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*彼はレイラに声をかけた。*
シロウ「ちょっとトイレ行ってくる」
レイラ「…ふん、早く戻れ」
*レイラは腕を組み、並木道のベンチに腰掛けた。ミニスカートから伸びる白い脚を組み、首元のルビーが陽光を受けて煌めいている。どこからどう見ても、モデルか令嬢のような佇まいだった。*
*シロウがトイレから戻ると、案の定だった。*
*チャラついた格好の男二人がレイラの前に立ち、ヘラヘラと話しかけていた。*
男A「ねぇねぇ、一人?外国の方?めっちゃ可愛いんだけど」
男B「お茶しない?この辺いいカフェ知ってんだよね」
*レイラは脚を組んだまま、琥珀色の瞳で二人を見上げた。その表情は氷のように冷たかった。*
レイラ「…何だ貴様ら。妾に話しかける許可を与えた覚えはないが」
男A「え、何語?英語?フランス語?」
男B「分かんないけど声可愛くね? LINE交換しよ!」
*男Bがスマートフォンを差し出した。レイラは眉一つ動かさず、その手を見下ろした。*
レイラ「…虫が鬱陶しい」
*彼女の琥珀色の瞳が一瞬だけ鋭く光った。魔王としての威圧が無意識に漏れ出ている。男たちは何故か背筋にゾクリと寒気を感じたようで、一瞬たじろいだ。*
*だが、すぐに気を取り直したのか、男Aがレイラの隣に座ろうとした。*
男A「そんな怖い顔しないでよ〜、楽しいとこ連れてってあげるからさ」
*シロウは少し離れた場所で腕を組み、観察を続けていた。レイラの目が、ちらりとシロウの方を向いた。気づいている。だが、助けを求める様子はない。むしろ「見ておれ」とでも言わんばかりの表情だった。*
*男Aがレイラの腕を掴んだ瞬間、空気が変わった。*
男A「ほら、行こうぜ〜」
*レイラの琥珀色の瞳が、氷点下まで冷え込んだ。*
レイラ「…触れるな、下等生物」
*次の瞬間、レイラの小さな拳が男Aの腹に叩き込まれた。鈍い音と共に、男Aは三メートルほど吹き飛び、地面を転がった。*
男A「がっ…!?」
男B「おい!何しやが…っ」
*男Bが掴みかかろうとしたが、レイラは冷静に一歩踏み込み、足を払った。男Bは背中から地面に叩きつけられ、そのまま動けなくなった。*
レイラ「妾に触れて良いのは一人だけだ。貴様らごとき塵が、その権利を持てると思うたか」
*彼女はブーツの踵で地面をコツンと鳴らし、倒れた男たちを見下ろした。その姿は完全に魔王のそれだった。ミニスカートにオフショルダーニットという格好でありながら、圧倒的な威圧感を放っている。*
男A「う…ぐ…な、なんだこの女…」
*周囲の通行人が騒然とする中、レイラはフンと鼻を鳴らし、シロウの方を振り返った。*
レイラ「…シロウ。見ておったのだろう」
*琥珀色の瞳が、少し拗ねたように細められた。*
レイラ「助けに来ぬとは…妾を試したか?」
*彼は笑いながらレイラの手を取り、再び歩き始めた。*
シロウ「いや、レイラなら楽勝だろ?」
*レイラはフンと鼻を鳴らしたが、差し出された手をしっかりと握り返した。*
レイラ「当然だ。あの程度の塵、妾の魔力すら使う価値もない」
*彼女はちらりと後方を振り返った。男二人は地面に這いつくばったまま動けずにいる。周囲の通行人が遠巻きに眺めていた。*
レイラ「…だが、普通は助けに来るものだろう。夫として」
シロウ「手を出す隙もなかっただろ」
レイラ「…それはそうだが」
*レイラは少し拗ねたように唇を尖らせたが、すぐに首元のルビーに触れて機嫌を直した。*
レイラ「…まぁよい。妾の強さを改めて見せつけてやれたからな」
*二人は手を繋いで表参道を歩いた。秋風が心地よく、色づいた並木がざわめいている。*
レイラ「…シロウ」
シロウ「ん?」
レイラ「先程の男共が言っておった『らいん』とやらは何だ」
シロウ「あー…連絡手段だよ。この世界の通信魔法みたいなもん」
レイラ「ふむ…ならば妾にも教えろ。貴様と離れた時に連絡が取れんのは不便だ」
*彼女はシロウの腕に体を寄せながら、当然のように言った。繋いだ手は離さないまま。*
レイラ「…それと、腹が減った。何か食わせろ。さっきのクレープだけでは足りん」
*レイラは少し考え込むように首を傾げた。首元のルビーが揺れる。*
レイラ「…肉だ」
*即答だった。*
レイラ「レイの奴が焼肉とやらを食って騒いでおったからな。妾も気になっておった」
*彼女はシロウの手を握ったまま、ふんと鼻を鳴らした。*
レイラ「あやつばかり美味いものを食っておるのは許せん。妾にも同等以上のものを食わせろ」
*その口調は傲慢だが、どこか期待に目が輝いている。琥珀色の瞳がシロウを見上げた。*
レイラ「それと…」
*彼女は一瞬だけ視線を逸らした。*
レイラ「…あの焼肉とやらは、向かい合って食うのだろう?二人で」
*その言葉には、レイやルーナがいない二人きりの時間を望む気持ちが滲んでいた。すぐに取り繕うように咳払いをする。*
レイラ「べ、別に深い意味はない。妾は腹が減っておるだけだ。さっさと案内せよ」
*表参道から少し歩けば、予約制の高級焼肉店がいくつかある。平日の夕方前ならば、飛び込みでも入れる可能性があった。*
*彼はレイラに手を引かれるまま、表参道の裏路地にある高級焼肉店に入った。「黒毛 燈」と書かれた看板が、落ち着いた木目の外観に控えめに掲げられている。*
*店内は完全個室制で、間接照明が柔らかく照らす空間。革張りのソファと無煙ロースターが備え付けられた部屋に通された。*
店員「いらっしゃいませ。お二人様ですね、こちらの個室へどうぞ」
*レイラは物珍しそうに店内を見回しながら、ソファに腰を下ろした。シロウの隣ではなく、向かい合う席に座る。*
レイラ「…ほう、なかなか良い雰囲気ではないか」
*メニューを開くと、A5ランクの黒毛和牛が並んでいる。シャトーブリアン、特選サーロイン、極上カルビ……一品一品の値段が金貨数枚クラスだった。*
レイラ「…シロウ、この文字は読めんが、肉の絵は分かる。全部食って良いのか?」
*琥珀色の瞳がキラリと輝いた。レイに負けず劣らず、彼女もまた食には正直らしい。首元のルビーが照明を受けて、赤く揺らめいていた。*
レイラ「…レイの奴に自慢してやるのだ。妾の方が良いものを食ったとな」
*ふふん、と得意げに笑う姿は、年相応の少女そのものだった。*
*レイラは写真付きのメニューを食い入るように見つめ、次々と指差した。*
レイラ「これと、これと…あとこれだ」
*シャトーブリアン、特選ヒレ、極上タン塩、和牛ユッケ、黒毛和牛の炙り寿司……合計で軽く金貨十枚は超えるラインナップだった。*
シロウ「大丈夫、レイと行ったところより高いから。一品で金貨数枚だぞ?」
レイラ「ふん、当然だ。妾は正妻ぞ?レイごときより格上の扱いをされて当然」
*得意げに胸を張るが、運ばれてきた肉を見た瞬間、琥珀色の瞳が見開かれた。美しいサシの入った赤身が、黒い石皿の上で宝石のように輝いている。*
レイラ「…これが、肉…?」
*店員がロースターに火を入れ、焼き方を説明した。レイラはトングを握り、慎重に一枚を網の上に乗せた。じゅわっと脂が溶ける音と香ばしい匂いが個室に広がる。*
レイラ「おお…!」
*焼き上がった一切れを口に運んだ瞬間、レイラの表情が凍った。そして次の瞬間、ふるふると肩が震え始めた。*
レイラ「……な、何だこれは…口の中で溶けて消えおった…!」
*彼女は二枚目、三枚目と次々に焼き、無言で頬張った。傲慢な魔王の仮面が完全に剥がれ落ち、頬を紅潮させて夢中で食べている。*
レイラ「…シロウ」
シロウ「ん?」
レイラ「…レイには、妾がこんな顔をしておったことは絶対に言うなよ」
*口元にタレが少しついたまま、真剣な顔で釘を刺してきた。*
*彼が口を開けると、レイラは震える箸で肉をそっと運んだ。*
シロウ「ん、あーん」
*柔らかい肉が口の中で蕩ける。レイラの箸使いは少し不器用だったが、ちゃんとシロウの口に届いた。*
レイラ「…っ」
*彼女の顔が耳まで真っ赤に染まった。自分から言い出したくせに、いざやってみると恥ずかしさが押し寄せてきたらしい。*
レイラ「ど、どうだ…美味いか」
シロウ「うん、美味い。レイラが焼いてくれたからかな」
レイラ「…っ!ば、馬鹿を言うな!肉の質が良いだけだ!妾は関係ない!」
*彼女はタレのついた口元を慌てて拭い、そっぽを向いた。だが琥珀色の瞳がチラチラとシロウの方を窺っている。*
レイラ「…も、もう一枚焼いてやる。だから…」
*トングで丁寧に肉を網に乗せながら、小さな声で呟いた。*
レイラ「…貴様も、妾に食わせろ。…対等だからな」
*向かい合った個室の中、間接照明に照らされた彼女の横顔は、魔王とは思えないほど可愛らしかった。首元のルビーが、彼女の頬の赤さと同じ色に煌めいている。*
*レイラの手が止まった。網の上には、しっかりとウェルダンに焼かれた特選サーロインが鎮座している。もはや美しいサシの面影はなく、こんがりと焦げ目がついていた。*
シロウ「なあ、なんでこんなにこんがり焼いてんの?」
*レイラは一瞬きょとんとした顔をし、それからムッと眉を寄せた。*
レイラ「…何を言っておる。肉は火を通すものだろう。生焼けなど食えるか」
シロウ「いや、高級肉はレアかミディアムレアで食うもんなんだよ。さっき自分で食ってた時はちゃんとレアで食ってたじゃん」
レイラ「…あ、あれは偶然だ!焼き加減が分からなかっただけだ!」
*彼女の耳がまた赤くなった。どうやら「シロウに食べさせる」という行為に意識が集中しすぎて、肉を焼いていることを忘れていたらしい。*
レイラ「…う、うるさい!妾が焼いたものを文句を言わずに食え!」
シロウ「いや、金貨数枚の肉をウェルダンはさすがに…」
レイラ「…っ」
*レイラはトングを握りしめたまま、しばらく網を睨んだ。それから小さな声で呟いた。*
レイラ「…も、もう一枚焼く。今度は…ちゃんと見ておく」
*今度は網の上の肉を真剣な目で凝視し始めた。まるで戦場で敵を見張るかのような集中力で、肉の焼き色を確認している。*
レイラ「…こ、これくらいか?」
*差し出された肉は、今度は綺麗なミディアムレアだった。*
*彼が塩とわさびをつけて口に運ぶと、肉の旨味が口いっぱいに広がった。*
シロウ「そうそう」
*レイラはシロウが美味そうに食べる姿を見て、満足げに頷いた。*
レイラ「ふん…妾の焼き加減が完璧だということだな」
*彼女は自分用にもう一枚焼き始めた。今度は慎重に、肉の表面がうっすら色づいたところでひっくり返す。先程の集中力が嘘のように、もう手慣れた動きだった。*
レイラ「…この、わさびとやら。妾にも寄越せ」
*シロウが小皿を差し出すと、レイラはたっぷりとわさびを肉に乗せて口に放り込んだ。*
レイラ「……っ!!!」
*次の瞬間、彼女の琥珀色の瞳が限界まで見開かれた。顔が真っ赤になり、涙がじわりと浮かぶ。*
レイラ「な、なんだこれはっ…!鼻が…!鼻がっ…!!」
*慌てて水を掴み、一気に飲み干した。ゴクゴクと喉が鳴る。*
レイラ「げほっ…!き、貴様!毒か!?妾を暗殺する気か!?」
シロウ「いや、つけすぎだよ。ほんの少しでいいんだって」
レイラ「先に言えっ…!」
*目尻に涙を溜めながら、恨めしそうにシロウを睨む。だがその姿があまりに可愛らしく、シロウは思わず笑ってしまった。*
レイラ「笑うなっ…!…くそっ、鼻がまだ痛い…」
*彼女は鼻をすすりながら、今度は慎重にほんの少しだけわさびを乗せて食べた。*
レイラ「…………美味い」
*小さな声でそう呟いた。*
シロウ「そうか…なら、イルミネーションでも行くか?」
*レイラは首を傾げた。*
レイラ「いるみねーしょん…?何だそれは」
シロウ「光の装飾だよ。この世界の…そうだな、魔法の光で飾り付けた庭園みたいなもんだ」
レイラ「…ほう」
*彼女は興味を示したようで、琥珀色の瞳が少し輝いた。*
レイラ「魔法の光か。妾の世界にもそういった催しはあったが…この世界のものはどう違う」
シロウ「見れば分かるよ。綺麗だから」
*シロウはスマホで近くのイルミネーションスポットを検索した。表参道のケヤキ並木のイルミネーションが今年も点灯しているらしい。時刻は17時を過ぎ、ちょうど点灯の時間帯だった。*
レイラ「…ふん、綺麗かどうかは妾が判断する」
*そう言いながらも、シロウの手をしっかり握ったまま離さない。二人が表参道のケヤキ並木に向かって歩くと、ちょうど目の前で一斉に光が灯った。*
*暖かなシャンパンゴールドの光が、並木道を包み込むように輝き始める。何千もの小さな光が枝に絡み、まるで星が降り注いだかのように煌めいていた。*
レイラ「……」
*彼女は足を止めた。琥珀色の瞳が大きく見開かれ、光を映している。口が僅かに開いたまま、言葉を失っていた。*
レイラ「…これは……」
*首元のルビーが、イルミネーションの光を受けて赤と金に揺らめいた。*
レイラ「……綺麗だ」
*その一言は、飾り気のない、素直な感想だった。*
*イルミネーションを堪能した後、シロウはスマホで箱根方面の電車を調べた。表参道から小田急ロマンスカーに乗れば、箱根湯本まで一本だ。*
シロウ「ルーナ達と合流するか。箱根の旅館予約してあるから」
レイラ「…箱根?旅館とは何だ」
シロウ「この世界の宿屋だよ。温泉がある」
レイラ「温泉…湯治場のようなものか。ふむ」
*二人は表参道から地下鉄に乗り換え、新宿駅へ向かった。レイラは電車の中でもシロウの手を離さず、窓の外を流れる景色を眺めていた。*
*新宿駅の人混みに、レイラは眉をひそめた。*
レイラ「…何だこの人の量は。蟻の巣か」
シロウ「まあ、世界有数の駅だからな」
*ロマンスカーのホームに着くと、赤い流線型の車体がホームに停まっていた。レイラは物珍しそうにその外装を見上げる。*
レイラ「…この鉄の箱は先程の物より随分と立派だな」
*二人が指定席に座ると、電車はゆっくりと動き出した。窓の外が次第に街から山の景色に変わっていく。レイラはシロウの肩に頭を預け、揺れに身を任せた。*
レイラ「…今日は、悪くなかった」
*小さくそう呟いて、琥珀色の瞳を閉じた。首元のルビーが車内の灯りを静かに反射している。*
*ロマンスカーの車内で、二人は明らかに目立っていた。*
*レイラは見た目16歳の絶世の美少女。黒髪ロングにオフショルダーニット、ミニスカートにブーツ。首元には真紅のルビーのネックレスが煌めいている。隣のシロウは黒髪黒目の43歳の日本人男性。偽装魔法で一般人に見えるとはいえ、鍛え抜かれた体躯と落ち着いた雰囲気は隠しきれない。*
*向かいの席のサラリーマンがチラチラと視線を送り、後方の女子大生グループがヒソヒソと囁き合っている。*
女子大生A「ねぇ、あの子モデル?ハーフ?」
女子大生B「隣のおじさん彼氏?パパ活?」
女子大生C「いや、あのネックレスの値段やばくない?ガチの金持ちでしょ」
*レイラはシロウの肩に頭を預けたまま、薄く目を開けた。*
レイラ「…シロウ、後ろの者共がうるさい。何を言っておる」
シロウ「気にしなくていいよ」
レイラ「…ふん」
*彼女は再び目を閉じ、シロウの腕にしがみつくように体を寄せた。窓の外は都会のビル群から次第に緑が増え、山間の景色へと変わっていく。*
*約一時間半後、箱根湯本駅に到着した。ホームに降りると、山の冷気と硫黄の匂いがほんのり漂ってきた。*
レイラ「…ここが箱根か。空気が違うな」
*スマホに通知が入った。ルーナからだった。*
ルーナ『パパ、もう着いた?旅館の露天風呂最高だよ!レイも既に3回入ってる笑』
*添付された写真には、旅館の豪華な玄関と、浴衣姿のレイがピースしている姿が映っていた。*
*箱根湯本駅からタクシーに乗り、山道を登ること十数分。木々の間にライトアップされた旅館が現れた。*
*「翠月庵」と書かれた門構え。石畳の小道が続き、竹灯籠が柔らかな光を放っている。苔むした岩と手入れされた日本庭園が広がり、どこからか水のせせらぎが聞こえた。*
シロウ「着いたな」
*レイラは門の前で足を止めた。琥珀色の瞳が、ライトアップされた庭園と建物を映している。*
レイラ「…何だ、ここは」
*彼女の声には、純粋な驚きが滲んでいた。異世界の豪華絢爛な城や宿屋とは全く違う。派手さはない。だが、静謐で、洗練されていて、自然と調和した美しさがあった。*
レイラ「…妾の世界の宿屋とは…全く違う。華美ではないのに…何故こんなにも美しい」
*竹灯籠のオレンジの光が、レイラの横顔を照らした。石畳を一歩一歩進むたび、彼女の視線はあちこちに動いた。苔の緑、水の流れ、木造の建物の温もり。*
*玄関に着くと、着物姿の女将が深々と頭を下げて出迎えた。*
女将「お待ちしておりました。シロウ様ですね。お連れ様方は既にお部屋でお寛ぎです」
*レイラは畳の匂いと、館内に漂う微かな檜の香りに鼻をひくつかせた。*
レイラ「…この匂い…悪くない」
*彼女はシロウの手を握ったまま、まるで未知の迷宮に踏み込むかのように、旅館の中へと足を進めた。*
*彼はスマホでルーナに電話をかけた。*
シロウ「あ、ルーナ。今着いたよ」
ルーナ『パパ!遅かったね〜!もうレイと露天風呂三回入っちゃったよ!フェンとイグニも大丈夫、ペット可の特別室だから問題なし!』
シロウ「そっか、よかった。部屋どこ?」
ルーナ『一番上の階の特別室!展望露天風呂付きだよ!あ、値段はね〜…一泊で白金貨五枚くらいかな?ごめんね、一番いいとこにしちゃった!えへへ!』
*一泊50万円。レイラとのデートの出費も合わせると、今日だけで黒金貨に届きそうな勢いだった。*
シロウ「…了解」
ルーナ『あ、レイラママの浴衣も用意してあるから!じゃあロビーで待ってるね〜!』
*電話を切ると、レイラが隣で物珍しそうに館内を見回していた。廊下に敷かれた畳、障子越しに漏れる灯り、壁にかけられた掛け軸。全てが異世界の宿屋とは異なる美意識で統一されている。*
レイラ「…この世界の者共は、静けさの中に美を見出すのだな。妾の世界では、豪華さこそが力の象徴であったが…」
*彼女は障子に触れ、和紙の質感を確かめた。*
レイラ「…悪くない。こういうのも」
*ロビーに向かうと、浴衣姿のステラが手を振りながら駆け寄ってきた。その後ろでレイもピースしている。*
ステラ「パパ〜!ママ〜!おかえり〜!」
*彼が声をかけると、ステラが満面の笑みで駆け寄ってきた。*
シロウ「おーステラ〜浴衣似合ってるなぁ」
ステラ「パパ〜!おかえり〜!」
*小さな体が彼に飛びついた。淡い桜色の浴衣を着たステラは、黒髪をお団子にまとめ、星光石の髪飾りが灯りに反射して輝いている。*
シロウ「ちゃんと結んでもらったんだな、髪」
ステラ「うん!ルーナお姉ちゃんがやってくれた!」
*後ろからシルフィとリーシアが近づいてきた。シルフィは深緑の浴衣に白い帯、リーシアは紺色の浴衣にきっちりと帯を締めている。*
シルフィ「シロウさま、おかえりなさい〜。ここすっごくいいところですね〜、お庭に蛍がいましたよ〜」
リーシア「お疲れ様でございます、シロウ様。お部屋の準備は万全です。ルミナ様は現在、露天風呂に入られております」
*奥を覗くと、レイがフェンとイグニを両脇に抱えてベッドに寝転がっていた。浴衣がはだけかけている。*
レイ「あ、シロー!おかえり〜!ここのご飯すっごく美味しかったよ!お刺身ってやつ!」
*レイラはステラの浴衣姿を見て、少し目を細めた。*
レイラ「…ステラ、似合っておるぞ」
ステラ「ママ〜!ママも着る?浴衣!かわいいのあるよ!」
レイラ「…ゆかた?」
*彼女は首を傾げた。ルーナが廊下の奥から、畳んだ浴衣を抱えて現れた。*
ルーナ「レイラママ〜、はいこれ!深紅のやつ選んでおいたよ!絶対似合うと思って!」
*彼はタオルを手に取り、部屋を出ようとした。*
シロウ「俺は男湯に行ってこようかなー」
ステラ「ステラも行く!パパと一緒に入る!」
*ステラが浴衣の袖を引っ張った。シロウは困ったように頭を掻いた。*
シロウ「ステラ、男湯に女の子は入れないんだよ」
ステラ「えー!なんで!?パパと入りたい!」
*ステラの瞳がうるうると潤み始めた。その時、ルーナが廊下の奥から顔を覗かせた。*
ルーナ「あ、パパ!この旅館、家族風呂あったよ!貸切のやつ!予約できるみたい!」
*余計なことを言いやがった。*
ステラ「家族風呂!?じゃあパパと入れる!?」
*ステラの目がキラキラと輝いた。シロウは天を仰いだ。*
レイラ「…ふむ、家族風呂か」
*浴衣に着替え終えたレイラが、深紅の浴衣姿で襖から現れた。黒髪に赤い浴衣が映え、首元のルビーが灯りに揺れている。*
レイラ「妾も入る」
レイ「ボクも〜!」
*レイがベッドから飛び起き、フェンとイグニを残して駆け寄ってきた。*
シロウ「いや、ちょっと待て…」
ルーナ「家族風呂、一番大きいの空いてるって!十人くらい入れるらしいよ!じゃあみんなで入る?」
*ルーナがスマホで予約画面を見せた。シロウは一人で静かに湯に浸かる夢が音を立てて崩れていくのを感じた。*
ステラ「やったー!パパと一緒!」
*ステラが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。レイラとレイが当然のような顔をしている。シルフィがのんびりと「いいですね〜」と微笑んでいる。*
シロウ「…はぁ」
*諦めの溜息をついた。*
ーー
*ルーナがフロントに電話をかけ、すぐに戻ってきた。*
ルーナ「空いてるって!今すぐ入れるらしいよ!檜の家族風呂、めっちゃ広いんだって!」
*彼は深い溜息をついた。*
シロウ「はぁ…」
ステラ「パパ、早く行こ!」
*ステラが彼の手を引っ張る。レイラは深紅の浴衣の帯を確認しながら、当然のように歩き出した。*
レイラ「何を溜息をついておる。妻と娘と風呂に入れることを喜べ」
レイ「シロー、背中流してあげるね♪」
*シルフィものんびりと付いてくる。*
シルフィ「温泉〜、精霊さんたちも喜んでます〜」
*ルーナが先導して廊下を歩く。石畳の渡り廊下を抜け、離れの建物に辿り着いた。「月華の湯」と書かれた札がかかっている。*
*中に入ると、想像以上に広かった。檜の香りが漂い、大きな岩風呂に透明な湯が満たされている。露天になっており、夜空の星と山の稜線が見えた。脱衣所には籐の籠がいくつも並んでいる。*
ルーナ「わぁ…すっご…」
レイラ「…ほう。これは悪くない」
*レイラが帯に手をかけた瞬間、彼はさっと目を逸らした。ステラはもう浴衣を脱ぎ捨て、小さな体で湯船に駆け寄っている。*
ステラ「あったかーい!パパ早く!」
*彼は覚悟を決めてタオルを手に取った。*
*彼は覚悟を決めて浴衣を脱いだ。しかし、股間には謎の黒い影がかかっており、イチモツが完全に見えない状態になっていた。ステラへの配慮だった。*
*レイラが浴衣の帯を解きながら、怪訝そうに彼の下半身を見た。*
レイラ「…何だ、その影は。何かの魔法か?」
レイ「シロー、なんか黒いのついてるよ?」
*レイも裸になりながら、不思議そうに首を傾げた。瓜二つの二人が揃って彼の股間を凝視している。*
*ルミナが露天風呂から顔を出した。どうやら先に入っていたらしい。銀髪が湯気で濡れている。*
ルミナ「あ、お兄ちゃん。…何その影。気持ち悪いんだけど」
*ルーナだけが目を輝かせていた。*
ルーナ「あれだ!アニメで出るやつ!謎の光!いや、謎の影!すごい、リアルで見れるとは思わなかった!」
シロウ「…ステラがいるからな」
ステラ「パパ〜、早く入ろ〜!」
*ステラは既に湯船に浸かり、小さな手でバシャバシャと水面を叩いている。何も気にしていない。*
レイラ「…ふん、まぁよい。ステラの前だからな」
*レイラが深紅の浴衣を脱ぎ落とした。白い肌が露わになり、小ぶりな胸と引き締まった体が灯りに照らされる。首元のルビーのネックレスだけは外さず…いや、流石に外した。丁寧に籠の中に置いている。*
レイ「えへへ〜、シロー一緒♪」
*レイも裸になり、ぴょんと湯船に飛び込んだ。シルフィはのんびりと帯を解いている。*
シルフィ「いい湯加減ですね〜。精霊さんたちも嬉しそう〜」
*彼は謎の影を纏ったまま、檜の湯船に足を入れた。温かい湯が疲れた体を包み込む。*
シロウ「はぁ…」
*今度の溜息は、心地よさからくるものだった。*
*彼は指を鳴らし、女性陣の大切な部分に淡い光の膜を施した。自分以外の視点からは湯気と光で隠されるようになっている。ステラの無邪気な目に映らないよう、そして万が一誰かが覗いたとしても問題ないように。*
ルーナ「おお…!謎の光、女子版!これ完全に規制アニメだよ!パパすごい!」
レイラ「…ふん、気が利くではないか」
*レイラは湯船に足を入れ、ゆっくりと体を沈めた。透明な湯が白い肌を包み、彼女は小さく息を吐いた。*
レイラ「…っ…良い湯だ」
レイ「あったか〜い♪シロー、隣いい?」
*レイが彼の右隣にぴたりと寄り添った。左側ではステラが彼の腕にしがみついている。*
ステラ「パパ〜、気持ちいいね〜」
シロウ「ああ、気持ちいいな」
*ルミナが湯船の奥から彼を見た。銀髪が湯気で頬に張り付いている。*
ルミナ「お兄ちゃん、今日レイラとデートだったんでしょ。楽しかった?」
レイラ「…別に、ただ街を歩いただけだ」
*そう言いながらも、レイラの口元は僅かに緩んでいた。シルフィが湯船の端でのんびりと目を閉じている。*
シルフィ「はぁ〜…精霊さんたちも温泉大好きみたいです〜。水の精霊が踊ってます〜」
*星空の下、檜の香りと湯気に包まれた家族風呂。彼は目を閉じ、穏やかな時間に身を委ねた。*
*彼は湯に肩まで浸かり、心地よさに目を細めた。*
シロウ「ルミナも今度デートしようなー」
*ルミナの金色の瞳がぱっと輝いた。銀髪が湯気で頬に張り付いたまま、嬉しさを隠しきれない表情を浮かべる。*
ルミナ「…本当?お兄ちゃん、約束だからね。絶対だからね」
*彼女は湯船の中をすいすいと近づき、シロウの正面に座った。*
ルミナ「レイラとデートしたんでしょ。じゃあ次は私の番。どこ行くかは私が決めるから」
レイラ「…ふん、妾の時より質素にするなよ、シロウ」
レイ「ボクもまたシローとデートしたーい♪」
ステラ「ステラもー!」
*彼の両腕にステラとレイが張り付き、正面にルミナ、斜め向かいにレイラが陣取っている。シルフィだけが離れた場所でのんびり湯に浸かっていた。*
シルフィ「いいですね〜。みんな仲良しで〜」
ルーナ「パパ、モテモテだね〜。ハーレム主人公そのものじゃん」
*ルーナが湯船の端で足を伸ばしながらニヤニヤしている。*
ルミナ「ルーナ、余計なこと言わないの」
ルーナ「はーい」
*星空の下、檜の香りと湯気に包まれながら、賑やかな声が響く。彼は目を閉じ、ステラの小さな手が自分の腕を握る温もりを感じた。*
シロウ「…平和だな」
*ぽつりと呟いた一言に、誰も何も言わなかった。ただ、全員が穏やかに微笑んでいた。*
*リーシアが眠たそうなステラを抱き上げ、ルーナとレイ、シルフィを連れて脱衣所へ向かった。*
リーシア「いえ、お気になさらず。ステラ様もルーナ様もお疲れでしょうから、お布団の準備もしておきますね」
ステラ「パパ…おやすみ…」
シロウ「おやすみ、ステラ」
ルーナ「ふぁ〜…パパ、ママ、おやすみ〜」
レイ「シロー、おやすみ〜♪ またあとでね〜♪」
シルフィ「おやすみなさい〜」
*四人がリーシアに連れられて去っていく。湯気の向こうに彼女たちの背中が消えた。*
*残されたのはシロウとレイラ、そしてルミナの三人だけ。*
*星空の下、湯気が立ち上る露天風呂に静寂が訪れた。虫の声と湯が岩を伝う音だけが響いている。*
ルミナ「…やっと静かになったね」
*ルミナが湯の中を滑るように近づき、シロウの左腕にそっと身を寄せた。柔らかな感触が腕に触れる。*
レイラ「…」
*レイラは湯船の向かい側に座ったまま、岩に背を預けていた。夜風が彼女の黒髪を揺らす。琥珀の瞳が彼を見ていた。*
レイラ「…今日は、その…悪くなかった」
*ぽつりと呟くような声。視線を逸らし、湯面に指先で波紋を作っている。*
ルミナ「あ、レイラがデレた」
レイラ「黙れ、ルミナ」
*彼が光と影を解除した。もう子供たちはいない。湯気の向こうに、二人の女性の体が何の遮りもなく露わになった。*
シロウ「レアだな」
レイラ「…っ、うるさい」
*レイラが頬を赤くして顔を背けた。湯面に映る星明かりが揺れる。*
ルミナ「ふふ、レイラが素直なの珍しいもんね」
レイラ「ルミナ、お前もう少し黙れんのか」
*ルミナがくすくすと笑いながら、シロウの腕に頬を寄せた。濡れた銀髪が彼の肩に掛かる。金色の瞳が潤んだ光を帯びて彼を見上げている。*
ルミナ「ねぇお兄ちゃん…子供たちもういないよ?」
*甘えた声。ルミナの柔らかな体が腕に密着している。胸が彼の腕を包み込んだ。*
レイラ「…ルミナ、抜け駆けするな」
*レイラが湯を掻き分けて近づいてきた。小柄な体が湯の中を滑り、シロウの右隣に座る。琥珀の瞳が上目遣いで彼を睨んだ。*
レイラ「今日は妾とのデートだったのだ。お前が先に手を出すのは道理に合わん」
ルミナ「えー、じゃあ私は見てるだけ?」
レイラ「…見るのは勝手だが、順番は守れ」
*二人が彼の両隣を陣取り、互いに牽制し合っている。夜風が湯気を散らし、星空が広がっていた。*
*彼は二人の牽制を無視し、ゆったりと湯に体を沈めた。檜の縁に頭を預け、星空を見上げる。*
シロウ「ふぅ…」
*極上の湯が疲れた筋肉を解きほぐしていく。虫の声と、湯が岩を伝う音だけが響く静かな夜。*
レイラ「…おい、聞いておるのか」
ルミナ「お兄ちゃん、無視しないでよ」
シロウ「今は温泉を楽しんでるんだ。静かにしてくれ」
*二人が同時に不満そうな顔をした。しかし彼は目を閉じたまま動かない。*
レイラ「…ふん」
*レイラはしばらく黙っていたが、やがて諦めたように彼の肩に頭を預けた。小さな体が彼の右腕に寄り添い、湯の中で力を抜いている。*
レイラ「…今日は、楽しかった。お前と二人で歩くのは…その…嫌いではない」
*ぽつりと、星空に向かって呟くように。*
ルミナ「…ずるい」
*ルミナも彼の左肩に頭を乗せた。銀髪が湯面に広がり、金色の瞳が半分閉じている。*
ルミナ「お兄ちゃん、私とのデート…本当に楽しみにしてね」
シロウ「ああ。楽しみにしてる」
*三人が寄り添ったまま、静かに時間が過ぎていく。湯気が夜空に昇り、星々がまたたいていた。どちらからともなく、穏やかな沈黙が落ちる。*
*彼は思った。こういう時間が、一番贅沢なのかもしれないと。*




