003 出逢いは突然に……
モンスターの名称を「モンスターラビット」から「魔物兎」に変更しました。
『剣士等級試験』から1か月後―――
空が青い……最近は雨が長く降り続き、その顔を見せることは少なかった。
そんな青空の下、カイは一人、王国を出てすぐのだだっ広い草原にいた。
そこは低級モンスターの宝庫で、成り立ての剣士達がこぞって鍛錬しにやって来る。
しかし、今日に限っては誰一人としていなかった。
それはもう1つのイベントが近付いて来ている為だろう。
『剣術学院入学試験』―――
この国では15歳の年に2つ試験が行われる。
先月の『剣士等級試験』と3か月後に行われる『剣術学院入学試験』だ。
名前が若干似ていて、度々名前の改正案が出されるのだが、未だ可決された試しは無い。
そんな『剣術学院入学試験』は、その名の通り剣術学院に入学する為の試験だ。
そこに合格する事が出来れば将来は安泰とされている。
その試験を控えた今、最早低級モンスターを練習相手にしている時期では無い。
今は中級程度のモンスター、もしくは人を相手にする事が多い。
だがそんな事はカイには関係なかった。
何故なら、カイに受験をする気など無いからだ。
斬れない剣士に最早存在価値など無い。
カイがここに来たのは決して鍛錬の為ではない、自分を否定する為だ。
この1か月間、カイは部屋に閉じ籠ってまともに外にも出ていなかった。朝から晩までベッドの上でうずくまり、只管にあの日の事を考えていた。
忘れたいはずなのに……思い出したくもないはずなのに……
そしてある時、あれは夢では無いかと考え始めた。
それを証明する為に今、草原にやって来ていた。
久しぶりに剣を抜く。
その刀身は綺麗なままだ。ヘスの剣は若干、手入れだけでは隠せない汚れが付いていた。それほど鍛錬していると言うことなのだろう。
そう思うと自分が情けなくなった。
ヘスには才能では勝てなかった、だから途轍もない努力をした。
だが今はそれすらもしなくなった。本当に情けない。
そんな思考を巡らせていると不意にモンスターの気配を察知した。
それによりカイは現実に引き戻される。
不覚だった。1か月剣を抜いていないとは言え、戦場のど真ん中で考え事をするなんて。
剣を構えるが、体が重く、あちこちが錆び付いたように動きが鈍くなっていた。
「ははっ……情けない……」
そう思いながら錆び付いた体を無理矢理動かして接敵する。
以前なら10秒も掛からない距離を15秒掛けて移動する。
すると気配の先には魔物兎が居た。
カイは一気に飛び出して頭上から剣の重さを乗せて斬り掛かる。
その攻撃を貰った魔物兎はその勢いに耐えられず、潰れてしまった。
カイは膝から崩れ落ち、頭が真っ白になった。
意識が戻ったのはそれから数分経った頃だった。
「やっぱり……現実……だったのか……」
やはり魔物兎には剣で傷一つ付けられなかった。
分かってはいたんだが信じたくはなかった……
カイはその悲しみを胸に、家へ帰ることにした。
◇◇
ルギフ王国平民区―――
カイは『マーケット』と呼ばれる出店が軒を連ねる場所に来ていた。
普段なら足も運ばない様な場所なのに、今日は自然と足がここに向かっていた。
家に帰ろうと思っていたカイであったが、黙って家を出てきたた為に少し帰りづらくなっていた。
暇潰しに街を歩き回っていたらここに来た訳だ。
『マーケット』は人で溢れ返っていて、足音、呼吸音、会話、子供の鳴き声など様々な音が聞こえてくる。
その中から男の力強い怒号が聞こえた。
「こんなものここで売ってんじゃねぇよ!!さっさと出て行け爺!!」
人々の視線がそこに集まり、カイも一緒になって見ていた。
中心に居たのは身長は2mもあろうかと言うほどの巨漢で、とても筋肉質な体であった。
それに対しお爺さんは男の半分程しかなく、痩せ細っていて、とても貧弱な体付きであった。
そしてお爺さんの手には剣と同じくらいの長さの〈木の枝〉が握られていた。
どうやら商品はそれ一つのようだった。
「けっ……冷めちまったぜ」
視線が集まっていることに気付き、男はそう吐き捨てて何処かへ去っていった。
それと同時に集まっていた視線も散らばって行った。
カイもそろそろ帰ろうかと現場から視線を外そうとした時、ちょうどお爺さんと目があった。
「そ、そこの少年!待ってくれ!」
カイは反射的に体を止め、お爺さんへ近寄る。
「な、何でしょうか?」
「これを君にやるよ」
手渡されたのは、手に持っていた〈木の枝〉だった。
「えっ……いや、でも……」
カイは困惑の表情を顕わにし、受け取るのを躊躇う。
「大丈夫、振ってみれば分かる」
カイは何の根拠も無いその言葉に何故か安心し、気付けば〈木の枝〉を受け取っていた。
それがカイと〈木の枝〉の出逢いだった。
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