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賄い準備

 "業スー"と"果物問屋の加賀屋"の2軒で食材の仕入れを終わらせた俺は、今頃はつけっぱにしていたエアコンがいい感じに厨房の中を冷やしてくれている事に期待をして、車を走らせる。


 最近特にお気に入りのとある曲を流しながら車を走らせ、先程まで停めていたコインパーキングに車を駐車させに行くと……看板の下の電光掲示板に輝く"満車"の文字。


 スピードを落とし徐行しながら、駐車場の中を見たら白のLEXUS LXが、俺が停めていたスペースに鎮座していた……


 (え? あそこに? あれを? "開幕DT砲"でも使ったのか? あれ確か全長5m超えてるよな……)


 近隣で1番夜でも時間当たりの値段が安かったアタリの駐車場に車を停める事が出来なかった俺は、店から1番距離の短い、ビルを利用した立体駐車場の中に車を停めた。


 30分/250円。と言う安くも高くも無い値段設定。


 (大丈夫だ、俺の時給は破格の3000円……そこらの中堅キャバ嬢にも引けを取らんはず……余裕、余裕)


 と、これ毎日払ってたらエライ事になる。と言う事は心の奥底の物置の棚の上に放り投げ


 買った果物を入れた袋を両手に持ち、店の裏口のドアを開け中に入ると。


 (おう! おかえり、ひやかしといたでぇ)


 (おっ……おう……エアコンさんアンタ、名古屋弁話すんかい……)


 等と1人漫才を心の中で繰り広げつつ、買ってきた果物を冷蔵庫の冷風が直に当たらない場所を選び並べて置いた。


 冷凍庫から先程行っていた業スーで買った衣の付いた、後は揚げるだけの"カツ"を5枚用意した後で、ポケットからスマホを取り出し文字のやり取りや通話も出来る緑のアプリを開く。


 そこには内勤TOPの中村マネージャーから。


 「氷室さんへ。賄いは内勤2名と寮に暮らすホスト4名の合計6名を定休日以外よろしくお願いします」


 そう書かれていた……"可愛らしく手を振るアヒルちゃん"のスタンプと共に……


 実物を脳裏に描くともはやホラーだ。少し身震いした。


 再び冷蔵庫に戻った俺は。


 (ったく……あの"うつけ"なにが、5人だよ。だよ6人じゃねぇかよ)


 そう言って"第六天魔王"の言葉を信じ冷凍カツを5枚しか出していなかった俺は、更に1枚追加で取り出すとともに(アイツ信じたらダメだな……バカ舌だし)と店長への信用をガタ落ちさせた。


 衣が付けられた後は揚げるだけのカツを6枚、両手の指の間で挟むように持った俺は、とある調理器具の前に立つ。


 (なんでホストクラブにコレが置いてあるのだろう?)


 昨日の時点では気にはならなかったのだが、よくよく考えると、おかしい事に気付いた。


 (この店……"揚げ物"パーティーでも週1で開催でもしてんの?)


 俺の目の前に鎮座されている物それは"ガス式の業務用フライヤー"であった。


 食用油の一斗缶の中身が丸々全部流し込めるぐらいの揚げスペースを持つそれは、揚げ物を作る上で非常に便利と言える調理器具ではあるが、一介のホストクラブに必要とは思えなかった。


 (うーん……腰痛魔人と店長がなんか絡んでそうで、マネージャーに真相を聞くのすら怖いな……もう"あるからある"でいいや)


 この店の不思議にイチイチとツッコミを入れると疲れるだけだな。と早々に見切りを付けた俺は、便利だし活用すりゃいいや。と火を入れ温めておいた油のプールへ冷凍カツ6枚を滑らせるように流し入れた。


 グツグツと泡を纏いながら油のプールの中を泳ぐ冷凍カツ。菜箸を使いそれぞれがくっ付いたままにならぬ様に離した後は、油に任せて揚げてもらう。


 カツが揚がるまでの時間を使い、調理台のまな板横に転がしておいた。


 我らが郷土愛知県尾張地方(え? 三河も愛知だろって? 知らん! 俺の習った社会の教科書にそんな事は載ってなかった)の知多半島が産んだブランド玉ねぎ、しかも東海市養父町(やぶまち)で作られた"養父早生(やぶわせ)"の皮を剥き半分に切ると、薄さ3mmほどにスライスしていく。この玉ねぎは、本来ならば生でそのままサラダ等にして食べるのが主流なのだが、軽く火を通しても甘味が増して美味しく食べられる。


 そうしてスライスした玉ねぎを網ボウル(ザル)に入れ普通のボウルに重ねて水を張り晒しておく。


 良い感じに衣がキツネ色になった揚げたカツもフライヤーから取り上げまとめて、まな板の上に置いておく。


 「うーん……みんな見た感じ若そうだったし、1合ぐらいは食うかな?」


 お米を袋ごと収納できる米びつから、お米用の計量カップですりきり6杯のお米を計り、研いだ後に炊飯器にセットして、スイッチを入れた。


 冷蔵庫の野菜室から賄い料理にこんなモン必要か? と問われたら迷わずに全力で"いらん"と答えるであろう、三つ葉を適当に6杯分千切り、軽く水で洗った物をまな板の横に置いて置く。


 そして賄いの最後の下準備として、器に使う少し深めの白いカレー皿を6枚重ねて置いた。


 (流石の"魔境"にも丼は無かったか……ワンチャンありそうな気して食器棚の奥まで漁ってみたんだが……)

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