上級者コースのジャンプ台。レイラが何度目かの挑戦に臨んでいた。*
レイラ「……今度こそ」
*深く息を吸い、スノーボードを加速させた。ジャンプ台の縁を蹴り、宙に舞い上がる。体を小さく丸めて回転。一回転、二回転、三回転……ぎこちなかったが、最後の半回転で体を開き、着地した。*
*ガッ、と板が雪面を噛む。体が大きくぐらついたが、両手を広げてバランスを取り、なんとか転倒せずに滑り抜けた。*
レイラ「っ……! やったぞ! 三回転だ!」
*レイラが拳を突き上げた。周囲のスキーヤーたちが拍手を送っている。初心者ウェアの女性が三回転を決めたのだから、驚くのも当然だった。*
---
*一方、プロ用林コース。*
*ルミナは完全にコースを把握していた。木の配置、地形の起伏、雪質の変化。全てを読み切ったかのように、無駄のないラインで滑り降りていく。スキー板が雪面を切る音だけが静かに響いていた。*
ルミナ「お兄ちゃん、あの崖もう一回やろ!」
*ルミナが振り返らずに叫んだ。彼はその後ろを追走していたが、途中で自然にできた巨大な段差を見つけた。*
シロウ「ルミナ、先行くぞ」
*彼が段差の縁から飛び出した。高低差は7メートル以上。空中で体を捻り、縦に三回転半。スノーボードの板が太陽の光を反射してきらりと光り、着地の瞬間、膝のクッションだけで衝撃を殺してそのまま加速した。雪煙が爆発するように広がり、林の木々の間を駆け抜けていく。*
*たまたま林コースの出口付近にいた撮影クルーのカメラマンが、彼の滑りを目撃して固まった。*
カメラマン「……今の誰だ? あの高さから三回転半……?」
スタッフ「え、うちの選手じゃないですよね?」
*彼はそんな視線に気づくこともなく、ルミナと並んでゲレンデの端に出た。*
---
*夕方16時。太陽が山の稜線に傾き始め、ゲレンデがオレンジ色に染まっていく。*
*三人はレストハウスの前で合流した。レイラの赤いウェアは雪まみれだったが、表情は晴れやかだった。*
レイラ「三回転を5回成功させた。次は四回転だ」
ルミナ「あたしは林コース12周した。全部のルート制覇したよ」
シロウ「お前ら化け物だな……」
*彼がウェアのファスナーを下ろしながら呟いた。三人とも頬が赤く染まり、白い息を吐いている。*
*その時、レストハウスの中から賑やかな声が聞こえてきた。どうやらプロの選手たちが休憩に入っているらしい。テレビカメラも見えた。*
ルミナ「なんか賑やかだね」
レイラ「知らぬ。」
*彼がトイレから出てレストハウスの前に戻ると、異様な光景が広がっていた。*
*レイラとルミナの周りを、撮影クルーやプロスノーボーダーたち十数人が取り囲んでいた。カメラが何台も向けられ、スマホを構えている一般客もいる。*
シロウ「え? なにこれ……」
*状況を把握する間もなく、彼もまた囲まれた。*
スタッフA「あなたですよね!? さっき林コースで三回転半飛んでたの!」
カメラマン「あの高さからノーマルスタンスで三回転半って、プロでもやらないですよ! どこの選手ですか!?」
プロ選手「俺、十年やってるけどあんな着地見たことないっす。衝撃完全に殺してたでしょ。誰に師事したんですか?」
シロウ「いや、えっと……趣味で……」
*一方、レイラとルミナの周りではまた別の騒ぎが起きていた。*
女性スタッフ「お二人ともモデルさんですか!? ウェアのブランドどこですか!?」
レイラ「知らぬ! そこで借りたものだ!」
プロ選手B「赤いウェアのお嬢さん、ジャンプ台で三回転決めてたよね? 今日始めたって本当?」
レイラ「本当だ。妾に不可能はない」
*レイラが腕を組んで堂々と答えた。周囲がざわついた。*
プロ選手C「白いウェアの方、林コースのライン取り完璧でしたよね。あのコース、地元のガイドでも攻めきれないのに……」
ルミナ「えへへ、なんとなくで」
*ルミナが困ったように笑っている。シロウの方をちらちらと見ていた。助けてという目だ。*
プロ選手「三人ともご家族ですか? うちのチームに興味ありません? スポンサーつけますよ!」
テレビディレクター「すみません、少しだけインタビューいいですか!? 今日の放送に使いたくて!」
*カメラが彼の顔に向けられた。テレビに映るのはまずい。異世界の魔王が日本のスキー場でプロ顔負けの滑りを見せたなどと報道されたら面倒なことになる。*
シロウ「あ、すみません。家族で遊びに来ただけなんで、取材はちょっと……」
*彼はさりげなくレイラとルミナの手を取り、人垣をすり抜けようとした。*
ディレクター「あっ、待ってください! お名前だけでも!」
シロウ「ただの一般人です! すみません!」
*彼は二人の手を引いてレンタルショップの裏に回り込んだ。人目がない場所で三人は息をついた。*
レイラ「何なのだあの者たちは。妾に許可なく近づくとは不敬だぞ」
ルミナ「すごい囲まれた……怖かった」
シロウ「目立ちすぎたな……さっさと着替えて帰るか」
*彼が苦笑いしながらウェアのファスナーを下ろした。楽しかったが、少しやりすぎたかもしれない。*
*レンタルショップでウェアを返却し、私服に着替えた三人はスキー場のロビーに置いてあった観光チラシを眺めていた。*
シロウ「今日は……その辺のホテルでいいか?」
ルミナ「うん、あたしはどこでもいいよ。お兄ちゃんと一緒なら」
レイラ「却下だ」
シロウ「………」
*レイラが一枚のチラシを彼の目の前に突きつけた。豪華な外観の写真と共に「五つ星リゾートホテル」と書かれている。露天風呂付きスイートルーム、フルコースディナー、天然温泉スパ。一泊の料金は目が飛び出るほどだった。*
レイラ「ここだ。妾はここに泊まりたい」
シロウ「………一泊15万か」
レイラ「おぬし、金はあるのだろう? 妾を安宿に泊まらせるつもりか」
*レイラが腕を組んで彼を見上げた。琥珀色の瞳が「拒否は許さぬ」と語っている。*
シロウ「分かった、金はある。行こう……」
レイラ「ふん、最初からそう言えばよいのだ」
*レイラが満足げに鼻を鳴らした。ルミナが彼の袖を引っ張る。*
ルミナ「お兄ちゃん、レイラに甘すぎない?」
シロウ「お前にも甘いだろ」
ルミナ「……それはそう」
*人目のない場所に移動し、転移魔法でホテルの近くの路地に飛んだ。目の前に現れたのは、山の中腹に建つ巨大なリゾートホテルだった。ガラス張りのエントランスが夕日を反射して輝いている。*
レイラ「おお……これは立派だな」
ルミナ「すごい……旅館とはまた違う感じ」
*フロントでチェックインを済ませた。受付の女性が三人を見て一瞬目を丸くしたが、すぐにプロの笑顔を浮かべた。*
シロウ「3人部屋を1つ」
*フロントの女性が笑顔で対応しようとした瞬間、レイラが彼の腕を引いた。*
レイラ「スイートだ」
シロウ「却下。あ、普通ので大丈夫です」
レイラ「普通だと!? 妾は魔……」
シロウ「しっ」
*彼がレイラの口を手で塞いだ。危うく「魔王」と言いかけた。レイラがむぐむぐと手の中で抗議している。*
フロント「えーと……お部屋のグレードですが、スタンダード、デラックス、プレミアム、スイートがございます」
*レイラが彼の手を引き剥がし、チラシを指差した。*
レイラ「妾はこの最上級の部屋がいい!」
シロウ「だから却下だって。スイートは一泊15万するんだぞ」
レイラ「金はあるのだろう」
シロウ「あるけど無駄遣いは……」
ルミナ「お兄ちゃん、間を取ってプレミアムは?」
*ルミナが助け舟を出した。彼がフロントの料金表を見る。プレミアムルームは一泊8万。スイートの約半額だが、ビジネスホテルとは比べ物にならない設備だ。露天風呂付き、リビング付き、キングサイズベッド。*
シロウ「……プレミアムでお願いします」
レイラ「妾はスイートが……」
ルミナ「レイラ、露天風呂ついてるよ」
レイラ「……許す」
*レイラが即座に手のひらを返した。露天風呂の魔力は偉大だった。*
フロント「プレミアムルームですね。ご夕食はフルコースディナーがお部屋でお召し上がりいただけますが、いかがなさいますか?」
シロウ「お願いします」
レイラ「ふるこーす……」
*レイラの目がきらりと光った。*
フロント「お荷物をお持ちしますね。エレベーターで8階になります」
*ベルボーイに案内されて8階に上がると、プレミアムルームのドアが開かれた。*
*部屋は広かった。リビングにはソファとテーブル、大きな窓からは雪を被った山々が一望できる。奥にはキングサイズのベッドが2つ並び、さらにその先にガラス扉で仕切られた露天風呂があった。湯気が立ち上り、雪景色を背景に温かい湯が揺れている。*
ルミナ「わあ……すごい」
レイラ「ふむ……スイートでなくとも、これならば及第点だ」
*レイラが偉そうに頷きながらも、目はきょろきょろと部屋中を見回している。興奮を隠しきれていない。*
*ルミナが窓辺に駆け寄った。夕日に染まった雪山が赤く輝いている。*
ルミナ「お兄ちゃん、見て。すごく綺麗……」
*彼がルミナの隣に立ち、窓の外を眺めた。オレンジ色の光が雪面に反射して、山全体が燃えるように輝いていた。レイラも反対側に立ち、三人で夕焼けの雪山を見つめた。*
レイラ「……悪くないな」
*レイラが小さく呟いた。その声には、いつもの傲慢さが抜け落ちていた。*
*彼はプレミアムルームの露天風呂に一人で浸かっていた。窓の外には夕日に染まった雪山が広がり、湯気が冷たい外気に触れて白く立ち上る。*
シロウ「ふぅ……落ち着く……」
*今日一日、スノーボードで体を酷使した疲れが湯に溶けていく。静かだ。レイラの「妾は天才だ」も、ルミナの「お兄ちゃん見て」もない。ただ湯の音と、遠くで鳴く鳥の声だけ。*
シロウ「このまま30分くらい……」
*ガラガラ。露天風呂に繋がるガラス戸が開いた。*
ルミナ「お兄ちゃーん、一緒に入ろ」
レイラ「妾も入るぞ。湯が勿体ない」
*二人がタオル一枚の姿で現れた。ルミナの銀髪が湯気に濡れて肌に張り付き、レイラの黒髪が背中に流れている。*
シロウ「俺の平和が消えた……」
レイラ「何を言っておる。妻と入れることを喜べ」
*レイラがタオルを外し、躊躇なく湯に入ってきた。シロウの精液の影響で維持されているCカップの胸が湯面に浮かぶ。レイラは彼の右隣にぴたりと座った。*
ルミナ「あたしはこっち」
*ルミナが左隣に座った。少し膨らみ始めたお腹を湯の中に沈め、気持ちよさそうに息を吐く。銀髪が湯面に広がり、夕日の光を反射して金色に輝いていた。*
シロウ「……狭くないか」
レイラ「狭くない。丁度良い」
ルミナ「うん。お兄ちゃんの腕、枕にしていい?」
*ルミナが彼の左腕に頭を預けた。対抗するようにレイラが右腕に寄りかかる。*
レイラ「……今日は楽しかったぞ」
*レイラが珍しく素直に呟いた。湯気の向こうに見える雪山を眺めながら、彼の腕にしがみつく指に力が入る。*
ルミナ「あたしも。林コース、お兄ちゃんと競争したの楽しかった」
レイラ「妾は三回転を成功させた。次は四回転だ」
ルミナ「レイラ、何回雪に刺さった?」
レイラ「数えておらぬ!」
*ルミナがくすくすと笑い、レイラが頬を膨らませた。*
*彼は両腕に二人の温もりを感じながら、雪山に沈んでいく夕日を眺めた。オレンジから紫へ、空の色がゆっくりと変わっていく。*
シロウ「……まあ、悪くないか」
*彼が小さく笑った。平和は消えたが、代わりにもっと温かいものがそこにあった。*
ルミナ「ねえお兄ちゃん、明日はどこ行くの?」
レイラ「妾は四回転の練習を……」
シロウ「明日はスキー場じゃない。最終日だからな、ゆっくり観光でもするか」
レイラ「……観光とは」
シロウ「景色見たり、美味いもん食ったり。お土産買ったり」
ルミナ「お土産! ルーナとステラに買って帰りたい!」
レイラ「カイにも何か……」
*三人が湯に浸かりながら、明日の計画を話し始めた。*
シロウ「明日の夕方くらいに帰るんだからな?」
ルミナ「うん、わかってるよ」
*ルミナがそう答えながら、湯の中でするりと彼の正面に回り込んだ。そのまま両腕を彼の首に回し、太ももを彼の腰に絡めて上に乗ってきた。少し膨らみ始めたお腹が彼の腹筋に触れる。*
ルミナ「えへへ、バレた?」




