第五章:手下二人によるクーデターによりボスがまた變わる二人の運命は 第一節:支配者の油斷と、飢えた獵犬の牙
「ビジネスの規律を亂す獵犬は、處分せねばならん」
ヨーロッパ出張から豫定を早めて歸國した新ボスが、冷徹な眼差しでそう吿げた瞬閒、地下監禁室の空氣は氷結した。しかし、新ボスはビジネスマンとしてすべてを計算していたつもりで、一つだけ致命的な誤算を犯していた。留守中に美波とエレーナを勝手に損壞させ、自らの狂氣を暴走させていた二人の若い手下――レフティとジャックの「ボスへの恐怖」が、すでに「生き殘るための狂暴な殺意」へと變貌していることを見くびっていたのだ。
新ボスが懷の拳銃に手をかけようとした、まさにその一瞬。
「――やれるもんなら、やってみろよボス!」
ジャックが絕叫とともに、アジトの擴充工事用として地下室に持ち込まれていた高壓の電動カッターを、新ボスの無防備な脇腹へと强引に突き立てた。火花と激しい肉の爆ぜる音が地下室に響き渡る。壓倒的な武力を誇る最强の新ボスであったが、至近距離での想定外の不意打ちに、その巨體がわずかに搖らいだ。
「貴樣ら……っ!」
新ボスが巨腕を振るい、ジャックの頭骨を粉碎せんと手を伸ばす。しかし、その背後からレフティが、工事用の太い鐵筋コンクリートの破片を、新ボスの首筋に今なお殘る「美波が刻んだケロイドの傷跡」に向けて、渾身の力で叩き込んだ。
――ベキィィン!!
悍ましい骨折の音が響き、最强と呼ばれた支配者が、ついにその場に膝を屈した。手下二人は狂ったように笑いながら、倒れた新ボスの胸元へ何度も、何度も鐵筋を振り下ろし、その肉體を完全に破壞し盡くした。
前ボスを倒し、壓倒的な冷徹さで南アフリカの帝國を築き上げたビジネスマン・新ボスは、自らが育てた二人の獵犬の反逆によって、あまりにもあっけなくその治世に幕を下ろした。霸權爭いによって、このアジトの「ボス」は、またしても交代したのだ。




