第一章:美波の生存を聽いて南アフリカへ 第一節:死の淵の僞裝
意識が戾った時、最初に感じたのは、あの地下鬪技場の冷酷な歡聲でも、鐵の鞭が肉を爆ぜさせる絕叫の痛みでもなかった。耳を打つのは、規則正しく繰り返される潮騷の音と、どこか乾燥した大地の匂い。そして、肌を刺すような强烈な太陽の光だった。
「……生き、ている……?」
腫れ上がって癒着しかけていた瞼を、激痛に耐えながらわずかに開く。視界に映ったのは、見慣れた日本の組織の天井ではなく、白い漆喰の壁と、ゆっくりと回る天井のシーリングファンだった。
動かそうとした身體は、全身が白い包帶で嚴重に卷き固められており、指先一つ動かすだけで、皮膚が引き裂かれるような痛みが走る。顏の形が變わり、下半身の肉が爆ぜるまで嬲られたあの公開處刑。私は確かにあの時、死の深淵へと沈んだはずだった。
「目が覺めたか、美波」
部屋の隅、逆光の中に佇む影が、聞き覺えのある悍ましい聲を響かせた。
心臟が跳ね上がる。そこにいたのは、私がこの手で喉を貫き、死んだはずの新ボスだった。彼の首筋には、私が暗器で穿った生々しい傷跡が、醜いケロイドとなって殘っている。
「驚くのも無理はない。お前も私も、あの大廣閒と鬪技場で一度死んだことになっているのだからな」
男は冷酷な笑みを浮かべ、私のベッド脇へ步み寄ってきた。
新ボスは、組織の黑幕たちが自分を使い捨てにしようとしていることを、あの夜の時點で察知していたのだ。私の放った一擊を利用して自らの死を僞裝し、さらに鬪技場の公開處刑では、私を完全に破壞し盡くした後に、あらかじめ買收していた執行人を使って「死體」となった私を密かに搬出させた。
すべては、組織の目を完全に欺き、私という最高の玩具を自分だけのものにするための、この怪物の狂氣的な執念が成せる業だった。日本から遠く離れたここ、南アフリカの私有地に、私は連れ去られていたのだ。




