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超長編『囚われの檻』――中編:歪んだ生命

1. 兆候と胎動


その部屋には、季節の移り變わりを吿げるものは何もなかった。

ただ、コンクリートの壁を傳う結露の量が變わり、肌を刺す空氣の冷たさが一段と嚴しくなったことで、上陸からかなりの月日が流れたことだけが分かった。

日を追うごとに、私の身體には明らかな異變が現れ始めていた。

朝、おじさんが運んでくる粗末な食事の匂いを嗅いだ瞬閒、胃の底から激しい突き上げが私を襲った。プラスチックの器をひっくり返し、冷たい床に四つん這いになって、何も出ない胃液を何度も吐き出す。手枷の鎖がジャラジャラと激しく鳴り響いた。

「おい、どうした。體調でも崩したか?」

おじさんが怪訝そうな聲を出し、私の背中を亂暴に蹴る。しかし、私の腦裏をよぎったのは、病氣などという生易しいものではなかった。

數週閒後、その疑念は確信へと變わる。一切の衣服を剥ぎ取られた私の腹部が、不自然に變形し、ふっくらと丸みを帶び始めていたのだ。

あの市場での洗禮、そしてこの館のボスであるデブに日々蹂躙され續けた結果――私の胎內に、この忌まわしい島の血を引く「生命」が宿ってしまったのだ。

「がははは! 見ろ、本土の高級な雌犬が、俺のガキを孕みやがったぞ!」

報吿を聞いて地下室に降りてきたボスは、割れた顎を搖らして下卑た大笑いを浮かべた。その分厚い手が、拒絕する私の腹部を容赦なく撫で回す。

(嫌……消えて、お願いだから消えて……)

心の中でどれほど呪詛を唱えようとも、胎內の生命は冷酷なほど確實に成長していった。やがて、皮膚の裏側からポコポコと小さな蹴りを感知するようになる。スパイとしての理性が「これは敵の種だ」と吿げる一方で、肉體が强制的にそれを育んでいく。その絕對的な矛盾と絕望に、私の精神は內側からボロボロと崩壞していった。


2. 暗闇の產聲


臨月を迎える頃には、私は動くことすらままならなくなっていた。

最低限の榮養だけを與えられ、鐵格子に繋がれたまま、私はただ獸のように出產の日を待つしかなかった。

そして、その時は突然訪れた。

下腹部を割るような激痛が走り、私はマットレスの上で激しく身悶えした。おじさんが慌ててボスを呼びに行き、地下室には數人の手下たちが集まってくる。彼らは醫者を呼ぶわけでもなく、ただ面白半分に私の苦しむ姿を圍んで見ていた。

「ほら、スパイの意地を見せて產んでみろよ!」

「ボスに似た元氣なデブが產まれるといいな!」

飛び交う嘲笑と、下品な歡聲。

凄まじい陣痛の波が襲うたび、手枷をはめられた私の指先はマットレスの綿を毟り取り、爪が割れて血が滲んだ。聲が枯れるほどの絕劇をあげ、意識が何度も飛びそうになる。この街の住人たちの歪んだ視線の中で、私は尊嚴のすべてを失いながら、ただひたすらに痛みに耐え續けた。

――ぎゃあ、ぎゃあ。

どれほどの地獄を彷徨っただろうか。薄暗い電球の下、血の海と化した床の上に、ひときわ高い產聲が響き渡った。

手下が亂暴に赤ん坊を抱き上げ、ボスの元へと運んでいく。

私は息も絕え絕えになりながら、床に顏を伏せていた。產まれたのは、紛れもなく私自身の肉體を裂いて出てきた我が子。しかし同時に、私を破滅させたこの島の狂氣を受け繼ぐ存在。

「よし、よく產んだ。こいつは將來、この街を背負う立派な惡黨にしてやる」

ボスは赤ん坊を抱き抱え、滿足そうに目を細めた。

我が子を愛おしむような、あるいは新しい所有物を手に入れたかのような笑み。手足の自由を奪われたままの私は、その光景をただ見つめることしかできなかった。母親としての本能と、スパイとしての絕望が混ざり合い、私の心は完全に深い闇へと閉ざされていった。

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