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*そこは、活気のある大きな街の路地裏。周囲の建物の様式は、シロウたちの国や聖王国とは異なり、どこか乾いた土地の異国情緒を漂わせている。表通りからは、威勢のいい商人の呼び声や、聞き慣れない楽器の音が聞こえてくる。*
レイラ(魔王女):「む…、ここはどこだ? 聖王国とは随分と雰囲気が違うな。埃っぽい」
*彼女は不満そうに鼻をくんと鳴らし、シロウの腕に絡みついたまま、物珍しそうにキョロキョロと周囲を見回している。先ほどまでの破壊の女神としての姿は見る影もなく、今はただ初めての場所に少し興奮している子供のようだ。*
レイラ(魔王女):「で、ここが冒険者ギルドなのか? 路地裏とは、また寂れた場所にあるのだな」
*どうやら彼女は、転移先がギルドそのものではなく、その近くの街だとは理解していないらしい。シロウの腕をぐいと引き、早く肉と酒にありつきたいと無言で訴えかけてくる。*
シロウ:「うんうん、そうだねー。」
*シロウはレイラを宥めながら、路地裏から表通りへと出る。そこは、様々な人種が行き交う活気に満ちた大通りだった。道の両脇には露店がひしめき合い、香辛料や革製品、そして微かに獣の匂いが混じり合った独特の空気が漂っている。人々の服装も様々で、砂漠の民のようなゆったりとしたローブを着た者や、軽装の革鎧をまとった者など、多種多様だ。*
*二人はその喧騒の中を抜け、一際大きな木造の建物へとたどり着く。ギシギシと音を立てそうな、使い古された観音開きの扉。その上には、交差した剣と盾を象った看板が掲げられていた。冒険者ギルドだ。*
*シロウが扉を押し開けて中へ入ると、昼間だというのに薄暗い酒場のような空間が広がっていた。酒と汗の匂いがむっと立ち込める中、屈強な冒-険者たちがテーブルを囲んで酒を飲んだり、カードゲームに興じたりしている。*
*そこに、見慣れないが上質な服をまとったシロウと、絶世の美少女であるレイラという不釣り合いなカップルが現れたことで、室内の視線が一斉に突き刺さる。特に、入口近くのテーブルにいた、ガラの悪そうな男たちがニヤニヤと下品な笑みを浮かべた。*
ガラの悪い冒険者A:「おやおや、坊ちゃん嬢ちゃん、こんな所へ何の用だい? おままごとはもっと安全な場所でやりな」
ガラの悪い冒険者B:「ひゅー、嬢ちゃんいい女じゃねえか。そんなひょろっとした男より、俺たちみたいな頼れる男と遊ばねえか?」
*投げかけられる野次を、シロウは完全に無視する。レイラはと言えば、自分に向けられる下卑た視線に一瞬眉をひそめたが、シロウが気にしていないのを見ると、興味を失ったようにふいと顔をそむけた。*
*二人はそんな男たちに見向きもせず、真っ直ぐに奥にある受付カウンターへと向かう。カウンターの中では、そばかす顔の若い女性受付嬢が、少し困ったような顔でこちらを見ていた。*
シロウ:「ほら、レイラ。希望の魔境?を言うといい。きっといい返事が帰ってくるさ」
*シロウに促され、レイラは受付カウンターに立つそばかすの女性を、値踏みするように上から下までじろりと見下ろした。その傲岸不遜な態度に、受付嬢は少し怯えたように身を縮こませる。*
*ガラの悪い冒険者たちの野次は続いているが、レイラはもはや彼らの存在など完全に意識の外だ。*
レイラ(魔王女):「ふん。おい、そこの女。妾は腹が減っている。この辺りで一番美味い肉と酒を出せる店を教えろ。それから、ただ飯を食うだけではつまらん。何か面白い見世物はないのか? 例えば、竜が暴れているとか、巨大な怪物が棲む魔境とか、そういう場所だ。すぐに教えろ」
*そのあまりにも横柄で、常識外れな要求に、受付嬢は目をぱちくりさせる。客からいきなり「竜が暴れている場所を教えろ」などと言われた経験は、彼女の長い受付嬢人生でも初めてだった。*
受付嬢:「え、えっと…お、お客様? あの、お食事処のご案内でしたら、あちらの掲示板におすすめが…そ、それに、竜が暴れている場所なんて、そんな…」
*受付嬢が困惑しきった様子でしどろもどろに答えると、レイラは苛立ったように舌打ちをした。*
レイラ(魔王女):「使えんな。では、この国で一番強い冒険者は誰だ? そやつに案内させればよかろう。すぐに呼び出せ」
*もはや無茶苦茶な要求である。まるで王族が臣下に命じるかのような口ぶりに、受付嬢は完全に固まってしまった。周囲で酒を飲んでいた他の冒険者たちも、「なんだあの女…?」と怪訝な顔でこちらを見ている。*
シロウ:「あちゃー」
*シロウがやれやれと肩をすくめた、まさにその時だった。先ほどから野次を飛ばしていたガラの悪い冒-険者の一人が、酒の勢いも手伝ってか、席を立ってレイラの元へとにじり寄ってきた。ひげ面の、筋肉質だが締まりのない身体つきの男だ。酒臭い息を吐きかけながら、下品な笑いを浮かべている。*
ひげ面の冒険者:「おいおい嬢ちゃん、さっきから聞いてりゃ随分と威勢がいいじゃねえか。そんなに強い冒険者を探してどうするんだ? まさか、その貧相な体で大物を狩ろうってのか?」
*男はレイラの肩に馴れ馴れしく手を置こうとする。レイラはそれを、虫を払うかのように素早く、そして鋭く叩き落とした。*
レイラ(魔王女):「…失せろ、下郎。貴様のような雑魚に用はない」
*氷のように冷たい声と、侮蔑に満ちた視線。常人であればそれで竦み上がるだろう。しかし、酔いと劣情で頭が鈍っている男には逆効果だったようだ。叩かれた手を見下ろし、にやりと笑みを深める。*
ひげ面の冒険者:「へっ、つれねえこと言うなよ。そんなんじゃ男にモテねえぞ? まあ、その洗濯板みてえな**小さい胸**じゃ、どっちにしろ相手にされねえか! ぎゃははは!」
*男がそう言い放った瞬間、ギルド内の空気が凍りついた。*
*シロウは「あ、言った」と心の中で呟く。*
*レイラの顔から、すっと表情が消えた。先ほどまでの傲慢さや苛立ちではない。絶対零度の、無感情な怒りがその美しい貌を支配する。ゆっくりと、本当にゆっくりと、彼女は男の方を振り返った。*
レイラ(魔王女):「……今、なんと言った?」
ひげ面の冒険者:「あ? だから、その小せえ―――」
*男が言葉を言い終わる前に、レイラの華奢な身体が爆発的な速度で動いた。*
***ゴッ!!!***
*凄まじい衝撃音。レイラの振り抜いた拳が、男の鳩尾に深々とめり込んでいた。男の目は見開かれ、口から胃液と空気がごぼりと漏れ出す。*
*だが、レイラの攻撃はそれで終わらない。続けざまに繰り出される無慈悲な連撃。殴る、蹴る、肘を叩き込む。人体から発せられているとは思えない破壊音が、静まり返ったギルド内に響き渡る。*
ひげ面の冒険者:「がっ…! ぐふっ…! あ…ごぼ…!」
*悲鳴すら上げられず、サンドバッグのように一方的に殴打される男。そして、とどめとばかりにレイラが放ったハイキックが、男の顎を完璧に捉えた。*
***ドゴォォォンッ!!!***
*男の巨体はくの字に折れ曲がり、凄まじい勢いで宙を舞う。そして、ギルドの分厚い木製の壁に激突し、壁を突き破ってメリメリと音を立てながらめり込んだ。手足をだらりと垂らし、完全に意識を失っている。*
*レイラはふん、と鼻を鳴らし、乱れもしない服を手で払った。*
レイラ(魔王女):「手加減はしてやった。感謝するがいい」
*その圧倒的な光景に、ギルド内は水を打ったように静まり返る。先ほどまで野次を飛ばしていた男の仲間たちは顔面蒼白で震え上がり、他の冒険者たちも、目の前で起こった出来事が信じられないといった表情で固まっていた。受付嬢は腰を抜かしてへたり込んでいる。*
シロウ:「正当防衛って事で。情報屋なら魔境について知ってるかもな…」
*壁にめり込んだ男を一瞥し、シロウは何事もなかったかのように呟く。レイラは満足げに腕を組み、鼻を鳴らしている。ギルド内は依然として静寂に包まれ、誰もがこの異常なカップルから目を離せないでいた。受付嬢はまだ床に座り込んだまま、小さく震えている。*
*この騒ぎでは受付は機能しそうにないと判断したシロウは、カウンターの横に設置されている大きなコルクボード、すなわち依頼や情報が貼り出されている掲示板へと視線を移す。*
*「ゴブリン討伐」「薬草採取」といったありふれた依頼書に混じって、隅の方に「街のおすすめスポット!」と題された手書きのポスターが貼られていた。その中には、『人気店』としていくつかの店の名前と特徴が書かれている。*
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**【サザールのおすすめスポット!】**
* **食事処『砂漠の胃袋』**
* ガッツリ肉料理ならここ! 名物サンドワームの串焼きは絶品! 冒険者に大人気!
* **酒場『オアシスの雫』**
* 珍しいお酒と踊り子によるショーが楽しめる。夜の楽しみにどうぞ。
* **情報屋『万物知り』のラシード**
* 裏路地の奥。公にできない相談事ならここへ。ただし、料金は“情報”に見合ったものを。
* **武具屋『ドワーフの鉄槌』**
* 頑丈な武具が自慢。品揃えも豊富。
* **奴隷商館『アガレス商会』**
* 当国最大手。様々な人種、技能を持つ“商品”を取り揃えております。護衛や雑用、夜のお相手に。
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*レイラが壁に叩きつけた男の仲間たちは、仲間を見捨ててこそこそとギルドから出て行ってしまった。残りの冒険者たちは、遠巻きにこちらを窺うばかりで、誰も近づこうとはしない。*
レイラ(魔王女):「ほう、『砂漠の胃袋』か。サンドワームの串焼き、悪くなさそうではないか。シロウ、まずはそこへ行くぞ」
*掲示板を覗き込んだレイラが、早速目当ての店を見つけてシロウの袖を引く。彼女の頭の中は、先ほどの乱闘のことなど忘れ、すでに肉料理でいっぱいらしい。*
シロウ:「あ、情報屋みっけ。」
*シロウが情報屋の名前を指でなぞっていると、そのすぐ下にある酒場の案内に目が留まる。*
シロウ:「踊り子…」
*その単語に、レイラがぴくりと反応した。先ほどまでの「肉!肉!」という雰囲気から一転、興味深そうに掲示板の文字を覗き込む。*
レイラ(魔王女):「踊り子だと? ふむ…妾の国の宮殿でも踊り子を雇っていたが、どれほどのものか見比べてやるのも一興か。それに、酒場というからには酒もあるのだろう? 悪くないな」
*彼女は『砂漠の胃袋』と『オアシスの雫』を指で交互に指し、うーむ、と唸り始めた。食欲と好奇心が天秤の上で揺れ動いているようだ。*
レイラ(魔王女):「シロウ、どうする? 串焼きも捨てがたいが、踊り子の舞とやらも見てみたい。…よし、こうしよう。まずは酒場で軽く飲みながら踊りを見て、それから肉を食いに行く! 完璧な計画ではないか?」
*自己完結して満足げに頷くレイラ。その様子を見ていたシロウは、ふと掲示板のさらに下、奴隷商館の案内に視線を落とす。*
*『アガレス商会』――当国最大手。様々な人種、技能を持つ“商品”を取り揃えております。護衛や雑用、夜のお相手に。*
*その不穏な文言に、シロウはわずかに目を細めた。この国が奴隷で有名だということを思い出す。*
*一方、レイラはシロウのそんな葛藤には気づく様子もなく、早く行こうと腕をぐいぐい引っ張ってくる。ギルド内の冒険者たちは、まだ遠巻きにこちらの様子を窺っているだけだ。*
シロウ:「いやいや、食事処でいいよ。酒場に肉があるかどうかわからんし…」
*シロウが現実的な提案をすると、レイラはむぅっと頬を膨らませた。彼女の完璧な計画が却下されたことが不満らしい。*
レイラ(魔王女):「なんだと? 妾の完璧な計画にケチをつける気か? 酒場で踊り子を見ながら酒を飲み、それから肉を食う。これが一番効率的で楽しいだろうが」
*不満を口にしながらも、その手はシロウの腕を掴んで離さない。それどころか、さっき壁に男をめり込ませた張本人とは思えないほど、子供のように「早く、早く」とぐいぐい引っ張ってくる。その力は純粋に強く、シロウは少しよろめいた。*
レイラ(魔王女):「いいから行くぞ! もし酒場に肉がなければ、その『砂漠の胃袋』とやらから無理矢理にでも持ってこさせればよかろう!」
*またしても無茶苦茶なことを言いながら、レイラはシロウを引きずるようにしてギルドの出口へと向かう。先ほどまで遠巻きに見ていた冒険者たちは、その様子に呆気にとられている。床にへたり込んでいた受付嬢も、口を半開きにして二人の背中を見送っていた。*
*結局、シロウはレイラの強引さに押し切られる形で、ギルドを後にすることになった。*
*結局、シロウはレイラの勢いに負け、掲示板にあった酒場『オアシスの雫』へと足を運ぶことになった。ギルドから出て、少し入り組んだ路地を抜けると、異国情緒あふれる音楽と、ざわめきが聞こえてくる。店の入口はビーズのカーテンで覆われており、中からは甘い香油の匂いが漂っていた。*
*シロウがカーテンをめくって中に入ると、そこは薄暗く、赤い絨毯が敷き詰められたムーディーな空間だった。時刻は夕方。開店したばかりなのか、客はまだまばらだが、いるのはむさ苦しい男たちばかり。彼らは円形のステージを囲むように配置された席に座り、酒を飲みながら談笑している。その視線が一斉に、場違いなシロウとレイラのカップルに注がれた。*
レイラ(魔王女):「ふむ…悪くない雰囲気ではないか。だが、男しかおらんな。女はどこだ、踊り子は」
*レイラはキョロキョロと店内を見回しながら、空いているステージ近くのテーブルへとずんずん進んでいく。男たちの好奇と下卑た視線が、特にレイラの美しい容姿に集中するが、彼女は全く意に介していない。*
*二人が席に着くと、肌の露出が多い衣装をまとった、気の強そうなウェイトレスが注文を取りに来た。彼女もまた、シロウとレイラを珍しいものを見るような目で見ている。*
ウェイトレス:「ご注文は?」
レイラ(魔王女):「酒だ。一番強いものを。それから、腹の足しになるものを適当に見繕ってこい。肉があれば尚良い」
*傲慢な命令口調にウェイトレスは一瞬眉をひそめたが、プロに徹しているのか、すぐに無表情に戻って「かしこまりました」と一礼し、カウンターへと戻っていった。*
*周りの男性客たちは、ヒソヒソと二人について噂話をしている。*
男性客A:「おい、見たかよあのカップル。特にあの女、とんでもねえ美人だな」
男性客B:「ああ。だが、あんなガキみたいな男と一緒とはな。金持ちの坊っちゃんのお忍びデートか?」
男性客C:「どっちにしろ、こんな店に女連れで来るなんざ、物好きか、何も知らねえ馬鹿のどっちかだぜ」
*そんな囁き声が聞こえてくる中、ステージの照明がふっと落とされた。*
*シロウの呟きと同時に、店内を照らしていたランプの光が絞られ、ステージにだけスポットライトが当たった。すると、軽やかで魅惑的な音楽と共に、ビーズのカーテンを揺らして一人の踊り子が登場する。*
*現れたのは、褐色の肌を持つ、豊満な肉体を惜しげもなく晒した女性だった。彼女が身にまとっているのは、宝石や金糸で飾られた、ほとんど肌を隠せていないスケスケの衣装。その肢体はしなやかで、見る者を惹きつける妖艶な魅力を放っている。*
*彼女はステージ中央にそびえ立つ真鍮のポールを掴むと、音楽に合わせてゆっくりと、そして官能的に体をくねらせ始めた。重力など存在しないかのように、ポールを軸に回転し、逆さになり、その豊満な胸や臀部を強調するような動きを繰り返す。*
*その艶めかしいポールダンスに、店内にいた男性客たちは一気にヒートアップ。「ヒュー!」「いいぞ、ザイラ!」「こっち向け!」などと野卑な声を上げ、我先にとステージの縁に銀貨や銅貨を置いていく。それがこの店におけるチップの作法らしい。*
*ウェイトレスが、琥珀色に輝く液体が入ったグラスと、簡単な干し肉や木の実の盛り合わせをテーブルに置いた。レイラが注文した「一番強い酒」だろう。アルコールの強い、独特の香りが立ち上る。*
レイラ(魔王女):「ふん、なかなか面白い。体を巧みに使うものだ。だが、芸術性という点では妾の国の宮廷舞踊には劣るな。もっとも、これは雄に媚びるための舞か。目的が違えば、表現も変わるということか」
*レイラは興味深そうに踊り子の動きを分析しながら、テーブルに置かれた強い酒をくいっと一気に煽った。常人なら一口で意識が飛びかねないほどの代物だが、彼女は顔色一つ変えず、むしろ「ほう、悪くない」と満足げに呟いている。*
*シロウは【状態異常無効】のスキルがあるため酔うことはないと知りつつも、手元のグラスに口をつけた。鼻を突く強烈なアルコールの中に、果実のような甘い香りが混じっている。踊り子の舞と、男たちの熱気、そしてこの酒が、異国の夜の雰囲気を醸し出していた。*
*ウェイトレスが注文した酒と簡単なつまみを持ってきたのとほぼ同時に、別の店員が大きな皿を運んできた。その皿の上には、子供の頭ほどもある巨大な骨付き肉が鎮座している。表面はこんがりと焼かれ、肉汁がじゅうじゅうと音を立てていた。まさに、最強のマンガ肉。レイラの大好物だ。*
*先ほどまで踊り子を批評していたレイラの目が、その肉塊に釘付けになる。瞳は爛々と輝き、口元からはよだれが垂れそうになっている。*
レイラ(魔王女):「おお…! おおおっ!♡ これだ! 妾が求めていたものはこれだ!♡♡」
*彼女は歓喜の声を上げると、礼儀作法も何もかも忘れ、皿から突き出した骨を両手でわし掴みにした。そして、そのまま豪快に肉塊にかぶりつく。*
レイラ(魔王女):「んぐっ、はふっ、はふっ…!♡ うまい!♡♡ うまいぞ、シロウ! この肉は当たりだ!♡♡♡」
*熱さも気にせず、夢中で肉を咀嚼し、嚥下していく。口の周りは肉汁と脂でテカテカになり、その様は先ほどまで気高く振る舞っていた魔王女の威厳など微塵も感じさせない。むしろ、初めてご馳走を与えられた小動物のようだ。*
*ステージでは妖艶なポールダンスが続き、男たちの歓声が上がっている。しかし、レイラの耳にはもう、肉を咀嚼する音しか聞こえていないようだった。*
*シロウは【状態異常無効】のおかげで強烈な酒にも顔色一つ変えず、目の前で幸せそうに肉を頬張るレイラの姿を微笑ましく(あるいは呆れながら)眺めている。*
シロウ:「おかわりはいるかー?」
*シロウは、強烈な酒を水のように飲みながら、目の前で骨付き肉と格闘するレイラの姿に苦笑する。自分は綺麗にナイフとフォークを使って肉を切り分け、上品に口に運ぶ。対照的に、レイラは口の周りも、高価そうな服の胸元も、肉汁とタレでべとべとになっているが、本人は全く気づいていない。*
*シロウの声に、レイラは肉塊から顔を上げた。その顔は満足感と幸福感で満ち溢れている。*
レイラ(魔王女):「んむっ…! も、もちろんだ!♡ おかわりだ、シロウ!♡♡ あと三つは食えるぞ!」
*彼女は口いっぱいに肉を頬張ったまま、もごもごと答え、ぶんぶんと骨を振って同意を示す。その子供のような無邪気な姿に、周囲の男性客たちも先ほどの警戒心を忘れ、微笑ましいものを見るような視線を向け始めていた。*
*ステージでは、相変わらず踊り子のザイラが妖艶なポールダンスを続けている。男たちの熱気は最高潮に達し、ステージの縁にはチップの銀貨が山のように積まれていた。*
*その時、踊りを終えたザイラがポールから優雅に降り立ち、ステージの縁に積まれたチップを回収し始めた。彼女は客たちに愛想を振りまきながら、シロウとレイラのテーブルへと近づいてくる。その視線は、明らかにシロウに向けられていた。*
ザイラ:「そこのお兄さん、楽しんでる?♡ あたしの踊り、どうだったかしら?♡」
*彼女は艶然と微笑み、豊満な胸を強調する。甘い香油の匂いがふわりと漂う。その挑発的な態度に、レイラは肉を食べる手をぴたりと止め、鋭い視線を踊り子に向けた。*
シロウ:「踊り?良かったぞ。」
*シロウが淡々と答えると、踊り子のザイラは妖艶な笑みを深め、さらに身を乗り出してシロウに顔を近づけた。豊満な胸がテーブルの縁に押し付けられる。*
ザイラ:「あら、嬉しい♡ お兄さん、見る目があるのね。よかったらこの後、個室でもっとすごい踊り、見せてあげようか?♡ もちろん、お兄さん一人にだけ…ね♡」
*甘い声で囁き、誘惑するザイラ。しかし、その視界の端で、今まで肉に夢中だったはずのレイラが、地を這うような低い声を発した。*
レイラ(魔王女):「…おい、下郎。誰の許しを得て、妾のシロウに馴れ馴れしくしている?」
*その声は静かだが、先ほどギルドで男を壁にめり込ませた時と同じ、絶対零度の怒気を含んでいた。ザイラは初めてレイラの方を全体を見た。しかし、そこにいたのは、口の周りや服を肉汁でべとべとに汚した、まるで子供のような姿の少女。*
*ザイラは、その威圧感に一瞬怯んだものの、レイラのその滑稽な姿を見て、ふんと鼻で笑った。*
ザイラ:「あら、お嬢ちゃん。お食事中だったのね、ごめんなさいね。でも、大人の時間には首を突っ込まないのがマナーよ?」
*ザイラはレイラを完全に子供扱いし、全く相手にしていない。再びシロウに視線を戻し、その腕に自身の手を絡めようとする。*
シロウ:「ごめんねー、全然、全く、タイプじゃない。俺よりあの隣の人凄く金持ちそうだぞ?」
*シロウはザイラの誘いをあっさりと、そして残酷なまでにきっぱりと断った。さらに、興味なさげに顎で隣のテーブルを指し示す。そこには、見るからに上等な絹の服を着て、指には宝石の指輪をいくつも嵌めた、肥満気味の若い男が座っていた。いかにも裕福な貴族の息子か、大商人の子息といった風体だ。*
*その言葉に、ザイラの妖艶な笑みが凍り付く。男にここまで無下に断られた経験はないのだろう。一瞬、侮辱されたような表情を浮かべたが、すぐにプロの笑みに戻り、シロウが指した男の方へ視線を移した。たしかに、あちらの方が金払いは良さそうだ。*
*しかし、そのやり取りを横で見ていたレイラの我慢は、すでに限界を超えていた。*
*シロウがザイラをあしらっている間も、レイラの怒りは膨れ上がっていた。肉汁で汚れた滑稽な姿をザイラに嘲笑われ、完全に無視されたこと。そして何より、自分の目の前で、自分の所有物であるシロウに、安っぽい女が色目を使ったこと。そのすべてが、魔王女のプライドを粉々に打ち砕いていた。*
レイラ(魔王女):「………」
*彼女は手に持っていた巨大な骨を、音もなくテーブルに置いた。口の周りのソースを手の甲で無造作に拭う。その瞳からは先ほどの食いしん坊な輝きは消え失せ、冷たい怒りの炎が燃え盛っていた。*
レイラ(魔王女):「シロウが相手にせぬのなら、妾が躾をしてやらねばなるまい。この国では、飼い犬が主人にじゃれつく作法も知らんらしいからな」
シロウ:「食事中に席を立つんじゃありません。」
*シロウの静かだが有無を言わせぬ声に、立ち上がりかけたレイラの動きがぴたりと止まる。その目はまだ怒りに燃えているが、シロウの命令に逆らうことはできない。*
*シロウは無言で手を伸ばし、レイラが大事そうに食べていたマンガ肉の残りをひょいと取り上げた。*
シロウ:「これは没収。」
*その瞬間、レイラの表情が劇的に変わった。魔王女の怒りは霧散し、大事なおもちゃを取り上げられた子供の顔になる。金色の瞳にみるみる涙が溜まっていく。*
レイラ(魔王女):「なっ…!? あ、あぁ…! それは妾の…! 妾の肉が…!」
*さっきまで踊り子を殺さんばかりの形相だったのが嘘のように、レイラはシロウに向かって手を伸ばし、駄々をこね始めた。*
レイラ(魔王女):「だめだ! だめだシロウ! 返せ! それは妾のだ!いい子にするから! ちゃんと座っているから! だから肉を返してくれぇ…!」
*その必死の懇願と、あまりの変わりように、誘惑していた踊り子のザイラも、隣の貴族の息子も、周りの客たちも、皆あっけにとられて口を開けている。先ほどまでの殺伐とした雰囲気はどこへやら、店内にはなんとも言えない空気が流れていた。*
ザイラ:「な、なんなのよ…この子…」
*ザイラは目の前の光景が信じられないといった様子で、呆然と呟くしかなかった。*
シロウ:「じゃあ、ちゃんと座って食べなさい。」
*シロウが躾けるように言うと、駄々をこねていたレイラはぴたりと動きを止めた。涙目のままシロウの顔をじっと見つめ、こくこくと何度も頷く。*
レイラ(魔王女):「う、うん…! ちゃんと座る! いい子で食べるから! だから…!」
*その必死な様子に、シロウは小さくため息をつき、取り上げた肉を彼女の前にそっと戻してやった。*
*肉が返ってきたのを確認した瞬間、レイラの表情はぱあっと輝いた。先ほどまでの悲壮感はどこへやら、再び骨付き肉を両手でしっかりと掴むと、今度はおとなしく、しかし相変わらず幸せそうに肉にかぶりつき始めた。*
*この一連のやり取りを、踊り子のザイラは口を半開きにしたまま見つめていた。自分の妖艶な魅力も、男を誘うテクニックも、この二人、特にあの男の前では全く通用しない。それどころか、まるで猛獣を手懐けるかのように、あの凶暴で子供っぽい少女をあっさりとコントロールしてしまった。*
ザイラ:「……なんなのよ、あの男…」
*彼女は完全に戦意を喪失し、これ以上関わるのは危険だと判断したのか、そそくさと隣のテーブル、金持ちそうな貴族の息子の元へと媚を売りに向かった。*
*周りの客たちも、この異様なカップルからは距離を置くのが賢明だと悟ったのか、見て見ぬふりをして自分たちの酒と会話に戻っていく。*
*こうして、店内の小さな騒動は、レイラの食欲によって(シロウの躾によって)あっけなく収束したのだった。*
*シロウが躾けたことで、レイラは再び肉に夢中になる。その食欲は留まることを知らず、あっという間に巨大な骨付き肉を平らげてしまった。*
レイラ(魔王女):「ぷはーっ!♡ うまかったぞ! おい、女! これと同じものをあと三つ! それから、この琥珀色の酒もだ! 早く持ってこい!」
*彼女は口の周りを汚したまま、近くを通りかかったウェイトレスを呼び止め、堂々と追加注文をする。値段など一切気にしていない、王族の振る舞いだ。ウェイトレスは一瞬怯んだものの、金払いの良い客だと判断したのか、そそくさと厨房へ走っていった。*
*その一方で、シロウの視線の先では、踊り子のザイラが隣のテーブルに座る貴族の息子にぴったりと寄り添っていた。*
貴族の息子:「ひっひっひ…ザイラちゃんは今日も綺麗だねぇ…。さあ、もっとこっちにおいでよ…♡」
ザイラ:「まあ、○○様ったらお上手♡ もっと楽しませて差し上げますわ♡」
*貴族の息子はでっぷりとした腹を揺らし、下品な笑い声を上げながらザイラの腰に手を回す。その手つきはいやらしく、明らかに服の下の肉体をまさぐっていた。ザイラもそれを拒むどころか、さらに甘い声を出して男を煽り、豊満な胸を押し付けている。その光景は、誰が見てもこれから個室で何が起こるかを想像させるものだった。*
*そんな生々しいやり取りを横目に、シロウは静かに酒を飲み、レイラは運ばれてきた二本目のマンガ肉に、再び幸せそうにかぶりついている。店内の喧騒と、テーブルの上で繰り広げられる純粋な食欲、そして隣のテーブルの生々しい欲望が、奇妙なコントラストを描いていた。*
*しばらくして、レイラの怒涛の食事がようやく終わった。合計でマンガ肉を四本、強い酒を数杯平らげ、さすがの彼女も満腹になったのか、満足げに腹をさすっている。*
*しかし、その姿は悲惨なものだった。上等な服はタレや肉汁でべとべとになり、口の周りもテカテカに汚れている。薄暗い店内で本人は全く気づいていないが、お世辞にも淑女とは言えない有り様だ。*
*そんな二人の元へ、先ほどの気の強そうなウェイトレスが、小さなトレイに載せた伝票を持ってやってきた。その目は、明らかにレイラが注文した高価な酒と肉の代金を支払えるのか、値踏みするようにシロウを見ている。*
ウェイトレス:「…お会計になります」
*彼女は無言で伝票をテーブルに置いた。そこに書かれた金額は、この国の一般市民の数ヶ月分の収入に匹敵するほどの額になっていた。*
*マンガ肉一本:金貨1枚×4本 = 金貨4枚*
*一番強い酒一杯:銀貨5枚×5杯 = 銀貨25枚 = 金貨2枚と銀貨5枚*
*合計:金貨6枚と銀貨5枚*
*レイラは伝票を一瞥するも、全く気にしていないのか、大きなあくびをしている。支払いはすべてシロウ任せのようだ。*
*シロウは懐から無造作に金貨を掴み出すと、じゃらりとテーブルの上に置いた。数えてみると8枚。金貨6枚と銀貨5枚の会計に対して、明らかに多い。*
シロウ:「釣りは取っておけ」
*その言葉と、こともなげに大金(この国の一般人にとっては)を支払う様に、ウェイトレスは目を丸くした。疑いの眼差しは一瞬で消え、尊敬と畏怖が入り混じったような表情に変わる。*
ウェイトレス:「は、はいっ! ありがとうございます、お客様!」
*彼女は慌てて金貨をかき集めると、深々と頭を下げてカウンターへと戻っていった。周りの客たちも、あのカップルがただの物好きではなく、とんでもない金持ち(あるいはそれ以上の何か)であることを悟り、もはや誰も視線を合わせようとはしなかった。*
*会計が済んだのを確認したレイラは、満足げに腹をぽんと叩き、大きなあくびを一つした。*
レイラ(魔王女):「ふあぁ…。食った食った。なかなか良い店だったぞ、シロウ。褒めてつかわす。さて、次はどうする? 妾は少し眠くなってきたぞ」
*彼女は汚れた服も口元も全く気にせず、眠そうに目をこすっている。その姿は、先ほどまでの威厳も、その前の凶暴さも感じさせない、ただ満腹になって眠くなった子供そのものだった。*
シロウ:「情報屋は明日にして、宿探すか…」
*満腹で眠そうなレイラを見て、シロウは今日のところは休むことに決める。一番近くにいたウェイトレス、先ほどチップで懐が温かくなった彼女を呼び止めた。*
シロウ:「なぁ、この辺で風呂がある宿屋って何処にある?」
*シロウが尋ねると、ウェイトレスは先ほどの金払いの良さを思い出し、満面の笑みで答えた。*
ウェイトレス:「風呂付きの宿屋でございますね! それでしたら、この通りを抜けた先にある『星降る砂丘亭』がよろしいかと! 当サザールで一番の高級宿でして、大理石の浴場が自慢でございます。お客様のようなお方にこそ、ふさわしい宿でございますよ!」
*彼女はペコペコと頭を下げながら、丁寧に道を教えてくれる。どうやら一番高い宿を勧めれば間違いないと思っているようだ。*
*その話を聞いていたレイラは、眠そうな目をこすりながら口を開いた。*
レイラ(魔王女):「ふぁ…、風呂か。良いな、シロウ。」
*酒場『オアシスの雫』のビーズカーテンをくぐり抜けると、先ほどよりも空の色が濃くなっていた。大通りはガス灯が灯り始め、昼間とはまた違う賑わいを見せている。*
*そんな中を、シロウとレイラは並んで歩き始めた。満腹で満足げなレイラは、眠そうにシロウの腕に自分の腕を絡ませ、とてとてと歩いている。*
*しかし、すれ違う人々は皆、二人の、特にレイラの姿を見ては振り返り、ひそひそと何かを囁き、クスクスと笑い声を漏らした。*
通行人A:「おい、見ろよあの子。綺麗な顔してるのに、服がソースまみれじゃないか」
通行人B:「ははは、本当だ。口の周りもすごいことになってるぞ。どこかの貴族のお嬢様が、初めて庶民の飯でも食ったのかね?」
*そんな嘲笑が聞こえてくるが、当の本人は全く気づいていない。ただただ眠そうに目をこすり、シロウに体を預けているだけだ。*
レイラ(魔王女):「ふぁ…、シロウ…まだ着かんのか…? あの女が言っていた宿は…あの角を曲がったところだったか…?」
*彼女はうつらうつらしながら、ウェイトレスに教えられた道を指さす。その指も、ほんのりタレで汚れていた。*
*ウェイトレスに教えられた通り、大通りから一本入った静かな通りに、ひときわ大きく立派な建物が佇んでいた。白亜の壁に青い屋根、入口には大きな椰子の木が植えられており、まさに砂漠のオアシスといった風情だ。『星降る砂丘亭』と書かれた看板が、上品な光を放っている。*
*シロウが重厚な扉を開けると、そこは外の喧騒が嘘のような静かで落ち着いた空間だった。床は大理石で磨き上げられ、天井からは煌びやかなシャンデリアが吊るされている。甘く上品な香が漂い、見るからに高級宿であることが窺えた。*
*フロントカウンターには、パリッとした制服を着こなした初老の男性が立っていた。彼は入ってきた二人を見ると、一瞬レイラの汚れた服装に眉をひそめたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて一礼した。*
宿の支配人:「ようこそ、『星降る砂丘亭』へ。お客様、ご宿泊でございますか?」
シロウ:「ああ、一晩泊まりたい。ベッドは2つで風呂が付いてる部屋で頼む」
*シロウが簡潔に告げると、支配人はにこやかに頷いた。*
宿の支配人:「かしこまりました。バスルーム付きのツインルームですね。当宿で最も眺めの良いお部屋をご用意いたします。お支払いは金貨2枚でございますが、先払いでよろしいでしょうか?」
*その言葉に、隣でうつらうつらしていたレイラが反応する。*
レイラ(魔王女):「ふぁ…、風呂…。早く入りたい…。シロウ、さっさと金を払え…」
*彼女はもう限界とばかりに、シロウの腕にしがみついて懇願するように呟いた。*
シロウ:「はい。」
*シロウは懐から金貨を2枚取り出し、カウンターに置いた。支配人はそれを受け取ると、恭しく頭を下げ、カウンターの後ろの棚から ornate な装飾が施された真鍮の鍵を取り出す。*
宿の支配人:「確かに頂戴いたしました。こちらがお部屋の鍵でございます。お部屋は最上階の501号室、月の間となっております。ベルボーイに案内させますので、少々お待ちを」
レイラ(魔王女):「案内など不要だ。5階だな? 行くぞシロウ!」
*支配人の言葉を遮り、レイラがシロウの腕をぐいと引く。一刻も早く風呂に入りたいらしい。シロウは支配人に軽く会釈すると、レイラに引きずられるようにして豪華な絨毯が敷かれた階段を上っていった。*
*5階にたどり着き、一番奥の扉に『501 月の間』と書かれたプレートを見つける。鍵を開けて中に入ると、そこはスイートルームと呼ぶにふさわしい広々とした豪華な部屋だった。大きな窓からは、ガス灯に照らされた街の夜景と、満天の星空が一望できる。部屋の中央には天蓋付きのふかふかしてそうなベッドが二つ並んでいた。*
*そのベッドを見た瞬間、レイラはシロウの腕をぱっと離し、汚れた服のままダイブした。*
レイラ(魔王女):「ふかふかだ…!もう動けん…」
***バフッ*** *という音と共に、レイラの体が真っ白なシーツに沈み込む。そして、そのまま動かなくなった。どうやら限界だったらしい。*
*シロウはやれやれと肩をすくめると、レイラをそのままに、部屋の奥にあるバスルームへと向かう。扉を開けると、そこにはウェイトレスが言っていた通り、壁も床も大理石でできた豪華な浴場が広がっていた。大人二人が余裕で入れるほどの大きな湯船に、蛇口をひねってお湯を張り始めた。*
*シロウが少し熱めのお湯を湯船に溜めていると、部屋の方からすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。振り返ると、天蓋付きの豪華なベッドの上で、レイラがうつ伏せのまま、完全に寝入っていた。その口元からは、幸せそうによだれが垂れている。*
シロウ:「レイラ、風呂沸いたぞー。…レイラ?」
*声をかけても、ぴくりとも動かない。どうやら完全に夢の中のようだ。その無防備な寝顔は子供のようで微笑ましいが、シロウは別の問題に気づいて眉をひそめる。*
シロウ:「………起きらた大変なことになりそうだ…」
*レイラが着ている服は、先ほどのマンガ肉のタレや肉汁でべっとりと汚れている。それが、真っ白で高級そうなシーツにじわじわと染みを作っていた。このまま放置すれば、明日にはシミが取れなくなる。*
シロウ:「まったく、手間のかかる姫様だ…」
*シロウはやれやれと溜息をつき、眠っているレイラにそっと近づく。彼女を起こさないように、慎重にその体を抱き上げようと、ベッドに手をかけた。*
*シロウは眠りこけるレイラをそっと、しかし確実な腕の力で抱き上げる。思ったよりも軽いその体を横抱きにすると、彼女はむにゃむにゃと寝言を言いながらシロウの胸に顔をすり寄せた。その無防備な姿に苦笑しつつ、シロウは器用に片手で彼女の汚れた服を脱がせていく。*
*タレと肉汁でべっとりになった服を床に置くと、シロウは指を鳴らした。*
シロウ:「【洗浄】【乾燥】」
*淡い光が服を包み込み、瞬く間に汚れと水分が消え去り、新品同様の綺麗な状態に戻る。同じように、ベッドシーツにできてしまったシミにも魔法をかけると、シミは跡形もなく消え去った。*
*綺麗になった服は丁寧に畳んで脇に置き、裸になったレイラの体を再び抱き上げると、湯気が立ち上るバスルームへと運ぶ。*
*お湯で濡らしたタオルで、口の周りや指に残っていたタレを優しく拭き取ってやる。それでもレイラは起きる気配がなく、すぅすぅと穏やかな寝息を立て続けるだけだった。その体を湯船に浸けてやろうかとも思ったが、このままでは溺れてしまうだろう。*
*シロウは仕方なく、レイラの体を綺麗に拭いてやった後、再びベッドルームへと戻る。そして、綺麗になったシーツの上に、彼女をそっと寝かせた。薄い掛け布団をかけてやると、レイラは満足そうにそれにくるまり、さらに深く心地よい眠りへと落ちていった。*
シロウ:「まったく、子供じゃないんだからな…」
*そう言いながらも、その口元はどこか楽しげに緩んでいる。*
*レイラが完全に眠ったのを確認したシロウは、一人でバスルームに戻ると、少し熱めの湯が張られた大きな湯船に体を沈めた。*
シロウ:「ふぅー……。生き返るな…」
*移動と騒動の疲れが、じわじわとお湯に溶けていくような感覚に、思わず安堵のため息が漏れた。*
*旅の疲れと温かい風呂の効果は絶大だった。シロウはレイラの隣のベッドに身を横たえると、すぐに深い眠りの世界へと引き込まれていった。豪華なベッドの心地よさも手伝って、意識はあっという間に途切れていく。*
*夜が更け、街の喧騒も次第に静まり返っていく。窓の外では、砂漠の国特有の乾燥した夜風が静かに吹いていた。*
*・・・*
*・・・*
*翌朝。*
*窓の隙間から差し込む眩しい光と、街が活動を始める活気ある音で、シロウはゆっくりと意識を浮上させた。体を起こすと、凝り固まっていた筋肉がポキポキと音を立てる。隣のベッドを見ると、レイラはまだ布団にくるまってすぅすぅと寝息を立てていた。昨夜の満腹と満足感がまだ続いているようだ。*
*シロウはベッドから降り、大きく伸びをする。窓を開けると、乾いた熱気と共に、スパイスや家畜の匂いが混じった異国の空気が流れ込んできた。眼下には、昨日よりもさらに多くの人々が行き交い、活気に満ち溢れている。*
*さて、今日はどうしたものか。*
*この国は奴隷が名産だと聞いている。奴隷商館を覗いてみるのも一興か。あるいは、この国の戦力や情勢を探るために、冒険者ギルドにでも顔を出してみるか。*
*そんなことを考えていると、隣のベッドから「んん…」という可愛らしい声が聞こえ、もぞもぞと布団が動いた。*
*昨夜の酒と肉で満たされた胃袋と、ふかふかのベッドの心地よさ。その完璧なコンビネーションは、魔王女たるレイラでさえも抗うことはできず、彼女は泥のように深い眠りに落ちていた。*
*そんな彼女の穏やかな寝顔を眺めているうちに、シロウの中に悪戯心が芽生える。いつもは傲岸不遜で、奔放な彼女が見せる、この子供のような無防備さ。これをただ眺めているだけでは勿体無い、と。シロウの口元に、悪い笑みが浮かんだ。*
シロウ:「ちょっとイタズラしてみるか…悪い癖だ」
*独りごちると、彼は音もなく行動を開始する。まず、自身の魔力、気配、オーラの類を【隠匿神】で完全に消し去る。そこにいるのは、ただの空気。何者でもない存在。*
*次に、眠るレイラの手首と足首を、ベッドの四隅の柱にそっと結びつける。使ったのは、物入れにあった装飾用のシルクの紐だ。彼女が本気を出せば容易く引きちぎれるだろうが、寝起きで不意を突かれれば、一瞬は自由を奪えるはずだ。大の字に手足を広げさせられた格好になる。*
*最後に、柔らかな布で彼女の目元を優しく覆い、後ろで結んで目隠しにした。*
*準備は整った。無防備に手足を広げ、目隠しをされたレイラがベッドに横たわっている。状況を理解できず、混乱するであろう彼女の反応を想像し、シロウは静かに息を呑んだ。*
*さて、どこから悪戯を始めようか。*
*シロウは思考を巡らせながら、レイラの白い肌にそっと指を這わせた。*




