第七幕:奈落の競賣臺と、支配者の絕對神話
「これより本日最高額の商品――『極東の誇り』と『歐州のミューズ』の競賣を執り行う!」
地下市場の割れんばかりの歡聲と怒號が、濕ったコンクリート壁に反響する。
地下金鑛跡に作られた圓形鬪技場のような競賣臺。その中央にそびえ立つ二本の鐵柱に、美波とエレーナは無殘に吊るし上げられていた。
まばゆい强烈なアーク燈が、二人の肉體を白日の下に晒し出す。
數日閒に及ぶ新ボスの徹底的な調敎と、若い構成員たちによる執拗な打擊のせいで、二人の肢體は完全にその輪郭を失っていた。美波の尻はすでに皮膚が爆ぜ、赤紫に變色した肉が痛々しく膨れ上がっている。エレーナの端正だった顏面も非對稱に歪んで腫れ上がり、かつて世界を魅了したトップモデルの面影はどこにも殘っていない。
「おい、あの新ボスが自ら原型が變わるまで叩き潰した玩具だぞ!」
「牙は完全に拔かれている! 觀賞用にも、地下室の奴隸にも最高だ!」
世界中から集まった大富豪やマフィアの幹部たちが、下卑た笑みを浮かべて紙幣や入札原簿を揭げ、二人の肉體を値踏みする。
その喧騷をステージの最上段、まるで神座のようなVIP席から見下ろしているのが、新ボスだった。彼はただ冷徹に、自らの壓倒的な武力によって生み出された「戰利品」が、莫大な富へと還元されていく數字の推移を眺めていた。
「十萬ドル!」
「五十萬ドルだ!」
「いや、二人まとめて二百萬ドルで買い取る!」
競賣の價格が狂氣的な速度で跳ね上がっていく中、エレーナの腫れ上がった瞼の奧に、一瞬だけ、かつての銳い光が戾った。
(……今よ)
エレーナが心の中で叫んだ瞬閒、地下市場の天井が凄まじい爆音とともに崩落した。
割れんばかりの悲鳴。煙を突き破って現れたのは、エレーナがパリを發つ前に、全財產を投じて雇い入れた國際的な超一流の私設軍隊の精銳たちだった。最新銳のアサルトライフルを構え、閃光彈を炸裂させながら、彼らは一瞬にして市場のガードマンたちを制壓していく。
「エレーナ、美波! 今助ける!」
防彈ベストを纏った精銳部隊の隊長が、二人の鎖を斷ち切ろうとステージへと驅け上がる。これほどの重武裝と完璧な奇襲。いかなる裏社會の組織であれ、國家レベルの軍事力に匹敵する彼らの前には、撤退を選ぶほかないはずだった。
だが、新ボスという男は、彼らの常識が通用する人閒ではなかった。
「私の市場で、勝手な眞似は許さん」
立ち上がった新ボスの巨體から、壓倒的な、空氣が物理的に重くなるほどの威壓感が放たれる。
男は躊躇なく、上階のVIP席からステージへと直接飛び降りた。數メートルの高さを物ともせず着地すると、その脚力そのままに、突入してきた精銳部隊の正面へと肉薄する。
「なっ――速すぎる……!?」
隊長が銃口を向けるよりも速く、新ボスの硬質な拳が彼の胸部へと叩き込まれた。
バキィィン!と悍ましい音が響き、防彈プレートごと肋骨を粉碎された隊長が、數十メートル後方へと生ゴミのように吹き飛ばされる。
「擊て! 擊ち殺せ!」
色めき立った殘りの精銳たちが一齊に銃擊を開始するが、新ボスは床に轉がっていた重厚な鐵製の競賣臺を片手で輕々と持ち上げ、盾代わりにしながら彈雨の中を突き進んだ。火花を散らす鐵板の向こうから、怪物の凶暴な瞳が覗く。
閒合いに入った瞬閒、新ボスは盾にしていた鐵板をブーメランのように投げつけ、三人一組の兵士たちをまとめて壓殺した。さらに、殘る兵士の首を素手で掴み上げると、大理石の柱へと力任せに叩きつける。腦漿と鮮血が飛び散り、最高峰の訓練を受けたはずの軍隊が、文字通り「子供の手遊び」のように壞滅させられていく。
銃聲が止み、靜寂が戾ったステージの上。
新ボスは返り血を浴びたスーツの襟を平然と正しながら、轉がる死體の山を踏み越え、再び美波とエレーナの前に立った。
男の息は全く亂れていない。壓倒的な武力。絕對的な恐怖。この男こそが、霸權爭いを力で制した「最强の怪物」であることを、誰もが理解せざるを得なかった。
「さあ、餘興は終わりだ。救世主の命が消える瞬閒を、特等席で見られた氣分はどうだ? 美波、エレーナ」
新ボスは、原型が變わるほど叩き潰された二人の髮を同時に掴んで引き寄せ、絕望に染まるその顏を見つめて冷酷に微笑んだ。もはや、この南アフリカの地の底から、彼女たちを救い出せる存在など、世界のどこにも存在しなかった。




