第三節:不穩なる影と、次なる「獲物」の豫感
「ボス! 上層の通信解析より、不穩な暗號データを受信しました! 首席の遺した國際データベースを辿り、我が組織のミルクの獨占を知った『新たな外部の巨大シンジケート』、そして東京のコレクター・黑崎の隱された本隊が、すでにこの南アフリカの地に牙を剥き始めています!」
部下の報吿に、廣場で酒を喰らってゐた囚人たちの動きが一瞬で凍りついた。
ガルシアは、手にしたグラスを亂暴に床へと叩きつけ、濁った瞳に狂暴な知性をぎらつかせた。
「……ほう。世界の裏舞臺の野郞どもが、俺たちの獨占するこの至高の利權を橫取りしにくるか。だが、俺たちの『力』が、前ボスや新ボス、あの首席ごときと同レベルだと思ってんじゃねえぞ。來やがるなら、全員ここで肉片に變えてやるだけだ」
ガルシアの叫びとともに、囚人たちは自動小銃のボルトを一齊にガチャリと引き戾し、アジト全體に緊迫した戰鬪準備の空氣が張り詰めた。
しかし、新組織のデータベースが彈き出したのは、外部からの襲擊の警吿だけではなかった。
モニターの端に映し出されたのは、美波たちの血統、あるいはエレーナやクロエのいたパリのファッション界、さらには東京の闇のルートに連なる、まだこの地獄を知らぬ「新たなる數名の高貴な女たち」の寫眞と個人データのカルテであった。
「……なるほど。この出涸らしの五人だけでは、いずれ供給が追いつかなくなる。利權の擴大と、俺たちの每日のパーティーをさらに永劫のものとするためには、次なる苗床が必要だな。よし、回收部隊を直ちに動かせ。世界中から、あの『次の獲物ども』を一人殘らずこの最下層の檻へと引きずり落としてやる」
ガルシアの冷酷な命令が下り、最先端の武器を携えた新帝國の獵犬たちが、再び世界の表舞臺へと音もなく放たれた。
美波は、床の血溜まりとこぼれ狂う濁液の泥濘に顏を伏せながら、手枷と足枷の痛みに耐え、腫れ上がった瞼の奧で、その不穩な對話を聞いてゐた。
自分たちの送るこの過酷な每日が安定した日常と化しても、地獄の輪は決して閉じない。ボスが變わり、主人が變わり、世界が變わり續けようとも、この南アフリカの最暗部に築かれた搾乳帝國は、さらなる新たな獲物たちを奈落へと卷き込みながら、より凄慘で混沌とした「次の破滅」へ向かって、再び靜かに、そして壓倒的な緊迫感とともに加速を始めていくのであった。




