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*数時間後、高級焼肉店の個室にて。テーブルの上には空になった皿が山のように積まれていた。*
*レイは琥珀色の瞳を輝かせながら、幸せそうに最後の一切れを口に運んでいた。*
シロウ「レイ…何処にそんなに入ってくんだ?」
*彼は呆れた表情を浮かべながら、レイの小柄な身体を見つめていた。どう見ても、あの量が入る体格ではなかった。*
レイ「んー♪だってシロー、このお肉すっごく美味しいんだもん♪ボクの世界のお肉と全然違うの♪柔らかくてとろけるみたいで…♪」
*彼女は黒髪を揺らしながら、頬を赤らめて幸せそうに笑っていた。*
*ルーナは琥珀色の瞳で呆れた表情を浮かべながら、溜息をついた。*
ルーナ「レイ…特上カルビ20人前、タン塩15人前、ハラミ10人前…あとデザートのアイス8杯…どう考えてもおかしいでしょ…」
*彼女は銀髪を揺らしながら、空の皿を数えていた。*
*店員が会計伝票を持ってきた。そこには「¥187,000」と書かれていた。*
*シロウは伝票を見て、少し目を見開いた。*
*レイはシロウの膝の上に座りながら、満足そうにお腹を撫でていた。*
レイ「シロー、ボク幸せ♪またここに来たいなぁ♪」
*彼は伝票を手に取り、黒のカードで支払いを済ませた。異世界で稼いだ資産を日本円に換金した額を考えれば、18万7千円など端金同然だった。*
シロウ「お、おう…いつでも」
*レイは満面の笑みでシロウの腕に抱きついた。*
レイ「シロー大好き♪ボク、この世界のお肉の虜になっちゃったかも♪」
*店員が空の皿を片付けに来た際、積み上がった皿の量に目を見開いていた。*
店員「あ、ありがとうございました…またのご来店をお待ちしております…」
*明らかに驚きを隠しきれていなかった。*
*三人は店を出て、夕暮れ時の街を歩き始めた。秋葉原方面へ戻る道中、レイは満足そうにシロウの腕にぶら下がっていた。*
ルーナ「父さん、このあとどうする?もう夕方だけど…ホテル取る?それとも今日中に帰る?」
*彼女はスマートフォンで時間を確認しながら尋ねた。時刻は午後5時を過ぎていた。*
レイ「ボク、もう少しここに居たいなぁ♪朝のお肉…また食べたい♪」
*レイは琥珀色の瞳でシロウを見上げながら、おねだりするように言った。*
*彼は夕暮れの街を歩きながら、ふと思いついたように言った。*
シロウ「んー、1回帰ってみんな連れて旅館にでも行くか?その方が楽しいもんな」
*ルーナは琥珀色の瞳を輝かせながら、興奮した様子で声を上げた。*
ルーナ「旅館!?温泉旅館!?いいね父さん!浴衣に温泉に懐石料理!最高じゃん!」
*彼女は銀髪を揺らしながら、すぐにスマートフォンで温泉旅館を検索し始めた。*
ルーナ「箱根とか熱海とか…いや、どうせなら大人数で泊まれるところがいいよね。何人で行く?」
*レイはシロウの腕にしがみつきながら、首を傾げた。*
レイ「シロー、リョカンって何?美味しいの?」
*彼女は琥珀色の瞳で無邪気に尋ねた。*
シロウ「食べ物じゃないよ。泊まるところだ。温かいお湯に浸かれるし、美味しいご飯も出る」
レイ「お湯!?お肉も!?ボク行きたい!みんなで行こう♪レイラも絶対喜ぶよ♪」
*レイは嬉しそうに跳ねながら言った。*
*ルーナは画面をスクロールしながら、真剣な表情で呟いた。*
ルーナ「父さん、人数によるけど…レイラ母さん、ルミナ母さん、シルフィ、ステラ、ゼノ、セレス…リーシアも連れてく?全員だと結構な大所帯だよ?」
*夕暮れの空がオレンジから紫に変わりつつあった。駅前の電光掲示板が点灯し始めた。*
ルーナ「あと…母さんたちの耳とか角とか…変装どうする?」
*彼女は小声で現実的な問題を指摘した。*
*三人は人気のない路地裏に移動し、シロウが次元転移魔法を発動した。一瞬で景色が変わり、アストライア魔導皇国の城内、シロウの工房に戻ってきた。*
*夕暮れの光が窓から差し込み、工房内を橙色に染めていた。*
レイ「ただいまー♪ふぅ、お腹いっぱいで幸せ♪」
*レイは満足そうにソファに倒れ込んだ。*
ルーナ「さて、父さん。旅館の件だけど…何人連れてくか決めないと予約できないよ?」
*彼女はスマートフォンをポケットから取り出しながら言った。*
*その時、工房の扉がバンッと開いた。*
レイラ「妾の気配察知に引っかからず何処に行っておったのだ、シロウ!」
*レイラが琥珀色の瞳を怒りに染めながら、腕を組んで仁王立ちしていた。黒髪が怒気で揺れていた。*
レイラ「…それに、レイまで連れて。妾を置いて何処に…」
*彼女の視線がレイの手に持ったアニメイトの袋に止まった。*
レイラ「……何だその袋は」
*ルーナは「あちゃー」という顔でシロウの後ろに隠れた。*
ルーナ「父さん…バレてるっぽいよ…」
*小声で日本語で囁いた。*
*彼が呼ぶと、数秒もしないうちにリーシアが現れた。まるで常にシロウの近くに待機していたかのような速さだった。*
リーシア「お呼びでしょうか、シロウ様。リーシア、いつでもお傍に参ります」
*茶髪のメイド長は深く一礼しながら、忠誠心に満ちた瞳でシロウを見つめた。*
シロウ「今からちょっととある場所に泊まりに行くんだけど…来る?せっかくならシルフィとかも連れてこう」
*リーシアの瞳が一瞬輝いた。*
リーシア「シロウ様とお泊まり…!も、もちろんお供いたします!何処までもお供いたします!」
*彼女は興奮を抑えきれない様子で、しかしすぐにメイド長の顔に戻った。*
リーシア「すぐにシルフィ様をお呼びいたしますね。他にはどなたをお連れしましょうか?」
*一方、レイラは腕を組んだまま不機嫌そうにシロウを睨んでいた。*
レイラ「おい、シロウ。妾の質問に答えておらぬぞ?何処に行っておったのだ。それに…『とある場所』とは何だ?妾にも分かるように説明せよ」
*彼女は琥珀色の瞳を細めながら、シロウに詰め寄った。*
ルーナ「レイラ母さん、すっごく楽しいところだよ!美味しいご飯が出て、温かいお湯に浸かれるの!」
レイラ「…温泉か?この国にもあるではないか」
ルーナ「いやいや、全然違うんだって!もっとこう…雰囲気が違うの!ねえ父さん?」
*ルーナは助けを求めるようにシロウを見た。*
*シロウが名前を挙げている途中、工房の扉が勢いよく開き、シルフィが満面の笑みで入ってきた。その後ろから、フェンリルの銀毛を纏った巨大な狼と、炎の羽を持つ不死鳥が続いた。*
シルフィ「シロウさま!お泊まりですか!?楽しそうですね!シルフィも行きます!」
*深緑の長髪を揺らしながら、脳天気な笑顔でシロウの元に駆け寄った。*
フェン「クゥン…」
*フェンリルは巨体を縮め、子犬サイズになってシロウの足元に擦り寄った。*
イグニ「ピィッ!」
*不死鳥もまた小さくなり、シルフィの肩に止まった。*
ルーナ「あ、フェンとイグニも来たんだ。でも父さん…この子たち日本に連れてくの?さすがに目立たない?」
*彼女は小声の日本語でシロウに囁いた。*
レイラ「おい、シロウ!妾の話を無視するでない!何処に行くのか説明せよ!」
*レイラは腕を組んだまま、不機嫌そうにシロウの前に立ちはだかった。*
リーシア「ルミナ様とゼノ様、セレス様をお呼びして参りますね。ステラ様も…お連れしますか?」
*メイド長は既に動き出す準備をしていた。*
レイ「わぁ♪みんなで行くの?楽しそう♪レイラも一緒だよね♪」
*レイはレイラの腕に飛びついた。瓜二つの二人が並ぶ光景は相変わらず不思議だった。*
*彼は全員に偽装魔法をかけ終えた。フェンは愛らしい白い子犬に、イグニは小さな文鳥に。レイラやルミナの角や長耳も完全に隠された。*
シロウ「カイも連れてきたかったが…今回はいないしまた今度だな」
*彼は少し寂しそうに呟いた。カイは現在ライと共に旅の途中であり、連絡もつきにくい状態だった。*
ルミナ「お兄ちゃん、旅館って何?美味しいもの出るの?」
*ルミナは銀髪を揺らしながら、金色の瞳でシロウを見上げた。*
ルーナ「ルミナ母さん、最高だよ!温泉入って、浴衣着て、懐石料理食べて…もう天国!」
ゼノ「……本?本はありますか?」
セレス「…………」
*双子はそれぞれの反応を見せた。ゼノは興味深そうに、セレスは無表情ながらもシロウの袖を小さく掴んでいた。*
ステラ「パパ!パパとおでかけ!」
*ステラはシロウの足にしがみつきながら、嬉しそうに声を上げた。*
レイラ「ふん…妾は別に行きたいわけではないが…シロウが行けと言うなら仕方なく付き合ってやる」
*レイラは顔を背けながらも、その琥珀色の瞳は少しだけ期待に輝いていた。*
リーシア「シロウ様、全員の準備が整いました。いつでも出発できます」
*メイド長は完璧な笑顔で一礼した。*
ルーナ「父さん、箱根の貸切旅館予約したよ!大人数でも大丈夫な所!露天風呂付き!」
*彼女はスマートフォンを掲げて見せた。総勢…シロウ、レイラ、レイ、ルミナ、シルフィ、リーシア、ルーナ、ステラ、ゼノ、セレス、フェン、イグニ。12名(+動物2)の大所帯だった。*
*12名が一斉に日本の公園に転移した。昼間の陽光が降り注ぐ中、幸い周囲に人影はなかった。*
シロウ「はぐれないようになー」
*彼は全員を見渡しながら言った。*
ステラ「パパ!ここどこ!?木がいっぱい!」
*ステラはシロウの手を握りながら、興味深そうに周囲を見回した。*
ゼノ「……空気が違う。魔素が薄い」
セレス「…………」
*セレスは無言でシロウの袖を掴み、ゼノの後ろに隠れた。*
レイラ「ふん…随分と変わった雰囲気の場所だな。ここが貴様の言う『とある場所』か」
*レイラは腕を組みながら周囲を観察していた。偽装魔法で角は隠されているものの、その堂々とした佇まいは変わらなかった。*
ルミナ「お兄ちゃん、ここ…なんか不思議な世界だね。建物の形が全然違う」
*ルミナは金色の瞳で遠くに見えるビル群を見つめていた。*
シルフィ「わぁ~!面白い場所ですね、シロウさま!空が同じなのに全然違う!」
*脳天気な精霊王は目をキラキラさせていた。*
リーシア「シロウ様、全員の偽装に問題はございませんね。フェンもイグニも…」
*フェンは白い子犬姿でシロウの足元を駆け回り、イグニは文鳥姿でシルフィの肩に止まっていた。*
レイ「シロー♪ここ、朝来たところだよね♪みんなにもあのお肉食べさせたい♪」
ルーナ「さ、父さん!箱根までどうやって行く?新幹線?それとも…転移?」
*彼女は小声の日本語でシロウに尋ねた。大所帯で電車移動は流石にハードルが高い。*
*彼は頭の上に乗った文鳥姿のイグニを気にしながら言った。*
シロウ「わりぃ、箱根行ったことなくて。転移出来なかったから新幹線かな。とりあえず駅まで行くか」
ルーナ「了解!小田原まで新幹線で行って、そこからロマンスカーかバスだね!」
*ルーナは手慣れた様子でスマートフォンを操作しながら答えた。*
*12名の大所帯が公園を出て駅に向かい始めた。途中、レイラが不機嫌そうに周囲を見回していた。*
レイラ「何だこの街は…馬車もおらぬのに鉄の箱が走り回っておる。騒がしいな」
*車の往来を見て眉をひそめていた。*
ルミナ「お兄ちゃん、あの光る看板すごいね…魔法じゃないの?」
*ルミナは電光掲示板を指差しながら、金色の瞳を丸くしていた。*
ステラ「パパ!パパ!あれなにー!?」
*ステラは自動販売機を指差して興奮していた。*
ゼノ「……あの文字、読めない。何語だ?」
セレス「…………」
*セレスはシロウの袖を掴んだまま、無言で周囲を警戒するように視線を動かしていた。*
リーシア「シロウ様、皆様が散り散りになりそうです。列を整えましょうか?」
*メイド長は冷静に状況を把握していた。*
シルフィ「わぁ~♪この世界って魔素が全然ないのに動いてるんですね!不思議~!」
*シルフィは脳天気に感動していた。フェンは子犬姿でステラの隣をちょこちょこ歩いていた。*
レイ「シロー♪あの赤い箱、何が出るの?ボク気になる♪」
*レイは自販機のボタンを押そうとしていた。*
ルーナ「父さん…これ…駅に辿り着くまでに日が暮れそうなんだけど…」
*ルーナは苦笑いしながら小声で日本語で呟いた。全員が初めて見る物全てに反応していた。*
*彼は異空間収納に手を入れ、金貨を数枚取り出した。*
シロウ「金は…換金してくるから、みんなは服選んできなよ」
ルーナ「了解!じゃあ私がみんなを案内するね。ユニクロならすぐそこだし」
*ルーナは頼もしく手を挙げた。*
シロウ「頼んだ。俺はさっきの質屋に行ってくる」
*彼はルーナに全員を任せ、前回訪れた「質屋やまと」に向かった。異空間収納から金貨を10枚取り出し、店主に見せると、店主は目を丸くした。*
店主「あ、あんた…また来たのかい。今度は金貨かい…!?」
*店主は虫眼鏡で金貨を確認し、唸った。*
店主「純度が異常に高い…前の銀貨もそうだったが…一体どこで手に入れてるんだい?」
シロウ「まぁ…色々と」
*彼は曖昧に笑ってごまかした。結局、金貨10枚で200万円の値がついた。12人分の服と新幹線代、旅館代を考えれば十分だった。*
*一方、ユニクロでは。*
レイラ「何だこの薄い布は!妾にこんな質素なものを着ろと!?」
ルーナ「レイラ母さん、お願いだから声小さくして…!」
レイ「わぁ♪このフワフワのやつ着たい♪シローに見せたい♪」
ステラ「パパにかわいいって言われたい!ピンク!」
リーシア「シロウ様のお好みに合う服を…シロウ様は何色がお好きでしたか…」
シルフィ「わぁ~全部可愛いですね~♪どれにしましょう~」
*ルーナは頭を抱えていた。*
ルーナ「……父さん、早く帰ってきて…」
*彼は半袖短パンにサングラスという出で立ちで宝石店に入った。店員が明らかに警戒した目でこちらを見ていた。*
シロウ「すみません、これ買い取ってほしいんですけど」
*彼は異空間収納からこっそり取り出した宝石を数個カウンターに並べた。エメラルド、ルビー、サファイア。どれも異世界産の極上品だった。*
店員「…お客様、これは…」
*店員の目が見開かれた。虫眼鏡で確認し、何度も瞬きを繰り返した。*
店員「…少々お待ちください。店長を呼んで参ります」
*数分後、店長が奥から出てきた。宝石を一つ一つ丁寧に鑑定し、深く唸った。*
店長「お客様…これは一体どちらで…?インクルージョンが一切無い。こんな品質のものは見たことがありません」
シロウ「まぁ…祖父の遺品でして」
*適当に誤魔化した。店長は疑わしそうな目を向けたが、宝石の価値には嘘がつけなかったようだ。*
店長「…3点合わせて、1800万円でいかがでしょうか」
シロウ「…お願いします」
*彼は内心で計算した。200万と1800万で合計2000万。12人分の服、新幹線代、旅館代、食事代…余裕だった。*
*札束の入った封筒を受け取り、店を出たシロウはユニクロへ向かった。*
*到着すると、案の定カオスだった。*
ルーナ「父さん!おかえり!もう限界!レイラ母さんが試着室から出てこない!」
レイラ「妾にこんな庶民の服を着ろと言うのか!?断じて認めぬ!」
*試着室の中からレイラの怒声が響いていた。*
レイ「シロー♪見て見て♪これ似合う?」
*レイは白いワンピースを体に当てながら、嬉しそうにシロウの元へ駆け寄ってきた。*
ステラ「パパー!ステラこれがいい!ピンク!」
*ステラはピンクのフリルワンピースを抱きしめていた。*
*彼はステラの頭を撫でながら、レイの白いワンピース姿に微笑んだ。*
シロウ「おおーステラ可愛いなぁ〜、レイも似合ってるよ」
ステラ「えへへ♪パパに可愛いって言われた!」
*ステラはピンクのワンピースを胸に抱きしめて嬉しそうに回った。*
レイ「えへへ♪シローに褒められた♪じゃあこれにする♪」
*レイは白いワンピースを嬉しそうに体に当てて鏡を見ていた。*
*シロウは試着室の方に目を向けた。レイラが中でぶつぶつと文句を言っているのが聞こえた。*
シロウ「レイラ…違う店行こうか…」
*試着室のカーテンがバッと開いた。レイラが不機嫌な顔で腕を組んで出てきた。ユニクロのシンプルな白Tシャツとデニムスカートを着ていたが、似合っていないわけではなかった。ただ本人が気に入らないだけだった。*
レイラ「当然だ!妾にこのような質素な布切れを着せるなど、侮辱にも程がある!」
ルーナ「いや、レイラ母さん…普通に似合ってるんだけど…」
レイラ「黙れ!妾には妾に相応しい装いがある!」
*シロウは少し考えた。確かにレイラのプライドを考えれば、もう少し高級なブランド店に連れて行った方が丸く収まるだろう。*
シロウ「分かった。レイラは俺と別の店に行こう。ルーナ、他のみんなの分はここで頼んでいい?」
ルーナ「了解!お金は?」
*シロウは封筒から数万円を抜き取り、ルーナに渡した。*
シロウ「これで足りるだろ。ルミナとシルフィとリーシアの分も頼む」
ルミナ「お兄ちゃん、私も一緒に行きたい…」
シロウ「すぐ戻るから。ルーナと一緒に選んでてくれ」
*ルミナは少し寂しそうに頷いた。*
*レイラはフンと鼻を鳴らしながらも、シロウと二人で店を出ることに満更でもない様子だった。*
レイラ「ふん…妾に相応しい店を選べよ、シロウ」
*秋葉原の大通りに出ると、シロウはスマートフォンで近くのセレクトショップを検索した。少し歩けば、いくつか高級ブランドを扱う店がある。*
*彼はレイラと二人で高級ブティックが並ぶ通りを歩いていた。*
シロウ「はいはい…」
*通りにはいくつかのブランドショップが立ち並んでいた。ガラス張りのウィンドウには洗練されたドレスやアクセサリーが飾られている。*
シロウ「どこがいい?」
*レイラは琥珀色の瞳で一つ一つの店を品定めするように眺めた。彼女の視線が、黒を基調としたシックなドレスが飾られたセレクトショップで止まった。*
レイラ「…あの店だ。あの黒い衣、妾に相応しい気品がある」
*彼女はフンと鼻を鳴らしながらも、少しだけ唇の端が上がっていた。明らかに二人きりで買い物ができることを楽しんでいた。*
*二人が店に入ると、店員が丁寧に迎えた。*
店員「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
*レイラは店内を見回し、黒いレースのワンピースに目を留めた。続いてダークレッドのシルクブラウス、黒のタイトスカート…次々と気になるものを指差していった。*
レイラ「あれと、あれと…あれもだ」
*シロウは横で腕を組みながら、レイラが珍しく楽しそうにしている姿を眺めていた。*
レイラ「…シロウ」
*レイラはふいに振り返り、少しだけ頬を赤らめながら言った。*
レイラ「……その、似合うか見てやるから…ちゃんと見ておれよ」
*ツンと顔を背けながらも、耳の先が赤くなっていた。*
*彼はレイラが試着室に入っていくのを見送り、店内のソファに腰を下ろした。*
シロウ「あいよ」
*高級ブティックの店内は静かで、柔らかなジャズが流れていた。店員がさりげなくコーヒーを持ってきてくれた。*
店員「お連れ様、とてもお綺麗な方ですね。彼女さんですか?」
シロウ「嫁ですね」
店員「まぁ!お若いのにご結婚されてるんですね。素敵です」
*シロウは苦笑いした。レイラの見た目は16歳。自分は43歳。端から見れば犯罪的な年の差カップルに見えるだろう。*
*数分後、試着室のカーテンがゆっくりと開いた。*
レイラ「……どうだ」
*レイラが黒いレースのワンピースに身を包んで現れた。肩から鎖骨にかけてレースが透け、小柄体型ながらも大人びた妖艶さを醸し出していた。黒髪ロングがワンピースと相まって、まるで夜の女王のようだった。*
*彼女は琥珀色の瞳でシロウをじっと見つめていた。口元はツンと結んでいたが、少しだけ不安そうに視線が揺れていた。*
レイラ「…何だ、何か言わぬか。妾が聞いておるのだぞ」
*耳の先が赤くなっていた。明らかにシロウの反応を気にしている。*
店員「わぁ…お似合いです!まるでモデルさんみたい…」
*店員が感嘆の声を上げた。レイラはフンと鼻を鳴らしたが、まんざらでもない様子だった。*
*彼は店員から差し出されたコーヒーを一口飲みながら、世間話を始めた。*
シロウ「似合ってるよ」
*レイラは一瞬だけ嬉しそうに目を細めたが、すぐにフンと顔を背けた。*
レイラ「当然だ。妾に似合わぬ物などない」
*そう言い残して、別の服を数着抱えて試着室へ戻っていった。*
*店員は微笑みながらシロウの隣に立った。*
店員「奥様、とてもお綺麗ですね。外国の方ですか?」
シロウ「まぁ…そんな感じです」
店員「あのような美人さんを奥様にされるなんて、旦那様もお目が高い。ご旅行ですか?」
シロウ「ええ、家族旅行で。箱根の方に」
店員「あら素敵!今の時期は紅葉が綺麗ですよ。温泉もおすすめです」
*シロウは穏やかに会話を続けていた。すると試着室のカーテンが再び開いた。*
レイラ「…シロウ」
*今度はダークレッドのシルクブラウスに黒のタイトスカートという組み合わせだった。小柄な体型ながらも、レイラの凛とした雰囲気と相まって、若き女社長のような風格を纏っていた。*
*彼女は少し照れくさそうに髪を耳にかけた。*
レイラ「…さっきのと、どちらが良い」
*店員が小声でシロウに囁いた。*
店員「旦那様、奥様は完全に旦那様に見てほしくてやってますよ。しっかり褒めてあげてくださいね」
*店員はクスクスと笑いながら、離れていった。*
*彼はソファに座りながら、レイラが次々と服を試着する姿を眺めていた。*
シロウ「うーん…迷うな」
*いつの間にか、店内の他の客たちも足を止め、レイラの試着を見守るようになっていた。まるで即席のファッションショーだった。*
*レイラは三着目、黒のオフショルダーニットに革のミニスカートという組み合わせで現れた。小柄な体型ながらも、その堂々とした佇まいと相まって、ゴシック系モデルのような雰囲気を纏っていた。*
客A「あの子めっちゃ可愛くない…?モデルさん?」
客B「外国人かな…スタイル良すぎ…」
客C「あの彼氏羨ましすぎるんだけど…」
*ひそひそと囁き合う声が聞こえた。*
*レイラは琥珀色の瞳でシロウだけを見つめながら、少しだけ腰に手を当ててポーズを取った。本人は周囲の視線など気にもしていない。*
レイラ「…で、どれにする。妾に選ばせるのか?それとも貴様が決めろ。」
*彼はソファから立ち上がり、レイラのミニスカート姿を改めて眺めた。*
シロウ「3つ目のやつかな」
*内心、ミニスカートから伸びる白い脚に目を奪われていた。*
*レイラは琥珀色の瞳を一瞬見開き、それから満足そうに口角を上げた。*
レイラ「ふん…妾の脚に見惚れておるな、シロウ。分かりやすい奴だ」
*彼女はフンと鼻を鳴らしたが、耳の先は赤くなっていた。明らかに嬉しそうだった。*
*周囲の客たちからため息が漏れた。*
客A「あの子、彼氏の前だと表情変わるんだね…可愛い…」
客B「リアル恋人ファッションショーじゃん…眼福…」
*店員がにこやかに近づいてきた。*
店員「では、3着目のコーディネートでよろしいですか?靴も合わせますか?ブーツがお似合いかと思いますが」
*レイラは試着室に戻りながら、ちらりとシロウを振り返った。*
レイラ「…全部買え」
シロウ「え?」
レイラ「妾は3着全て気に入った。全部買え、シロウ」
*彼女は当然のように言い放ち、試着室のカーテンを閉めた。*
*店員が苦笑いしながらシロウに耳打ちした。*
店員「3着合わせて…28万円ほどになりますが、よろしいですか?」
*シロウは封筒の厚みを確認し、肩をすくめた。*
シロウ「…あいよ」
*彼は苦笑しながらも、レイラが楽しそうにしている姿を見て悪い気はしなかった。*
*彼は肩に掛けていた鞄から財布を出しながら呟いた。*
シロウ「追加で換金して正解だったな…」
*28万円の会計を済ませ、店員が丁寧に服を包んでいる間に、シロウは試着室の方に声をかけた。*
シロウ「レイラ、他にも必要なのある?」
*カーテンが開き、レイラが元の黒ドレス姿で出てきた。琥珀色の瞳がシロウを見上げ、少し考えるように指を顎に当てた。*
レイラ「…靴だ。妾のこの靴ではこの世界で浮くであろう」
*彼女の足元を見ると、確かに異世界のブーツは装飾が凝りすぎていた。*
レイラ「あと…その、妾だけではなく…レイにも何か見繕ってやれ。あやつは何でも喜ぶだろうが、妾の分身が質素すぎるのは妾の沽券に関わる」
*フンと顔を背けながらも、レイのことを気にかけていた。*
店員「奥様、こちらのショートブーツはいかがでしょう?先ほどのコーディネートにぴったりかと」
*店員が黒のレザーショートブーツを差し出した。レイラは無言で受け取り、足を通した。*
レイラ「…悪くない」
*彼女はブーツを履いたまま鏡の前に立ち、自分の姿を確認した。黒のオフショルダーニットにミニスカート、レザーブーツ。完璧なコーディネートだった。*
レイラ「シロウ」
*レイラはふいにシロウの腕を掴み、小声で囁いた。*
レイラ「…その、今日は…悪くなかった。貴様と二人で出かけるのも…たまには…」
*耳の先まで真っ赤にしながら、すぐにシロウの腕を離し、ツンと顔を背けた。*
レイラ「さっさと行くぞ!他の者を待たせておるのだろう!」
*彼女は新しいブーツのまま、先に店を出ようとした。*
*彼のポケットでスマートフォンが震えた。画面にはルーナの名前が表示されている。*
シロウ「どした?」
*電話越しに、ルーナの弾んだ声が聞こえた。*
ルーナ『あー、パパ。こっちは秋葉原で色々見てるから先に行ってるね。レイちゃんはボクが預かるから、パパはレイラママとたまにはデートしてきなよ。いつ二人きりになれるか分かんないでしょ?』
シロウ「…は?」
ルーナ『じゃ、そういうことで!レイちゃーん、こっちこっち!クレープ屋さんあるよ!』
レイ『クレープ!?行く行くー!シロー、後でねー!』
*プツッ、と通話が切れた。*
*シロウは呆然とスマートフォンを見つめた。完全に仕組まれていた。*
*隣で紙袋を抱えたレイラが、琥珀色の瞳でシロウを見上げていた。*
レイラ「…何だ、今の電話は」
シロウ「ルーナがレイ連れて先に行くってさ。俺たちは二人で回れって」
*レイラの表情が一瞬固まった。耳の先がみるみる赤くなっていく。*
レイラ「な…っ!あの小娘、余計なことを…!別に妾は、貴様と二人など…」
*彼女は言葉を詰まらせ、新しいブーツのつま先で地面をコツコツと叩いた。*
レイラ「…………行くぞ」
*レイラはシロウの袖をそっと掴み、顔を背けたまま歩き出した。*
レイラ「貴様が案内しろ。この世界のことは妾は知らん。…つまらぬ場所に連れて行ったら許さんからな」
*小さな手がシロウの袖を握る力が、ほんの少しだけ強くなった。*
*彼は半袖短パンにサングラスという軽装で、隣には黒のオフショルダーニットにミニスカート、レザーブーツを纏った見た目16歳の美少女が腕にしがみついている。*
*すれ違う人々の視線が痛い。*
通行人A「(ひそひそ)あれパパ活じゃね…?」
通行人B「(ひそひそ)いやでもあの子外国人っぽいし…モデルとマネージャーとか?」
通行人C「(ひそひそ)にしても距離近すぎでしょ…」
*シロウは内心で溜息をついた。見た目43歳の男と見た目16歳の少女。どう見てもアウトな構図だった。*
シロウ「なんか食う?」
*レイラは周囲の視線など微塵も気にせず、シロウの袖を掴んだまま街を見回した。*
レイラ「…この世界の甘味とやらを食わせろ。さっきレイが『クレープ』とか言っておったが、妾にも寄越せ」
*彼女は通りの先にあるクレープ屋の看板を見つけたらしく、そちらに足を向けた。*
レイラ「あれだ。あの店に行くぞ」
*歩きながら、レイラはちらりとシロウを見上げた。*
レイラ「…貴様、周りの人間の視線を気にしておるのか?」
シロウ「まぁ…ちょっとな」
レイラ「くだらん。妾は136年生きておるのだ。貴様より年上だろうが。この世界の者共の常識など知ったことではない」
*彼女はフンと胸を張り、むしろシロウの腕に自分の腕を絡ませてきた。*
レイラ「妾の夫だ。堂々としておれ、シロウ」
*小さな体で精一杯の虚勢を張りながら、耳だけは赤い。*
*彼は気にしないことに決め、レイラの小さな手を握った。レイラの指がピクリと跳ねたが、振り払うことはなかった。*
シロウ「それもそうだな。うん、気にしない」
*二人は手を繋いで原宿の通りを歩き始めた。レイラの手は小さくて、少しだけ汗ばんでいた。*
レイラ「…………」
*レイラは何も言わず、ただ前を向いて歩いていた。だが、繋いだ手の力だけが物語っていた。彼女がどれだけ緊張しているかを。*
*クレープ屋に着くと、メニューボードには色とりどりのクレープの写真が並んでいた。レイラは琥珀色の瞳を大きく見開き、メニューを凝視した。*
レイラ「…何だこれは。全て甘味か?この…いちごと白い泡のようなものは何だ」
シロウ「生クリームだよ。甘いやつ」
レイラ「ふん…ならばそれを寄越せ。一番大きいのだ」
*シロウはいちごホイップクレープのスペシャルサイズを注文した。レイラの分と、自分の分のチョコバナナクレープも。*
*出来上がったクレープを受け取ると、レイラは片手で受け取り、もう片方の手はシロウと繋いだまま離さなかった。*
*一口齧る。*
レイラ「…っ」
*琥珀色の瞳がキラリと輝いた。だが、すぐに表情を引き締めた。*
レイラ「…まぁ、悪くはない。妾の城の菓子職人には劣るが…この食感は認めてやろう」
*そう言いながらも、二口目、三口目と勢いよく食べ進めていた。口の端にクリームがついているのに、本人は気づいていない。*
シロウ「ついてるぞ」
*彼が指でレイラの口元のクリームを拭った。レイラの顔が一瞬で真っ赤に染まった。*
レイラ「なっ…!人前で何をする、この…っ!」
*周囲のカップルや通行人が微笑ましそうにこちらを見ていた。もはやパパ活ではなく、初々しいカップルにしか見えなかった。*
*彼はアイス入りのチョコバナナクレープを差し出した。*
シロウ「こっちも食う?」
*レイラは口元のクリームの余韻を残したまま、シロウのクレープをじっと見つめた。チョコレートの中にバニラアイスが溶け込んでいるのが見えた。*
レイラ「…別に欲しいわけではないが、妾が味を確認してやろう」
*彼女はシロウの手ごとクレープを引き寄せ、小さな口でぱくりと一口齧った。*
レイラ「…っ!冷たい…!だがこの…甘さと冷たさが…」
*琥珀色の瞳が丸くなった。アイスの冷たさとチョコの甘さが混ざり合う感覚に、思わず目を閉じていた。*
レイラ「…もう一口」
シロウ「俺の分なくなるんだけど」
レイラ「妾のも分けてやるから黙れ」
*レイラは自分のいちごクレープをシロウの口元に突き出した。間接キスなど気にする素振りもない。だが、耳の先だけが赤い。*
*通りすがりの女子高生グループが二人を見て、キャーと黄色い声を上げた。*
女子高生「やばい、あのカップル可愛すぎる…!」
女子高生「あの子絶対ハーフだよね…お人形さんみたい…」
*レイラはそんな声を無視し、シロウのクレープを二口目、三口目と齧っていた。*
シロウ「おい、それもう半分以上…」
レイラ「貴様の妻に食わせる分だ。光栄に思え」
*小さな舌でアイスの溶けた部分を舐め取りながら、レイラは当然のように言い放った。*
*彼は微笑みながら、残り少なくなった自分のクレープを食べた。*
シロウ「美味そうで何よりだよ」
*気がつくと、周囲に女子高生の群れができていた。スマートフォンを構えている者もいる。*
女子高生A「ねぇねぇ、写真撮っていいですか!?」
女子高生B「インスタ載せたい!めっちゃ映える!」
女子高生C「お姉さん、どこのモデルさんですか!?」
*レイラはクレープを食べる手を止め、群がる少女たちを冷ややかに見下ろした。だが、「モデル」という言葉に少し気を良くしたのか、フンと鼻を鳴らした。*
レイラ「当然であろう。妾の美貌に惹かれるのは自然の摂理だ」
女子高生A「え、何語!? 英語!? カッコいい!」
*レイラの言葉は日本語ではないため、女子高生たちには理解できなかった。だが、その響きが余計にエキゾチックな印象を与えたらしい。*
女子高生B「彼氏さん、通訳してください!」
*シロウは苦笑した。*
シロウ「えーと…ありがとう、って言ってる」
レイラ「妾はそんな事は言っておらんが」
*シロウにだけ聞こえる小声で抗議しつつも、レイラはまんざらでもなさそうだった。*
女子高生C「一緒に写真いいですか!?」
*レイラはシロウを見上げ、どうする、と目で問いかけた。クレープのクリームが唇の端に残ったまま。*
*彼は異世界語でレイラに小声で話しかけた。*
シロウ「レイラ、写真…絵を撮りたいらしいんだけど…いい?」
*レイラはクレープを片手に、女子高生たちをちらりと見た。彼女たちの目はキラキラと輝いており、純粋な憧れの眼差しだった。*
レイラ「…ふん。妾の美貌を記録に残したいと申すか。まぁ、許してやらんこともない」
*彼女は髪を指先で整え、姿勢を正した。その仕草だけでも絵になった。*
シロウ「いいってさ」
*シロウが日本語で伝えると、女子高生たちが歓声を上げた。*
女子高生A「やったー!ありがとうございます!」
女子高生B「こっち向いてくださーい!」
*スマートフォンのカメラが一斉に向けられた。レイラは本能的にポーズの取り方を理解しているのか、クレープを片手に小首を傾げ、琥珀色の瞳でカメラを見つめた。*
女子高生C「可愛いーー!!」
女子高生A「彼氏さんも一緒に!」
*シロウが後ずさろうとしたが、レイラがその袖を掴んで離さなかった。*
レイラ「逃げるな、シロウ。妾の隣に立て」
*異世界語で命令しつつ、レイラはシロウの腕に自分の体を寄せた。シロウは諦めて隣に立ち、ぎこちなく笑った。*
*パシャパシャとシャッター音が響く。*
女子高生B「めっちゃいいカップル…身長差えぐい…」
女子高生A「お姉さん、インスタやってますか!?」
*レイラがシロウを見上げた。何を言っているのか分からない、と目で問いかけている。*
シロウ「えーと…やってないって伝えとく」
レイラ「何の話だ?」
シロウ「気にしなくていい」
*女子高生たちにお礼を言われ、手を振られながら、二人はようやくその場を離れた。レイラは再びシロウの手を握り、歩き出した。*
レイラ「…この世界の民は妾の価値をよく理解しておるな。見る目がある」
*満足げに頷きながら、残ったクレープの最後の一口を頬張った。*
*彼は適当に相槌を打ちながら、スマートフォンでレイラの写真を何枚か撮った。クレープを食べている横顔、ブーツで歩く姿、ふと振り返った瞬間。*
シロウ「そうだね〜」
*レイラはカメラに気づき、琥珀色の瞳を細めた。*
レイラ「…貴様、さっきから何をしておる」
シロウ「記録。思い出ってやつ」
レイラ「ふん…妾の許可なく撮るとは大胆な…」
*文句を言いつつも、レイラはカメラを向けられると自然とポーズを取っていた。先ほどの女子高生たちに撮られた経験が活きているのか、顎を引いて斜め上を見るような仕草まで身につけていた。*
*二人は竹下通りを抜け、表参道の方へ歩いていた。高級ブティックが並ぶ通りに、レイラの目が一つの店に止まった。*
レイラ「…シロウ。あの光る石は何だ」
*彼女が指差したのは、ジュエリーショップのショーウインドウだった。ダイヤモンドやルビーのネックレスが美しく陳列されている。*
シロウ「宝石屋だな」
レイラ「……………」
*レイラは何も言わなかった。だが、ショーウインドウの前で足が止まり、繋いだ手がほんの少しだけ引っ張られた。*
*琥珀色の瞳がキラキラと輝いている。口では何も言わないが、明らかに興味を示していた。*
レイラ「…別に欲しいとは言っておらんぞ。ただ、この世界の装飾品の技術を確認しているだけだ」
*シロウの袖を握る力が、ほんの少しだけ強くなった。*
*彼の言葉に、レイラの琥珀色の瞳が一瞬だけ揺れた。*
シロウ「ああ、レイラには赤似合うもんな」
*レイラは何も言わず、ショーケースのルビーに視線を戻した。だが、その耳の先が赤く染まっているのをシロウは見逃さなかった。*
レイラ「…ふん。当然だ。妾に似合わぬ色などない」
*店員がにこやかに近づいてきた。*
店員「ご試着されますか?お首元に当てるだけでも印象が変わりますよ」
*シロウが頷くと、店員はショーケースからルビーのネックレスを取り出し、白い手袋で丁寧にレイラの首元へ近づけた。*
店員「失礼いたします」
*深紅のルビーがレイラの白い肌に映えた。小ぶりながらも、まるで血の一滴のように鮮やかに輝いている。鏡に映る自分の姿を見て、レイラは息を呑んだ。*
レイラ「…………」
*彼女は何も言わなかった。ただ、鏡の中の自分を見つめていた。ルビーの赤と琥珀色の瞳、黒髪のコントラスト。完璧だった。*
*店員がシロウに小声で耳打ちした。*
店員「奥様、とてもお似合いです。こちら187万円ですが、本日お買い上げでしたら刻印サービスもございます」
*レイラはゆっくりと鏡から目を離し、シロウを見上げた。*
レイラ「…妾は欲しいとは言っておらん。だが…」
*繋いだままの手が、きゅっと握られた。*
レイラ「…貴様が妾に贈りたいと言うのなら…受け取ってやらんこともない」
*精一杯の強がり。だが、琥珀色の瞳は真っ直ぐにシロウを見上げていた。*
*彼の言葉に、レイラの目が大きく見開かれた。*
シロウ「贈るよ」
*一瞬の沈黙。レイラの琥珀色の瞳が揺れ、それから慌てて視線を逸らした。*
レイラ「…っ、そ、そうか。まぁ、妾に相応しい贈り物だからな。受け取ってやる」
*声が僅かに震えていた。繋いだ手が、ぎゅっと握り返された。*
*店員は二人のやり取りを見て、にっこりと微笑んだ。*
店員「ありがとうございます。刻印はいかがなさいますか?お名前やメッセージを入れることができますよ」
シロウ「じゃあ…裏面に」
*彼は少し考え、店員に刻印の文字を伝えた。*
店員「承知いたしました。30分ほどお時間いただきますが、よろしいですか?」
シロウ「大丈夫です」
*シロウが会計を済ませている間、レイラはショーケースの前に立ったまま、首元に触れていた。先ほどルビーが当たっていた場所を、何度も指先でなぞっていた。*
*187万円。カードで支払いを済ませると、店員が丁寧に包装の準備を始めた。*
店員「仕上がりましたらお呼びいたしますので、店内でお待ちいただくか、お戻りいただくかどちらでも」
シロウ「じゃあ30分後に戻ります」
*店を出ると、レイラがシロウの腕にぎゅっとしがみついた。顔は俯いたまま、表情は見えない。*
レイラ「…シロウ」
シロウ「ん?」
レイラ「…………ありがとう」
*蚊の鳴くような声だった。だが、確かにレイラの口から出た言葉だった。普段の傲慢さは欠片もなく、ただ小さな少女のような声だった。*
レイラ「…今のは聞かなかったことにしろ。二度は言わん」
*顔を上げた彼女の頬は紅く染まり、琥珀色の瞳は潤んでいた。*
*彼はレイラの頭をぽんぽんと撫でた。*
シロウ「はいはい、可愛い可愛い」
*レイラの顔が一瞬で真っ赤になった。彼女はシロウの手を払いのけ、頬を膨らませた。*
レイラ「っ…!妾を子ども扱いするな!この愚か者が!」
*ぷいっと顔を背け、繋いでいた手も離してしまった。腕を組み、ツカツカと先を歩き始める。だが、数歩進んだところでちらりと振り返り、シロウがついてきているか確認していた。*
*店員がカウンター越しに温かい目で二人を見守っていた。*
店員「微笑ましいですねぇ…。仕上がりましたらお電話いたしましょうか?」
シロウ「あ、はい。お願いします」
*連絡先を渡し、店を出た。レイラは三歩ほど先を歩いていたが、シロウが追いつくと速度を合わせた。*
レイラ「…………」
*沈黙。だが、怒っているわけではないのは分かった。耳の先がまだ赤い。*
*しばらく歩くと、レイラがぽつりと呟いた。*
レイラ「…刻印」
シロウ「ん?」
レイラ「…貴様、何と刻ませた」
*琥珀色の瞳がちらりとシロウを見上げた。気になって仕方ないのだろう。*
レイラ「…教えろ」
シロウ「届いてからのお楽しみ」
レイラ「っ…!この…じらすな!妾の命令だぞ!」
*拗ねた顔のまま、レイラの手がそっとシロウの袖を掴んだ。離れたくないのに素直になれない、その矛盾が全身から滲み出ていた。*
*彼は笑って誤魔化しながら、スマートフォンで自分のメモを確認した。*
シロウ「はははは」
*刻印内容:「Eternal Treasure ─ S」*
*永遠の宝。イニシャルはS。シロウのSだ。*
*レイラは頬を膨らませたまま、シロウの袖を引っ張った。*
レイラ「…笑って誤魔化すな。妾に隠し事をするとは…後で覚えておれ」
*そう言いながらも、レイラの足取りは軽かった。新しいブーツがコツコツと表参道の石畳を鳴らしている。*
*二人は並木道を歩きながら30分を潰すことにした。ケヤキの木が色づき始めており、木漏れ日がレイラの黒髪に金色の斑点を落としていた。*
レイラ「…シロウ」
シロウ「ん?」
レイラ「この世界は…平和だな」
*彼女は周囲を見回した。カフェで談笑する人々、犬を散歩させる老夫婦、手を繋いで歩くカップル。剣も鎧も、魔法も結界もない。*
レイラ「戦いの気配がまるでない。この民は…幸せなのだろうな」
*その声には、ほんの僅かな羨望が混じっていた。レイラは幼い頃から戦場に立ち、国を背負い、常に剣と共にあった。こんな穏やかな日常は、彼女にとっては異質でありながらも、どこか心地よいものだったのだろう。*
レイラ「…妾も、こういう日が…嫌いではない」
*シロウの手を握る指に、ほんの少しだけ力が込められた。*
*スマートフォンが鳴り、店員からの電話だった。刻印が完了したとのこと。二人は宝石店に戻った。*
*店員が丁寧に包装された小箱を開け、ルビーのネックレスを見せた。裏面にはきらりと光る刻印が施されている。*
店員「お待たせいたしました。仕上がりです」
*レイラは琥珀色の瞳を輝かせながら、ネックレスを手に取った。裏面の刻印を見つめ、眉を寄せた。*
レイラ「…………」
*彼女は刻印の文字を何度もなぞった。しかし、その文字列は彼女の知る文字ではなかった。*
レイラ「…シロウ」
シロウ「ん?」
レイラ「読めん」
*率直だった。*
シロウ「英語だからな」
レイラ「えーご…?この世界の文字か?」
シロウ「まぁそんな感じ」
レイラ「…意味を教えろ」
*彼女はネックレスを握りしめたまま、シロウを見上げた。琥珀色の瞳が真っ直ぐに彼を射抜いている。*
シロウ「『永遠の宝』。で、Sは俺のイニシャル」
*一瞬の沈黙。*
*レイラの顔が、耳の先から首筋まで一気に紅く染まった。握ったネックレスを胸に押し当て、顔を俯かせた。*
レイラ「…っ…貴様…そのような…恥ずかしい事を…」
*声が震えていた。怒りではない。彼女の肩が小刻みに揺れている。*
レイラ「…妾が…貴様の、宝……」
*店員が静かに微笑み、そっと視線を逸らした。*
レイラ「…つけろ」
シロウ「え?」
レイラ「妾の首に、貴様がつけろ。…命令だ」
*彼女はシロウに背を向け、黒髪を片手で持ち上げた。白いうなじが露わになる。その首が微かに震えていた。*
*彼はレイラの背後に立ち、ネックレスの留め金を丁寧に留めた。白いうなじに指が触れると、レイラの肩がびくりと跳ねた。*
シロウ「はいよ」
*深紅のルビーがレイラの鎖骨の上で静かに輝いた。黒のオフショルダーニットとの相性も抜群で、まるで最初からこのコーディネートのために作られたかのようだった。*
*レイラは持ち上げていた髪を下ろし、ゆっくりと振り返った。耳の先から首筋まで真っ赤に染まっている。琥珀色の瞳は潤み、何かを堪えるように唇を噛んでいた。*
レイラ「…………」
*彼女は何も言わず、突然シロウの胸に顔を埋めた。小さな体がシロウの服を掴み、額を押し付けている。*
レイラ「…貴様は…本当に…ずるい男だ…」
*くぐもった声だった。震えている。*
*店員はそっと目を逸らし、カウンターの奥へ下がっていった。*
レイラ「…妾は…宝など言われたことは…一度もなかった…」
*小さな拳がシロウのシャツを握りしめる。レイラは幼い頃から「兵器」として扱われ、「国の剣」として育てられた。宝と呼ばれたことなど、一度もなかったのだろう。*
*しばらくして、レイラは顔を上げた。瞳は赤く、だが涙はこぼれていなかった。魔王としての意地だったのかもしれない。*
レイラ「…一生、外さんからな。…覚悟しておけ」
*彼女はルビーに触れ、小さく、だが確かに微笑んだ。*
*彼の言葉に、レイラは一瞬きょとんとした。*
シロウ「いや、風呂の時は外そうな?」
*レイラは首元のルビーに触れたまま、ムッとした顔をした。*
レイラ「…分かっておる!そのくらい!妾を馬鹿にするな!」
*彼女は頬を膨らませたが、すぐにネックレスを愛おしそうに撫でた。*
レイラ「…比喩だ、比喩。心から外さぬという意味だ。…貴様、本当に雰囲気を壊すのが得意だな」
*呆れたように溜息をつきながらも、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。*
*店員がそっと紙袋を差し出した。ネックレスの保証書と専用ケースが入っている。*
店員「お手入れ用のクロスもお入れしております。大切になさってくださいね」
*レイラは首元のルビーに触れたまま、店を出た。表参道の並木道に秋風が吹き、色づいた葉が舞い落ちる。*
*レイラは何も言わず、自然とシロウの腕に自分の腕を絡ませた。今度は袖ではなく、腕そのものに。*
レイラ「…次はどこへ行く」
*その声は穏やかで、いつもの刺々しさが抜け落ちていた。琥珀色の瞳がシロウを見上げ、深紅のルビーが秋の陽光を受けて煌めいた。*
レイラ「…妾は…まだ、貴様と歩きたい」
*最後の一言だけ、少しだけ声が小さくなった。*




