1-3
「それで、どうなんですの? 理由は話しましたわ。殺していただけるのかしら?」
全くもって理解し難いものを聞かされて辟易としていたところに、少女から確認が入る。
理由はどうであれ、麗花が自らの死を望んでいるのは間違いないらしい。正確に言えば死ではなく、『殺害』ではあるのだが。
「あ、あぁ。殺せるかどうかだけで言えば、可能だ。ただ…」
「本当ですの!? やりました―」
「殺害依頼の料金として200万…即金でいただくことになるが、君払える?」
「―わ!? て、えっ、200万もかかるんですの!?」
「…知らなかったのか?」
「てっきり無償でやっていただけるものかと…」
「こちとら慈善事業じゃないんだ。あくまで仕事としてやってることだし、殺人なんて金貰わないとやってられん」
どうやら、男に殺害の依頼をするのには200万円かかるらしい。考えてみれば当然のことだ。男が殺人を犯すのは趣味ではなく仕事であるのだから。
それをよく調べていなかったのか、それとも全く思ってもみなかったのか。少女はこの世の終わりのような表情で地に伏して悲しみに暮れていた。
「に、200万なんて持ってる訳ありませんわ…」
「…? 見たところ結構なとこのお嬢様みたいだが、持ってないのか?」
「両親を殺された未成年がそんな大金持ってる訳ないでしょう…。遺産その他諸々なら全て親戚が持っていきましたわ…」
「…なんか、ごめんな」
「いえ、いいんですの。両親を殺した事に関しては感謝もしてますから。あの両親ったら酷いんですのよ、私が末娘だからといって…」
「すまん、俺が悪かった…その手の話は苦手だ」
「あっ…ごめんなさい。嫌な気持ちになる人もいますわよね。軽率でした…」
どう考えても悪いのは男の方であるのにも関わらず、むしろ男を気遣うような素振りを見せる麗花。
思想自体は歪で破綻しているが、逆に人間性に関してはよく出来た娘のようである。
その様子から少し警戒が解けたのか、男は更に質問を続ける。今度は地雷を踏まないように、慎重に。
「君、学校とかは? 15って言ってたから、まだ学生だよな?」
「あぁ、学校ですか? 学校なら『一昨日』辞めてきましたわ」
「あ、そう…って辞めた!?」
「ええ。だって、私予定では今日殺されるはずでしたもの。そうなったら学校なんている必要無いでしょう?」
「…住まいは?」
「それも同じ理由ですわ。元々は施設にいましたけど、今日の為に抜け出してきましたの。だから住むとこなんてありませんわ」
淡々と自分が住所不定無職だと告げた麗花。学校も行っておらず、この様子だとアルバイトやらも行ってはいないだろう。そこに定住地もないときた。
男は唖然とした表情を隠すこともなく、麗花を呆れながら見つめる。夢の為とはいえ、全てを捨ててきた麗花に対して、もはや畏怖さえ覚えてしまう。
「…事情は分かった。とはいえ金が無い以上、依頼は受けられない」
「そ、そんな…。…でも、仕方ないですわ。よくよく確認もしなかった私が悪い―」
「そこで、俺から一つ提案がある。君にとっても、俺にとっても悪くない話だ」
「!! 何ですの!? 是非聞かせてくださいまし!」
はたしてそれは、自分が両親を殺してしまった負い目であるのか、ただの気まぐれであるのかは定かではないが…
「俺のとこで助手として働かないか? 当然それに見合った報酬も与える。それで金が貯まったら、改めて殺害の依頼すればいい」
「!!!! 目から、鱗…ですわ…ッ! 素晴らしい…素晴らしい提案でしてよ、貴方様!! 是非その話、乗らせていただきますわ!」
その提案は麗花にとってはこれ以上ないくらい魅力的だったらしく、目を輝かせながらそれに応じる。
かくして、『殺されたい少女』と『殺す男』は何の因果か共に生きることになった…ということである。




