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序章:鐵の座が朽ちる時
世界が瓦解する音は、驚くほどあっけなかった。
私の目の前で、かつてこの街の絕對的な頂點として君臨していた男が、大理石の冷たい床にどさりと崩れ落ちた。衣服は無慘に裂け、胸元からは止めどなく赤黑い鮮血が溢れ出している。私を庇い、私に誇りを與えてくれた前ボスの瞳から、急速に光が失われていく。その樣子を、私はただ、縛り付けられた椅子の上から見つめることしかできなかった。
「時代が變わった。ただそれだけのことだ、美波」
返り血を浴びた漆黑のスーツを纏い、新しい支配者――新ボスが私の前に步み寄ってくる。彼の背後では、昨日まで前ボスに忠誠を誓っていたはずの幹部たちが、蜘蛛の子を散らすように次々と跪き、新たな權力者へ從屬の禮を盡くしていた。
「前ボスの最大の遺產。この美しい戰利品をどう處理するか、それが新しい體制の最初の仕事だな」
男の冷徹な指先が私の顎を强引に持ち上げる。値踏みするような、昏い愉悅を孕んだ瞳。私の心の中で、何かが音を立てて凍りついていくのが分かった。生き殘らなければならない。どんな泥をすすり、どんな屈辱に塗れようとも、この怪物の首筋に我が牙を突き立てるその日まで。私は感情のすべてを鐵の假面の裏に隱し、靜かに目を伏せた。




