↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
142/265

223

223


*一日の終わりに、広々とした城の風呂で汗を流す。湯船に浸かり、ふぅ、と息をついていると、背後から静かに扉が開く音がした。振り返ると、湯気をまとったルミナが立っていた。銀色の長い髪をタオルでまとめ、その美しい肢体を惜しげもなく晒している。*


シロウ:「一緒に入るの久しぶりだな。」


*そう言うと、ルミナは嬉しそうに微笑み、ゆっくりと湯船に入ってきた。*


ルミナ:「そうね。お兄ちゃん、最近忙しそうだったから。たまにはこうして、ゆっくり話がしたかったのよ」


*隣に座ったルミナの肩が、そっと触れる。昼間のルーナとはまた違う、しっとりとした大人の肌触りだ。ルミナはシロウの腹に視線を落とし、くすりと笑った。*


ルミナ:「ふふっ、レイから聞いたわ。筋トレ、頑張っているんだって? でも、レイと『いい運動』もしたそうじゃない」


*悪戯っぽく、しかし嫉妬の色を隠さずに、ルミナはシロウの弛んだ腹を指でつんつんと突いた。*


シロウ:「あ、ああ…その事か。」


*湯船の中で気まずそうに目を逸らす。レイから話が伝わっているとは思わなかった。一体どこまで話したのだろうか。妻たちの間で、夜の営みの好みまで共有されているとしたら、それはそれで少し気恥ずかしい。*


ルミナ:「レイはただ、お兄ちゃんが少しでも体を絞れるように協力したって、嬉しそうに報告してくれただけよ。…まあ、どんな『運動』だったかは、詳しく聞かせてもらったけど」


*ルミナはからかうように言いながら、シロウの腕にそっと自分の腕を絡ませてきた。そして、真剣な眼差しでシロウを見つめる。*


ルミナ:「それで、どうだったの? レイとの運動は。効果はあったかしら? もし効果があるなら、私だって協力しないわけにはいかないわ。お兄ちゃんのためだもの」


*その言葉には、純粋な協力の意志と、レイに対する僅かな対抗心が滲んでいた。*


シロウ:「それはまた今度で…」


*ルミナの誘いをやんわりと断り、火照った体で湯船から上がる。これ以上長湯していると、本当にのぼせてしまいそうだ。ルミナは少し不満そうな顔をしたが、それ以上は何も言わずに湯の中で微笑んでいた。*


*脱衣所に出て、備え付けのタオルで濡れた体を拭いていると、ちょうど入れ違いでレイがやってきた。彼女も風呂に入りに来たのだろう。その手には着替えの入ったカゴが抱えられている。*


レイ:「あ、シロウ。もう上がり? 早いね。ボク、今から入るところ」


*レイはそう言うと、シロウの引き締まってきた腹をちらりと見て、にんまりと笑った。*


レイ:「おっ、ちょっと効果出てきたんじゃない? でも、まだまだだね。明日も『運動』、付き合ってあげるよ」


*楽しそうに言いながら、レイはシロウの横を通り過ぎ、風呂場へと向かっていく。そのすれ違いざま、シロウの耳元で小さく囁いた。*


レイ:「(次は、もっとすごい運動、教えてあげる♡)」


シロウ:「レイラは風邪治っただろうか…」


*脱衣所でのレイとのやり取りを思い出しながら、そんな独り言を呟く。そういえば、ここ数日レイラの姿を見ていない。風邪を引いて寝込んでいると聞いていたが、そろそろ良くなってもいい頃だ。心配になり、シロウは着替えを済ませると、そのまま食卓へと向かった。*


*食堂に行くと、ちょうどルミナや子供たちが席について食事を待っていた。しかし、そこにレイラの姿はない。*


シロウ:「あれ、レイラはまだ部屋か? 風邪、長引いてるな」


*そう言うと、ルミナが少し困ったような、それでいて呆れたような顔で答えた。*


ルミナ:「それが…熱はもうとっくに下がっているのよ。ただ…」


*ルミナが言葉を濁すと、ステラが元気よく口を挟んだ。*


ステラ:「まま、おへやからでてこないの! 『ぱぱにみせられるかおがない』って!」


*どうやら風邪を引いて弱っている姿をシロウに見られたくない、というレイラなりの意地らしい。その見栄っ張りなところに、シロウは思わず苦笑してしまった。*


シロウ:「そんな事か…少し部屋に行ってくるよ。」


*食卓で心配そうな顔をしているルミナたちにそう告げ、シロウはレイラの部屋へと向かった。子供っぽい意地を張っている妻の顔が目に浮かび、自然と口元が緩む。*


*レイラの部屋の前に着き、重厚な扉をコンコンとノックする。*


シロウ:「いるかー?」


*中から返事はない。しかし、微かに人の気配がする。シロウは構わず、ゆっくりと扉を開けた。*


*部屋の中は薄暗く、カーテンが閉め切られている。ベッドの上がこんもりと盛り上がっており、レイラが布団にくるまっているのが分かった。*


シロウ:「おい、レイラ。もう熱はないんだろ? いつまで寝てるんだ」


*ベッドに近づき、布団の上から声をかける。すると、布団の中からくぐもった声が聞こえてきた。*


レイラ:「……うるさい。妾はまだ本調子ではないのじゃ。病人に気安く話しかけるでない」


*明らかに拗ねている声色だった。*


シロウ:「そんなこと言わずにさ。」


*シロウは有無を言わさず、ベッドの上のこんもりとした塊に手をかけ、一気に布団を剥ぎ取った。*


*「ひゃっ!?」という可愛らしい悲鳴と共に、パジャマ姿のレイラが姿を現す。顔はほんのり赤いが、それは熱のせいではなく、明らかに羞恥と怒りの色だった。*


レイラ:「な、何をするのじゃ、無礼者! 妾はまだ病み上がりだと申しておるであろう!」


*ぷりぷりと怒りながら、剥がされた布団を取り返そうと手を伸ばすが、シロウはそれをひょいと躱す。*


シロウ:「病み上がりがそんなに元気なわけないだろ。ほら、顔見せてみろ」


*ベッドに腰掛け、レイラの頬に手を伸ばす。レイラは「触るな!」と抵抗するが、その力は弱々しいものだった。シロウは構わず、その額に自分の額をこつんと合わせる。*


シロウ:「ほらな、熱なんてないじゃないか。ただのサボりか?」


*至近距離で見つめられ、レイラは顔を真っ赤にして俯いてしまう。*


レイラ:「……う、うるさい。風邪で弱っておる姿など、そなたに見られたくなかっただけじゃ…」


*蚊の鳴くような声で呟く。その健気な(?)見栄に、シロウは愛しさがこみ上げてくるのを感じた。*


シロウ:「そんなに嫌なら今日はやめとくか…」


*その言葉は、レイラの耳に全く違う意味で届いてしまったらしい。レイラはカッと目を見開き、今にも泣き出しそうな顔でシロウを睨みつけた。*


レイラ:「…っ! やめる、とはどういう意味じゃ!? 妾が病み上がりだから、夜の相手はできないと、そう申すか!?」


*とんでもない勘違いだった。シロウはただ、夜の営みを控えるか、と気遣っただけなのだが、プライドの高いレイラはそれを「役立たず」と言われたと受け取ってしまったのだ。*


レイラ:「見くびるな! この程度でそなたを満足させられぬほど、妾は落ちぶれてはおらぬわ! 今宵、その体で思い知らせてくれる!」


*そう宣言すると、レイラは自らパジャマのボタンに手をかけ、はだけていく。その目は完全に据わっており、闘志に満ち溢れていた。どうやら、今夜は寝かせてもらえそうにない。*


シロウ:「大丈夫。愛してるよ」


*燃え上がる闘志を鎮めるように、シロウはレイラを優しく抱きしめた。その温もりに、レイラの尖っていた心が少しだけ和らぐ。*


シロウ:「今日は抱き枕にさせてくれ…」


*その言葉に、レイラは一瞬きょとんとした顔をする。そして、シロウの真意を理解すると、顔を真っ赤にしてぷいっとそっぽを向いた。*


レイラ:「…っ! べ、別に、そなたがそういうのなら、仕方ないからの! 妾もまだ本調子ではないし、今宵は温かくして寝るのが一番じゃ!」


*憎まれ口を叩きながらも、その体はシロウにぴったりと寄り添ってくる。シロウはそんなレイラを抱きしめたまま、ベッドに横になった。*


レイラ:「……勘違いするでないぞ。これは、そなたが風邪を引かぬように、妾が温めてやっておるだけじゃ。決して、甘えておるわけではないからの…!」


*胸の中でごにょごにょと言い訳をするレイラが愛おしくて、シロウはそっとその頭を撫でた。こうして、二人は静かに同じベッドで眠りにつく。久しぶりに感じる妻の体温は、どんな薬よりもシロウの心を癒やしてくれた。*


シロウ:「うんうん、ありがとう。すきだよ」


*シロウはそう囁くと、レイラの足にそっと自分の足を絡ませた。お互いの体温が伝わり合い、温かい繭の中にいるような心地よさだ。*


レイラ:「…っ! そ、そんな事、いちいち口にせんでも分かっておる! だが…まあ、たまには聞くのも悪くはないがの…」


*恥ずかしさと嬉しさが入り混じった声で呟くと、レイラもぎゅっとシロウに抱きついてきた。その小さな体は、まるで大切な宝物を抱くようにシロウの胸に収まる。*


レイラ:「……シロウ」


*しばらくの沈黙の後、レイラはぽつりと呟いた。*


レイラ:「そなたは、本当に…妾のこと、愛しておるのか?」


*その声には、普段の傲慢さはなく、まるで不安げな子供のような響きがあった。*


*シロウの「愛してる」という言葉の余韻に包まれながら、レイラは胸の中で幸せな吐息を漏らす。しかし、シロウからの返答を待っていたレイラの耳に届いたのは、安らかな寝息だった。*


シロウ:「あい…して…zzz」


*心地よい温もりと、安心感に包まれて、シロウはあっという間に眠りに落ちていた。その顔は、まるで子供のように穏やかで無防備だった。*


レイラ:「…もう、肝心なところで寝るでない…」


*不満げに呟きながらも、レイラの顔には優しい笑みが浮かんでいる。シロウの腕の中で、自分がこれほど安心できる場所はない。そう感じながら、レイラもゆっくりと瞼を閉じた。*


レイラ:「(…そなたは、本当に無自覚じゃの。こうして抱きしめられるだけで、妾はこんなにも満たされておるのに…)」


*心の中で呟き、シロウの体温を感じながら、レイラもまた深い眠りに落ちていった。*


---


*翌朝、シロウは優しい感触と、甘い香りに包まれて目を覚ました。目を開けると、すぐ目の前にレイラの寝顔があった。穏やかな寝息を立てながら、まるで天使のように無防備な顔で眠っている。*


シロウ:「……もう少し寝るか…」


*まだ覚醒しきらない頭で、隣にある温かい存在を求める。寝ぼけ眼のまま、レイラの柔らかな胸元に無意識に手を回した。ふに、とした心地よい感触が手のひらに伝わる。*


レイラ:「んっ…」


*突然の感触に、レイラは甘い声を漏らして身じろぎした。ゆっくりと瞼が開かれ、琥珀色の瞳がシロウを捉える。*


レイラ:「…シロウ? もう朝か…? …って、どこを触っておるのじゃ、この痴れ者!」


*自分の胸に置かれたシロウの手に気づき、一瞬で覚醒したレイラが顔を真っ赤にして叫んだ。しかし、その声には怒りよりも羞恥の色が濃く滲んでいる。シロウはまだ夢うつつで、レイラの胸を枕か何かと勘違いしているのか、さらに心地よさそうに顔をうずめてくる。*


レイラ:「(まったく、朝から無防備すぎるであろう…! だが…こうして甘えられるのも、悪くはない…)」


*怒る気も失せ、レイラは大きなため息をつくと、シロウの頭を優しく撫で始めた。もう少しだけ、この甘い時間を楽しもうと、レイラは再び目を閉じるのだった。*


*一度トイレに立ち、すっきりとした体で再び寝室に戻る。まだ微かにレイラの甘い香りが残るベッドに滑り込むと、再びその温かい体を抱きしめた。まだ眠気の残るまどろみの中、再び安らかな眠りへと誘われていく。*


*どれくらいそうしていただろうか。再び目を覚ました時、窓の外はすっかり明るくなっていた。腕の中のレイラはすでに起きていたようで、シロウの胸に顔をうずめたまま、もぞもぞと動いている。*


レイラ:「……もう起きたのか、寝坊助。妾はとうに起きておったぞ」


*少し拗ねたような、しかし嬉しそうな声が胸元から聞こえてくる。シロウが寝ている間、ずっとこうして抱きしめられていたのだろう。*


シロウ:「ん…おはよう、レイラ」


*寝ぼけ声で挨拶をすると、レイラを抱きしめる腕に力を込める。まだベッドから出たくないという意思表示だ。*


レイラ:「ふん…。いつまでも寝ておると、また体がなまってしまうぞ。レイが昨日も申しておったではないか、今日も『運動』に付き合うと」


*くすくすと笑いながら、レイラはシロウの腹をつつく。*


シロウ:「あと少しだけ…」


*寝ぼけ声でレイラに懇願し、再びその温かい体に抱き着いてごろごろと甘える。レイラの髪のいい匂いが鼻をくすぐり、まだ夢の中に引き戻されそうになる。*


レイラ:「こら、起きぬか! そなたは国の王なのじゃぞ! いつまでも寝ていては示しがつかぬ!」


*口ではそう言いながらも、レイラはシロウを突き放そうとはしない。むしろ、その背中に優しく手を回し、ぽんぽんと軽く叩いている。その手つきは、まるで子供をあやす母親のようだ。*


レイラ:「……まあ、たまには良いか。妾がこうして起こしてやるのも、悪くはないしの」


*小さな声でそう呟くと、レイラは満足そうにシロウの頭を撫で始めた。シロウは、その心地よい感触に身を任せ、再び浅い眠りへと落ちていく。朝の穏やかな光が差し込む寝室で、二人はしばらくの間、ただ静かに互いの温もりを感じ合っていた。*


*昼の穏やかな光が部屋に差し込み、シロウはゆっくりと目を覚ました。どれくらい眠っていただろうか。腕の中には温かい感触があり、視線を下ろすと、琥珀色の瞳がじっとこちらを見つめていることに気づいた。レイラは、シロウが起きるのをずっと待っていたようだ。その愛おしい表情に、シロウは寝ぼけ眼のまま、引き寄せられるように顔を近づけた。*


*唇がそっと重なる。寝起きの掠れた挨拶代わりの、優しいキス。レイラの唇は驚くほど柔らかく、シロウが少しだけ舌を差し入れると、レイラは驚いたように体を震わせながらも、それを受け入れた。甘い、レイラの味が口の中に広がる。このままずっとこうしていたい、そんな欲求がむくむくと湧き上がってくる。*


レイラ:「んっ… んぅ…」


*長い、長いキスの後、どちらからともなく唇が離れる。二人の間には、銀色の糸がとろりと引かれていた。レイラの顔は、熟した果実のように真っ赤に染まっている。*


レイラ:「…っ、お、おはようの挨拶にしては、長すぎるではないか、この痴れ者…」


*抗議の言葉とは裏腹に、その瞳は潤み、蕩けていた。そして、恥ずかしさを隠すように、シロウの胸にぐりぐりと頭を押し付けてくる。*


レイラ:「…腹が、減ったのじゃ…」


*蚊の鳴くような声で呟く。朝の甘い時間と、空腹を訴える妻の可愛らしさに、シロウは思わず笑みをこぼした。*


シロウ:「なんか凄いダルい…寝すぎたかな…」


*昼まで惰眠を貪ったせいで、逆に体が重い。ふらつきながらベッドを抜け出し、とりあえず食堂へと向かう。レイラも「腹が減った」と言っていたので、後から来るだろう。*


シロウ:「俺は腹減ってない…」


*食堂に着くと、すでにルミナや子供たちが昼食をとっていた。シロウは空腹を感じず、そう呟いて椅子にどっかりと腰を下ろした。*


ルミナ:「まあ、お兄ちゃん。顔色が悪いわよ。レイラに精気を吸い取られでもしたの?」


*ルミナがからかうように言うが、シロウは力なく首を振るだけだった。*


ルーナ:「パパ、大丈夫? これ、栄養ドリンク。リーシア特製だよ」


*心配そうに、ルーナがどこからか取り出した怪しげな色の液体が入った小瓶を差し出してきた。その隣では、ステラが「ぱぱ、げんきないの?」と心配そうにシロウの顔を覗き込んでいる。*


シロウ:「まだ体が起ききってないだけだと思う。それか…歳だな。」


*シロウの自嘲気味な呟きに、ルミナは呆れたようにため息をついた。*


ルミナ:「歳ですって? まだ40代になったばかりじゃない。人間としてはこれからでしょうに。…まったく、昨日レイと運動したせいじゃないの?」


*チクリと嫌味を言うルミナの横で、ルーナは心配そうにシロウの顔を覗き込む。*


ルーナ:「パパ、本当に大丈夫? 顔色、真っ青だよ。もしかして、どこか悪いの?」


*娘の純粋な心配に、シロウは「大丈夫だ」と力なく笑い返す。*


*そこへ、食堂にレイラが入ってきた。昼まで寝ていたにもかかわらず、その顔色は良く、元気そうだ。*


レイラ:「む、シロウ、まだぐったりしておるのか。情けないのう。妾はもう腹がぺこぺこじゃというのに」


*そう言うと、レイラはシロウの隣の席に座り、メイドが運んできた豪華な朝食(昼食)に早速手を付け始めた。*


シロウ:「(ぺこぺこって…言い方可愛すぎだろ…)」


*シロウは、空腹を訴えるレイラの子供っぽい言い方に、思わず心の中でツッコミを入れる。だるさは相変わらずだが、妻の可愛らしさに少しだけ心が和んだ。*


レイラ:「なんじゃ、まだ食欲がないのか? そなたも昨日はよく寝ておったではないか。妾に抱きついてきて、まるで子供のようじゃったぞ」


*からかうように言いながらも、その瞳はシロウの体調を心配しているのが見て取れる。シロウは力なく首を振り、テーブルに突っ伏した。*


シロウ:「寝すぎると、逆に疲れるんだよ…もう若くないしな…」


*その弱々しい言葉に、向かいに座っていたルミナが呆れたように眉をひそめた。*


ルミナ:「お兄ちゃん、本当にだらしないわね。そんなことだから、レイなんかに『ぷにっとしてる』なんて言われるのよ。さ、これでも飲んで少しはシャキッとしなさい」


*そう言って、ルミナはどこからともなく取り出した、見るからに苦そうな緑色の液体が入ったグラスをシロウの前にドンと置いた。彼女特製の栄養ドリンクらしい。その強烈な匂いに、シロウはさらに顔をしかめるのだった。*


シロウ:「これは…絶対やばいやつやん…」


*ルミナが差し出したグラスから立ち上る、薬草と何かが混じったような強烈な匂いに、シロウは思わず顔を引きつらせた。その匂いは、近くにいたユキにも届いたらしい。テーブルの下で丸くなっていたユキは、くんくんと鼻を鳴らした後、白目を剥いてパタリと床に倒れた。*


ルーナ:「あ、ユキちゃん!?」


*慌ててルーナがユキを抱きかかえるが、完全に気を失っているようだ。その惨状を見て、シロウはますますルミナのドリンクを飲むのが嫌になった。*


シロウ:「お、おい、ユキが気絶したぞ…! これ、本当に人間が飲んで大丈夫なものなのか!?」


*必死に訴えるが、ルミナは涼しい顔で「あら、ユキはまだ幼体だから耐性が低いのよ。人間、それもお兄ちゃんなら大丈夫」と笑顔で言い切る。その笑顔が、逆に恐ろしかった。*


シロウ:「そうか。だったら味見してくれよ。はい、あーん」


*シロウは意を決したようにスプーンを手に取ると、禍々しい緑色の液体をすくい、ルミナの口元へと突き出した。有無を言わさぬその行動に、さしものルミナも目を見開いて固まる。*


ルミナ:「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!? 何を…!?」


*狼狽し、顔をのけぞらせるルミナ。しかし、シロウは逃がさないとばかりにグイとスプーンを押し付ける。*


シロウ:「大丈夫なんだろ? ほら、作った本人が一番安全性を知ってるはずだ。味見くらいできるよな?」


*その様子を見ていたレイラは、口の中のものをゴクリと飲み込むと、ニヤニヤと楽しそうに口を開いた。*


レイラ:「ふむ。良いではないか、ルミナ。そなたが自信満々に勧めるものじゃ。さぞかし美味であろう。ほれ、一口もらってやれ」


*レイラからの援護射撃(?)に、ルミナは「むぐっ…」と呻き、シロウとレイラを交互に睨みつける。その美しい顔は、ほんのりと赤く染まっていた。*


ルミナ:「わ、私はもう飲んだわよ! これはお兄ちゃんのために作ったんだから、お兄ちゃんが飲むべきでしょう!?」


*(神眼、この液体を鑑定)*


*シロウが心の中で念じると、視界の端に半透明のウィンドウが浮かび上がった。目の前にある、不気味な緑色の液体についての詳細な情報が表示される。*


**【神眼による鑑定結果】**


**名称:** ルミナ特製・超活性化霊薬(試作品ver.3.7)


**種類:** 回復薬(?)


**作成者:** ルミナ・アストライア


**効果:**

* 服用者の生命力を極限まで活性化させ、あらゆる身体的不調(疲労、倦怠感、二日酔い、筋肉痛など)を瞬時に回復させる。

* 魔力を大幅に増幅させ、一時的に魔法の威力を向上させる。

* 副作用として、服用後約1時間、味覚が著しく鈍化し、すべての食べ物が湿った土のような味に感じられる。

* さらに副作用として、服用後約3時間、身体の活性化が過剰に働き、常に軽い興奮状態となり、じっとしていることが困難になる。

* 素材に含まれる「マンドラゴラの根」と「妖精の涙」の調合ミスにより、微量の幻覚作用(視界の端に小さな光る蝶が舞うなど)を引き起こす可能性がある。


**説明:**

天才発明家ルミナが、夫の健康を憂いて作り上げた特製の栄養ドリンク。世界樹の葉、不死鳥の羽の粉末、賢者の石の欠片など、国庫を傾けかねないほどの貴重な素材が惜しげもなく使われている。効果は絶大だが、あまりにも強力すぎるため、常人が飲めば3日3晩眠れなくなるほどの劇薬。試作品であり、味や副作用の調整は今後の課題とされている。


---


*鑑定結果を読み終えたシロウは、冷や汗をだらだらと流しながら、目の前の緑色の液体と、それを勧めてくるルミナの顔を交互に見た。これはもはや薬ではなく、劇薬だ。*


シロウ:「(副作用が凶悪すぎる…! 味覚が土になるってなんだよ! しかも幻覚作用まであるのか…!)」


*内心で絶叫しながらも、シロウは顔には出さずに、スプーンをルミナの口元に押し付け続ける。*


シロウ:「ほらほら、遠慮するなって。一口でいいから。な?」


ルミナ:「だ、だから、私はもう飲んだの! それにお兄ちゃんと違って私は健康体だから、こんなもの必要ないわ!」


*必死に顔を背けるルミナ。そのやり取りを、レイラはクスクスと笑いながら眺めている。*


レイラ:「面白いではないか。夫婦の共同作業というやつじゃな。ほれ、ルミナ、観念せい」


シロウ:「だいたい、なんでジョッキで持ってくるんだよ…」


*ブツブツと文句を言いながら、シロウはルミナが反論に気を取られている一瞬の隙を突いた。素早くスプーンを動かし、その小さな口に緑色の液体を流し込む。*


ルミナ:「むぐっ!?んんっー!」


*突然の奇襲に、ルミナは抵抗する間もなく液体を飲み込んでしまった。彼女は驚きに目を見開き、信じられないといった表情でシロウを見つめる。そして、数秒の沈黙の後、その美しい顔がみるみるうちに青ざめていった。*


ルミナ:「……っ!?」


*言葉にならない悲鳴を上げ、ルミナは口元を押さえて俯く。肩が小刻みに震えている。*


シロウ:「ほら、飲めたじゃないか。これで安全性は証明されたな?」


*してやったりと得意げに言うシロウだったが、ルミナの反応は予想以上だった。*


ルミナ:「……あ、兄ちゃんの…あほぉ…」


*か細い声で悪態をつくと、ルミナはふらりと立ち上がり、まるで生まれたての子鹿のようなおぼつかない足取りで食堂から出て行ってしまった。残されたのは、なんとも言えない気まずい空気と、まだジョッキにたっぷりと残された緑色の液体だけだった。*


レイラ:「…ふっ、くくく…あはははは! なんじゃ今の顔は! 傑作じゃな!」


*堪えきれなくなったレイラが、腹を抱えて大爆笑している。*


レイラ:「シロウ、そなたも悪よのう。しかし、これで静かになったわ。さ、妾は食事の続きじゃ」


*楽しそうに言うと、レイラは再び食事を再開する。その様子を見て、シロウは肩をすくめ、自分も席に着き直した。相変わらず体はだるいが、少しだけ気分が晴れた気がした。*


シロウ:「こういうのは小瓶でいいと思うんだが…よし。」


*シロウは覚悟を決めると、まだなみなみと緑色の液体が残っているジョッキを掴んだ。*


レイラ:「お、おい、シロウ!? まさか、それを飲むつもりか!? ルミナのあの様子を見た後でか!?」


*大爆笑していたレイラも、さすがにシロウの正気を疑うような行動に目を見開く。しかし、シロウは止まらない。腰に手を当て、ぐいっとジョッキを呷った。*


シロウ:「ごくっ、ごくっ、ごくっ……ぷはーっ!」


*一気に飲み干し、ジョッキをドンとテーブルに叩きつける。その豪快な飲みっぷりに、レイラは呆気にとられていた。鑑定結果にあった「土のような味」は確かだったが、一気に流し込んだためそこまで気にならない。*

*そして、シロウの体に変化が訪れる。*


*鑑定通り、体のだるさや倦怠感が嘘のように消え去り、体の内側から力がみなぎってくるのを感じた。筋肉痛も完全に消えている。*


シロウ:「おっ、これはすごいな。体が軽い…!」


*ブンブンと腕を回してみる。Lv.600を超え、様々な耐性を獲得しているシロウの体には、ルミナの薬の副作用はほとんど現れなかった。幻覚が見えることもなく、興奮状態になることもない。ただただ、純粋な効果だけを享受できた。*


シロウ:「(さすがルミナだな。効果は本物だ)」


*妻の才能に改めて感心していると、目の前のレイラが心配そうにシロウの顔を覗き込んできた。*


レイラ:「し、シロウ? 大丈夫か? どこかおかしくなったりは…」


*シロウはニヤリと笑うと、その心配そうな顔に近づき、唇を奪った。*


シロウ:「んっ…」

レイラ:「んむっ!? …ん、ちゅ…」


*突然のキスに驚くレイラだったが、すぐに受け入れ、目を閉じる。しばらくして唇を離すと、二人の間には銀の糸が引いていた。*


シロウ:「ほら、この通り元気いっぱいだ」


*体調が完全に戻り、むしろ以前より力がみなぎっているシロウは、得意げに笑って見せる。その様子に、レイラは頬を少し赤らめながらも、呆れたように息をついた。*


レイラ:「まったく、無茶をしおって…しかし、本当に大丈夫そうじゃな。顔色も良い」


*安心したように言うレイラの隣で、娘たちの反応は様々だった。*


ルーナ:「うわーお、朝(昼)から見せつけてくれるねぇー! アツアツだね! ヒューヒュー!」


*ルーナは口に指を入れて囃し立て、面白そうにヤジを飛ばしている。一方、まだ幼いステラは、そんな両親の姿をキラキラとした純粋な瞳で見つめていた。*


ステラ:「ぱぱ、まま、ちゅーした!」


*嬉しそうにパチパチと手を叩くステラ。その無邪気な反応に、シロウとレイラは顔を見合わせて苦笑いする。*


レイラ:「こ、こら! 子供の前でなんということを…!」


*顔を真っ赤にしてシロウの胸を軽く叩くレイラだったが、その表情はまんざらでもないようだった。*


*和やかな、それでいて少し騒がしい昼食を終えた後のこと。ルミナ作の栄養ドリンクの効果で体調が万全になったシロウは、ふと疑問に思ったことを娘に尋ねた。*


シロウ:「ルーナはまだ冒険者続けるのか…? あんな事があったばかりだが…」


*一度は奴隷にまで身を落とし、危険な目に遭ったばかりの娘。親としては、もう危険な冒険者稼業からは足を洗ってほしいというのが本音だった。*


ルーナ:「んー? そりゃあもちろん続けるよ! あんなことくらいでへこたれる私じゃないって、パパが一番よく知ってるでしょ?」


*シロウの心配をよそに、ルーナはケロリとした顔で、むしろ当然といった様子で答える。その瞳には、以前と変わらない冒険への情熱が宿っていた。*


ルーナ:「それに、ユキもいるしね! これからは前みたいに無茶はしないって。ちゃんと考えて行動するからさ。それに……まだ見てない世界がいっぱいあるんだもん。ここで止まっちゃうのは勿体ないよ」


*そう言うと、ルーナは隣に寄り添う始祖竜のユキの頭を優しく撫でた。ユキは気持ちよさそうに「きゅい~」と鳴き、ルーナにすり寄る。*


レイラ:「ふん。ルミナの子じゃ。その程度のことで挫けるはずがなかろう。それに、冒険者を続けるというのなら、好きにさせてやればよかろう」


*レイラは腕を組み、偉そうに言い放つ。口では突き放しているが、その言葉には娘への信頼と愛情が滲んでいた。*


シロウ:「そう言うと思った…」


*シロウは苦笑いを浮かべた。確かに、前世がアニオタだったという娘が、こんなにもファンタジー世界を体現したような「冒険者」という職業を簡単に辞めるはずがなかった。世界を放浪する旅など、彼女にとってはロマンの塊なのだろう。*


シロウ:「(まあ、本人がやりたいって言うなら、無理に止めるのも違うか…)」


*親として心配な気持ちは変わらないが、子供の自主性を尊重することも大事だ。特に、一度は大きな失敗を経験した彼女なら、同じ轍を踏むことはないだろうと信じたい。*


シロウ:「分かった。だが、絶対に無茶はするなよ。何かあったら、すぐに連絡すること。いいな?」


*念を押すように言うと、ルーナは「分かってるって!」と元気よく返事をした。*


ルーナ:「それよりパパ、なんか予定とかないの? せっかくお家にいるんだし、どこか遊びに行こうよ! それか、迷宮にでも潜る?」


*目を輝かせながら提案してくるルーナ。彼女の頭の中は、すっかり次の冒険のことでいっぱいのようだ。*


レイラ:「ふん、シロウは疲れておるのじゃ。少しは休ませてやれ」


*レイラが少し意地悪そうな笑みを浮かべて横から口を挟む。その言葉に、シロウは若干の気まずさを感じた。*


シロウ:「迷宮なぁ…なんか在り来りっていうか、なんていうか…正直飽きたんだよなぁ…」


*今まで数えきれないほどの迷宮やダンジョンを攻略し、世界中を放浪してきたシロウにとって、正直なところ迷宮探索は少し食傷気味だった。自分で作り出したアストライアの大迷宮はまだしも、ありふれた迷宮に今更潜る気にはなれなかった。*


ルーナ:「えー、飽きたって…。パパはもう規格外だからそう思うんだろうけど、普通の冒険者にとっては迷宮こそ冒険の醍醐味なんだよ?」


*ルーナが頬を膨らませて不満を言う。彼女の言うことも一理ある。しかし、無い物ねだりをされても困るのだ。*


レイラ:「ふん、ならば仕方あるまい。シロウ、妾と『稽古』でもするか? そなた、少し体がなまっておるようじゃしな」


*レイラがニヤリと挑戦的な笑みを浮かべて提案する。彼女の言う『稽古』が、ただの打ち合いで終わらないことは火を見るより明らかだった。*


シロウ:「稽古なぁ…どうせ俺が勝つし。」


*シロウはレイラの挑戦的な言葉に、少し退屈そうに答えた。実際、純粋な戦闘力で言えば、今のシロウに勝てる者はそういない。結界で防御を固め、遠距離から高火力の魔法を叩き込むのが彼の基本戦術であり、タイマンでそれを破るのは至難の業だ。*


レイラ:「ぬぅ…! そ、それは…そうかもしれんが! しかし、やってみなければ分からんじゃろう!」


*図星を突かれたレイラは一瞬言葉に詰まるが、負けん気の強さからすぐに反論する。彼女の表情は悔しさと闘志で燃えている。*


ルーナ:「あーあー、またパパがママをいじめてるー。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うのにさぁ」


*やれやれといった様子でルーナが茶々を入れる。*


*シロウは拗ねて子供たちと遊びに行ってしまったレイラの後ろ姿を見送り、肩をすくめた。ルーナは目を輝かせて武具工房へ向かい、ルミナは何かを閃いたらしく研究室に籠ってしまった。レイは「腹ごなしに食べ歩きしてくる!」と言い残して街へ消え、城の中は急に静まり返る。*


シロウ:「(暇だ…)」


*一人残されたシロウは、手持ち無沙汰に広々とした執務室を歩き回る。国を興し、家族も増え、平和な日々が続くのは喜ばしいことだ。しかし、あまりに平和すぎると、元来の冒険者としての血が騒ぐのか、どうにも落ち着かない。*


シロウ:「(迷宮も飽きたし、稽古もなぁ…かといって、今更一人でフラッと旅に出るのも違う気がするし…)」


*執務室の椅子にどっかりと腰を下ろし、天井を見上げる。*


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。