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〜約半年前〜
余計な雑音も無い、静かなその場所にトラブルが舞い込んできたのは、慌ただしい声とほぼ同時だった。
「よ、ようやく見つけましたわ!! ここが貴方様のハウスですのね!!」
「…!? …どちら様で!?」
事務所でのんびりとコーヒー片手に新聞を読み、ブレイクタイムに浸っていた男は、あまりにも突然の来客に思わず飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになる。
鍵はかけていたし、呼び鈴も鳴らなかった。そもそも『アポ無し』の来客など殆ど無いので、流石に驚きを隠せていない。
「はっ! 挨拶もせずに上がり込んでしまい申し訳ありません。申し遅れました。私、神凪 麗花と言います。歳は15。今日は貴方様に用があって参りました」
神凪麗花と名乗った少女は、美しい所作でお辞儀をし、丁寧に要件を告げる。どうやら男に用があってわざわざ訪ねたらしい。
「え、あ、はい。ご丁寧にどうも…。もしよろしければそこへお掛けください」
男は戸惑いながらも客だということを理解し、来客用の対応をする。なんというか流れに押し切られた感はあるが、それを気にさせない勢いが彼女にあった。
「ご厚意感謝いたしますわ。それでは失礼して…」
備え付けのソファに腰掛けると麗花は、まじまじの男の顔を見つめ始める。何かを確かめるような、そんな目線に男は少しばかりたじろぐ。
「やっぱり…恐らく間違いないですわ。貴方様…『神凪』という苗字に聞き覚えはないかしら?」
神凪、という苗字は珍しい部類に入るだろう。聞いたことさえあればきっと覚えているはずだ。
そう言われて、男は自分の記憶を辿っていく。しばらく黙った後に、思い出したようで、小さく声を出す。
「神凪って…5年前の…」
「そう!! 忘れたとは言わませんわ!! 私の両親を殺した事!!」
そう、神凪という苗字は5年前に聞いたものだ。何故聞いたか、それはその苗字の人間が『ターゲット』だったから。
確か、2人殺したのだった。依頼があったのだ。『神凪という夫婦を殺してくれ』と。理由?興味が無かったので聞いていない。
依頼は『夫婦を殺してくれ』だったので、子供は殺していなかった。目の前にいる少女はどうやらその時殺した夫婦の娘らしい。
「ずっと探してましたの。両親を殺した貴方のことを…」
こういう稼業をやっているからには、こういうことは珍しくないのだろう。男は少しも動揺することなく、威圧するように少女の目を見据えた。
「そうか…。それで、今日はその『仇討ち』か…?」
暗に、そうであったら容赦はしないと。謝る気も無いし、償う気も無い。仕事の邪魔をするならお前も…と言おうとしたところで、麗花が口を挟んだ。
「仇討ち? 『違いましてよ』?」
男が言ったことに対し、本気で疑問符を浮かべる麗花。その表情から全く嘘では無いことが見て取れる。
「え、違うの…? 仇討ちじゃなかったら、何だって両親殺した相手に会いに…」
「仇討ちなんて滅相も無い! 殺す気も捕まえる気も一切ありませんことよ。私の望みは別にあるのです」
少女の顔は憎悪にも悲哀にも染まっていない。何よりも『怒り』を感じない。むしろ、その逆。憧れの人を見つけたかのような…
「貴方様には私を『殺して欲しいのです』」
心底嬉しそうにそう告げた麗花を見て、今度こそ男は度肝を抜かれた。




