39話 僕と先輩の出会い
僕が島津先輩に出会ったのは今年の5月のことだった。僕はとある買い物のために一人で電車に乗って移動していた。5月の行楽日和なこともあって、めちゃくちゃ電車の中が混んでいた。一般人でさえそんなものはきついのに身体が小さいせいでより押される羽目になってしまった。
「き、キツイ……」
動かない首を何とか動かすと奥にひときわ大きく強面な人がいた。
いいなぁ……あの人は体が凄く大きくて……僕なんか普通に潰されそうだよ……てかめちゃくちゃ顔怖いし。変な組織の人じゃないといいなぁ……
そんなことを思っていると僕のお尻に何か変な感覚を感じた。手が当たってるのかな?まぁこれは満員電車だし当たるくらい仕方ないを超えた仕方ないんだけども……僕は男だし黙っていよう……そう思ったらその手が動き始めた。
僕のお尻が揉まれている……そう確信するのに時間はかからなかったし、またかと感じた。僕自身背が低く、女子に間違えられかけることが多いせいで中々この手の誘拐や犯罪に巻き込まれる機会も多い。
こういう時は『痴漢です!』と声を出せばいいのだけれど、僕はあいにく男なので声を出したら恥ずかしいのではないかと感じた。でも、お尻なんて揉まれたってあちらだって嬉しくないだろうに…そう思っていると後ろからささやきが聞こえる。
「君可愛いねぇ……おじさんと一緒にカップルカフェに行かないかい?」
僕が行くわけないだろ!一度頭の病院にでも行ってこい!と言いかけるも中々声を出せないでいると手がお尻から前に移って来る。
だ、ダメだってこれはぁ!あのね!僕は女の子じゃないの!見た目は中性的でも性別は男なんだから当然前には付いているものがある訳であって…それを触った。
相手の方はそれを予測していなかったようで
「おっ、お前本当は男かよ!まぁ男でも良いか……他の女の尻を物色してっと……」
そう言って変態は他の女性の尻も触っている。
ふざけんな!何だこの大バカ野郎は!僕がついに堪忍袋の緒が切れたところで……
「オイッ!」
急に男性の腕を野太い声が掴み捻り上げた。
「てめぇ今。人様のケツ触ってたよな?触ってたよな?」
その声に反応するように周囲の目線も集まる。
変態の腕をひねり上げていたのは大柄な男性だった。服装を見るとウチの制服を着ている……学年証は2年生だ。あぁそう言えば今週2年生は登校日なんだっけ。てか高校生であの貫禄?凄い漫画みたいでカッコいい!
そう思った時には僕はもうその先輩に半泣きで抱き着いていた。
「せんぱ~い……怖かったですよ!」
「男が泣くんじゃねぇ。ってお前……入学式の新入生代表か。買い物か何かか?」
「はい買い物に来た海城淳志です!」
「まぁ良い俺は島津剛っていうもんだ。ちょっとこの痴れ者を警察に放り込むのでな。お礼はいらないからな!じゃぁな!」
その島津先輩が変態を引きずって去ろうとするので、僕は手を取る。
「あの……」
「む?何だ」
「僕が被害者なので事情聴取とか参加しなきゃです!」
「そうか……」
「後ついでに弟子にしてくれるとかは……」
「それはないっ!!」
そう言って島津先輩は僕を担ぎ上げて駅員室に向かった。
「いやだから俺の正義感が動いただけで礼はいらないって言ってんだろ!現に相手は腕掴んだだけで観念するタマだったしよ」
「ダメです!もう絶対親と高校に話は行ってますし!あの親のことですから何も礼を寄こさずに帰したら怒られます!」
「ったく下手に抵抗したらお前の腕が折れるな。しゃあない何か奢られてやるよ」
「じゃあ向こうのクレープや行きましょう!僕のおごりで!」
僕と島津先輩は並んでクレープを食べる。
「本当にありがとうございます」
「だからこれは俺の正義感が動いただけだ。この身体が少しは役に立って嬉しいよ。大体ガキには泣かれるものでな」
「どこがですか!こんなにカッコいいのに!」
「褒めてくれるのはお前ぐらいだよ……」
これが僕と島津先輩の最初の出会いだったのだ……
ちなみにもう高校に話は行っていた上にあの電車に僕のことを知っている他の学生も乗り込んでいたらしく予想外に話が広がり啓馬や晃含め美波さんにもメチャクチャ心配された。




