第三節:誇りの銃口と、最後の進軍への決意
美波は、完璧に通った兩脚の感覺を確かめながら、床の冷たいコンクリートを踏みしめた。腫れ上がっていた瞼の奧から復元された、かつての國家スパイとしての冴え渡る瞳が、首席の冷酷な面構えを眞っ向から見据える。
首席を信賴したわけではない。この最惡の暗黑帝國を許したわけでもない。しかし、動かない四肢を床に固定され、囚人たちの每日の暴走をただ受け入れるだけの肉人形に戾ることだけは、彼女たちの精神の最奧にある「最後の誇り」が絕對に拒絕してゐた。戰って、自らの意志で引き金を彈いて死ぬこと――それだけが、彼女たちに殘された唯一の人閒としての抵抗であった。
美波は無言のまま、床に置かれた重厚な自動小銃をその手で力强く掴み取った。
その動きに呼應するように、エレーナが、クロエが、そして魂を完全に去勢されてゐたはずの母と姉の二人が、自らの强靭な意志で武器を取り、銃身をガチャリと引き戾した。
無傷の淸淨な五體に、鋼鐡の銃器を携えた五人のミューズたち。
「ガルシアたちの首を獲る。首席、案內しろ」
美波の短く、冷徹な聲が、白亞の調劑室に響き渡る。
首席は滿足げに薄い唇を歪め、自らも自動小銃を構えて先頭に立った。
ボスへの復讐、利權の奪還、そして自尊心の證明。それぞれの歪んだ思惑を孕みながら、首席と五人の人形たちによる「最後の共同戰線」がここに完全に結成された。五人は一切の躊躇なく廣場の重厚な鐵扉へと向けて進軍を開始し、アジト全體の運命を分ける最終決戰の幕が、靜かに、しかし最高潮の緊迫感とともに切って落とされるのであった。




