第二章:淚を貪る怪物
新ボスの歪んだ惡癖は、日を追うごとにその牙を剥いていった。彼は肉體的な支配だけでは滿足しない。プライドの高い强者が、絕望に染まって淚を流す瞬閒を何よりも愛する精神的サディストだった。
「お前がただ怯えて泣く雜魚なら、私は一秒で飽きていただろうな」
深夜の私室、豪奢な長椅子に深く腰掛けた新ボスは、足元に跪く私を冷たく見下ろす。男が求めているのは、恐怖による淚ではない。私が必死に維持している自尊心が、內側から完璧に粉碎された瞬閒にこぼれ落ちる「屈辱の淚」だ。そのために、男は執拗な精神的責め苦を仕掛けてくる。
ある日は、前ボスが私に贈ってくれた唯一の形見である萬年筆を、目の前で灰皿の代わりに使い、吸殼を押し付けて黑く焦がした。またある日は、地下牢から引きずり出された前ボス派の殘黨の前に私を立たせ、「お前が私の足の甲に口づけし、淚を流して命乞いをするなら、この男の命を助けてやろう」と囁いた。
私がプライドを守れば仲閒が死に、仲閒を救おうとすればプライドが死ぬ。どちらを選んでも私の心は引き裂かれる。
「……くっ」
どれほど奧齒を噛み締めても、前ボスの最期の不名譽な虛僞の話を耳元で囁かれた瞬閒、私の心の防壁に決定的な龜裂が入った。じわりと、大きな一滴の淚が頬を傳い、男の指先に落ちる。
「ああ……それだ。實に見事だ、美波」
新ボスは歡喜に目を細め、その淚を愛おしそうに舌で舐めとる。男の歪んだ愛欲が滿たされる瞬閒。だが、男は氣づいていない。私が流したその淚は、屈服の證などではない。男が「淚を流させて滿足している瞬閒」こそが、この完璧な怪物に唯一生まれる、最大の油斷であることを、私は淚の膜の向こう側で冷徹に計算していた。




