54話 そして僕らは……(中編)
僕は外で緊張の面持ちでいた。
「大丈夫かしら。もうそろそろ始まるわよ?」
隣から見知った声がする。でも恥ずかしくてそっちを向けない。だって今の彼女は何よりも美しかったから。
美波さんに告白されて受けた翌日の流れは怒涛の勢いだった。人の口には戸が立てられないとは言うけれど話は誰経由かは分からないが学内の結構な範囲に広まったらしい。そのせいでその夜と翌日朝のライン通知は忙しかった。
家への紹介も大変だった。
ある日僕が美波さんを連れてきて「付き合うことになりました」と言うと両親と祖父母はひっくり返った。まぁ母は時々彼女が迎えに来ていたのを知っているので驚きこそ小さかったけど、父親からしてみれば突然息子があの神崎財閥の令嬢と付き合うことになったというのだから衝撃の連続だろう。念のために言っておくと父の職業は銀行の支店長でありて別に神崎財閥とも付き合いがあったらしい。とはいえまさか倅が気に入られるとまでは思わなかったようだ。
「これがお土産です」
「こんな高級なお菓子を頂いて……お気遣い下さらなくても良いのに」
「いえいえこちらから突然お邪魔したので……」
大人相手でも美波さんの交渉は上手だ。相当場数を踏んでいたと見える。
「しかし息子なんかと付き合ってくれるなんて。信じられません息子は至らないところも多いので」
「いえいえ淳志くんは凄くいい子ですよ。学校の成績も一番ですしきっと将来は大物になれますから」
「神崎財閥のご令嬢にそこまで言って頂けるなら安心です。どうかウチの馬鹿息子を……あぁ馬鹿って言っても成績の話じゃないですけどよろしくお願いします」
両親は美波さんに深々と頭を下げたのだった。
別の日には美波さんのお父さんにも会った。
緊張の面持ちで応接間に入る。
「君が淳志君かい?」
そこに居たのは髭を生やし立派な黒スーツを着こなした壮年男性だった。神崎財閥はこの付近では五本の指に入る財閥なので様々なメディアで顔を見ることも多いがやはり本物を見ると意外に感じた。その気さくさもそうだし何よりも……背が僕と同じくらいだ。
「まぁ座り給え」
「失礼します」
僕がソファに座ると、その父親も向かいに座った。応接間を見るとあちこちに多分何百万単位の美術品が並んでいる。
「君が淳志くんか。僕は神崎俊哉っていうものだ。いくつかの会社の社長をしているよ。本当に似ているよ昔の僕にね。親子で男の趣味も似るのだな」
「そ、そうですか!ありがとうございます」
「畏まらなくていい。僕はそう言う畏まったのは嫌いだ。例えばこの美術品とか」
「いえいえどれもとても立派ですよ。骨董品の収集がお好きなんですか?」
「いいや逆だよ。僕としてはあんまりこういうのには興味はなくてね……この絵とか数百年前の著名な画家の作品らしいが僕としてはあんまり良さは分からない。重役たちが見栄の為にそれくらい置いとけって言うから仕方なく応接室とか人招くところには置いてるがね。俺としては漫画のポスターを貼りたいよ」
「漫画お好きなんですか?」
どうやらこの人は思ったより庶民的らしい」
「あぁ大好きさ。だって僕も元々この家の人間じゃない一般家庭の出だしね。まぁさっき言った漫画のポスターも僕の私室には貼っているさ。そこまで口を出される権利は無いだろう?まぁ足りなくなっていくつかの部屋に分散してたりするが」
「美波さんが言ってました。マンガやゲームを山ほどしまってある部屋があるって」
すると俊哉さんは嬉しそうに口を開く。
「そうそうウチには金があるから漫画を買い放題さ。恐らくこの屋敷には君が想像した漫画全部あるんじゃないかな?あまりにも多すぎて目録作りが忙しいけどね」
「そうですか。僕もスぺブラ好きなので」
「趣味が合うと嬉しいな。それはそうと」
俊哉さんはここで顔を険しくする。
「君は娘を幸せにできるのかね?」
そう覇気のある感じで問いかけてくる。
「そ、それは……」
僕はこれが人生において一番大事なんだと考え答えた。
「絶対に幸せにして見せます!」
僕はそう言い切った。自分でも恥ずかしい何一大企業の名士に向かってそんなことを凄めるんだよ……
「ふぅん……」
俊哉さんはそう呟くと顔を緩めた。
「そうかそこまで気負わなくても良いよ。大体この家の雰囲気には大分緊張するだろうからね。この家にいると幸せになるより幸せにされる方が多いかもしれないね」
俊哉さんはハハハと笑う。笑っている顔を見て気づいたがこの人髭とスーツでごまかしているが中々の童顔だ。そう言うところも僕に似てるのかな?
「まぁそこまで緊張しなくていいとは言ったが、これで安心できるよ」
俊哉さんはそう呟くと扉が開いた。
「俊哉君?」
「ゆ、優子さん?何でまだ帰らないんじゃ」
「家帰ったら久しぶりに見た顔があって見に来たかっただけよ」
「そ、そうか……心配させないでくれ」
突然美波さんの母親がやって来てたじたじだ。本当につくづく似ていると言われる理由が分かる気がする。




