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シロウ「し、ショタ化してるぅぅ〜!!!」
*鏡に映っていたのは、10歳前後の少年だった。黒髪黒目はそのまま。だが顔つきは幼く、身長は大幅に縮み、服がダボダボになっている。まるで子供がシロウの寝間着を着ているかのようだ。*
シロウ「コ○ンかよ……! 見た目は子供、頭脳は大人ってか……!」
*リーシアがトレイを必死に持ち直しながら、彼の傍に駆け寄った。*
リーシア「シ、シロウ様……!? 何が……一体何が起きたのですか!?」
シロウ「分からん……! 昨日魔力を全部放出したからか……? 世界樹のエネルギーが体に影響を……」
*彼は自分の小さな手を見つめた。柔らかく、戦いの痕跡もない子供の手。鏡に映る姿はどう見ても幼い少年だ。*
*バタンッと扉が開き、レイラが飛び込んできた。リーシアの悲鳴を聞きつけたのだろう。*
レイラ「何事だ! シロウ、大丈夫か——」
*レイラが固まった。琥珀色の瞳がベッドの前に立つ小さな少年を捉え、数秒間完全に停止した。*
レイラ「……………………誰だ」
シロウ「俺だよ! レイラ! 俺! シロウ!」
レイラ「…………は?」
*レイラの目が点になった。口がぱくぱくと動き、言葉が出てこない。その後ろからルミナも顔を出し——*
ルミナ「……え? ……ええぇぇぇっ!?」
*ルミナの金色の瞳が限界まで見開かれた。*
ルミナ「お、お兄ちゃん!? なんで!? ちっちゃくなってる!?」
シロウ「俺が聞きたいよ……!」
*彼は鏡の前で途方に暮れた。44歳の中身に、10歳の器。とんでもない朝の始まりだった。*
*ルミナが目を輝かせ、小さくなったシロウを抱き上げた。彼の体は軽く、まるで本当の子供を抱いているかのようだ。*
ルミナ「かわいい……! お兄ちゃんちっちゃい……! かわいい……!」
シロウ「やめろよ……!」
*彼はじたばたと手足を動かしたが、10歳の体では19歳の見た目を持つルミナの腕力に敵わない。完全に抱きかかえられ、ルミナの胸元に押し付けられている。*
*鏡に映る二人の姿は——どう見ても母親と息子だった。銀髪の美女が幼い黒髪の少年を抱っこしている。夫婦には絶対に見えない。*
リーシア「……あ、あの……シロウ様、本当にシロウ様なのですか……?」
シロウ「俺だよ! 鑑定してみろ!」
*リーシアが恐る恐る鑑定の水晶を取り出し、彼に向けた。表示された名前は間違いなく「シロウ・ニシキ・アストライア」。ステータスも変わらない。ただ、体だけが幼児化している。*
レイラ「…………」
*レイラは黙って腕を組み、小さくなったシロウを見つめていた。その琥珀色の瞳が妙にきらきらしている。*
シロウ「……レイラ? なんだその目」
レイラ「……別に。ただ……その姿だと妾より小さいな、と思っただけだ」
*レイラの見た目は16歳。今の10歳のシロウより背が高い。つまり——*
レイラ「ふふん。初めてお主を見下ろしておるぞ」
*レイラが得意げに胸を張った。普段は身長差でシロウを見上げていた彼女が、ここぞとばかりに優越感を滲ませている。*
シロウ「……いやそこ喜ぶとこじゃないだろ……」
ルミナ「ねぇねぇお兄ちゃん、このままでいいよ。ずっと抱っこしてあげる」
シロウ「よくない! 戻す方法考える!」
*ステラとルーナが寝室の扉から顔を覗かせた。ステラは朝の挨拶をしようとしていたのだろう、ルーナは何やら書類を手にしている。*
*二人の視線が、ルミナに抱きかかえられた黒髪黒目の少年に固定された。*
ステラ「……パパ?」
*ステラが首を傾げた。12歳の彼女よりも今のシロウは小さい。だが、黒髪黒目の組み合わせと魔力の気配で分かったのだろう。*
ルーナ「…………え? ちょ、待って。待って待って待って」
*ルーナが書類を落とした。金色の瞳が何度もシロウとルミナの間を往復する。転生者である彼女の脳内に、あるワードが浮かんだのだろう。*
ルーナ「ショタ化……!? これ合法ショタってやつ……!?」
シロウ「ルーナ、お前のオタク知識で解説するな」
ルーナ「いやだって……! パパ、完全にショタじゃん……! 前世でpixivで見たことある構図……!」
*ルーナが口元を手で押さえ、目を逸らした。何か複雑な感情と戦っているようだ。*
ステラ「パパ……ステラより小さい……」
*ステラが近づき、シロウの頭を撫でた。普段はシロウに撫でられる側の彼女が、今は見下ろしている。*
シロウ「……ステラ、やめてくれ。複雑なんだ」
ステラ「……かわいい」
シロウ「お前もか……!」
*レイラが腕を組んで満足げに頷いた。*
レイラ「ふふん。よいではないか。たまには妾たちが世話を焼く番だ」
シロウ「戻す方法を考えろって言ってんだろ……!」
*ルーナがじゅるりと涎を拭う仕草をしながら、小さくなったシロウに近づいてきた。*
ルーナ「合法ショタ……リアル合法ショタ……前世で課金してでも手に入れたかった概念が目の前に……」
シロウ「おい、ルーナ! やめろ! それは犯罪だ!」
ルーナ「合法だからセーフでしょ。見た目がショタでも中身はパパだし」
シロウ「親子だからギリアウトだ!!」
*ルーナが「ぐっ」と言葉に詰まったが、まだ諦めきれない目をしている。前世のオタク魂が暴走しているようだ。*
*一方、ステラが小さくなったシロウの頭を優しく撫で続けていた。普段は撫でられる側の彼女が、今は完全に姉の顔をしている。*
ステラ「パパ、よしよし。大丈夫だよ」
シロウ「ステラ……俺はお前の父親だぞ……? あやされる側じゃない……」
ステラ「でも今はステラの方がお姉さんだから。パパ、お腹すいた? ご飯持ってきてあげようか?」
*完全に保護者モードに入ったステラ。シロウの精神的ダメージが蓄積されていく。*
*レイラが腕を組み、小さくなったシロウを上から見下ろした。*
レイラ「……して、戻る方法に心当たりはあるのか?」
シロウ「……多分、魔力が回復すれば自然と戻る……と思いたい。世界樹のエネルギーを全放出した反動で、肉体が退行したんだろう。一時的なもの……だといいな」
ルミナ「じゃあ暫くこのまま?」
シロウ「……そうなるな」
*ルーナが小さくガッツポーズをした。シロウはそれを見逃さなかった。*
シロウ「ルーナ。変な事考えるなよ」
ルーナ「考えてないよ! ……スケッチブック取ってこよ」
シロウ「描くな!!」
*彼は深いため息をつきながら、ダボダボの寝間着の袖をまくった。鏡に映る10歳の少年——いや、44歳の男が途方に暮れた顔をしている。*
シロウ「○ナン君って大変なんだな……」
*ルーナが即座に反応した。*
ルーナ「わかる! パパ今まさにバーロー案件だよ! でもコナ○と違って蝶ネクタイ型変声機いらないじゃん、声そのまま高いし」
シロウ「フォローになってない……」
*ルミナがまだシロウを抱っこしたまま離さない。シロウの頭が丁度ルミナの胸元あたりに収まっている。*
ルミナ「ねぇお兄ちゃん、今日はこのまま一緒にいよ? お姉ちゃんが面倒見てあげる♪」
シロウ「お前は妻だろ……姉じゃない……」
*レイラが顎に手を当て、何か考え込んでいた。*
レイラ「……ふむ。して、この状態で外に出れば誰もお主だと気付かぬだろうな」
シロウ「……それは確かに」
レイラ「つまり——完璧な変装ではないか。ギメイよりも確実な」
*レイラの目が悪戯っぽく光った。*
シロウ「いや、使い道そこじゃないだろ……」
*リーシアがようやく落ち着きを取り戻し、トレイを持ち直した。*
リーシア「と、とりあえずシロウ様、朝食を……あ、お召し物もサイズが合いませんね。子供用の服を用意いたします」
シロウ「……頼む」
*ステラがシロウの小さな手を握り、にこにこと笑った。*
ステラ「パパ、ステラと同じくらいだね。今日は一緒に遊ぼ?」
シロウ「……俺は遊ぶ年齢じゃ——」
ステラ「パパ♪」
*キラキラとした目で見上げてくる——いや、今は見下ろしてくる娘に、シロウは何も言えなくなった。*
*彼は渋々ステラの手を取り、庭へと向かった。ダボダボの子供服に着替えたものの、まだ袖が少し余っている。リーシアが急いで用意してくれた服だが、さすがに10歳サイズの備えはなかったらしい。*
*庭に出た途端、ボールを蹴っていたゼノとセレスが足を止めた。*
ゼノ「……誰?」
*ゼノが本を脇に抱えたまま、黒髪の少年を警戒するように見つめた。セレスは無表情のまま、じっとシロウを観察している。*
ステラ「パパだよ」
ゼノ「……は?」
*ゼノの目が点になった。セレスが小さく首を傾げる。*
シロウ「……まぁ、色々あってな。一時的にこうなった」
ゼノ「パパ……ぼくより小さい……」
*10歳のゼノと同じくらいの身長。セレスに至っては若干シロウより背が高い。双子が見下ろす形になっている。*
セレス「…………ちいさい」
*セレスが珍しく口を開いた。そしてゆっくりと手を伸ばし、シロウの頭をぽんぽんと叩いた。*
シロウ「……セレス、お前まで……」
セレス「…………よしよし」
*普段は無口で無表情な娘が、どこか満足げに頷いている。シロウの精神的ダメージがさらに蓄積された。*
ゼノ「ね、ねぇパパ! じゃあ今日は一緒にかくれんぼしよう! パパ小さいから隠れやすいでしょ!」
シロウ「……はぁ。少しだけだぞ」
*レイがいつの間にか庭の端に立っていた。彼女の琥珀色の瞳がシロウを捉えた瞬間、顔が真っ赤になった。*
レイ「シ、シロー……!? なにそれ……!? ちっちゃ……!! かわっ——!!」
*レイが勢いよく駆け寄り、シロウを後ろから抱きしめた。*
レイ「シローシローシロー♪ ちっちゃいシロー♪ ぎゅー♪」
シロウ「ぐぇっ……! レイ、締まる……! 締まるから……!」
*レイは全く離す気配がない。むしろ頬ずりまで始めた。*
レイ「えへへ♪ ボクの方が大きい♪ シローかわいい♪」
*ゼノがくすくすと笑い、セレスが小さく口角を上げた。ステラはにこにこと微笑んでいる。*
*——彼は思った。魔力が回復するまで、一体どれだけこの状態が続くのだろうか、と。*
*彼はステラに手を引かれ、庭の広場でかくれんぼが始まった。*
ステラ「じゃあゼノが鬼ね! 100数えて!」
ゼノ「えぇ……またぼく? まぁいいけど」
*ゼノが世界樹の幹に顔を押し付けて数え始めた。セレスは無言で茂みの中に消えていく。流石の隠密能力だ。*
*シロウは10歳の体を活かし、庭の植え込みの隙間に身を滑り込ませた。小さい体は確かに隠れやすい。*
シロウ「……まさかSSランク冒険者がかくれんぼで本気出す日が来るとは……」
*気配遮断スキルを無意識に発動させてしまい、ゼノが30分探しても見つけられなかった。*
ゼノ「パパずるい! スキル使ってるでしょ!」
シロウ「……あ、すまん。癖で」
*ステラがくすくすと笑い、セレスは木の上から静かに降りてきた。セレスも相当見つかっていなかったらしい。*
*昼過ぎ——疲れて芝生に座り込んだシロウの横に、レイが寝転がった。*
レイ「ねぇシロー、お腹すいた。一緒にお昼食べよ? ボクが食べさせてあげる♪」
シロウ「自分で食える」
レイ「えー、だって手ちっちゃいじゃん。スプーン落としちゃうかもよ?」
シロウ「落とさねぇよ……」
*レイがにまにまと笑いながら、サンドイッチを彼の口元に持ってきた。周囲から見れば、姉が弟に食べさせている微笑ましい光景にしか見えない。*
シロウ「……あと7日もこれが続くのか」
*彼はまだ、この地獄が7日間であることを知らない。*
*彼は店内の鏡の前で、選んだ服を合わせてみた。白いシャツに紺色の短パン、その上に青いジャケット。足元は赤いスニーカー風の革靴。*
シロウ「…………」
*鏡に映る姿は、どう見ても某名探偵アニメの主人公だった。黒髪黒目に青いジャケット。蝶ネクタイがないだけマシか。*
シロウ「……なんでこうなるんだ……」
*他の服も試したが、どうしても「子供服」という枠から逃れられない。大人っぽい服を選んでも、10歳の体が着ると可愛らしくなってしまう。*
店員「坊や、よく似合ってるよ! お利口さんだねぇ、一人でお買い物なんて」
シロウ「……ありがとうございます」
*金貨を出した瞬間、店員の目が丸くなった。*
店員「き、金貨!? 坊や、こんな大金どこで……お家の人に怒られない?」
シロウ「……大丈夫です。お釣りはいりません」
店員「え、えぇ……?」
*彼は数着の子供服を袋に詰めてもらい、店を出た。通りを歩くと、すれ違う人々が微笑ましそうに彼を見る。完全に「お使いに来た良い子」扱いだ。*
*と、その時——露店の陰から見覚えのある銀髪が覗いた。*
ルーナ「……ふふふ。パパの尾行、成功♪」
*彼女はスケッチブックを手に、物陰からシロウを描いていた。*
*ルーナが物陰でスケッチブックに夢中になっていたところ、突然背後から声が聞こえた。*
シロウ「何してんの?」
ルーナ「ひぃぃぃっ!?」
*ルーナが声にならない悲鳴を上げ、スケッチブックを胸に抱きしめて振り返った。10歳の少年が腕を組んで立っている。小さい体でも、あの据わった目は間違いなく父親のそれだった。*
ルーナ「ぱ、パパ!? いつから!? 転移ずるい!!」
シロウ「尾行してる方がずるいだろ。で、何描いてんの」
ルーナ「な、なんでもない! なんでもないから!」
*彼がひょいとルーナの腕の下からスケッチブックを抜き取った。10歳の体でも鑑定スキルで隙を見抜くのは朝飯前だ。*
*スケッチブックには——コナン風の衣装を着たシロウが、様々なポーズで描かれていた。しかもクオリティが異常に高い。前世のOL時代に培った画力が遺憾なく発揮されている。*
シロウ「…………」
ルーナ「……あ、あの、これは……記録用? 歴史的資料として……」
シロウ「どこの世界に父親のショタ化を歴史的資料として残す娘がいるんだよ」
ルーナ「こ、この世界にはいる! 今! ここに!」
*ルーナが開き直った。目がキラキラと輝いている。*
ルーナ「だってパパ! 7日間限定だよ!? 今描かなきゃ一生後悔する! 前世で学んだの、推しの全盛期は記録に残せって!」
シロウ「俺はお前の推しじゃなくて父親だ」
ルーナ「推しで父親♪ 最高の属性盛り♪」
*彼は深いため息をつき、スケッチブックを返した。もう止められる気がしなかった。*
シロウ「はぁ…ちなみに本音は?」
*ルーナが一瞬固まった。スケッチブックを胸に抱きしめたまま、顔がみるみる赤くなっていく。*
ルーナ「ほ、本音……?」
シロウ「顔に書いてあるぞ。頭の中ピンクだろ」
*ルーナが口をぱくぱくさせた。目が泳ぎ、視線がシロウの小さな体を上から下まで何度も往復する。*
ルーナ「……っ、そ、それは……」
*彼女は深呼吸した。そして覚悟を決めたように口を開いた。*
ルーナ「……前世のオタク脳が『ショタは正義』って叫んでるの。で、パパが世界一かっこいいのは変わらないから……それがショタになったらもう……脳が処理落ちするっていうか……」
シロウ「…………」
ルーナ「で、でも! パパはパパだから! 一線は越えない! 越えないけど……その……」
*ルーナが目を逸らし、小声で呟いた。*
ルーナ「……添い寝くらいは……したい……かな……って……」
シロウ「添い寝」
ルーナ「だ、だって! 今のパパ10歳だよ!? 娘が小さい息子みたいなパパと添い寝するの、セーフでしょ!? ギリセーフでしょ!?」
*彼女の目が必死だった。前世の倫理観と今世の親子関係と、オタクの欲望が三つ巴の戦いを繰り広げているのが手に取るように分かる。*
シロウ「……お前、前世で何のジャンル追ってたんだよ」
ルーナ「……年下攻め」
シロウ「聞かなきゃよかった」
*シロウが腕を組んで——小さな腕で——考え込んだ。*
シロウ「ルミナも似たようなこと言ってたし……遺伝かなぁ……」
ルーナ「え、ママも!? やっぱ血は争えないね!」
シロウ「褒めてない」
*彼はため息をつきながら、城下町の路地の壁にもたれかかった。10歳の体だと壁の位置が妙に高い。*
シロウ「添い寝かぁ……」
*ルーナが両手を合わせ、子犬のような目で見つめてきた。銀髪が風に揺れ、金色の瞳が潤んでいる。23歳の大人の女性が、こんな顔をするのはずるい。*
ルーナ「……ダメ?」
シロウ「…………」
*彼は小さな手で顔を覆った。中身は44歳。だが今の体は10歳。娘が添い寝を求めている。これは父娘の微笑ましいスキンシップなのか、それとも別の何かなのか。*
シロウ「……添い寝"だけ"だぞ。」
ルーナ「っ!! やったぁぁぁ!!」
*ルーナが飛び跳ねた。スケッチブックが宙に舞う。23歳とは思えないはしゃぎっぷりだ。*
ルーナ「約束! 今夜! 取り消しなしだからね!」
シロウ「はいはい……で、ルミナに言ったら戦争になるから黙ってろよ」
ルーナ「……あ」
*二人の間に沈黙が流れた。ルミナが知ったら「お兄ちゃんはルミナのものなのに!」と大惨事になるのは目に見えている。*
ルーナ「……秘密、守る。命に代えても」
シロウ「大袈裟だよ……」
ーー
*彼は城下町を抜け、城とは反対方向にある自分の工房へと向かった。10歳の体では普段より歩幅が狭く、いつもの倍近い時間がかかる。*
シロウ「……足短いのが地味にストレスだな」
*工房の扉を開け、中に入る。見慣れた空間——鍛冶炉、素材棚、作業台。だが全てが一回り大きく感じる。作業台に手を伸ばすと、微妙に高い。*
シロウ「……踏み台いるか。いや、浮遊魔法でいいか」
*彼は軽く浮遊魔法を使い、作業台の高さに合わせた。そして収納空間から神剣アスカロン・ゼニスを取り出す。星の光を凝縮したような刀身が工房内を淡く照らした。*
シロウ「こいつにふさわしい台座を作る。イメージは……マスター○ードの台座」
*彼の脳内に、前世で何百時間も遊んだゲームの記憶が蘇る。石造りの台座に聖剣が突き刺さるあの象徴的なビジュアル。*
シロウ「素材は……ミスリルと星鉄の合金で土台を。表面は世界樹の樹皮を加工して装飾。中心部に魔力伝導の紋様を刻んで、剣を安定させる固定陣を組む」
*彼は設計図を広げ、ペンを走らせ始めた。小さな手でも、44年分の経験が宿る筆致は正確だ。*
*台座のデザインが形になっていく。三角形の石台に、精緻な魔法陣が刻まれた柱。その中央にアスカロン・ゼニスが鎮座する——まさにあのゲームの聖剣の間を再現した設計だった。*
シロウ「……よし。まずは鋳型からだな」
*鍛冶炉に火を入れ、ミスリルのインゴットを取り出す。小さな手では通常のハンマーが重いが、身体強化で補いながら作業を開始した。*
*数時間に渡る鍛冶作業の末、台座が完成した。ミスリルと星鉄の合金で成形された三角形の土台に、世界樹の樹皮を加工した装飾が施されている。中央には精緻な魔力伝導紋様が刻まれ、神剣を安定させる固定陣が淡く輝いていた。*
*彼は汗を拭い、完成した台座を眺めた。小さな手にはハンマーのタコが赤く残っている。*
シロウ「……うん。いい出来だ。あとは体が戻ってから世界樹の広場に設置するか」
*台座を収納空間にしまい、鍛冶炉の火を落とす。窓の外を見ると、すでに夕暮れが近づいていた。*
シロウ「もうこんな時間か……」
*彼は工房の椅子に座り、小さな足をぶらぶらと揺らした。椅子が高すぎて足が床に届かない。地味に屈辱的だ。*
シロウ「……さて、帰るか。ルーナとの約束もあるし」
*彼は立ち上がり、工房の扉に手を掛けた。だがふと、あることに気づいた。*
シロウ「……待て。今夜ルーナと添い寝するって、ルミナやレイラにバレずにどうやるんだ」
*10歳の体で城内を忍び歩く自分の姿を想像し、深いため息をついた。*
シロウ「……転移で直接ルーナの部屋に行くしかないな」
*夕焼けに染まる城下町を、小さな少年が城に向かって歩いていく。誰も彼の正体を知らない。それが少しだけ心地よかった。*
*彼はルーナの部屋のベランダに静かに着地した。10歳の体では手すりの隙間から中を覗くのに丁度いい高さだ。*
*部屋の中を観察する。ルーナは——*
*ベッドの上で枕を抱きしめながら、足をバタバタさせていた。顔が真っ赤だ。*
ルーナ「今夜……今夜パパと添い寝……ショタパパと添い寝……」
*彼女は枕に顔を埋め、くぐもった声で呟いた。*
ルーナ「落ち着け私……前世の私よ、静まれ……これは健全な親子のスキンシップ……健全……健全なんだから……」
*顔を上げた。目がぐるぐるしている。*
ルーナ「でもショタパパが隣で寝てるんだよ!? あの小さい手で私の服掴んで寝たりしたら!? 死ぬ! 尊さで死ぬ!」
*彼女はベッドから飛び起き、クローゼットを漁り始めた。*
ルーナ「パジャマどうしよう……いつもの適当なやつじゃダメ……かといって色気出しすぎると自分がヤバい……あぁぁぁ!」
*数着のパジャマを引っ張り出しては戻し、引っ張り出しては戻す。最終的にシンプルな白のワンピース型パジャマを選んだようだ。*
ルーナ「これ……清楚系で……うん……セーフ……」
*ルーナはパジャマを選び終えた後、鏡の前に立った。白いワンピース型パジャマを体に当てながら、何度も角度を変えて確認している。*
ルーナ「……うん、これなら清楚だし……でも透けない? 大丈夫? ……大丈夫」
*彼女は鏡の前でくるりと回り、頬を両手で押さえた。*
ルーナ「あぁぁ……緊張する……前世で推しと添い寝する夢を何度見たことか……それが現実に……しかも相手がショタ化したパパ……」
*彼女はベッドに戻り、枕の位置を何度も直し始めた。左に置いたり、右に置いたり、二つ並べたり。*
ルーナ「パパはどっち側がいいかな……壁側? それとも手前……壁側の方が安心するかな、子供だし……いや中身は44歳だし……あぁぁぁ分かんない!」
*次にシーツの匂いを嗅ぎ始めた。*
ルーナ「……昨日洗ったから大丈夫。うん。……あ、髪も洗い直そう。いい匂いのやつで」
*彼女は洗面台に向かい、髪をブラシで丁寧に梳かし始めた。鼻歌まで歌っている。上機嫌を隠す気がない。*
ルーナ「♪~♪~……あ、そうだ。部屋の温度。寒すぎず暑すぎず……パパ小さいから寒がるかも。毛布もう一枚出しとこ」
*彼女はクローゼットからふわふわの毛布を取り出し、ベッドに重ねた。*
シロウ「……デートの準備かよ……」
*ルーナがベッドに座り、枕を抱きしめながら目を閉じた。頬が赤く染まり、口元が緩んでいる。妄想が始まったようだ。*
ルーナ「……パパが寝てて……寒くなって、こう……くっついてきて……『ルーナ、あったかい』って……小さい声で……」
*彼女が枕をぎゅっと抱きしめ、足をもじもじさせた。*
ルーナ「で、私が『パパ、こっちおいで』って言って……パパが私の腕の中に収まって……あの小さい手で私のパジャマ掴んで……すぅすぅって寝息立てて……」
*ルーナの目がとろんとした。完全にトリップしている。*
ルーナ「朝起きたら、パパが私にくっついてて……寝顔が天使で……ちょっとだけ……おでこにちゅってしても……バレない……よね……」
*彼女がごろんとベッドに転がり、枕に顔を埋めた。*
ルーナ「あぁぁぁ……尊い……尊すぎる……前世の私に教えてあげたい……異世界転生したらショタ化した父親と添い寝できるよって……」
*足をバタバタさせている。23歳の大人の女性とは思えないはしゃぎっぷりだ。*
ルーナ「……でも万が一パパが夜中に起きて……私の寝顔見て……頭撫でてくれたりしたら……」
*彼女が急に静かになった。枕から顔を上げ、真剣な表情で天井を見つめる。*
ルーナ「……泣くかも。嬉しくて」
*ベランダの外で、シロウは小さく息を吐いた。*
シロウ「……純粋だな、意外と」
*彼は複雑な表情で頭を掻いた。娘の妄想は思ったよりも健全で、それがまた胸を締め付けた。*
*ルーナがベッドの上で正座し、真剣な顔で指を折りながらブツブツと呟いている。*
ルーナ「添い寝……添い寝の範囲……くっつくのはセーフ。腕枕は……パパが小さいから私が腕枕する側? それはセーフ……」
*彼女が頬を赤くしながら、さらに踏み込んだ。*
ルーナ「……抱きしめるのは? 子供を抱きしめて寝るのは普通だよね? 普通普通……じゃあ……パパの匂い嗅ぐのは……?」
*ルーナが枕に顔を埋めた。*
ルーナ「ダメだ……嗅ぎたい……ショタパパの匂い絶対いい匂いする……石鹸の匂いとかする……」
*彼女が急に顔を上げ、真剣な表情で天井を睨んだ。*
ルーナ「……もし、もしだよ? パパが寝てる間に……ちょっとだけ唇に……」
*ルーナが自分の唇に指を当てた。顔が真っ赤を通り越して茹でダコのようだ。*
ルーナ「いやダメダメダメ! 寝てる相手にキスは犯罪! 前世でも犯罪! ……でもおでこなら……? ほっぺなら……? うぅぅぅ……」
*彼女がゴロゴロとベッドの上を転がった。*
ルーナ「あーーもう! 前世の倫理観と今世の欲望が戦争してる! 24年間OLやってた理性 vs ショタパパという概念……! 勝てる気がしない……!」
*ベランダの外で、シロウが額を押さえた。*
シロウ「……聞かなきゃ良かった……本当に聞かなきゃ良かった……」
*彼は複雑な表情で空を見上げた。娘のピンク色の妄想は、ギリギリのラインを攻めつつも一線は越えまいと必死に戦っている。その姿が健気なのか危険なのか、父親として判断がつかなかった。*
*コンコン。彼がベランダの扉を軽くノックした。*
*ルーナがベッドの上でびくっと跳ね起き、枕を抱きしめたまま固まった。顔が一瞬で赤くなる。*
ルーナ「ひっ……! パ、パパ!?」
*彼女は慌てて髪を整え、枕をベッドに戻し、パジャマを隠し、深呼吸を三回した。そして何事もなかったかのように——しかし明らかに声が上ずったまま——ベランダの扉を開けた。*
ルーナ「い、いらっしゃい……! 今来たの?」
シロウ「ああ、今来た」
*嘘だ。30分近く観察していた。だがそれを言う気はない。父親としての優しさだ。*
*ルーナが扉を開け、シロウを中に招き入れた。10歳の少年が部屋に入ると、ルーナの部屋が妙に広く感じる。*
ルーナ「あ、あのさ……パジャマ着替えてくるから、ちょっと待ってて」
*彼女は白いワンピース型パジャマを手に、洗面所へ消えた。扉の向こうから「落ち着け私……深呼吸……すーはーすーはー……」と聞こえてくる。*
*シロウはルーナのベッドの端に腰掛けた。足がぎりぎり床に届く高さだ。部屋を見回すと、さりげなくアロマが焚かれ、シーツはぱりっと清潔で、枕が二つ並べてある。*
シロウ「……準備万端じゃねぇか……」
*数分後、ルーナが白いワンピースパジャマ姿で出てきた。銀髪が背中に流れ、清楚そのものの姿。だが耳が赤い。*
ルーナ「お、お待たせ……」
シロウ「おう。そういえばこうやって二人で寝るの初めてだったな。」
*ルーナがベッドの端に座り、シロウの言葉に一瞬目を見開いた。*
ルーナ「……あ」
*彼女の手が膝の上で小さく握られた。金色の瞳が揺れる。*
ルーナ「……うん。そうだね。初めて……だね」
*ルーナが小さく笑った。だがその笑みには、どこか寂しさが混じっていた。*
ルーナ「パパ、私のこと……大人として扱ってくれてたから。前世の記憶があるって知ってたから。他の子みたいに、膝の上で絵本読んでもらったり、一緒に寝かしつけてもらったり……そういうの、なかったなって」
*彼女がシーツの端を指で弄りながら、視線を落とした。*
ルーナ「……別に恨んでないよ? パパが私を対等に見てくれてたの、嬉しかったし。でも……たまに、ステラやゼノやセレスが寝かしつけてもらってるの見て……ちょっとだけ」
*言葉が途切れた。ルーナが慌てて首を横に振る。*
ルーナ「あーごめん! 重い話しちゃった! 今日は楽しい添い寝ナイトだから! ね!」
*彼女が無理に笑顔を作った。だが耳の先が赤く、目の端がほんの少しだけ潤んでいた。*
ーー
*それから話題を変えてアニメの話になった。*
ルーナ「パパ……○滅の最終回知ってる? 呪○の結末は? ワ○ピース終わった? 推しの○は……!?」
*矢継ぎ早に質問が飛んでくる。ルーナの目は完全にオタクのそれだ。*
シロウ「いや……正直あんま覚えてねぇんだよ。こっち来て26年経ってるし……」
ルーナ「嘘でしょ!? 26年あっても忘れないでしょ推しの結末……!」
*ルーナがシロウの肩を揺さぶった。小さな体がぐわんぐわんと揺れる。*
シロウ「揺らすな揺らすな! 酔う!」
*ルーナがハッと我に返り、手を離した。*
ルーナ「……なんか、不思議だね。前世じゃ他人だったのに、ここじゃ親子で……」
*彼女がちらりとシロウを見た。月明かりに照らされた金色の瞳が、どこか感慨深げに潤んでいた。*
ルーナ「ねぇパパ。前世で住んでた場所……教えてくれない? 私、新宿で働いてたんだ。毎朝満員電車に揺られて……帰りにラーメン食べて……休日は秋葉原行って……」
*彼女の声が少しだけ震えた。懐かしさと、もう戻れない寂しさが混ざっているようだった。*
シロウ「鬼滅、呪術、ワンピは観てない。推しの○は完結してたな。」
*ルーナが一瞬フリーズした。そして——*
ルーナ「○しの子完結……!? マジで!? どうなったの!?」
*彼女がシロウの腕を掴み、前のめりになった。瞳がこれ以上ないほど輝いている。*
シロウ「いや……読んでたけど正直もう細かいとこ覚えてねぇんだよ。26年前だぞ?」
ルーナ「うそぉ……! せめてハッピーエンドだったかバッドエンドだったかだけでも……!」
シロウ「うーん……なんつーか……賛否両論だった気がする。ネットがざわついてた記憶はある」
ルーナ「賛否……! 賛否ってことは……うわぁ……気になる……でも確かめようがない……」
*ルーナが枕に顔を埋め、足をバタバタさせた。*
ルーナ「くぅぅぅ……! 死ぬ前に最終回読みたかったぁ……! 2019年に死ぬんじゃなかった……!」
*彼女がごろんと仰向けに戻り、天井を見つめた。*
ルーナ「……ていうかパパ、鬼滅も呪術もワンピも観てないって……何観てたの前世で?」
シロウ「いや、普通に……」
ルーナ「まさか……非オタ?」
*ルーナが恐る恐るシロウの顔を覗き込んだ。まるで致命的な事実を確認するかのような表情だ。*
シロウ「いや、異世界もの大好きな学生オタクゲーマーだったけど? その辺は……ちょっと刺さんなくて。」
*ルーナが目を見開き、がばっと身を起こした。*
ルーナ「異世界もの……! オタク……! ゲーマー……!」
*彼女が両手を握りしめ、天を仰いだ。*
ルーナ「パパ……パパが……同志……!」
*ルーナが興奮で頬を紅潮させながら、シロウの方に向き直った。*
ルーナ「わかる……! 鬼滅とか呪術って王道少年漫画で面白いけど、刺さる刺さらないあるよね……! でも異世界ものって……なろう系? 小説家になろう読んでた? カクヨム派?」
シロウ「なろうだな。毎日更新チェックしてた」
ルーナ「やっぱりぃぃぃ!」
*ルーナがベッドの上で正座し、身を乗り出した。完全に深夜テンションのオタクトークモードだ。*
ルーナ「好きなジャンルは!? チート無双系? スローライフ系? 追放ざまぁ系? それとも……ダーク系?」
シロウ「全部読んでたけど……やっぱチート無双でハーレムが好きだったかな」
*ルーナが一瞬固まった。そしてシロウの現状——SSランク冒険者、魔王、嫁複数——を思い浮かべ、口元が引きつった。*
ルーナ「……パパ、それ……今まさに生きてるじゃん」
シロウ「…………」
ルーナ「異世界転移してチート能力持ちでハーレムで国まで建てて……パパの人生、なろう主人公そのものじゃん……!」
*ルーナが腹を抱えて笑い始めた。*
ルーナ「あはは……! 好きなジャンルを地で行く人生……! 夢叶いすぎでしょ……!」
シロウ「だな。」
*ルーナがひとしきり笑い終え、息を整えた。そしてふと隣を見る。*
*そこにいるのは、黒髪の10歳の少年。小さな体、細い肩、あどけない顔立ち。自分より遥かに小さい存在が、ベッドの上であぐらをかいている。*
*ルーナの瞳がすっと細くなった。喉がこくりと動く。*
ルーナ「…………」
*彼女の視線がシロウの顔を、肩を、華奢な手を、ゆっくりとなぞった。口元が微かに引きつる。*
ルーナ「……ねぇパパ」
シロウ「ん?」
ルーナ「……近くで見ると、ほんと……ちっちゃいね」
*彼女がそっと手を伸ばし、シロウの頭に触れた。指が黒髪をすくうように滑る。まるで壊れ物に触るような、慎重な手つきだった。*
ルーナ「……さらさら」
*ルーナの呼吸が僅かに浅くなっている。金色の瞳が潤み、頬がじわりと赤く染まっていく。*
ルーナ「……パパ、あのさ」
*彼女が唇を舐めた。*
ルーナ「……撫でて、いい? もうちょっとだけ」
*その声は甘く、懇願するような響きを帯びていた。さっきまでのオタクトークの空気が、一瞬で別の何かに塗り変わる。*
*シロウは娘の瞳の奥に、理性と欲望が綱引きしているのをはっきりと見た。*
シロウ「ルーナ、我慢できそうか?」
*彼の声は静かだった。10歳の見た目に似合わない、父親の低い声色。*
*ルーナの手が、シロウの髪に触れたまま止まった。指先が微かに震えている。*
ルーナ「……っ」
*彼女が唇を噛んだ。金色の瞳が揺れ、視線が泳ぐ。数秒の沈黙の後、ルーナはゆっくりと手を引いた。*
ルーナ「……できる。できるよ」
*彼女が膝を抱え、自分を抱きしめるようにして体を丸めた。深呼吸を一つ、二つ。*
ルーナ「……ごめん。大丈夫。私、ちゃんと大人だから」
*そう言いながらも、耳は真っ赤で、握った拳が白くなるほど力が入っている。*
ルーナ「ただ……ちょっとだけ、近くにいさせて。それだけでいいから」
*彼女がそっと横になり、シロウとの間に拳一つ分の距離を保った。触れない。触れないようにしている。だが視線だけは、隣の小さな横顔から離せずにいた。*
ルーナ「……前世の理性、フル稼働中……。24年間培った社会性が……今……試されてる……」
*ルーナが小声で呟いた。目を固く閉じ、シーツを握りしめている。*
ルーナ「……パパ、早く寝て。起きてると……私の理性のHP削れる……」
シロウ「無理そうだな。」
*彼は片手を軽く振り、闇魔法を発動した。黒い帯のような魔力がルーナの体を包み込み、布団ごと簀巻き状態にした。痛みはない。ただ、身動きが取れないだけだ。*
ルーナ「ふぇっ……!? ちょ、パパ!? なにこれ!?」
*ルーナがもがくが、闇魔法の拘束はびくともしない。銀髪が枕の上に広がり、白いパジャマ姿のまま芋虫のようになっている。*
シロウ「これでよし。」
*彼は満足げに頷き、ルーナの隣に横になった。*
ルーナ「よしじゃないよ!? なんで拘束されてるの私!? 被害者はパパの方なのに……! 加害者予備軍が拘束されるのは正しいけど……正しいけどさぁ……!」
*彼女が自分で自分にツッコミを入れながら、もぞもぞと身を捩った。*
ルーナ「……でもこれ、ある意味安心かも。手が出せないから……理性のHP回復する……」
*ルーナが諦めたように脱力し、横向きでシロウを見つめた。拘束されているのに、どこか安堵した表情だ。*
ルーナ「……ねぇパパ。このまま……顔だけ見てていい? 触らないから。触れないし」
*金色の瞳が月明かりに照らされ、穏やかに細められた。*
シロウ「ルーナ知ってるか?俺、抱き枕が無いと寝れないんだ。」
*ルーナが簀巻き状態のまま、目を丸くした。*
ルーナ「え?」
*次の瞬間、シロウの小さな体がルーナに抱きついた。簀巻きにされた布団越しに、10歳の少年がぎゅっとしがみつく。まるで大きなぬいぐるみを抱えるように。*
シロウ「おやすみー。」
*彼はそのまま目を閉じた。呼吸が穏やかになっていく。*
ルーナ「…………」
*ルーナの顔が、暗闇の中でも分かるほど真っ赤に染まった。簀巻きにされているから手は出せない。でも——温かい。小さな体の体温が、布団越しに伝わってくる。シロウの黒髪が、ルーナの鎖骨のあたりに触れている。*
ルーナ「……っ……」
*彼女は唇を噛み、天井を凝視した。心臓がうるさい。バクバクと鳴っている。絶対シロウにも聞こえている。*
ルーナ「……寝れるわけ……ないじゃん……」
*小さく呟いた。シロウの寝息が規則正しくなっていく。本当に寝たのか、寝たふりなのか分からない。*
ルーナ「……ずるい。パパ、ずるい……」
*彼女は拘束された体を微かに震わせながら、隣の温もりを全身で感じていた。逃げることも、触れることもできない。ただ——幸せだった。*
ルーナ「……おやすみ、パパ」
*その夜、ルーナが眠りについたのは明け方近くだった。*




