いつか来るその日の為に
〜現在〜
「あぁ!! 何度見ても鮮やかな手際…ッ! 早く私も殺されたいですわ!!(小声)」
「まだ全然貯まってないからな。ほら、はよ撤収するぞ」
どうやらちょうど一仕事終えた後のようで、麗花は男の仕事ぶりに感嘆し、男は帰宅の準備をしていた。
死体の処理は相変わらず行わないようで、見るも無残な姿の人間だったものが放置されている。
「そうですわね。早く帰って朝御飯の準備しないとですわ」
「だな。あー、今回もしんどかった…。依頼とはいえ、人が殺す時の感覚はいつまで経っても嫌なもんだわなー」
「貴方様ならとっくに慣れてると思ってましたけど…」
「勘違いしてるようだけど俺、快楽殺人者じゃないからね? 殺人はあくまで仕事。金になるからって理由だから」
「それにしたって、手際が良過ぎる気もしますわ。それこそ、天性の才能のように」
「かもね。だからこれを仕事にしてるわけで」
男は苦笑いで麗花の推測に応じる。実際に男には殺しの才能があるのだろう。人を暗殺することに関して、そして人を簡単に殺せてしまう精神力も同時に。
それでも慣れないものは慣れないらしい。あくまで平気であるというだけで、好ましいものではないようだ。
「…殺人は楽しくないですの?」
「んー、どうだろうな。楽しくなかったら途中で嫌気が差して辞めてるだろうし。ある意味楽しいと言えるかもしれないな」
「!! それは良かったですの!」
「それは良いこと…なのか?」
「少なくとも私にとっては!! 私を殺してもらう時に、貴方様が悲しい顔をしているのは嫌ですもの!」
弾けるような笑顔でそんなとんでもないことを言う麗花にはそろそろ慣れてきたようで、男は苦笑いとも微笑みとも取れる笑みを浮かべる。
この少女は壊れている。その在り方は、人間として、この世に生を受けたものとして間違っていると言えるだろう。
「ははっ、なら今のうちに笑顔の練習でもしとかないとな」
「笑顔…貴方様の笑顔…ですか。今はちょっと想像出来ませんわね。…だからこそ楽しみでもありますわ」
「俺も。笑顔の作り方なんて忘れたしな」
そして同様に、男も壊れてしまっている。生まれ持ったものの為に、普通の生き方を出来なかった、哀れな男にも少しだけ希望が。
「後は貴方様が捕まるのだけが心配ですわ…」
「その点は大丈夫。依頼して来る人間が人間だからな、大体揉み消してくれる。そうでなくても、俺如きを10年以上逮捕出来ん警察になんぞ今更捕まらん」
「ふふっ、それもそうですわね。私如きの失踪半年も見つけられない警察様なら当然の話ですわ」
未だに指名手配すらされていない男にとって、その心配は杞憂だ。どうせこの件も数日後には事故扱いで処理される。男の仕事はそれでこそ成り立っているのだから。
「…ふぁ…流石に、少し眠いですわ…。朝御飯、簡単なものでいいですの…?」
「あぁ。むしろ帰ったらよく寝てくれ。働き詰めだし明日は休みにするつもりだから」
「ありがとうございますですわ…やっぱり、貴方様はいつも優しい…」
「こんだけ世話になってりゃな。雇用主でもあるし」
真夜中の誰もいない街を歩く少女と男。1人は気品がありつつも眠そうに、もう1人はいつもと変わらぬ無表情で。
生きる希望を失ったのではなく、殺される希望を得たのだという少女は。
殺されるという目的達成の為に、今日も男の仕事をサポートする。
年相応の無邪気な顔で語る夢は『殺されたい』。
彼女の夢が叶う日は、いつか必ずやってくる。




