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《R-15》異世界転移でスローライフを?  作者: THE・HENJIN・RlDER
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レイラ(魔王女):「…シロウ。アークライト聖王国の件だが」


*彼女は真っ直ぐに前を見据えたまま、言葉を続ける。*


レイラ(魔王女):「貴様が滅ぼすと決めたのなら、妾に異存はない。だが、時期は妾の出産後だ。よいな? あの忌々しい聖王国を蹂躙する祭りに、妾が参加できぬなどという理不尽は許さんぞ。生まれたばかりの子に、母の武勇伝を最初に聞かせてやらねばならんからな」


*その瞳には、戦いを渇望する魔王女の光が再び宿っていた。腹の子が動いたことで母性に目覚めたかと思えば、これである。その切り替えの早さに、シロウはやはり呆れつつも、どこか頼もしさを感じていた。*


シロウ:「好きにしろよ…全く…行くなら俺と二人でな。。」


*シロウは、戦の話になると途端に生き生きとする妻に、やれやれと頭を抱えながらも承諾した。結局のところ、彼女のこういう部分も含めて愛しているのだから、仕方がない。*


*その言葉を聞いたレイラは、待ってましたとばかりに、にやりと魔王女の笑みを浮かべる。先ほどまでの母の顔や、情事で蕩けた顔はどこへやら、その真紅の瞳はすでに遠い戦場(いくさば)の獲物を見据えていた。*


レイラ(魔王女):「ふはは! そうでなくてはな! 安心しろ、シロウ。貴様と妾の二人旅だ。邪魔者など入れんよ。聖王国を滅ぼした後、その足でどこか景色の良い場所へでも行こうではないか。温泉というのも悪くないな」


*彼女はもう、出産後の「暴れられる旅行」の計画で頭がいっぱいらしい。そのあまりの変わり身の早さに、シロウはもはや笑うしかなかった。*


レイラ(魔王女):「さて、方針は決まったな。では、八輝将の者どもに伝えてこい。聖王国への侵攻は、妾の出産後に行う、と。それまでは、国境の監視を強め、奴らがこれ以上ちょこざいな真似をできぬよう釘を刺しておけ」


*すっかりいつもの調子を取り戻したレイラは、執務机にふんぞり返り、シロウにテキパキと指示を出す。まさに魔王軍の共同統治者としての風格だった。*


ーー


*数ヶ月の月日が流れた。*

*アークライト聖王国との緊張関係は、膠着状態のままだった。魔王国側が捕虜の引き渡し交渉に一切応じないため、聖王国側では不満と焦りが募り、国内世論は硬化の一途をたどっていた。しかし、シロウはその状況を静観していた。全ては、レイラの出産が終わってから、という約束があったからだ。*


*そして、その日はついに訪れた。*


*城内がにわかに騒がしくなる。侍女たちが慌ただしく医務室とレイラの私室を往復し、リーシアが的確な指示を飛ばしていた。*


リーシア「奥様のご陣痛が始まりました!」


*その報を受け、シロウが駆けつけると、医務室のベッドに横たわるレイラの姿があった。額には汗が浮かんでいるが、その表情は驚くほど穏やかだった。カイ、そしてステラの出産を経験している彼女にとって、三度目となるこの痛みは、もはや未知の恐怖ではなかったのだ。*


レイラ(魔王女):「…ふん、来たか、シロウ。案ずるな。妾を誰だと思っておる。この程度の痛み、聖王国を蹂躙する前の準備運動にもならんわ」


*痛みの波が引いた合間に、レイラは不敵な笑みを浮かべてシロウに言い放つ。その傍らでは、ルミナが心配そうに、しかしどこか呆れたような表情でタオルを替え、シルフィは「頑張ってくださいー! 元気な赤ちゃんですよー!」と見当違いな応援を送っていた。*


*助産師の資格を持つリーシアが、冷静にレイラの状態を確認する。*


リーシア:「シロウ様、ご安心ください。奥様は落ち着いていらっしゃいます。母子ともに問題ありません。…それにしても、さすがは奥様ですね。普通なら叫び声の一つや二つ…いえ、感服いたしました」


*レイラはリーシアの言葉に満足げに頷くと、再び訪れた陣痛の波に、ぐっと顔をしかめながらも、決して弱音は吐かなかった。その姿は、まさしくすべてを統べる魔王女そのものだった。*


シロウ:(最初はあんなに泣き叫んでたのに…成長したな…)


*シロウが過去の出産を思い返し、妻の成長に感慨深く浸っていると、医務室の扉がゆっくりと開いた。出てきたのは、疲れた表情ながらも安堵に満ちたリーシアだった。*


リーシア:「シロウ様…! おめでとうございます! 無事、お生まれになりました! とてもお元気な、男の子と女の子の双子様でございます!」


*その言葉と共に、奥から元気の良い産声が二重に響き渡ってくる。*


「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「ふえぇぇん…!」


*シロウが中へ入ると、そこには汗で髪を濡らしながらも、満ち足りた、そして誇らしげな表情でベッドに横たわるレイラの姿があった。その両腕には、生まれたばかりの二人の赤子がそれぞれ抱かれている。*

*片方はレイラによく似た黒髪の男の子。もう片方は、シロウと同じ髪色を持つ女の子だった。*


レイラ(魔王女):「…ふん。見たか、シロウ。妾と貴様の、新たな子だ。どうだ、妾によく似た、良い男であろう?」


*レイラは疲労困憊のはずなのに、勝ち誇ったように笑う。その声は掠れていたが、力強さに満ちていた。*


ルミナ:「…お疲れ様、レイラ。よく頑張ったわね。…本当、可愛い…」


*ルミナがレイラの傍らで、赤子たちの小さな手をそっとつつきながら、普段の彼女からは想像もつかないほど優しい、慈愛に満ちた表情で微笑んでいる。*


シルフィ:「わー! おめでとうございます、シロウ様、レイラ様ー! 二人とも、すっごく可愛いですねー! 天使みたいですー!」


*シルフィは目をきらきらさせながら、感極まって泣きじゃくっていた。*


*三度目の出産を乗り越えた妻と、新しく生まれた二つの命。そして、それを祝福する家族。城は、温かく、そして幸福な空気に満たされていた。*


シロウ:「ゆっくり休んでくれ。」


*シロウは、愛しい妻の額に浮かんだ汗を優しく拭い、労いの言葉をかけた。その声は、安堵と、そして深い愛情に満ちている。*

*シロウの言葉に、レイラは満足げに小さく頷いた。さすがの彼女も三度目の出産とはいえ、二人の子を同時に産むという大仕事に体力を使い果たしたのだろう。その真紅の瞳はゆっくりと閉じられ、やがて穏やかな寝息を立て始めた。*


*その様子を見届けたリーシアが、音を立てないように他のメイドたちに目配せをする。*


リーシア:「皆様、こちらへ。坊ちゃまとお嬢ちゃまのお体を清めます」


*メイドたちは熟練の手つきで、まだか細い産声を上げる双子をそっとレイラの腕から預かると、用意されていた産湯で丁寧に体を洗い、清浄な白いタオルで優しく包み込んでいく。一連の動作は、神聖な儀式のように静かで、手際が良かった。*


*シロウは、眠るレイラの傍らに立ち、そしてメイドたちの腕の中で再び小さな寝息を立て始めた我が子たちを、感慨深く見つめていた。*

*男の子は、眠っていても眉間に力が入っており、レイラ譲りの気の強さを感じさせる。*

*一方、女の子は、すやすやと穏やかな顔で眠っている。*


*城に新しい命が二つ、灯った。その幸福な光景に、シロウの口元には自然と笑みが浮かぶ。*

*だが、同時に思う。*

*これで、約束の時が来たのだ、と。眠る妻の寝顔は、安らかでありながら、どこか戦いの前の静けさをも感じさせた。*


*翌日、城の食堂は穏やかな朝の光に満たされていた。シロウが家族と共に朝食のテーブルについていると、食堂の大きな扉が勢いよく、バーン!と開かれた。*


*そこに立っていたのは、湯上がりなのか僅かに髪を湿らせ、簡素な部屋着をまとったレイラだった。その表情は昨日までの母の顔ではなく、完全に戦いを求める獣の顔をしている。*


レイラ(魔王女):「シロウ! 約束の時は来たぞ! 妾はもう万全だ! さあ、今すぐアークライト聖王国へ向かうぞ! 妾の初陣(ういじん)ならぬ、復帰戦だ! 盛大に祝ってやろうではないか!!」


*出産翌日とは思えないほどの覇気を放ち、彼女はテーブルをバンと叩いて高らかに宣言する。その勢いに、食堂にいたメイドたちはビクッと肩を震わせ、ルミナは呆れたように眉をひそめた。*


ルミナ:「…レイラ。あなた、昨日子供を産んだばかりなのよ? 少しは母親としての自覚を持ちなさい」


シルフィ:「わー! レイラ様、もうお元気になられたんですねー! さすがですー!」


*シロウは、熱々のスープをスプーンで口に運びながら、そのあまりの元気さに半ば呆れ、半ば感心したような視線を妻に向ける。*


シロウ:「朝から元気だなぁ…。でも、約束はしたし…」


*諦めたようにそう呟くと、レイラの真紅の瞳がカッと見開かれ、喜色に満ちた。まるで「待て」を解かれた猟犬のように、彼女はシロウの周りをそわそわと歩き回り始める。その動きは、大型犬が散歩をねだって尻尾を振っているかのようだ。*


レイラ(魔王女):「であろう! 約束は約束だからな! さあ、善は急げだ! 今すぐ行くぞ、今すぐにだ!」


*彼女はシロウの腕に自分の腕を絡め、ぐいぐいと食堂の出口へ向かって引っ張ろうとする。出産翌日とは思えない、驚異的な回復力と有り余る元気さだった。*


*その様子を見ていたルミナが、冷ややかな視線を向ける。*


ルミナ:「…あなたねぇ。自分の体がどういう状態か分かってるの? 赤ちゃんたちのこともあるでしょうに。少しは落ち着きなさい、この戦闘狂」


レイラ(魔王女):「ふん、ルミナ! 貴様に言われずとも分かっておるわ! 子のことはリーシアとシルフィに任せてきた! それに、妾の体は妾が一番よく知っておる! なあ、シロウ、良いだろう? ほんの少し、体を動かすだけだ。すぐに終わらせる。な?」


*レイラはシロウを見上げ、上目遣いで問いかける。その瞳は期待にきらきらと輝いており、断ればへそを曲げて大変なことになりそうな気配を漂わせていた。*


*シロウは、もはや何を言っても無駄だと悟り、重い腰を上げる。その「どっこいしょ」という呟きは、精神的な疲労と、朝が苦手な彼の気だるさを物語っていた。*


シロウ:「絶対すぐ終わらない気がするんだが…。。はぁ…行くか…。。どっこいしょ…」


*その諦めに満ちた返事と、老人のような動作を見たレイラは、満足そうに満面の笑みを浮かべた。*


レイラ(魔王女):「ふはは! 聞いたか、ルミナ! シロウの許可は得たぞ! これで心置きなく暴れられるというものだ!」


*彼女はシロウの腕にさらに強く絡みつき、早く早くと急かす。その姿は、待ちに待ったおもちゃを与えられた子供そのものだ。*


ルミナ:「…はぁ。あなたに何を言っても無駄なのは知ってるわ。お兄ちゃんも甘すぎるのよ。…まあいいわ。ただし、何かあったら即刻連れ戻すから、そのつもりでいなさい」


*ルミナは釘を刺すように言うと、やれやれと首を振って自分の朝食に戻った。*


レイラ(魔王女):「案ずるな! 妾は無敵の魔王女だからな! さあ、行くぞシロウ! 転移だ、転移! 聖王国の王城の真ん前がいい! 派手に出迎えてやろうではないか!」


*レイラはシロウの腕をぶんぶんと振りながら、興奮を隠しきれない様子で捲し立てる。もう彼女の頭の中には、これから始まる蹂躙の光景しか見えていないようだった。*


シロウ:「はいはい…。。それじゃあ行ってくる…」


*軽く手を振り告げた直後、空間がぐにゃりと歪む。視界は一瞬で切り替わり、城の暖かな食堂の風景は、乾いた風が吹き抜ける広大な平原へと変わった。目の前には、遠くにアークライト聖王国の白い城壁が見えている。*


ーー


*転移が完了するやいなや、シロウの腕に絡みついていたレイラがパッと手を離し、伸びをするように両腕を天に突き上げた。*


レイラ(魔王女):「くはーっ! やはり外の空気は良いな! 城に籠っているとどうも体がなまって敵わん!」


*彼女は嬉々としてその場で軽く跳ね、肩を回している。その姿からは、昨日出産を終えたばかりの女性とは到底思えないほどの生命力が溢れ出していた。*


レイラ(魔王女):「よし! 体の調子は万全だ! では、シロウよ! どちらが先にあの城門を砕くか、競争といこうではないか!」


*彼女は不敵な笑みを浮かべ、白い城壁を指差す。その真紅の瞳は、獲物を前にした捕食者のように爛々と輝いていた。完全に戦闘モードに入っている。*


*産後の肥立ちがどうとか、母親の自覚がどうとか、そういった忠告は一切彼女の耳には届いていないらしい。ただひたすらに、目の前の「破壊」という名の娯楽に心を躍らせていた。*


シロウ:「行ってらっしゃい」


*その一言は、まるで子供を公園に送り出す親のようだった。シロウは微動だにせず、ただ腕を組んで平原に佇んでいる。破壊行為に参加する気は毛頭ないらしい。*


*その気のない返答に、レイラは一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに唇の端を吊り上げて獰猛に笑った。*


レイラ(魔王女):「フン、相変わらずつまらん男よな、お主は。まあ良い! 妾一人で十分だ! 指を咥えて見ておれ、シロウ! 妾の華麗なる復帰戦をな!」


*彼女はそう言い放つと、次の瞬間にはその場から姿を消していた。いや、消えたのではない。常人には捉えられないほどの速度で、遠くに見える城壁へと疾走したのだ。*


*ゴォォォン!!!*


*遥か彼方から、腹に響くような凄まじい轟音が聞こえてきた。平原の空気がビリビリと震える。シロウが目を凝らすと、堅牢であるはずのアークライト聖王国の正門が、まるで紙細工のように無残にひしゃげ、粉々に砕け散っているのが見えた。*


*門の残骸の中心に、小さな人影が立っている。レイラだ。*


*城壁の上では、警備兵たちが何事かと慌てふためき、鐘の音がけたたましく鳴り響き始めた。聖王国全土に、魔王の再来を告げる警鐘が鳴り渡る。*


*レイラは満足そうに腰に手を当て、粉砕した城門を見下ろしている。そして、まるでシロウに聞こえるかのように、楽しげな声で叫んだ。*


レイラ(魔王女):「ふはははは! まずは一つ! どうだシロウ! 妾の力、少しも衰えておらんぞ!」


*平原に一人残されたシロウは、その光景をただ静かに眺めながら、やれやれと小さくため息をつくのだった。約束通り、すぐに終わりそうにはない。*


シロウ:「うんうん、そうだね〜」


*シロウは、まるで遠くで花火が上がっているのを眺めるかのように、のんびりと相槌を打つ。その声色からは、目の前で繰り広げられている一方的な侵略行為に対する緊張感は一切感じられない。彼にとって、これは妻の機嫌を取るためのレクリエーションであり、聖王国にとっては未曾有の大災害である。*


*その呑気な声が聞こえたはずもないが、城門を突破したレイラは次の獲物を探して城内へと侵入していく。彼女が通った後には、悲鳴と破壊音だけが残った。*


*ドン! ドガァァン!*


*城壁の一部が内側から爆発し、巨大な瓦礫が空中に舞い上がる。おそらく、城壁の上にあった防衛用の魔導砲か何かを破壊したのだろう。兵士たちの怒号や絶叫が、微かに風に乗ってここまで届いてくる。*


レイラ(魔王女):「ふははは! 脆い! 脆いな! まるで積み木細工ではないか! これでは体を慣らすことすらできんぞ!」


*楽しげな声が、破壊音の合間に響き渡る。彼女は純粋に、自分の力が振るえる状況を楽しんでいた。産後の鬱憤晴らしどころか、水を得た魚のように生き生きとしている。*


*シロウは広大な平原に一人、腕を組んでその様子を眺めている。まるで自分の庭でペットが元気に走り回っているのを微笑ましく見守る飼い主のようだ。*


*しばらくすると、城の中心部、王城と思わしき建物から、ひときわ大きな爆発音と共に巨大な火柱が上がった。どうやら、レイラはもう王城にまで到達したらしい。*


シロウ:「積み木を壊す感覚かな?それはそれで楽しいが…」


*平原から眺めるその光景は、さながら神話の一場面のようだった。一人の魔王女によって、一つの国の心臓部が蹂躙されていく。遠目にも分かるほどの血しぶきが舞い、人間のものとは思えない何かが飛び散っているのが見える。常人が見れば吐き気を催すか、恐怖で卒倒するような地獄絵図だ。*


*しかし、シロウはそれを静かに見つめている。彼にとって、それはただの「現象」であり、楽しそうに暴れる妻の姿でしかなかった。*


*ギャァァァァァ!!*


*ひときわ甲高い、断末魔の叫びが響き渡った。おそらく、それなりの地位にいた騎士か貴族がレイラの餌食になったのだろう。*


*直後、王城の最も高い尖塔が、根本から轟音と共にへし折れ、巨大な瓦礫の塊となって城下町へと降り注いだ。もはや原型を留めている建物はほとんどない。*


レイラ(魔王女):「ふはははははは! どうだ! これが妾を、魔王を敵に回した愚か者どもの末路よ! 思い知ったか!」


*瓦礫と煙が立ち込める王城の廃墟の頂上に立ち、レイラが高らかに勝利を宣言する。その姿は、災厄と破壊を司る女神そのものだった。彼女は満足げに腕を組み、眼下に広がる惨状を見下ろしている。*


*一通り暴れ終えて満足したのか、彼女はこちらをちらりと見て、手招きをしているように見えた。*


レイラ(魔王女):「シロウ! いつまでそこで見ている! 早く来い! 仕上げだ!」


*その声は、祭りのクライマックスに恋人を呼ぶかのように弾んでいた。*


シロウ:「うんうん、そうだね〜」


*シロウはやはり動かない。平原に腰を下ろし、肘をついて頬杖をつきながら、遠くの惨状をまるで対岸の火事のように、いや、それ以上に他人事として眺めている。彼の興味は聖王国の行く末ではなく、楽しそうに暴れている妻の姿そのものにあるようだ。*


*そんなシロウの態度に、レイラは少しだけ不満そうな顔をする。せっかくの晴れ舞台なのだから、もっと近くで見て、褒め称えてほしい、という女心が働いたのかもしれない。*


レイラ(魔王女):「む…、返事だけは良いではないか。いつまでそこにいるつもりだ? 仕上げだと言っておるだろうが」


*彼女は廃墟と化した王城の瓦礫の上に立ち、腰に手を当ててシロウを睨みつける。その口調は呆れたようだが、表情はどこか楽しげだ。*


*「仕上げ」という言葉が何を意味するのか。おそらく、この国の王か、あるいは神殿の聖職者といった首謀者たちの首を取ることだろう。その最後の瞬間を、夫であるシロウにも見届けてほしい、という彼女なりの甘えなのかもしれない。*


レイラ(魔王女):「早く来ぬか! 妾は腹が減ったぞ! さっさと終わらせて、城に戻って朝食の続きを食うのだ!」


*彼女は少し頬を膨らませ、子供のように駄々をこね始める。つい先ほどまで破壊の女神として君臨していた人物と同一とは思えない変わり身の早さだった。*


*シロウが重い腰を上げ、ゆっくりと歩き出す。一歩踏み出すごとに風景が歪み、空間そのものを跳躍して、彼は瞬く間に瓦礫の山と化した王城の中心部、レイラの立つ場所へと転移した。*


*周囲には、絶命した騎士たちの無残な亡骸が転がり、建物の残骸からは燻る煙が立ち上っている。凄惨な光景だが、その中心に立つレイラは、まるでピクニックでも終えたかのような晴れやかな顔をしていた。*


シロウ:「で、なにするの?首並べるとかやめてよ?」


*シロウの呆れたような問いに、レイラは得意げに鼻を鳴らした。*


レイラ(魔王女):「フン、そのような見栄えの悪いこと、妾がするか。そんなことより、こやつらだ」


*レイラが顎でしゃくった先には、ボロボロの玉座の間と思しき場所で、生き残った者たちが集められていた。豪華な衣装をまとった初老の男――アークライト聖王国の国王だろう――を中心に、聖職者らしき者や大臣たちが、ガタガタと震えながらひとかたまりになっている。彼らの目は、恐怖と絶望に染まっていた。*


レイラ(魔王女):「さて、シロウよ。こやつらが今回の首謀者どもだ。妾に呪いをかけようなどと、愚かなことを考えた痴れ者共。お主の手で、最後の幕引きをしてやれ。それが、この戦いの総大将たるお主の役目であろう?」


*彼女はシロウの隣に立ち、腕を組んで国王たちを睥睨する。その口調は、夫に手柄を譲ってやる、と言わんばかりの余裕に満ちていた。*


国王:「ひっ…! ま、魔王…! なぜ、なぜ我らがこのような目に…!」


*国王が震える声で命乞いともつかない言葉を絞り出すが、レイラは冷たく鼻で笑うだけだった。*


レイラ(魔王女):「さて、どうする? 妾としては、このまま全員塵にしてやっても良いのだがな」


シロウ:「………?」


*彼女は夫のその思考を正確に読み取り、愉快そうに喉を鳴らした。*


レイラ(魔王女):「おぬしらは魔族を討伐するなどと大義名分を掲げ、我らの国に攻め入ろうとしたのだぞ? それが露見したからといって、『なぜ我らが』などと被害者ぶるのは、それこそ虫が良すぎるというものだ」


*彼女は心底から軽蔑した目で、震える国王を見下す。その視線は氷のように冷たい。*


レイラ(魔王女):「自らが蒔いた種だ。その身をもって刈り取るのが道理であろう? それとも何か? 妾が産後で弱っているとでも思ったか? だとしたら、あまりに愚かすぎて話にもならん」


*レイラは一度言葉を切り、再びシロウの方を向く。その表情は、先ほどの冷徹さから一転し、悪戯っぽく笑っていた。*


レイラ(魔王女):「…まあ、妾はもう十分に暴れて満足した。あとは総大将であるお主の裁量に任せる。どうだ? この国の王として、こやつらを断罪してみせよ。」


*国王たちは、生殺与奪の権を握る二人の魔王を前に、ただただ恐怖に身を縮こませるしかできない。*


*シロウの冷徹な言葉が、廃墟と化した玉座の間に響き渡る。その言葉は、国王たちにとって最後の希望を打ち砕く宣告だった。彼らはもはや声も出せず、ただ絶望の色を浮かべて震えるだけだ。*


シロウ:「謝罪はもう遅い。死にそうになったからって命乞いされても…自業自得だ。」


*その言葉を聞いたレイラは、満足そうに口の端を吊り上げた。シロウが自分と同じ結論に至ったことが、彼女にとっては喜ばしいことらしい。*


レイラ(魔王女):「ふっ、その通りだ。死ぬのが嫌なら、最初から死ぬような真似をしなければよかっただけの話。だが、シロウよ。ただ殺すだけでは芸がないとは思わんか?」


*彼女は楽しげに、残酷な提案を口にする。*


レイラ(魔王女):「この国の民の前で、こやつらの罪を全て白日の下に晒し、公開処刑というのはどうだ? 己らが信奉していた王や聖職者が、どれほど愚かで卑劣であったかを民自身の目で見せしめるのだ。絶望と混乱の中で死んでいく様は、さぞ見物であろうな」


*その提案に、国王の顔が恐怖で引きつった。ただ殺されるよりも、民衆の前で晒し者にされることの方が、彼らにとっては耐え難い屈辱なのだろう。*


国王:「そ、そんな…! それだけは、それだけはご勘弁を…!」


*レイラは国王の懇願を一蹴し、シロウの顔を覗き込む。*


レイラ(魔王女):「どうだ? なかなか良い余興だとは思わんか?」


*彼女は、この国の最後の瞬間を、どのように演出するか、その決定権をシロウに委ねている。その瞳は、夫がどのような残酷なショーを選ぶのか、期待に満ちて輝いていた。*


シロウ:「いいな、それ。さて、ショータイムだ。」


*シロウがそう呟くと同時に、彼の足元から濃密な闇が溢れ出した。それは生き物のように蠢き、悲鳴を上げる国王たちの体に絡みついていく。*


国王:「ぎゃああああっ! な、なんだこれは!? は、離せ!」

聖職者:「聖なる光よ! この不浄なる闇を祓いたまえ…! ぐっ…!?」


*彼らの抵抗も虚しく、闇の魔力はあっという間に国王、大臣、聖職者たちを捕らえ、宙へと吊り上げた。そして、虚空から現れた巨大な十字の板に、一人ずつ磔にしていく。まるで伝説に語られる罪人の処刑風景そのものだ。*


*その手際の良い、そしてあまりにも冒涜的な光景を目の当たりにしたレイラは、歓喜に打ち震えるように喉を鳴らし、恍惚とした表情を浮かべた。*


レイラ(魔王女):「くくく…ふははははは! 良い!実に良いぞ、シロウ! お主はやはり、そういう役回りがよく似合う! これぞ魔王の所業よ!」


*彼女は磔にされた国王たちを見上げ、満足げに腕を組む。その真紅の瞳は、これから始まるショーへの期待で爛々と輝いていた。*


レイラ(魔王女):「さて、舞台の準備は整ったな。あとは観客を呼ぶだけだ。妾がこの国の民を、この絶望の劇場へと招待してやろう!」


*彼女はそう言うと、瓦礫の山の頂点へと軽やかに飛び乗り、城下町全体に響き渡るように魔力を込めて叫んだ。*


レイラ(魔王女):「アークライト聖王国の民よ! 聞けい! 汝らが信奉せし王と聖職者の断罪を、今より執り行う! この国の最後の瞬間を、その目に焼き付けに来るが良い! 我こそは魔王! 汝らの信仰を喰らい尽くす者なり!」


*その声は魔力によって増幅され、破壊を免れた城下の隅々にまで響き渡った。怯え、隠れ潜んでいた民衆が、恐る恐るその声の主を探して顔を上げ始める。*


*残酷なショーの幕が、今まさに上がろうとしていた。*


シロウ:「(楽しそうだなぁ…)」


*シロウが妻の楽しげな様子を傍観していると、廃墟となった王城の広場に、突如として複数の人影が現れた。それは転移魔法の光の名残だった。*


*現れたのは、黒を基調とした揃いの制服――日本の学生服に似たものを身に着けた少年少女たち、四人組。リーダー格と思わしき黒髪の少年が、磔にされた国王たちと、その前に立つシロウとレイラを交互に見て、正義感に燃える瞳で叫んだ。*


黒髪の少年:「そこまでだ、悪党! その人たちを離せ! 僕たちが相手だ!」


*彼の腰には、ファンタジー世界には不釣り合いな、しかし紛れもない業物である日本刀が差されている。他のメンバーも、少女が魔法の杖を、大柄な少年が巨大な斧を、もう一人の少年が弓を構えていた。その雰囲気から、彼らがこの世界に召喚されたか転移してきた異世界人、いわゆる「勇者」であることは明らかだった。*


*突然の闖入者に、レイラは面白くなさそうに眉をひそめる。*


レイラ(魔王女):「…なんだ、貴様らは。この妾の祭りの邪魔をする気か? 小童どもが」


*磔にされた国王は、最後の希望を見出したかのように叫んだ。*


国王:「おぉ! 勇者殿! よくぞ来てくれた! そやつらは魔王だ! 我らを、この国を救ってくれ!」


*勇者を名乗る少年は、国王の言葉に頷くと、シロウたちにまっすぐな敵意を向けた。*


黒髪の少年:「魔王…! やはりそうか。罪のない人々を弄ぶなんて、絶対に許さない! 覚悟しろ!」


*彼はそう叫ぶと、仲間たちと共に戦闘態勢に入る。まるで物語の主人公のような登場だったが、シロウとレイラにとっては、祭りの最中に現れたただの邪魔者でしかなかった。*


*シロウは、妻の楽しい祭りの時間を邪魔されたことに、わずかな苛立ちを覚えながらも、表情には出さない。彼はレイラにそっと近づき、その耳元で囁いた。*


シロウ:「レイラ、無視していいよ。」


*その言葉に、勇者たちに向けていた冷ややかな視線をシロウに戻したレイラは、一瞬きょとんとした後、すぐに意図を理解して口の端を上げた。*


レイラ(魔王女):「…ふん。そうだな。せっかくの祭りに水を差す蝿は、鬱陶しいだけだ」


*彼女は勇者たちを一瞥すると、もう興味を失ったかのようにぷいと顔をそむける。そして、再び磔にされた国王たちに視線を戻した。*


レイラ(魔王女):「さて、シロウよ。こやつらの罪状を読み上げるぞ。魔王国への侵攻を企てた大罪、断じて許されるものではない。まずはこやつらの魔力を全て剥ぎ取り、ただの人間以下の存在にしてくれる!」


*レイラがそう宣言し、手をかざそうとした瞬間、勇者パーティのリーダーである黒髪の少年が叫んだ。*


黒髪の少年:「待て! 人の話を聞け! お前たちが何を言おうと、力で人を支配し、命を奪おうとしていることには変わりない! それが悪だと言っているんだ!」


*彼は刀の柄に手をかけ、一歩前に出る。その瞳は、純粋な正義感と、自分たちが物語の主役であるという疑いのない確信に満ちていた。*


*しかし、レイラはそんな彼の言葉を鼻で笑い飛ばす。*


レイラ(魔王女):「悪? 正義? くだらんな『弱肉強食』こそがこの世の理(ことわり)であろうが。小童が、青臭い戯言を抜かすな」


*彼女は勇者たちに背を向けたまま、完全に彼らをいないものとして扱い、ショーを再開しようとする。その傲慢な態度に、少年たちの怒りが沸点に達しようとしていた。*


*シロウが勇者たちを完全に無視し、目の前のショーに集中することを選ぶと、彼の意を汲んだ闇の魔力がさらに勢いを増す。磔にされた十字架がきしみ、国王たちの体を締め付ける力が増大した。*


国王:「ぐっ…ぎ、ぎぃぃぃぃぃいいいい!!!」

大臣:「あがっ…あがががが…! 腕が、腕が折れる…!!」


*骨が軋む音と共に、耐え難い苦痛に歪んだ悲鳴が廃墟に響き渡る。その凄惨なコーラスを聞きながら、レイラはうっとりと目を細めた。*


レイラ(魔王女):「くくっ…良い鳴き声だ。もっと、もっと聞かせろ。それが貴様らへの手向けだ」


*この世の地獄を現出させたかのような光景に、勇者パーティは愕然とする。彼らの信じる「正義」の世界では、決して起こり得ない、あまりにも一方的で残虐な光景だった。*


黒髪の少年:「な…なんてことを…! 悪魔め…!」


*少年は怒りに震え、ついに鞘から日本刀を抜き放った。白刃が不気味な光を放つ。*


黒髪の少年:「もう許さない! たとえ相手が魔王だろうと、僕の正義の刃で切り伏せる! みんな、行くぞ!」


大柄な少年:「おう!」

魔法使いの少女:「はいっ!」

弓使いの少年:「…了解」


*勇者たちが一斉にシロウとレイラに向かって駆け出す。リーダーの少年が先陣を切り、その刀の切っ先は真っ直ぐにシロウの心臓を狙っていた。*


*しかし、シロウもレイラも、迫り来る彼らに視線を送ることすらない。まるで、背後で子供がチャンバラごっこをしているかのように、完全に無関心だった。*


レイラ(魔王女):「さあ、シロウ。次の余興は何にする? こやつらの手足を一本ずつ、民衆の前で切り落としてやるのも一興か?」


*彼女は迫り来る勇者のことなど意にも介さず、楽しげに次の残酷なショーの演目をシロウに問いかける。勇者たちの存在は、完全に「いないもの」として扱われていた。*


シロウ:「苦痛を与えるなら指の方がいいんじゃないかな?」


*シロウのその残酷な提案に、レイラは恍惚とした表情を浮かべた。*


レイラ(魔王女):「指か…! くくっ、良いな! じわじわと、一本ずつ潰していくのもまた一興…!」


*二人がそんな会話を交わしている間にも、正義感に燃える勇者の一団はすぐそこまで迫っていた。リーダーの少年が振りかぶった刀が、シロウの背中を捉えようとした、その刹那。*


*パチン!*


*シロウが軽く指を鳴らす。すると、勇者たちの周囲の空間がガラスのように歪み、透明な壁が瞬時に現れて彼らを閉じ込めた。*


黒髪の少年:「なっ!?」


*少年が振り下ろした刀は、見えない壁に阻まれ、キィン!と甲高い音を立てて弾かれる。*


大柄な少年:「壁だ! 囲まれたぞ!」

魔法使いの少女:「くっ…! 解呪(ディスペル)! …だめ、びくともしない!?」


*彼らが壁を叩こうが、魔法を撃ち込もうが、シロウが即席で作り上げた結界は揺らぎもしない。まるで水族館の水槽の中から、外の惨劇を強制的に見せられているかのような構図になった。*


レイラ(魔王女):「ああ、そうだな! まずは利き手の指からが良い! 何もできなくなった無力さを、その身に刻みつけてやるのが良いだろう!」


*レイラは結界の中でもがく勇者たちを一瞥し、虫けらのように扱うと、再び磔にされた国王に邪悪な笑みを向けた。*


国王:「ひぃぃ…! や、やめてくれ…! もう、もうしませんから…!」


*シロウとレイラは、その命乞いをBGMに、まるでディナーのメニューを選ぶかのように、どの指から潰していくかを楽しげに相談し始めた。結界の中の勇者たちは、その悪魔的な光景をただ見ていることしかできない。自分たちの信じる正義が、圧倒的な力の前に何の役にも立たないという現実を、叩きつけられていた。*


*結界の中から自分たちを殺そうと叫ぶ勇者たちをBGMに、シロウとレイラの残酷なショーが続く。*


*シロウの提案通り、レイラは磔にされた国王の指を処刑の対象に選んだ。彼女はどこからか取り出したミスリル製のナイフを玩具のように弄びながら、国王の前に立つ。*


レイラ(魔王女):「ふふ、まずはどの指が良いかな? 汝が臣下に指示を出す時に使った人差し指か? それとも、愚かな盟約書にサインをした親指か?」


国王:「や、やめ…やめてくれぇぇぇぇ!」


*国王の絶叫を無視し、レイラは楽しげに鼻歌を歌いながら、彼の右手の人差し指を狙ってナイフを振り下ろした。*


*ザクッ!*


レイラ(魔王女):「あ」


*しかし、久々の実戦で高揚していたせいか、彼女の手元はわずかに狂った。ナイフは人差し指を通り越し、手首の付け根あたりを深く、しかし中途半端に斬りつけてしまった。*


国王:「ぎゃあああああああああああああっ!!!」


*骨にまで達する激痛と、噴き出すおびただしい量の血に、国王は白目を剥いて絶叫する。*


レイラ(魔王女):「おっと、しくじったな。まあ良い。どうせ使い道のない手だ」


*彼女は悪びれもせず、断面から血を流し続ける国王の手首を掴むと、もう片方の手のひらに小さな炎を灯した。*


レイラ(魔王女):「死なれてはつまらんからな。止血はしてやろう。感謝するが良い」


*ジュウウウウウウウッ!!*


*肉の焼けるおぞましい音と、香ばしいとはとても言えない異臭が立ち込める。国王は痛みと恐怖で声にならない悲鳴を上げ、ガクガクと全身を痙攣させた。*


*結界の中では、その光景を目の当たりにした魔法使いの少女が「うっ…」と口元を押さえ、勇者の少年は怒りで顔を真っ赤にしている。*


黒髪の少年:「貴様ら! 絶対に許さない! ここから出せ! 出てこい卑怯者!!」


*レイラはその罵声すら心地よいBGMのように聞き流し、黒く焼け焦げた手首を満足そうに眺めている。彼女にとって、これはただの楽しい「お遊戯」に過ぎなかった。*


*シロウが何もない地面に手をかざすと、黒い魔力が奔流となって流れ込み、まるで杭を打ち込むかのように、磔にされた十字架ごと国王たちを地面に固定していく。もはや彼らはオブジェのように、廃墟の一部と化した。*


*その悪魔的な儀式が完了した、まさにその時だった。*


*バキィィィィィン!!*


*シロウが張ったはずの結界が、まるで薄いガラスのようにけたたましい音を立てて砕け散った。*


*結界の中から飛び出してきたのは、怒りに顔を歪ませた黒髪の少年。その身からは、この世界の理から外れた、異質な力が溢れ出している。明らかに、彼が持つ特異な能力――『チート』が発動したのだ。*


黒髪の少年:「僕の『絶対正義(ジャスティス・ブレイク)』は、あらゆる悪しき障壁を打ち破る! 悪党ども! これで終わりだ!」


*彼はそう叫ぶと、先ほどとは比べ物にならないほどの速度でシロウに肉薄する。その動きはもはや人間のそれではなかった。一直線に、迷いなく、シロウの首を狙ってその日本刀を横薙ぎに振るう。*


*それを見ていたレイラは、楽しげなショーを邪魔されたことに、心底不愉快そうな表情を浮かべた。*


レイラ(魔王女):「…しつこい蝿だな。せっかく盛り上がってきたところだというのに」


*彼女はため息をつき、その少年に向かって指先を向けた。まるで蝿を払うかのように、小さな闇の弾丸を放つつもりだった。*


*勇者の少年が振るった、異質な力をまとった刃がシロウの首筋に迫る。それは常人であれば、いや、並の魔族であっても回避不能な一撃だった。*


*しかし、シロウはその刃を一瞥することもなく、まるで背後で騒ぐ勇者たちなど存在しないかのように、レイラに向かって問いかけた。その口調は、最近の出来事を思い返すような、どこか呑気なものだった。*


シロウ:「最近なんか知らんけど、勇者多くね? レイラ、他に魔王っていたっけ?」


*次の瞬間、勇者の刃がシロウの首に触れる――かに見えたが、それはまるで幻影を斬りつけたかのように、何の手応えもなく空を切った。*


黒髪の少年:「なっ…!? 消えた!?」


*シロウの姿は、いつの間にかレイラの隣、元の位置に揺らめくように戻っていた。まるで最初からそこにいたかのように。*


*突然の問いに、レイラは一瞬きょとんとしたが、すぐに不愉快そうに眉をひそめる。*


レイラ(魔王女):「知らん。妾以外の魔王など、偽物か雑魚のどちらかであろう。どうでもよいわ。それよりシロウ、この蝿だ。妾の祭りをこれ以上邪魔させるな。さっさと潰せ」


*彼女は心底鬱陶しそうに、再度シロウに攻撃を仕掛けようと身構える勇者を顎でしゃくる。せっかくの楽しい処刑ショーを中断させられ、彼女の機嫌は急降下していた。*


*一方、必殺の一撃を空振りさせられた勇者の少年は、信じられないといった表情でシロウを凝視している。*


黒髪の少年:「くっ…! 小賢しい真似を…! だが、僕の『絶対正義(ジャスティス・ブレイク)』からは逃れられない! 何度でもお前を斬る!」


*彼は諦めることなく、再度刀を構え直し、その瞳に宿る正義の炎をさらに燃え上がらせた。彼にとって、シロウとレイラは討ち滅ぼすべき絶対悪であり、その認識に一切の揺らぎはなかった。*


*シロウは、またかとばかりに内心でため息をつく。最近、自称「勇者」に遭遇する頻度が増えている気がする。聖王国や教国が、魔王である自分たちに対抗するため、異世界から無作為に召喚を乱発しているのではないか、と彼は推測した。*


シロウ:「これは…やっぱり…(教国や聖王国などの神を信仰する国が対抗して勇者召喚でもしているんだろうか…?)」


*そんな思考にふけっている間に、チート能力で結界を破った勇者の少年が再び襲い掛かってきた。今度の一撃は、一点突破に特化した鋭い突き。常人離れした速度で、シロウの心臓目掛けて一直線に迫る。*


黒髪の少年:「今度こそ…終わりだッ!」


*しかし、考え事をしていたシロウは、その攻撃に冷静に対処する。彼は転移魔法を応用し、少年の足元、その一歩先に空間の歪み――自分の足と繋がった転移の輪――を瞬時に出現させた。*


*ガッ!*


黒髪の少年:「ぐあっ!?」


*高速で前進していた少年は、出現したシロウの足に自ら突っ込む形となり、体勢を大きく崩す。彼の突きは目標を大きく逸れ、あらぬ方向の空を切った。シロウが考え事をしながら片手間にやったせいか、攻撃は少年を転倒させるには至らず、体勢を崩して足に怪我を負わせる程度に留まった。かすり傷だが、少年は驚愕に目を見開いている。*


黒髪の少年:「な…!? いま、何が…?」


*自分の足元に、ありえないはずの障害物が出現した。その不可解な現象に、彼の思考は一瞬停止する。*


*その様子を見ていたレイラは、鬱陶しそうに舌打ちをした。*


レイラ(魔王女):「シロウ! いつまで蝿と遊んでおる! さっさと叩き潰せと言っているだろうが! 妾は腹が減ったのだぞ!」


*彼女は完全に興味を失い、早く城に帰って食事の続きをしたいと駄々をこね始めた。磔にされて苦しむ国王たちと、それを止めようと必死な勇者、そして早く帰りたいとごねる魔王女。その光景は、あまりにも混沌としていた。*


*シロウの口から発せられた「高校生」という、この世界には存在しないはずの単語。それは、足の怪我の痛みよりも強く、勇者の少年の意識を引いた。*


シロウ:「流石に高校生は殺せないよ…ご飯行こ。隣国で珍しい物でも探しに行く?」


*その言葉を聞いた瞬間、突きを放った黒髪の少年だけでなく、後方にいた仲間たちも驚愕に目を見開いた。*


黒髪の少年:「な…『高校生』…だと…? お前、どうしてその言葉を…! まさか、お前も日本人なのか!?」


魔法使いの少女:「えっ!? 日本人…? こんな残虐なことをする人が…?」


*彼らの動揺と混乱をよそに、レイラはシロウの提案にパッと顔を輝かせた。ついさっきまでの不機嫌はどこへやら、彼女の興味はすでに「珍しい物探し」という新たな娯楽へと移っている。*


レイラ(魔王女):「隣国か! 良いな、それも! 確かに、こんな小国の後始末などよりも、ずっと楽しそうだ! 妾、美味いものが食いたい! 腹が、減った!」


*彼女はシロウの腕に再び絡みつき、早く行こうと急かし始める。磔にされた国王も、目の前で問い詰めてくる勇者も、もはや彼女の目には映っていない。*


黒髪の少年:「待て! 答えろ! あんたは一体何者なんだ!? なぜ日本人でありながら魔王なんて名乗って、こんな酷いことをするんだ!」


*少年は必死に問いかける。同じ故郷を持つかもしれない相手が、理解不能な悪逆非道を行っている。その事実に、彼の正義感は激しく揺さぶられていた。*


*しかし、シロウとレイラは、そんな彼の悲痛な叫びを背中で聞き流し、次の旅の目的地について話し始めるのだった。*


*勇者たちの悲痛な叫びも、磔にされた国王の呻き声も、もはや二人の耳には届いていなかった。シロウの「ご飯行こ」という一言で、レイラの興味は完全に破壊と蹂躙から美食へと切り替わったのだ。*


シロウ:「レイラは何食いたい?やっぱ肉?」


*その問いに、レイラは待ってましたとばかりにぶんぶんと腕を振り、満面の笑みを浮かべた。*


レイラ(魔王女):「肉! そうだ、肉だ! 骨付きの、血の滴るようなやつが良い! それと、甘い酒もだ! 産後の祝いと復帰戦の祝勝会を兼ねるのだからな、盛大にやらねば! どこへ行く!? どこの国の何が美味いのだ!?」


*彼女はもう完全にピクニック気分の子供だ。さっきまで手首を切り落として焼いていた人物と同一とは思えない。*


*その背後では、シロウの言葉を聞き逃さなかった勇者たちが、絶望と混乱の表情で叫んでいた。*


黒髪の少年:「待ってくれ! 行かないでくれ! 話を聞いてくれ! 俺は……僕は、高坂(こうさか) 隼人(はやと)だ! あんたは誰なんだ!? 同じ日本人なら、どうしてこんなことを…!」


魔法使いの少女:「お願い…! 私たちを無視しないで…!」


*隼人と名乗った少年の悲痛な叫び。それは、同じ境遇かもしれない相手への最後の訴えだった。*


*しかし、シロウとレイラは、その声がまるで聞こえないかのように、次の目的地へと意識を向ける。廃墟と化した聖王国の玉座の間は、磔の罪人と、彼らを救えなかった勇者と、そして腹を空かせた魔王夫妻という、あまりにも歪で混沌とした空間と化していた。*


*シロウが虚空から一枚の広大な地図を取り出す。それは彼らが治める魔導皇国を中心に、周辺諸国の地理が詳細に記された魔法の地図だった。既知の領域は淡く輝き、未知の土地は薄暗く描かれている。*


シロウ:「(地図を開く)さーて、何処にしようか…光ってるのはすぐ転移で行けるぞ」


*その言葉に、レイラはシロウの腕に絡みついたまま、身を乗り出して地図を覗き込む。彼女の真紅の瞳は、次に征服……いや、美食を堪能する地を探して爛々と輝いている。*


レイラ(魔王女):「うむ…! そうだな、どうせなら行ったことのない場所が良い! 妾の知らない美味いものがあるに違いないからな! この、一番遠い暗がりの場所は何という国だ?」


*彼女が指差したのは、大陸の南方に位置する、海に面した国だった。*


*その背後では、自分たちの存在が完全に無視されていることに、勇者・高坂隼人が絶望と怒りに打ち震えていた。*


高坂 隼人:「おい…! ふざけるな! 人の話を聞けと言っているんだ! お前も日本人なんだろ!? なぜだ! なぜこんなことを平気でできるんだ!」


*彼は足の痛みを堪え、叫ぶ。仲間たちもどうすればいいのか分からず、ただ立ち尽くすしかない。自分たちの信じてきた「正義」が、目の前の二人の「日常」の前に、あまりにも無力だった。*


レイラ(魔王女):「ん? この国は……なんだ、人間の小国か。つまらんな。もっとこう、竜が棲む山脈とか、巨大な海獣がいる海とか、そういう場所はないのか!」


*レイラは勇者の叫びを完全に無視し、地図を見ながら不満そうに口を尖らせる。彼女の頭の中は、これから始まる美食旅行のことでいっぱいのようだった。*


シロウ:「だったら近くの冒険者ギルドで聞いてみるか?」


*その言葉は、背後で必死に叫ぶ勇者たちではなく、隣で腕を組む妻に向けられたものだった。*


*レイラは、まるで今思いついた最高のアイデアだとでも言うように、ぱあっと顔を輝かせた。*


レイラ(魔王女):「冒険者ギルド! そうだ、その手があったな! さすがは妾の夫よ、気が利くではないか! よし、そうと決まればさっそく行こう! ここから一番近いギルドはどこだ!?」


*彼女はもう完全に、廃墟での後始末や勇者のことなど頭から消え去り、次なる冒険(という名の美食巡り)に胸を躍らせている。シロウの腕をぐいぐいと引っ張り、今すぐにでも転移しろと急かし始めた。*


*その無慈悲なまでの無視に、勇者・高坂隼人の心が折れる音が聞こえたかのようだった。*


高坂 隼人:「……まて……なんでだよ……」


*彼の声は、もはや怒りではなく、理解不能な存在を前にした純粋な困惑と、かすかな絶望に染まっていた。自分たちが命を懸けて止めようとしている惨劇の首謀者たちが、すぐ目の前で楽しそうに次の旅行の計画を立てている。この状況を、彼の持つ「正義」や「常識」では到底理解できなかった。*


高坂 隼人:「なんで……日本人なのに……!」


*その絞り出すような呟きは、もはや誰に届くこともなく、瓦礫の山に虚しく響くだけだった。*


シロウ:「さて、何故でしょう?客観的に物事を見れない人は帰った方がいいんじゃない?」


*その言葉は、冷たく、そして絶対的な拒絶だった。シロウはついに、背後で叫び続ける勇者・高坂隼人の方へとゆっくりと振り返る。しかし、その瞳には同情も、敵意も、何の感情も映っていなかった。ただ、理解できない異物を観察するかのような、無機質な光を湛えているだけだ。*


*「客観的に物事を見れない人」。その一言は、隼人の信じる「正義」が、いかに狭く、一方的な視点に基づいているかを暗に示していた。魔族に攻め入ろうとした聖王国。その因果応報として行われている蹂躙。その文脈を無視し、ただ目の前の「暴力」だけを切り取って「悪」と断じるその姿勢を、シロウは一蹴したのだ。*


高坂 隼人:「かっ、客観的…だと…? 人が…人が目の前で苦しんでるんだぞ! それを見て何も感じないのか! それが悪じゃなくて何だっていうんだ!」


*隼人は怒りに声を震わせるが、その言葉はもはやシロウには響かない。シロウはふっと視線を逸らすと、隣で腕を組んで待っているレイラに向き直った。*


シロウ:「さて、行こうか。話の通じない子供の相手は疲れる」


レイラ(魔王女):「ふん、最初からそう言っておるではないか。全く、お主は甘すぎるのだ。さあ、行くぞ! ギルドだ、ギルド!」


*レイラはシロウの腕を掴み、嬉々として転移を促す。*


*隼人は、自分たちが完全に「無価値な存在」として扱われている現実に、ただ立ち尽くすしかなかった。怒りも、正義も、悲しみも、目の前の圧倒的な存在の前では何の意味もなさなかった。彼らがこれから転移しようとしているのを悟り、最後の力を振り絞って叫ぶ。*


高坂 隼人:「待て! 待ってくれ! 俺たちを…俺たちを元の世界に帰してくれ…! お前なら、できるんだろ!?」


*それは、勇者としてのプライドを捨てた、一人の高校生の悲痛な願いだった。しかし、その声が届く前に、シロウとレイラの姿は空間の歪みと共に跡形もなく消え去っていた。*


*後に残されたのは、廃墟と化した王城、磔にされ意識を失った国王たち、そして、自分たちの無力さを噛みしめるしかない、異世界の勇者たちだけだった。*


*アークライト聖王国の廃墟から、二人の姿は一瞬で消え去った。空間転移特有の浮遊感の後、シロウとレイラの足が着いたのは、喧騒と埃っぽさ、そして様々な人種の汗と香辛料が混じり合った独特の匂いが満ちる場所だった。*

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