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シロウ:「横領とか…マジでめんどくせぇ…はぁ…」
*玉座とは名ばかりの執務椅子の上で、ぐでっと伸びる。平和な国で王様をやるというのは、存外に退屈で、そして面倒なことが多い。*
*一度気になってしまえば、無視はできない性分だ。重い腰を上げ、執務室に併設された資料保管庫へと向かう。オルクスがまとめた帳簿とは別に、各部署から直接上がってくる生の報告書や、設立した諜報部が収集した市井の情報などを無造作に積み上げた棚を漁り始めた。*
*目的は『アガレス商会』に関するあらゆる情報。そして、それに関連する人物の洗い出しだ。*
「(アガレス商会、代表はマルコ・アガレス…元々は隣国の小規模な行商人だったが、我が国が建国されてから急成長…か。拠点は王都の一等地。ふむ…)」
「(各部署への納入記録…軍務省、内務省、宮内庁…多岐にわたるな。担当者は…複数いるが、決裁印は全て各部署の部長クラスか)」
「(諜報部の報告書…『アガレス商会、近頃羽振りが良い』…『代表マルコ、夜な夜な高級娼館で豪遊』…ありきたりだが、分かりやすい金の流れだ)」
*資料を机に広げ、一つ一つの情報を繋ぎ合わせていく。バラバラだった点が、徐々に線となって結ばれていく。これは単なる一商会の不正ではない。国の内部、それもかなり上層部まで汚染が広がっている可能性が高い。*
シロウ:「…想像以上に根が深いな。こりゃ、大掃除が必要か…?」
*呟きながら、指でこめかみをとんとんと叩く。面倒だ。非常に面倒だが、腐った部分は早めに切り取らなければ、国という巨体を内側から蝕んでいく。*
*平和ボケした頭を切り替え、かつて冒険者として幾多の陰謀を暴いてきた頃の、鋭い思考が蘇り始めていた。*
*再び机に戻り、山積みの資料と格闘を始める。まずは、不正の温床となっている可能性が高い『アガレス商会』と取引のある部署に所属する者、特に決裁権を持つ部長クラスの個人情報を洗い出すことにした。*
シロウ:「(ひとまず、収入と納税額を比べてみるか)」
*人事部が管理する職員名簿と、財務部が管理する納税者リストを照合していく。この国では、役職に応じた給与が定められており、そこから算出される納税額も明確だ。もし、公式の給与に見合わない豪奢な生活を送り、それを隠すために納税額を誤魔化している者がいれば、そこが突破口になる。*
*一人、また一人と名前を確認していく。*
「(軍務省、調達部長、バルトロ・ガンズ…勤続20年、給与は…ふむ。納税額も相応だな。特に不審な点はない)」
「(内務省、施設管理部長、ソニア・リーベルト…こちらも問題なしか。むしろ質素な生活ぶりが記録されている)」
*作業は地味で、ひたすらに根気がいる。だが、冒険者時代にダンジョンの罠を一つ一つ解除していく作業に比べれば、どうということはない。*
*数時間後、何十人ものリストを照合した末、ついに一つの不審な点を見つけ出した。*
*宮内庁、営繕部長、グレイグ・フォン・ベルガー。*
シロウ:「(こいつは…)」
*資料を睨みつける。彼の給与は他の部長クラスと同程度。しかし、納税記録に奇妙な点があった。数年前から、彼の納税額がごくわずかだが、毎年減少しているのだ。普通に考えれば、給与が下がらない限りあり得ない。*
*さらに、諜報部が収集した彼の個人情報を確認する。*
「(…妻への高価な贈り物が目撃される。子供を王都随一の高額な学院に入学させる。数ヶ月前には、郊外に新たな別荘を建設…か)」
*明らかに、彼の公式な収入だけでは不可能な支出だ。そして、そのどれもが『アガレス商会』が王都で頭角を現し始めた時期と一致する。*
シロウ:「ビンゴ、だな。さて、どうやってこのキツネの尻尾を掴んでやるか…」
*面倒だという気持ちは変わらないが、同時に、獲物を見つけた狩人のような獰猛な笑みが口元に浮かんでいた。*
*不正の尻尾を掴み、その処理方法を思案する。力でねじ伏せるのは簡単だ。グレイグを捕らえ、拷問にかけて金の流れを吐かせ、連座で全員を処刑する。魔王としては、それが最も手っ取り早い。だが、この国はもはや力だけで支配する無法地帯ではない。法と秩序の国、アストライア魔導皇国だ。*
シロウ:「(政治的に…社会的に潰すか…)」
*頭の中で、最も効果的で、かつ面倒の少ない筋書きを組み立てていく。まずは、外堀から埋めるのが定石だ。*
シロウ:「(まずは…過去3年間の未払い税額の請求を…)」
*ニヤリと口角が上がる。給与に見合わない支出をしていながら、納税額が減っている。これは明確な脱税だ。まずは、財務担当官オルクスの名前で、グレイグ・フォン・ベルガー宛に、過去数年分の納税額の再計算と、不足分の追徴課税を命じる督促状を送付させる。*
*おそらく彼は慌てるだろう。だが、すぐには尻尾を出さないはずだ。裏で手を回し、なんとか揉み消そうとするだろう。その動きこそが、こちらの狙いだ。彼が誰に相談し、誰と金のやり取りをするのか。諜報部に命じて、彼の動向を24時間体制で徹底的に監視させる。*
*同時に、『アガレス商会』への揺さぶりもかける。オルクスに命じ、今後の国の調達は、全て競争入札に切り替えると布告させるのだ。これまでのように、随意契約で楽に儲けることはできなくなる。これもまた、彼らの金の流れを乱し、焦りを生むだろう。*
*面倒だが、こうやって一つ一つ、法と手続きに則って追い詰めていく。そうすれば、彼らは自滅する。国に仇なす腐敗を、国民の目に見える形で、法の下に裁く。それこそが王のやり方であり、見せしめとして最も効果的だ。*
*一連の筋書きを組み立て終えると、満足げに一つ頷く。*
*平和ボケした頭は、すっかり悪知恵の働く王の頭脳へと切り替わっていた。*
*書類仕事は骨が折れる。だが、不正の証拠を確実に固めるためには、僅かな綻びも見逃すわけにはいかない。*
*通常であれば、オルクスに命じて作成させる請求書だが、今回は特別だ。相手に言い逃れの隙を与えず、一撃で仕留めるための、完璧な一撃を用意する必要がある。*
*意識を集中させ、右目に魔力を集める。視界が白黒に反転し、世界の理が情報として流れ込んでくる。*
シロウ:「【神眼】」
*【鑑定】スキルが進化を遂げた究極の瞳。その力をもって、グレイグ・フォン・ベルガーの個人情報、財産、そして過去の金の流れを詳細に読み解いていく。*
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**対象:グレイグ・フォン・ベルガー**
**役職:宮内庁営繕部長**
**収入:国定給与 月収 金貨5枚**
**資産:王都内邸宅、郊外別荘、宝飾品多数、アガレス商会への匿名投資(金貨30枚相当)…**
**支出記録:…3年前、妻へ『海の涙』の首飾り(金貨8枚)をアガレス商会経由で購入。2年前、長男を王立高等学院へ入学(入学金 金貨10枚)。1年前、郊外に別荘建設(費用 金貨50枚、アガレス商会が施工)…**
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*神眼を通して浮かび上がってくる情報は、諜報部が掴んだものより遥かに詳細で、そして確定的だった。アガレス商会への匿名投資。これが決定的な証拠だ。彼は業者と癒着し、国の金を横流しさせる見返りに、賄賂を受け取るだけでなく、その不正な利益の一部を投資という形で還流させていたのだ。*
*神眼で得た正確無比な情報に基づき、羊皮紙にペンを走らせる。*
*『グレイグ・フォン・ベルガー殿へ。貴殿の過去3年間に渡る所得及び支出を再調査した結果、合計 金貨27枚の申告漏れ及びそれに伴う納税不足が確認された。よって、追徴課税分 金貨13枚50銀貨を、本状到着より一ヶ月以内に国庫へ納付することを命ずる。正当な理由なく納付を怠った場合、国法に基づき、貴殿の資産差し押さえを含む厳正なる処分を行うものとする』*
*日付と、財務担当官オルクスの名を借りた署名を書き込む。金額も、神眼で得た情報から算出した、一分の隙もない完璧な数字だ。これを突きつけられれば、彼は言い逃れができない。*
*完成した請求書を眺め、満足げに頷く。あとは、これをどう相手に届けるか。そして、その後の彼の動きをどう観察するか。狩りの準備は、着々と整いつつあった。*
シロウ:「俺んち(国)で横領とはいい度胸だ…見せしめも含めて盛大に祝福(社会的に殺し)てあげよう、じゃないか…」
*薄暗い執務室に、低い声が響く。机に広げられた資料を照らすのは、窓から差し込む月明かりと、魔道具のランプの僅かな光だけ。その光に照らされた主人の顔には、普段の穏やかな父親のそれとは似ても似つかぬ、冷酷で狡猾な魔王の笑みが浮かんでいた。*
*口角を不気味に釣り上げ、神眼の力を使いながら、計画の細部を詰めていく。*
*まず、オルクスの名で作成した請求書は、宮内庁の公式な伝達ルートを使って、明日の一番にグレイグの元へ届けさせる。周囲の目がある中で突きつけることで、彼が隠蔽工作に走るのを防ぎ、心理的な圧力をかける狙いだ。*
*次に、諜報部のリオンとルナに極秘の指令を出す。グレイグ・フォン・ベルガーの24時間監視。彼の接触する人物、金の流れ、交わす会話の一言一句まで、全てを報告させる。特に、アガレス商会との接触は最重要監視対象だ。*
*そして、ヴァイス。第二部隊の情報記録担当である彼には、『アガレス商会』及び『グレイグ・フォン・ベルガー』に関する、あらゆる公的記録、過去の判例、関連法規を洗い出させる。法廷で彼らを断罪する際に、一分の隙も作らせないためだ。*
*最後に、カインとドルガン。強襲遊撃部隊である彼らには、いざという時のための準備を命じる。万が一、グレイグやアガレス商会が武力に訴えたり、国外逃亡を図ったりした場合、即座に身柄を確保するための実力行使部隊だ。*
*部下たちへの指令を、魔法の通信紙に次々と書き記していく。面倒なことは嫌いだが、一度やると決めたからには徹底的に、そして完璧にやる。それが彼の流儀だった。*
*シロウが仕掛けた「祝福」の計画は、水面下で着々と、そして恐ろしいほど順調に進んでいった。*
*オルクスの名で送られた請求書を受け取ったグレイグは、案の定、狼狽した。リオンとルナからの報告によれば、彼は執務室で書類を破り捨て、誰かに向かって罵詈雑言を浴びせていたという。その後、彼はすぐさまアガレス商会の代表マルコと密会。金の工面について話し合っていたようだ。その会話は全て、ルナが使役する影の使い魔によって記録されている。*
*さらに、諜報部が金の流れを追った結果、驚くべき事実が判明した。アガレス商会を通じて横領された金の一部は、巧妙にロンダリングされていた。*
*執務室でその報告を受けたシロウは、思わず「ほう」と感嘆の声を漏らした。*
シロウ:「これは…打首決定だな…」
*ただの横領ではない。これは、敵国への利益供与。外患誘致罪に相当する、紛れもない売国行為だ。ここまでくれば、もはや情状酌量の余地はない。今回の件が、一部の商人が独断で行ったことなのか。それを見極める必要もある。*
*面倒事が、さらに面倒な国際問題へと発展する可能性が出てきた。*
*椅子に深くもたれかかり、天井を仰ぐ。*
シロウ:「あとは、どこの国に流れているか…だが…」
*机に置かれた、アストライアを中心とした周辺国の地図を睨みつける。諜報部の追跡は巧妙で、金の流れは一度、中立都市国家である自由都市フリューゲルを経由し、そこからさらに別の国へと送金されていた。その最終目的地こそが、今回の黒幕がいる場所だ。*
*神眼を使い、諜報部が掴んだ断片的な情報と、アガレス商会の金の流れ、そして各国の情勢を脳内で高速に照合していく。*
シロウ:「(ヤマトではないことは確認済み…)」
*ヤマトは現在、徳川家康との同盟関係にあり、このような敵対行為に及ぶメリットがない。第一、彼らのやり方はもっと直接的で、こんな回りくどい工作は好まないだろう。*
*アークライト聖王国はレイラの手によってすでに滅びている。とすると、残るは…。*
*地図上の一点を、指でトン、と叩く。そこは、アストライアの北西に位置する、エルフたちが治める森林国家『シルヴァニア王国』。そして、そのさらに西、人間たちが支配する尚武の国『ガルブレイス帝国』だ。*
*シルヴァニア王国は、自然との調和を重んじる閉鎖的な国だ。他国への干渉を嫌う彼らが、このような工作を行うとは考えにくい。*
*となると、最も可能性が高いのは…ガルブレイス帝国。*
*近年、急速に軍備を拡張し、周辺諸国への圧力を強めている覇権主義国家。大迷宮の富と、それを独占するアストライアの存在を快く思っていない、という情報は以前から耳にしていた。我が国の国力を削ぎ、内部から混乱させることで、将来的な侵攻の足掛かりにしようとしている…。そう考えるのが、最も自然な筋書きだった。*
シロウ:「…帝国か。」
シロウ:「とりあえずバレる前に切るか」
*呟きながら、今後の対応策を決定する。ガルブレイス帝国が黒幕である可能性は高いが、現時点では確たる証拠がない。帝国側に「トカゲの尻尾切り」をされて、アガレス商会とグレイグの単独犯行ということにされてしまえば、それ以上の追及は難しい。下手に帝国を刺激し、全面戦争に発展するのは避けたい。*
シロウ:「(横領を告発して国外追放すればこっちに火の粉は飛んでこないだろう…)」
*そうだ。売国行為の事実は伏せたまま、あくまで「巨額の横領と脱税」という国内問題として処理する。グレイグとアガレス商会の主犯格を捕らえ、公開裁判にかける。罪状は横領と脱税。その上で、全財産を没収し、国外追放を言い渡す。*
*そうすれば、帝国との関係を悪化させることなく、国内の膿を出すことができる。*
シロウ:「よし、一段落…さて、ステラと風呂にでも入るか」
*面倒な頭脳労働を終え、ぐっと背筋を伸ばす。椅子に座りっぱなしだった体は少し凝り固まっていた。執務室の窓の外は、すっかり夜の帳が下りている。*
シロウ:「(これからは家族と一緒の時間を大切にしていこう)」
*国を動かす陰謀や策略も、王としての責務だ。だが、それ以上に大切なものがある。最近、仕事にかまけて家族との時間を疎かにしすぎていたかもしれない。特に、一番下の娘であるステラは、物心がつき始めたばかりの可愛い盛りだ。*
*執務室を出て、子供たちがいるであろう居住区へと向かう。廊下を歩いていると、ちょうど乳母に連れられて部屋に戻ろうとしているステラの姿を見つけた。*
ステラ:「あ! パパ!」
*父親の姿を見つけると、ステラはぱあっと顔を輝かせ、おぼつかない足取りで駆け寄ってくる。その小さな体をひょいと抱き上げると、柔らかい髪の匂いと子供特有の温かさが伝わってきた。*
シロウ:「ステラ、今からお風呂か? パパと一緒に入ろうか」
ステラ:「うん! パパと、はいる!」
*腕の中で、ステラが嬉しそうにこくこくと頷く。さっきまでの腹黒い魔王の顔はどこへやら、すっかり一人の父親の顔に戻っていた。国の未来も大事だが、この腕の中にある温もりこそが、何よりも守るべき宝なのだと、改めて実感するのだった。*
*広い大浴場には、父親と幼い娘の楽しげな声が響いていた。魔王城の大浴場は、いくつかの湯船に分かれており、今は親子二人で貸し切り状態だ。湯気で少し霞む視界の中、ステラがきゃっきゃと笑いながらお湯を跳ねさせている。*
シロウ:「ステラ、見ない間に大きくなったな。ご飯はちゃんと好き嫌いせずに食べてるか?」
*娘の小さな体を優しく洗いながら尋ねる。最後にこうしてゆっくり風呂に入ったのはいつだったか、思い出せないほど前かもしれない。仕事にかまけていた自分を少し反省する。*
*体を洗い終え、広い湯船に二人で浸かる。心地よい温かさに、日中の疲れがじんわりと溶けていくようだ。*
ステラ:「うん! ステラ、なんでもたべれるよ! にんじんさんも、ピーマンさんも、ぜーんぶ!」
*小さな胸を張って、得意げに報告する。その姿が可愛らしくて、思わず頬が緩んだ。*
シロウ:「そうか、偉いな、ステラは。たくさん食べて、お母様たちみたいに強くて綺麗になるんだぞ」
*そう言って娘の頭を撫でると、ステラは気持ちよさそうに目を細めた。*
ステラ:「うん! パパ、あのね、きょうね、ゼノとセレスと、おしろつくってあそんだの! すっごくおっきいの!」
*今日あった出来事を、覚えたての言葉で一生懸命に伝えようとしてくれる。その一言一句が、父親にとってはどんな報告書よりも価値のあるものだった。横領だの、帝国だの、面倒なことは一旦忘れ、今はただ、この愛しい娘との時間を満喫することにした。*
シロウ:「そうかそうか…えらいぞー」
*頭を撫でると、ステラは心地よさそうに目を細め、濡れた体でぴったりと寄り添ってくる。その無防備な姿がたまらなく愛おしく、自然と笑みがこぼれた。まるで甘えてくる子猫のようだ。*
*湯船の縁に腕を乗せ、娘の柔らかい髪を指で梳きながら、ぼんやりと湯気を見つめる。*
ステラ:「パパ、あったかいねぇ♡」
*舌ったどろな声で言うと、さらに体を密着させてくる。この小さな温もり、この無垢な信頼感。これが家族なのだと、心の底から実感する。*
シロウ:「ああ、あったかいな。風邪ひかないように、肩までしっかり浸かるんだぞ」
*返事をしながら、ステラの小さな肩にそっとお湯をかけてやる。彼女が大人になるまで、あとどれくらいこうして一緒に風呂に入れるのだろうか。ふと、そんなことを考えて少しだけ寂しくなった。*
*…いや、感傷に浸っている場合ではない。この子たちが安心して笑って暮らせる国を維持することが、父親として、王としての自分の役目だ。*
*グレイグの一件は、そのためのほんの始まりに過ぎない。腐敗の芽は、小さいうちに徹底的に摘み取らねばならない。*
*腕の中の温もりを確かめるように、もう一度ステラを優しく抱きしめた。*
*親子水入らずの時間を楽しんでいると、浴場の扉が静かに開き、湯気に濡れた黒髪の美しい女性が入ってきた。腰にタオルを巻いただけの、見慣れた妻の姿だ。*
レイラ:「おぉ、シロウではないか。こんなところで娘とイチャイチャしておったか。妾も混ぜよ」
*悪戯っぽく笑いながら言うと、慣れた様子で身体を清め、ざぶんと湯船に入ってくる。*
*(たまには家族で入るのも悪くない)*
*そう思いながら、近づいてきたレイラの肩を軽く抱き寄せる。*
ステラ:「あ、ママ!」
*ステラが嬉しそうに声を上げ、レイラの方へ泳ぐように近づいていく。レイラはその小さな体を優しく抱きとめ、頬に口づけた。*
レイラ:「うむ、ステラも良い子で入っておったか。父上に変なことをされておらんか?」
シロウ:「おい、人聞きの悪いことを言うな。純粋に親子のコミュニケーションだ」
*軽口を叩くと、レイラは「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向く。そんなやり取りを見ながら、ステラは「へんなこと?」と不思議そうに小首を傾げた。その純真無垢な瞳に、思わず笑みがこぼれる。本当に可愛い。*
ステラ:「ママ、へんなことってなあに?」
レイラ:「うむ、それはな、ステラ。父上がお主をくすぐったり、高い高いをしたりすることだ。嫌ではなかったか?」
ステラ:「ううん! パパのたかいたかい、すき! もっとやってほしい!」
*ぱあっと顔を輝かせて言うステラに、レイラは少し不満そうな顔をする。*
レイラ:「む…そうか。まあ、父上がお主を可愛がるのは良いことだがな。…シロウ、あまりステラばかり甘やかすでないぞ。ゼノとセレスが拗ねる」
シロウ:「分かってるって。ちゃんとみんな平等に可愛がってるさ」
*そう言いながら、レイラの濡れた髪を優しく撫でる。腕の中のステラと、隣にいるレイラ。この温かい空間が、日々の疲れや面倒事を忘れさせてくれる。*
*この平穏を守るためなら、どんな手段も厭わない。たとえそれが、誰かを社会的に抹殺することであったとしても。見せしめは必要だ。この国で不正を働けばどうなるか、内外に知らしめる良い機会だろう。*
シロウ:「もちろんお前のこともな」
*耳元で囁くと、レイラの肩がぴくりと震える。彼女はちらりとこちらを一瞥すると、すぐに顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。こういうところが可愛いのだ。*
レイラ:「ば、馬鹿者…! 子供の前で何を言うか!」
ステラ:「なーに? パパ、ママのこともたかいたかいするの?」
*状況がよく分かっていないステラが、無邪気に尋ねる。その純粋さが、少し気まずい空気を和ませてくれた。*
シロウ:「ああ、そうだぞ。ママのことも、だーいすきだからな」
*そう言ってレイラの頬に軽く口づけると、彼女はますます顔を赤くして俯いてしまう。*
レイラ:「……もう知らぬ。勝手にせい…」
*蚊の鳴くような声で呟くが、その口元は微かに綻んでいた。*
*今はただ、この何気ない家族の時間を噛みしめる。ステラの無邪気な笑い声と、レイラの照れた顔。*




