1-2
「…はい?」
「いえ、ですから、私のことを殺していただけませんか? こう、サクッと鮮やかに」
殺してくれ、と言われたのは初めてではない。むしろ、男にとっては日常的に聞いている言葉ではあるだろう。
だが、『自分を殺して欲しい』と言われたのは初めての経験であった。それも、年端もいかない少女に、だ。
「なんだってそんなことを…?」
「…話せば長くなりますがよろしいでしょうか?」
「あ、あぁ…」
普段『殺してくれ』という依頼に対しては理由その他諸々の深いところまでは聞かない主義である男なのだが、今回ばかりはその理由について聞かざるを得なかった。
「昔々のことです。と言っても、7〜8年程前のことなのですが。幼くも麗花少女は『死』という概念を知りました。生きている人間…いえ、生物はいつか必ず死ぬのだと。これを知った少女は恐怖に暮れたのです」
「死ぬ事が怖かったってことか?」
とすれば、先程の麗花の発言とは矛盾が生じるのだが…。予想通り、その質問に対しての答えはNOだった。
「いいえ。死ぬ事自体が怖かったのではありません。『いつ死ぬか分からないこと』がたまらなく怖かったのです」
「そして、少女は思ったのです。いつ死ぬか分からないのなら、その死を『自ら決めてしまえばいい』と」
「ですが、死ぬにしてもどうしたものか、と。自殺、という手も当然考えたのですが、如何せん美しくない。というか負けた気がするのです」
「………」
「そんなことを毎日のように考えていた数年後のある日、『それ』は私の目の前で起きたのです!!」
「あぁ…それが俺が君の両親を殺した日ね…」
「Exactlyですわ! 目の前で両親を殺された私がまず思ったことは、『美しい』でした。数ある死の中でもこんなに美しくて残酷で理不尽な死に方があるでしょうか! いいえ、ありません!!」
「俺が言うのもあれだけど、大分狂ってるね君も」
「褒め言葉として受け取りますわ。そして、貴方様の繊細かつ大胆な鮮やかな殺し方! 私は思いましたわ」
「『この人に殺してもらおう!!』と!!」
…絶句という他ないだろう。両親を殺された時に思ったことが発想の斜め上とかいうレベルではない。他の人と同じ次元に置いてはいけない気がしてならない。
「…なんとなく思い出してきた。君の両親殺した後に、震えてた子供がいたが、あれは恐怖じゃなくて…」
「はい、それ私です。理想の死に方を見つけた、と歓喜に震えておりました」
「うわぁ…」
「本当はその場ですぐにでも殺してもらいたかったのですが、貴方様はすぐに行かれてしまったので。その後消息も掴めなかったので長年こうして探し回り、今日ようやく貴方様に会えたのです」
長年の望みがようやく叶ったと言わんばかりの達成感に浸った顔をしているが、言ってることは狂気で満ち溢れていた。それこそ、殺しを生業としている音がドン引きする程である。
「という訳です。ご理解いただけたでしょうか?」
「理解…って、出来るか!! なんだそのとんでもない思想は!!」
「自分でも私の思想が他の人と一線を画していることぐらいは分かっていますわ。それでも、私の望みはただ一つ、他でもない『貴方様に殺される』ことだけなのです」
そして、少女はとびっきりの笑顔で告げる。
「貴方様は謂わば恩人なのです。いつ死ぬか分からない恐怖から私を救ってくれた、素晴らしいお人なのでしてよ」
純粋無垢な笑顔で、何故か感謝されている男。まさか両親を殺した事でその娘に感謝される日が来ようとは夢にも思わなかっただろう。
「…分からん!! この少女分からない!!」
それは今まで数多の人を殺してきた男ですら、全くもって理解し難い破綻した願いであったようだった。




