第四節:大地の足音
南アフリカ、ヨハネスブルグの國際空港。
長時閒のフライトを經て、泥のような疲勞と不安に包まれた母と姉が、ついにその地に降り立った。彼女たちを出迎えたのは、親切な現地ガイドのふりをした、新ボスの手下たちだった。
「美波さんは、ここから少し離れた靜養所にいます。さあ、車へ」
何も知らない二人は、白い大型のバンへと乘り込む。車窓の向こうには、日本のそれとは全く異なる、廣大で荒涼とした南アフリカの大地が廣がっていた。地平線の彼方に沈む夕日が、不吉なほど眞っ赤に車內を染め上げる。
その車が、私が囚われている大草原の中の私有地へと近づくにつれ、私の監禁部屋の緊張感は最高潮に達していた。
「いよいよだな、美波。新シリーズの幕開けだ」
新ボスは、私を十字架ではなく、今度は特製の車椅子へと亂暴に縛り付けた。上半身を固定され、頭髮を後ろに引っ張られて、部屋の頑丈な扉の正面を向かわされる。私の顏は非對稱に腫れ上がり、下半身は今なお包帶から血が滲んでいる。
遠くから、車のエンジン音が聞こえてきた。
砂埃を上げて敷地內に入ってくるバンの氣配。
「お前の母と姉が、この部屋の扉を開けた瞬閒、私はお前の目の前で彼女たちを拘束する。そして、お前を原型が變わるまで叩き潰したあの革鞭を、今度は彼女たちの肌に馴染ませてやる。お前はそれを見ながら、私に仕える『奉公』の眞の意味を學ぶんだ」
男の狂った笑い聲が、乾燥した部屋の空氣を震わせる。
扉の向こうから、複數の足音が近づいてくる。その中には、聞き覺えのある、私の幼い頃の記憶に眠る母の輕い足音と、姉の愼重な足音が混ざっていた。
「美波! 本當にここにいるの!?」
扉に手がかけられ、カチャリと不穩な金屬音が響く。
私は腫れ上がった瞼の隙閒から、血の淚を流しながら、入ってくるであろう最愛の標的たちを見つめるしかなかった。
新ボスの歪んだ霸權爭いは、日本を飛び出し、この南アフリカの大地で、私の家族の肉體と尊嚴を卷き込んだ、さらなる底なしの地獄へと突入しようとしていた。




