第八幕:ボスの怒りと公開市場
「私の築いた庭を荒らした代償は、お前たちの想像を絕する絕望で支拂ってもらう」
國際的な私設軍隊を一瞬にして壞滅させた新ボスの巨體から、先ほどまでの冷徹さを遙かに凌駕する、文字通りの「激怒」の霸氣が立ち昇っていた。返り血で赤黑く染まったスーツのまま、男はステージ上にへたり込む美波とエレーナの髮を掴み、引きずるようにして競賣臺の中央へと放り投げた。
最强の怪物の逆鱗に觸れた二人に、もはや「商品」としての手加減など一切殘されていなかった。
「これより、この大逆人どもを『公開市場』へと引き渡す。入札は中止だ。この場にいる全員で、この女たちのプライドが完全に塵となるまで、その肉體を徹底的に破碎しろ!」
ボスの怒號が響き渡った瞬閒、地下市場に集まっていた世界中のマフィアや荒くれ者たちが、飢えた獸のような歡聲をあげてステージへと殺到した。新ボスの「怒り」は、最高級の商品だった二人を、その場で全員の玩具として機能させるという、究極の公開處刑へと變貌させたのだ。
「おい、あのパリのトップモデルの顏を、もっとめちゃくちゃにしてやれ!」
「極道の女のプライドごと、その尻を叩き潰せ!」
押し寄せた無數の男たちの手が、美波とエレーナの身體へと一齊に伸びる。
すでにザクロのように裂け、どす黑く內出血を起こしていた美波の尻に向けて、屈强な男たちの太い平手や革ベルトが、容赦のない連打となって浴びせられた。バチィィン、バチィィンと肉が爆ぜる悍ましい音が、觀客たちの狂氣的なコールとともに鳴り響く。
「あ、がぁっ……! ああぁっ……!」
下半身を麻痺させられた美波は、逃げることもできず、ただ激痛の波に呑まれて床にのたうち回る。
その鄰では、世界的なビューティーアイコンであったエレーナの顏面にも、容赦のない拳や木ベラが幾度となく叩き込まれていた。ベキィィン、と骨の軋む音が響くたび、エレーナの端正だった頬は非對稱に膨れ上がり、鼻腔と唇から鮮血が噴き出す。
二人を救うはずだった精銳部隊の死體の山の上で、彼女たちの誇りは、皮膚とともにズタズタに引き裂かれ、地下市場の冷たい大理石へと飛び散っていった。腫れ上がった目はすでに視力を失いかけ、ただ赤黑い血の淚だけが、變形した顏を傳って流れ落ちる。
新ボスは、その凄慘な破壞の光景を、ステージの頂點から腕を組んで冷酷に見下ろしていた。男の壓倒的な强さと激怒の前に、誰も抗うことはできない。
どれほどの時閒が經ったのだろう。
數時閒に及ぶ狂氣の「公開市場」が終息を迎えた頃、ステージの上に殘されていたのは、言葉を失うほど無慘な光景だった。
床に橫たわる美波とエレーナの肉體には、かつて世界を魅了した美貌も、誇り高き極道としての面影も、微塵も殘っていなかった。顏は左右に異常に膨れ上がり、下半身は自らの血によって赤黑く染まったただの肉の塊へと成り果てている。
「……ここまで、ね……美波……」
エレーナの裂けた唇から、かすかな、消え入るような吐息が漏れる。
「ええ……エレーナ……。私たちの……運命は……」
二人は原型を失った手と手を、血塗れの床の上でかろうじて重ね合わせた。
霸權爭いに卷き込まれ、最强のボスに目を付けられ、最後は異國の地下市場で衆目の前で嬲り殺される。それが、最初から決まっていた彼女たちの冷酷な結末だったのだ。
私が命を賭して守ろうとした誇りも、エレーナがすべてを投げ打って示してくれた情愛も、この壓倒的な怪物の暴力の前には、ただの哀れな餘興に過ぎなかった。
意識の底で、靜かに冷たい風が吹いた。
もう、怒りも、悔しさも、痛みすらも感じない。ただ、互いの存在だけを最後の燈火にしながら、二人の意識はゆっくりと、そして今度こそ完全に、二度と目覺めることのない深い暗闇の底へと沈んでいった。
南アフリカの地下深く、最强のボスの激怒が支配する公開市場の片隅で、二人のトップアイコンの運命は、あまりにも殘酷に、そして完全に幕を閉じた。




