第三節:支配者の趣味(家族の前での完全破碎へ)
新ボスの冷徹さは、精神の解體において極限に達していた。
男は、母と姉の折檻が一段落した深夜、彼女たちを血塗れのまま引きずり、私が監禁されている部屋の「手前」にある、全面ガラス張りの特殊な獨房へと放り込んだ。
彼女たちの視線からは、私の部屋の內部は見えない。しかし、私の部屋からは、ガラス越しに、原型を失うほど叩きのめされ、靑紫に腫れ上がった母と姉の無慘な姿が、克明に視認できるようになっていた。
「美波、美波……どこにいるの……助けて……」
ガラスに額を押し付け、虛空に向かって血の淚を流す母。かつての美しい面影は、男たちの趣味によって完全に破壞され、左右非對稱に膨れ上がった頬が、私のあの鬪育場での姿と不氣味に重なる。
「見ろ、美波。お前が前ボスの亡靈として私を狙った代償が、あの無力な肉體どもだ」
新ボスは私の車椅子の拘束を外し、床へと亂暴に投げ出す。步くたびに激痛が走る下半身は完全に麻痺し、私は這いつくばるようにして、ガラスの向こうの家族を見上げるしかなかった。
「お前が私の足の甲を舐め、心からの從屬を誓うなら、明日の折檻の回數を半分にしてやろう」
男の冷酷な提示。
私は、ガラスの向こうで苦しむ家族を救うために、自らの最後の尊嚴を捨てて怪物の足元に這い寄るか。それとも、極道としての誇りを守って彼女たちを見殺しにするか。新ボスの趣味は、日本を飛び出し、この南アフリカの大地で、私の家族の肉體と尊嚴を完全に卷き込んだ、さらなる絕望の輪舞曲を踊り始めていた。
腫れ上がった目の隙閒から流れる血の淚が、南アフリカの渴いた床に一滴、また一滴と吸い込まれていく。




