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「依頼が来ません」
「えー…ついこの間まで目が回る程忙しかったですのに…」
とある日の、何の変哲もない事務所にて。黒い髪の美しい少女は溜まった洗濯物を畳みながら男の発言に苦言を呈する。
が、男の方は特にその事に関して特に不満は無いようでいつも通りコーヒーを片手に雑誌を読み漁っている。
しばらく前までは、ほぼ毎日依頼でてんてこ舞いだったのだが、ここ最近はどうやら全く依頼が来ていないようで暇を持て余しているのが見て取れる。
「殺人にも旬があるんですのね」
「面白い言い方するなー。あながち間違いでもないかもしれない」
「例えば…月末だと増えるとかあるんじゃありませんの?」
「あー、依頼に結構な金かかるもんな。夏と冬にやけに多いのもそれが理由か?」
「後はあれじゃないですの? 選挙の時期とか」
「確かに。政治家関連は多いな。金持ってるし、自己中心的な人間ばっかだしな」
「となると、今は繁忙期を抜けたって感じですのね」
「そうなるな。ま、暇なのは良いことだ。好きな事が出来る」
別に生活する金にも困ってない様子の男は、仕事が無いことは逆に嬉しいようでいつもより少しだけ覇気があるような気がする。
だが、麗花はどこか納得いかないといった表情を浮かべている。洗濯物を畳み終えた麗花は、ソファに座っている男の隣に不機嫌そうに腰を下ろした。
「…ご機嫌斜めですね、お嬢さん」
「別に、お金に困ってないなら私からお金取る必要無いじゃないですの、なんて思ってないですわ!」
「怒ってらっしゃる…。そこはなんとか納得してくれないかなー…。殺す場合は2通りってのは昔からの約束でね」
「お金を貰った時と、自らが危険な時、ですわよね。そんなの…ずっと前から知ってますわ」
勘違いしてはいけないのは、男は趣味で殺人を行っている訳では無いということ。あくまで仕事と割り切ることで、正当性を高めているとか気が楽だとか何とか。
そんな彼も身の危険があった場合は、流石に殺しは辞さないようで。逆を言えば、そうならなければ殺してもらえないということでもある。
それがどうやら麗花には不満なようで、珍しく頬を膨らませて怒りを顕にする。
とはいえ、本気では怒ってないのが分かってるのか、男は隣に座った麗花の頭を撫でながら嗜めるように言葉を紡ぐ。
「今は俺の助手だが…金が支払われば客になる。ま、もう少しの辛抱だな」
「…その時になって、殺せないとか言わないと約束してくださいまし」
「仕事は受けた以上は必ず全うする。それが俺のポリシーだ。約束するよ」
半年以上も共に過ごしていれば多少なりとも情は沸いてくるだろう。それこそ、四六時中同じ場所にいて、なんだかんだ気が合う人間であれば尚更のはすだ。
しかし、それはそれ。これはこれ、と割り切れるのがこの2人でもある。いずれは殺し殺される関係になるのは間違いないと分かっているのだから。
「…なら、許してあげますの」
「そりゃどーも」
と、一段落したところで事務所に備え付けてある電話からけたたましい音が鳴り響く。
「!! びっくりしたんですの…」
「…『こっち』が鳴るのは久しぶりだなー。一応こっちが本業の筈なのに」
飲みかけのコーヒーを置いて、尚も鳴り続く電話を取る男。
「はい。『冠城探偵事務所』です。ご要件は何でしょうか?」
遅くなってしまったが、彼の名前は冠城誠一郎。本業は私立探偵事務所の探偵である。




